Quanta(廣達 2382.TW)の2026年月次売上を眺めていて気付いた。3月の3,628億NTをピークに、4月3,399億NT、5月3,114億NT$と2カ月連続で落ちている。NVIDIA向けAIサーバーODMの最大手が踊り場に入ったように見える。気になって近い位置にある銘柄を並べてみたら、Inventec(英業達 2356.TW)、Wistron(緯創 3231.TW)、Wiwynn(緯穎 6669.TW)、ASMedia(祥碩科技 5269.TWO)まで似た形をしている。一方で同じ台湾上場のFoxconn(鴻海 2317.TW)は5月に過去最高を更新した。なぜ一部のODMだけ揃って失速し、Foxconnやその他の企業ではこのパターンが出ていないのか。
5社で揃った「3月ピーク → 4-5月失速」
まず数字を並べる。すべて月次売上(億NT$)。
| 銘柄 | Jan | Feb | Mar | Apr | May | 3→5月 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Quanta(廣達) | 2,308 | 2,156 | 3,628 | 3,399 | 3,115 | -14.1% |
| Inventec(英業達) | 618 | 509 | 876 | 848 | 828 | -5.5% |
| Wistron(緯創) | 2,284 | 2,849 | 3,330 | 2,834 | 2,902 | -12.8% |
| Wiwynn(緯穎) | 832 | 946 | 986 | 827 | 840 | -14.8% |
| ASMedia(祥碩) | 13.5 | 8.9 | 12.6 | 9.6 | 9.0 | -28.6% |
ODM 4社にIC設計のASMediaを加えた5社が、揃って3月をピークに4-5月で5〜29%下落している。YoYで見ればQuanta +94%、Wistron +39%、Wiwynnも +18%とプラス圏は維持しているので「沈んだ」のではない。それでも前月比のモメンタムが切れているのは確かだ。
参考までに2025年の同じ時期を見ると、Quanta・Wistron・Wiwynnの3社は前年同期も「3月ピーク → 4月谷」の形をしていた。これは単年の異常ではなく、毎年顔を出す季節性も含んでいる。
失速していない企業を並べると共通点が浮かぶ
同じ2026年4-5月、同じ台湾上場の他社はどう動いているか。
| 銘柄 | 業態 | Mar | Apr | May | 3→5月 |
|---|---|---|---|---|---|
| Foxconn(鴻海) | EMS最大手・GB300ラック組立 | 8,037 | 8,321 | 8,594 | +6.9% |
| TSMC(台積電) | ファウンドリ世界最大 | 4,152 | 4,107 | 4,170 | +0.4% |
| Accton(智邦) | スイッチODM(Tomahawk採用) | 250 | 274 | 286 | +14.4% |
| ASE(日月光) | OSAT世界最大 | 616 | 623 | 630 | +2.4% |
| Unimicron(欣興) | ABF基板世界最大手 | 131 | 139 | 141 | +7.5% |
| ASPEED(信驊) | サーバーBMC圧倒シェア | 12.4 | 12.8 | 12.8 | +3.6% |
| Nanya(南亞科技) | DRAM専業 | 182 | 255 | 277 | +52.3% |
| Winbond(華邦電子) | ニッチDRAM/NOR Flash | 145 | 193 | 200 | +38.0% |
| Macronix(旺宏) | NOR Flash/SLC NAND | 44 | 59 | 63 | +42.1% |
「失速していない」と一言で言ったが、温度差は大きい。Foxconn・Accton・Unimicronは穏やかに増勢を続けている。TSMC・ASE・ASPEEDはほぼ横ばいで季節性の振れの範囲内。そしてメモリ勢のNanya・Winbond・Macronixは4-5月で30〜50%急増している。失速している5社と、伸び続けている9社のあいだに性質の違いがあるはずだ。
失速の正体は3つの要因が重なった結果
要因1:台湾上場企業の「季底拉貨」(四半期末駆け込み出荷)
台湾IT/IC設計の月次売上には、暦四半期末月(3・6・9・12月)に出荷を寄せる構造的な癖がある。台湾語で季底拉貨(四半期末の駆け込み出荷)と呼ばれ、四半期決算を厚く見せたい顧客発注と、自社の売上計上タイミングが揃うため3月単月だけ突出する。翌月の4月は反動で必ず谷になるパターンで、Quantaは2025年も3月1,926億NT → 4月1,540億NTと20%落ちている。これは毎年出る季節性で、2026年特有の弱さではない。
要因2:NVIDIA GB200から GB300への世代交代の踊り場
ここが本丸だ。2026年3月はGB200 NVL72の出荷加速に、GB300量産前の駆け込み発注が重なった山だった。4-5月はGB300ラインの立ち上げ調整期間で、各ODMは生産ラインの組み替え、CoWoS-Lのウェハ供給待ち、新しいバックプレーン設計の認証などで一時的に出荷ペースを落としている。
- Quanta:NVIDIA DGX/HGX ODMの中核。Hopper世代から Blackwell世代への切替で生産ライン組み替え
- Wistron:HGXベースボード組立・Spectrum-X筐体組立。世代切替の影響を直撃で受ける
- Wiwynn:Meta/Microsoft等ハイパースケーラー向けカスタムサーバー。GB300対応の新筐体設計の認証期間
- Inventec:Microsoft Azure向けカスタムサーバー組立。WiwynnとASIC仕様競合の調整局面
Wistronだけは5月に2,902億NT$と一服戻しているが、これはNVIDIAから割り当てられたGB300量産分が他社より早く立ち上がった可能性がある。一方、Quantaは2カ月続けて落ちていて、こちらはGB300移行が他社よりやや遅れているように見える。
要因3:ASMedia固有のAMDチップセット側の弱さ
ASMediaは他の4社とは少し性質が違う。AMD向けPCIe/USB高速I/Fチップの設計専業で、AIサーバーODMではない。YoYも4月-17.5%、5月-19.4%と明確にマイナス転落している。
- AMD Ryzen 9000シリーズの在庫調整局面
- メモリ価格高騰によるリテールPC出荷の鈍化
- 米中関税の不確実性によるチャネル在庫の抑制
このため「コンシューマ/一般PC」需要の弱さを反映している。AIサーバーODMの「世代切替の踊り場」とは別系統の構造的弱さが乗っている。
なぜ他の企業ではこのパターンが出ていないのか
失速していない9社を、なぜ失速しないかという角度で並べ直す。
Foxconn — GB300の本命位置 + iPhone17の量産前倒し
5月8,594億NT$は単月過去最高を更新した。Foxconnの強さは事業分散にある。
- GB300ラック組立の本命位置:CoWoS-Lの供給制約が緩和されGB300の量産が4-5月で立ち上がっているなか、最大シェアのODMが受託している
- iPhone17の量産前倒し:従来9月の量産立ち上げが、関税不確実性を背景に4-5月から前倒しで始まっている
- EV・クラウドサーバー・コンポーネント等の事業分散:単一プラットフォームの世代切替の影響を吸収できる規模
QuantaやWiwynnのように特定顧客の単一プラットフォームに紐づいていないため、世代切替の谷を他事業で埋められる構造になっている。
TSMC — 多品種多顧客のファウンドリ
TSMCは月次4,100億NT$台でほぼ横ばい。NVIDIA向けCoWoSがGB200からGB300に切り替わってもラインは継続稼働で、Apple・AMD・Broadcom等の他顧客向けの先端ノードが補完するため、全体としては波が立たない。顧客数と製品数が圧倒的に多いため、特定SKUの世代切替が月次全体に影響しないのがTSMCの構造で、同じ理由でASE(OSAT)もほぼ横ばいで推移している。
Accton・Unimicron — AIサーバーの「共通プラットフォーム部材」
Accton(スイッチODM)とUnimicron(ABF基板)は3カ月連続で月次を更新している。
- Accton:BroadcomのTomahawk搭載ホワイトボックススイッチが主力で、AIサーバーの世代に関係なくScale-outネットワーク需要は継続増。NVIDIA Spectrum-Xの世代切替の影響を直接受けない
- Unimicron:ABFサブストレートはNVIDIA GPU・AMD CPU・Intel CPUなど全社の先端パッケージに必須の共通部材。GB300の立ち上がりで逆に増産局面に入っている
両社とも「特定プラットフォームの組立ライン」ではなく、AIサーバー全体の共通部材を供給する位置にあるため、世代切替の谷が出ない。
ASPEED — AIサーバー1台に必ず乗るBMC
ASPEEDはサーバーのBMC(Baseboard Management Controller)でほぼ独占シェア。AIサーバーであろうが汎用サーバーであろうが1台に必ず1個乗るため、Hopper→Blackwell→GB300の世代交代に関係なく出荷台数全体に連動する。月次12.4 → 12.8と横ばいでYoYは+60〜80%を維持しており、AIサーバー全体の出荷台数が増え続けていることを裏付けている。
Nanya・Winbond・Macronix — メモリ勢はASP急騰局面で全速増産
メモリ専業3社はむしろ4-5月で30〜50%の急増を打っている。これは別世界の話で、Samsung・SK Hynix・MicronがHBM増産のために汎用DRAMから生産能力を引き上げたことでASPが急騰し、Nanya・Winbond・MacronixはASP上昇の恩恵を一身に受けている。NanyaのYoYは+730%、Macronixは+176%でフル稼働の真っ最中。世代切替どころの話ではない。
「失速」と「踊り場」を切り分けるための読み方
ここまで整理すると、Quanta・Inventec・Wistron・Wiwynn・ASMediaの4-5月失速は次のように切り分けられる。
- ASMediaを除く4社の失速 = NVIDIA GB200からGB300への世代切替の踊り場。台湾月次特有の季底拉貨が3月の山を高く見せた反動も乗っている。「鈍化」ではなく一時的な踊り場と読むのが妥当
- ASMediaの失速 = AMD向けPCチップセット需要の構造的弱含み。AIサーバーとは別系統の問題で、回復には時間がかかる
次の判定ポイントは6月の月次売上。台湾の各社は7月3〜5日に発表する。GB300のラック量産が立ち上がってきていれば、Quanta・Inventec・Wiwynnが揃って前月比プラスに戻すはずだ。逆に6月も4-5月の水準のままなら、GB300立ち上げが想定より遅れている、もしくはNVIDIA経由の発注ペース自体が落ちている、という別の問題に切り替わる。
そしてFoxconnの5月過去最高更新は、GB300量産が立ち上がっていることを先取りで示しているとも読める。Foxconnが本命位置のGB300ラックを最初に組み立て、その後Quanta・Wistron・Wiwynnが続くという順番で月次が動くなら、6月のQuanta・Wistronの戻りが判定の答えになる。
「3月ピーク・4-5月失速」を「AI需要の鈍化」と読むのは早すぎる。失速していない9社の月次を並べて見れば、AI半導体・AIサーバー全体の需要は揺らいでいない。揺らいでいるのは特定顧客の単一プラットフォームに紐づいたODMの組立タイミングだけだ。