「数量減なのに金額2.7倍」の数量を追いかけたら、3つの違う数字が出てきた

きっかけは TrendForce のこの記事だった。

South Korea's chip story is becoming one of value over volume. Export volume dropped 11.9% YoY, yet revenue surged more than 2.7x as demand for high-priced HBM continued to grow.

→ TrendForce: South Korea Chip Export Volume Falls, Yet Revenue Surges(2026-06-11)

記事の数字を整理するとこうなる(出典は KITA=韓国貿易協会)。

項目数字対象月
半導体輸出数量3,242トン(-11.9%2026年4月
半導体輸出金額$31.9B(+173.5%・約2.7倍)2026年4月
DRAM輸出金額$18.6B(+369.8%)2026年5月
NAND輸出金額$1.7B(+206.8%)2026年5月

これ、韓国の半導体輸出 のページでまとめている内容と同じなのか? という確認から始めて、最終的に「数量」を3通り取りに行くことになった。先に結論を書くと、同じ2026年4月の『半導体の輸出数量』が、分類のとり方で -11.9% にも +9.9% にも +16.1% にもなる

同じ2026年4月の半導体輸出数量が、分類しだいで符号まで変わる。신성질별3401は6,541トン+16.1%、KITA MTI 831は3,242トン-11.9%、HS 8542は1,747トン+9.9%

まず突き合わせ: 金額側は既存ページと完全に一致していた

金額の 31.9B(+173.5%)は、ページの SSOT(`exportStats.ts`)にある 2026-04 の 31.90B / +173.5% と完全一致。MOTIE(産業通商資源部)が毎月1日に発表する月次そのものだった。

DRAM・NAND の品目別も、前日に関税庁の HSK 10桁で実装済みだった(DRAM 8542.32.1010 / NAND 8542.32.1030 / MCP 8542.32.3000)。面白いのは KITA の「DRAM 18.6B」という数字で、当方の HSK ベースでは 4月の DRAM が 9.25B しかない。差分はほぼ MCP(複合構造チップ=HBM はここに入る)の 8.16B で、合算すると 17.4B。つまり KITA の「DRAM」は HBM 込みの分類で、HSK の DRAM+MCP とほぼ同じものを指している。NAND は当方 4月 1.674B vs KITA 5月 1.7B でそのまま整合。

KITAのDRAMはHBM込みで、関税庁HSKのDRAM 9.25BとMCP 8.16Bの合算17.4Bに相当する

残ったのが「数量 3,242トン・-11.9%」。ページには数量の系列がなかったので、これを関税庁統計(tradedata.go.kr)から取りに行った。

取りに行く①: HS 8542(集積回路)— 符号が逆だった

まず素直に、HS 4桁の 8542(電子集積回路)全体を月別・Kg基準で照会した。2018-01〜2026-04 の100ヶ月分。

結果、2026年4月の輸出重量は 1,747トンで前年比 +9.9%。記事の -11.9% と符号が逆。水準も 3,242トンに全然届かない。つまり KITA の言う「半導体」は IC よりずっと広い。一方で金額は $25.2B(+158.2%)なので、「数量ほぼ横ばい・金額2.6倍」という value over volume の構図自体はこの系列でも成立していた。金額=数量×単価に分解すると、伸びの中身がよく見える。

金額2.58倍は数量1.10倍と単価2.35倍に分解でき、伸びのほぼすべてが単価

取りに行く②: 신성질별3401「半導体」— 金額がMOTIEと一致する『正解』の分類

関税庁の照会画面には HS 部号のほかに「신성질별(新性質別)」という分類があり、ツリーを掘ると 3401「반도체(半導体)」= 340101 集積回路 + 340102 個別素子半導体 + 340103 シリコンウェーハ という構成が出てくる。これを同じ条件で100ヶ月分照会した。

この系列の収穫は2つあった。

1つめ。輸出金額が MOTIE 発表の「半導体」と一致した。2024-01〜2026-04 の28ヶ月で最大差 0.049B。毎月1日に報道される「半導体輸出 XX.XB」の数量側を、ようやく同じ範囲で取れたことになる(ページにはこの一致を ±$0.1B のユニットテストとして固定した)。

2つめ。その重量を2018年から並べると、金額とまったく別の絵になる。月2万トン台(ピークは2022年12月の29,998トン)から2024年にかけて急減し、いまは月5〜6千トン台。2026年4月は 6,541トンで前年比 +16.1% と、直近はむしろ増えている。

取れなかったもの: KITA の MTI 集計(-11.9% の出典そのもの)

3,242トン・-11.9% の出典である KITA の MTI 分類(831「반도체」)は、結局月次系列として取れなかった。

  • 関税庁の通関統計には MTI 分類が存在しない(HS・성질별・신성질별のみ)。HS 4桁でも 신성질별でも -11.9% は再現できない
  • KITA 自身の K-stat(stat.kita.net)に MTI 照会画面はあるが、グリッドが IBSheet という古い部品で、開始コード指定・ソート変更・表示行数変更がスクリプトからは一切効かない。全品目の重量降順ランキング20件/頁を延々めくる構造で、831 の行に到達する前に断念した
  • ということで記事の -11.9% は「KITA の MTI 基準」という出典明記つきでページの注記に書き、系列としては不採用にした

MTI 831 は IC に個別素子・部品を足してウェーハを外したような範囲らしく、どの通関分類とも一対一にならない。同じ「半導体の輸出数量」でも、KITA基準 -11.9% / MOTIE基準相当 +16.1% / IC のみ +9.9% と、分類で符号まで変わる

わかったこと: 「数量減」の正体は周辺の重量物

3つの数量を並べて見えたのは、報道の「数量が減っている」がチップの話ではないということだった。

  • 신성질별3401 の重量の大半は、シリコンウェーハや太陽電池(個別素子半導体に入る)といった「重い周辺品目」が占める。2022年末からの重量急減はこの周辺品目の構造的な縮小で、金額が急増した2024年以降のメモリブームとは別の現象
  • チップ本体(HS 8542)の物量は2024年からほぼ横ばい〜微増。金額の伸びはほぼ全部、単価(≒製品ミックスのHBM化と価格上昇)
  • つまり「数量 -11.9% なのに金額 2.7倍」という見出しは、分母に重量物の縮小が混ざったことで対比が誇張されている。value over volume の実態は「物量そのまま、中身が高いものに入れ替わった」が正しい

この3系列はすべて 韓国の半導体輸出 の「数量と金額」セクションにチャートとして追加した。

つまずきメモ(同じ作業をする人向け)

データ取得は agent-browser での画面操作になるが、今日ハマったのは統計そのものより道具だった。

  • agent-browser のタブを並行セッションに横取りされる。default セッションはマシン内で共有されるので、別の Claude Code セッションが open するとこちらのタブが消える。照会の途中で2回飛ばされた。対策は AGENT_BROWSER_SESSION=作業名 で専用セッションに分離すること(これで完全に解決)
  • 長い照会で CDP 接続が死ぬ(os error 10060)。tradedata.go.kr は照会期間を2年以下に分割するのが安全。死んだらセッションごと立ち上げ直す
  • 신성질별の結果テーブルは品目別と列構成が違う。HSコード列がない分、重量・金額の位置が1列ずれる。最初これに気づかず、輸出金額を重量として読んでいた(2018年の金額がおかしいことで発覚)。列ヘッダを必ず先に確認する
  • K-stat の IBSheet グリッドは td に onclick がなく、DOM 経由のクリックが効かない。階層ツリーの展開だけは座標クリック(mouse move → down → up)で動いた。ただしフォーム側の条件変更はそれでも反映されず、ここは敗北

まとめ

  • TrendForce 記事の金額側(+173.5%、DRAM +369.8% 等)は既存ページの数字と整合。KITA の「DRAM」は HBM 込みで、HSK の DRAM+MCP 合算に相当する
  • 数量側は新規に2系列取得した。IC のみ(HS 8542)は +9.9%、MOTIE 基準相当(신성질별3401)は +16.1% で、どちらも記事の -11.9% と符号が逆
  • -11.9% の出典(KITA・MTI 831)は通関統計から再現できず、K-stat の UI 攻略にも失敗したため、出典明記のうえ系列としては不採用
  • 「数量減」はウェーハ・太陽電池など周辺重量物の構造減。チップの物量は横ばい〜微増で、金額の伸びは単価がほぼすべて

発表サイクルの話は前日の 台湾・韓国の2026年5月輸出統計を読む に整理してある。品目別の確定値は毎月15日頃に出るので、2026年5月分の数量は数日後にこのページの各チャートへ追記される。


データの出所: 関税庁 수출입무역통계(tradedata.go.kr)の「수출입 실적」を月別・Kg・수리일(輸出申告受理日)基準で照会。HS 8542 は品目별(HS 4桁)、半導体全体は신성질별 3401。金額の突き合わせ先は MOTIE 月次「輸出入動向」(exportStats.ts)。KITA の数字は TrendForce 記事経由(MTI 基準・原出典は Seoul Economic Daily / Maeil Business Newspaper)。