AMDはサーバーCPUの市場規模予想を2.6か月で1200億→2200億ドルに書き換えた|土台の260億ドルは動かさず、成長率だけを18%→35%→50%超と3回上げている
AMDはサーバーCPUの市場規模予想を2.6か月で1200億→2200億ドルに書き換えた
AMDが2026年5月6日のQ1決算コールで、2030年のサーバーCPU市場(TAM)を「年35%超で成長し、1200億ドルを超える」と言った。翌7日には Compute & Enterprise AI 担当のダン・マクナマラが同じ数字をブログで解説している。
その78日後、7月23日の Advancing AI 2026 のキーノートで、同じ市場のスライドが 約2200億ドル・年50%超 に書き換わった。

この記事の結論
- 2030年のサーバーCPU TAM予想は、8か月で3回書き換わっている。2025年11月11日の Financial Analyst Day で約600億ドル(年18%)、2026年5月6日の決算コールで1200億ドル超(年35%超)、7月23日の Advancing AI 2026 で約2200億ドル(年50%超)。8か月で3.7倍になった。
- 3回とも2025年の土台は約260億ドルのまま動いていない。260億ドルに各成長率を5年かけると、順に595億ドル・1166億ドル・1974億ドルとなり、AMDが掲げた「約600億ドル」「1200億ドル超」「約2200億ドル」に一致する。数字の辻褄は合っている。上振れは全部「後半の伸び」に乗っている。
- 5月のブログと7月のスライドは、呼び方こそ「server CPU」「DATA CENTER CPU」と違うが、同じ市場について同じ構造を語っている。ブログが文章で説明した「GPUラック+エージェント用CPUラック+従来サーバー」の3層が、7月のスライドでは棒グラフの3色(General Purpose / AI Host / Agentic)としてそのまま出てくる。
- 積み上がっているのは3層目である。棒グラフを画素で実測すると、2030年の2200億ドルの内訳は Agentic 約1470億ドル(67%)・AI Host 約470億ドル(21%)・General Purpose 約260億ドル(12%)。従来型の汎用サーバー市場は5年で1.3倍しか伸びない絵になっている。5月からの1000億ドルの上積みも、大半はこのAgentic層の見立てが動いた分と読める。
3回の改定を並べる
| 時点 | 場面 | 2030年のTAM | 想定成長率 |
|---|---|---|---|
| 2025年11月11日 | Financial Analyst Day 2025 | 約600億ドル | 年18% |
| 2026年5月6日 | 2026年Q1決算コール(リサ・スーCEO) | 1200億ドル超 | 年35%超 |
| 2026年7月23日 | Advancing AI 2026 キーノート | 約2200億ドル | 年50%超 |
5月の改定で2.0倍、7月の改定でさらに1.83倍。11月から数えると3.7倍である。5月6日から7月23日までは78日しかない。
なお同じ日のスライドでは、AIアクセラレータ(GPU)のTAMも2030年に約1.4兆ドル(年45%超、2025年は約2000億ドル)へ引き上げられている。11月時点の1兆ドルからの上方修正で、CPUとGPUの両方を同時に引き上げた発表だった。
数字は本当に整合しているか
2025年の土台を260億ドルとして、各成長率で5年複利をかけると次のようになる。
| 成長率 | 2025年 → 2030年の計算 | 結果 | AMDの表現 |
|---|---|---|---|
| 年18% | 260億 × 1.18⁵ | 595億ドル | 「約600億ドル」 |
| 年35% | 260億 × 1.35⁵ | 1166億ドル | 「1200億ドル超」 |
| 年50% | 260億 × 1.50⁵ | 1974億ドル | 「約2200億ドル」(50%超) |
逆に、2030年の着地から必要な成長率を求めるとこうなる。
- 600億ドルに届かせるには 年18.2%(AMDの表現は「18%」)
- 1200億ドルに届かせるには 年35.8%(同「35%超」)
- 2200億ドルに届かせるには 年53.3%(同「50%超」)
3回とも「超」の一語のなかに収まる。同じ260億ドルの土台の上で、成長率だけを差し替えているという読み方で辻褄が合う。逆に言えば、AMDは2025年の市場規模の見立てを一度も直していない。上方修正はすべて2027年以降の傾きに乗っており、直近の実績が上振れたから伸ばした、という形ではない。
これは投資判断の材料としては両方向に効く。土台が動いていないので過去の推計が崩れたわけではない一方、増えた1600億ドルはすべて「これから起きること」の側にあり、まだ検証されていない。
5月と7月は同じことを言っているか
言っている。用語が変わっただけで、構造は一致する。
5月7日のブログ「Agentic AI Changes the CPU/GPU Equation」で、マクナマラはこう書いた。
While we previously outlined a server CPU market growing at 18% annually, the structural increase in compute requirements driven by agents changes the math. We now expect total addressable market for server CPUs to grow at greater than 35% annually, reaching more than $120 billion by 2030.
そして、これを「GPUサーバーにCPUを足す話ではない」と念を押している。
You don't achieve this by simply sprinkling more CPUs into a box of GPUs. You achieve it by adding a newly engineered CPU compute layer.
チャットボット型のAIでは、CPU1個に対してGPUが4〜8個。CPUはスケジューリングとI/Oの係だった。エージェント型では、目標を手順に割り、複数のモデルを呼び、データベースを叩き、APIを呼び、社内アプリを動かし、権限を確認し、記憶を引き、出力を検証し、また戻る。この工程のほとんどはCPU側にある。だから比率が 1:1、場合によってはCPU側が多いところまで動く、という話だった。
7月のスライドは、この文章をそのまま絵にしている。棒グラフの3色は、キーノート後半の別スライドで定義されていた。

| スライドの色 | 中身 | 求められるCPU |
|---|---|---|
| General Purpose | Webゲートウェイ、キャッシュ、業務アプリ、DB・ストレージ | 性能・コア数・電力・コストのバランス |
| AI Host | GPUサーバーのホストノード | 高クロックのコアと強いI/O |
| Agentic | エージェントを走らせる「サンドボックス」 | ワットあたりの高性能コア数を最大化 |
つまり、5月の文章にあった「GPUラックと並んで新しいCPUラックが立つ」という主張が、7月には市場規模の内訳として数値化された。
しかもこの3分類は7月に急に出てきたものではない。5月6日の決算コールで、リサ・スーはすでに同じ3つを口で説明している。
There's general purpose compute. There's the head nodes that really support the AI accelerators. And then there are CPUs just for all of the Agentic AI work.
同じ質疑のなかで、どこが伸びるかもはっきり言っていた。
then the largest piece of the growth is this Agentic AI piece
積み上がっているのはどの層か
AMDが数値で明示したのは2025年(約260億ドル)と2030年(約2200億ドル)の2点だけで、層別の金額は書かれていない。そこで棒グラフの各色の高さを画素単位で測り、この2点でスケールを合わせて割り戻した。2025年と2030年の2点だけで直線を引くと切片がほぼゼロ(-0.2)になったので、グラフは目盛りのない見た目上のものではなく、素直な線形スケールで描かれている。
以下は実測にもとづく概算で、AMDが公表した数値ではない。
| 年 | General Purpose | AI Host | Agentic | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 2025 | 約200億 | 約60億 | ― | 約260億ドル |
| 2026 | 約200億 | 約130億 | 約190億 | 約520億ドル |
| 2027 | 約220億 | 約280億 | 約450億 | 約950億ドル |
| 2028 | 約240億 | 約390億 | 約770億 | 約1400億ドル |
| 2029 | 約250億 | 約450億 | 約1100億 | 約1800億ドル |
| 2030 | 約260億 | 約470億 | 約1470億 | 約2200億ドル |
2030年の構成比は Agentic 67%・AI Host 21%・General Purpose 12%。2025年から2030年までの増分1940億ドルの内訳はこうなる。
- Agentic: +約1470億ドル(増分の76%)。2025年はゼロで、2026年から立ち上がる
- AI Host: +約410億ドル(同21%)。GPUの出荷台数に比例して増える層
- General Purpose: +約60億ドル(同3%)。5年で1.3倍、年率5%程度しか伸びない
従来からある汎用サーバーCPUの市場は、この絵のなかではほとんど伸びていない。2200億ドルという数字のほぼ3分の2は、2025年時点で存在しない層である。
では5月からの1000億ドルは何が上振れたのか
5月時点の層別金額はAMDが公表していないので、1000億ドルの増分をこの3層に厳密に割り振ることはできない。ただし到達点の内訳から範囲は絞れる。
2030年の汎用(約260億ドル)とAIホスト(約470億ドル)を足すと約730億ドルで、5月時点の1200億ドルの6割にあたる。この2層は5月から7月で大きく動かしにくい。汎用は既存市場の延長で、AIホストはGPUの出荷台数に紐づくためである。したがって、増えた1000億ドルの大半はAgentic層の見込み増と読むのが最も整合的で、5月に「成長の最大部分はAgentic」と言っていた部分を、7月に大きく描き直したことになる。
ただしAIホスト側も同時期に上振れた可能性は残る。同じ7月のスライドでAIアクセラレータのTAMも1兆ドル(2025年11月時点)から1.4兆ドルへ引き上げられており、AIホストCPUはその台数に連動するからだ。この2つの切り分けは公表資料からはできない。
AMDが引き上げの根拠として挙げたのは次の点である。5月6日の決算コールで、TD Cowen のジョシュア・バカルターが「アナリストデーで600億ドルと言ってから間もないのに、もう倍になった」と質問したのに対する回答が中心になる。
- 顧客への聞き取りと、顧客自身の長期見通しの積み上げ("talking to customers and having them give us longer-term forecasts")に、ワークロード分析を重ねた
- 推論が増えるとエージェントが増え、エージェントはオーケストレーションとデータ処理でCPUを要求する("as inferencing scales ... they all require CPUs for all of the orchestration and the data processing")
- CPU対GPUの比率が、ホストノードとしての1:4〜1:8から1:1へ近づく
- エージェント分はGPU予算の取り合いではなく、市場に上乗せされる(BofAのヴィヴェック・アリヤへの回答: "it's largely additive to the TAM")
- 7月時点の需要実績として、月間トークン消費が3.5京トークン、2年で160倍という数字が示された
要するに上振れ要素は「エージェントが1件の依頼に対して生む処理の量」の見立てである。GPUが増えるからCPUが増えるという話(AIホスト)はすでに織り込み済みで、そこではなく、エージェントを走らせる専用サーバーという新しい需要をどこまで積むかが2回の改定で動いた部分になる。
AMDは何を売るのか
7月23日のイベントでは、この3層に1対1で製品を当てている。第6世代EPYC「Venice」(Zen 6、2nm/6nm、最大512スレッド、メモリ帯域1.6TB/s)のラインナップが、配布資料36ページ目でそのまま3列に並べられていた。
| 層 | 割り当てた製品 | 設計の狙い | 訴えている性能 |
|---|---|---|---|
| GPUサーバー(ホストノード) | 「Venice」HF(RDIMM / MRDIMM)、「Verano」(LPDDR) | 高クロック、CPU-GPU間の帯域 | フロンティアモデルのトークン/秒 最大1.8倍 |
| エージェント用CPUサーバー(サンドボックス) | 「Venice」256コア | 高コア数・低消費電力 | ワットあたりエージェント数 最大2.1倍 |
| 汎用CPUサーバー | 「Venice」SP7 / SP8 / 「Venice-X」 | 性能と電力のバランス | ワットあたり性能 最大2.3倍 |
比較対象は第5世代EPYCと第6世代Intel。エージェント用のラック比較では、Venice 256コア構成で1ラック49,152コア、対するNVIDIA Vera 88コアのMGX構成が22,528コアという数字を出している。
TAMの絵で最も伸びる層に専用SKU(256コア版)を当てて売る、という組み立てになっている。メモリの構成も層ごとに書き分けられているが、そこは次の節でまとめて見る。
同社はこのCPU市場で50%超のシェアを取ると再確認し、2030年のサーバーCPU収益目標として1100億ドルを挙げたと報じられている。現在の収益シェアは46%だという。
ここは数字を置いてみると重さが分かる。2025年のAMDのサーバーCPU収益は約90億ドルと報じられており、そこから1100億ドルへ5年で到達するには年65%の成長を5年続ける必要がある。市場そのものの伸び(年53%)に乗ってシェアを維持するだけでは、90億ドルは5年後に760億ドルにしかならない。市場を上回り続け、かつシェアも上げないと届かない目標である。
足元は近いペースにある。2026年Q1のサーバー事業は前年同期比50%超の成長で、Q2は70%超の見込みだと会社は言っている。ただし基数が大きくなるほど同じ率を維持するのは難しくなる。四半期ごとのサーバーCPU収益と収益シェアが、この目標の進捗を測る目盛りになる。
なお、2026年Q1のデータセンター部門売上(GPU含む)は58億ドル、前年同期比57%増だった。1100億ドルはCPUだけの目標なので、部門全体はここにGPUが乗る形になる。
誰がこの2200億ドルを分け合うのか
ここまでAMDとNVIDIAの話が続いたが、この市場は二社で分けるものではない。2026年Q1時点のシェアはこうなっている。
| 台数ベース(UBS) | 収益ベース | |
|---|---|---|
| Intel | 54.9% | x86内で53.8%/arm含む全体で約43% |
| AMD | 27.4% | x86内で46.2%(過去最高)/全体で約37% |
| arm系 | 17.7% | 全体で約20% |
| NVIDIA | ほぼゼロ(出荷は2026年下期から) | ― |
最大シェアはいまだにIntelである。そして最も速く伸びているのはarm系で、台数シェアが前年同期の11.5%から17.7%へ動いた。中身はAWS Graviton、Google Axion、Microsoft Cobaltといったハイパースケーラーの自社設計で、これは「買う側が自分で作る」構造なので、価格では対抗できない相手になる。しかもコア数と電力効率が効くエージェント用サンドボックスは、arm設計が得意な領域でもある。
AMD自身の認識も、配布資料の比較スライドの構成に表れている。
- 37ページ: 第5世代EPYC、第6世代Intelと比較
- 38ページ: 「vs ARM-based CPUs」として NVIDIA Vera と ARM AGI を並べる(ワットあたりエージェント数で最大2.8倍、ワットあたり性能で最大3.3倍と主張)
- 39ページ: NVIDIA Vera 専用の1枚(シングルコア1.2倍、スループット2.2倍。Venice 96コア×2ソケット対 Vera 88コア×2ソケット)
- 脚注のベンチ構成: Intel Xeon 6980P / 6990E+、NVIDIA Vera、ARM AGI、そして AWS Graviton5
NVIDIAに1枚割いているのは新しい脅威と見ている証拠だが、同時にarm勢にも1枚割いている。
TAMの分母にも注意がいる。2025年のTAM 260億ドルに対しAMDの収益は約90億ドル(34.6%)で、x86内の収益シェア46%とは合わない。この差は、TAMの260億ドルがarm系の自社設計分も含んだ総額だと考えると辻褄が合う(arm込みの全体シェア推定37%とほぼ一致する)。だとすると、2200億ドルを分け合う相手はAMD・Intel・NVIDIA・ハイパースケーラー各社の自社設計、という4勢力になる。AMDの「50%超」は、Intelから奪うだけでなくarm系の伸びも止めないと届かない数字である。
メモリから見るとどうなるか
CPUが増えるということは、CPUにぶら下がるDRAMが増えるということでもある。しかもここは掛け算で効く。
ソケット数 × 1ソケットあたりのメモリ本数の両方が増える世代だからである。
| 第5世代「Turin」 | 第6世代「Venice」 | |
|---|---|---|
| メモリチャネル/ソケット | 12 | 16 |
| 速度 | DDR5-6400 | MRDIMM 12,800MT/s |
| 帯域/ソケット | 614GB/s | 1.6TB/s |
チャネル数で1.33倍、帯域で2.6倍(配布資料の脚注 9xx6-006A)。AMDが挙げている競合値は、NVIDIA Veraが約1.2TB/s、Intel Xeon 6980Pとarm勢が約0.8TB/sである。AMDが載せているベンチ構成を見ると、256コアの「EPYC 9996」に64GBのRDIMMを全チャネル装着し、別の構成では2ソケット24チャネル×128GBで3TBを積んでいる。ソケットが増えるうえに1ソケットの搭載枚数も増えるので、DIMMの本数はソケット数より速く伸びる。
これはGPU側のHBMとは別枠である。Helios 1ラックのHBM容量は31TBだが、これはGPUに載る分で、ホストCPUやエージェント用CPUのメモリはこれとは別に積む。
そのHBM側でも、供給者であるMicronが同じように自社の市場予想を書き換えている。1000億ドルに届く年を2030年から2028年へ2年前倒しした話は別記事にまとめた(MicronはHBMが1000億ドルに届く年を2030年から2028年へ2年前倒しした)。2028年でCPUが約1400億ドル、HBMが約1000億ドルと、同じ桁の数字が別の財布から積み上がる形になる。
種類も層ごとに分かれる。配布資料36ページでは、ホストノード用の「Venice」HFがRDIMM / MRDIMM、その次の「Verano」がLPDDRと書き分けられていた。ロードマップ(117ページ)では、MRDIMMが第6世代の目玉("First to JEDEC MRDIMM")で、「Next Gen Memory: MRDIMM & LPDDR」は第7世代「Florence」(2028年)に置かれている。
NVIDIAは先にLPDDRで来ている
同じ市場をNVIDIAも狙っていて、そちらはメモリの振り切り方がさらに極端である。2026年3月16日に発表された Vera CPU は88コア・176スレッドで、メモリはSOCAMM形式のLPDDR5X、帯域1.2TB/s。ラック製品の公称値はこうなっている。
| NVIDIA Vera CPU Rack | 公称値 |
|---|---|
| 搭載CPU | 256基 |
| メモリ | LPDDR5X 最大400TB(推奨構成200TB) |
| 総メモリ帯域 | 最大300TB/s |
| スレッド | 45,056(176/CPU) |
| 同時実行環境 | 22,500以上のサンドボックス |
GPUラック(Helios)のHBMが31TBなのに対し、このCPUラックは1本で最大400TBのLPDDR5Xを積む。単価も帯域もHBMとは別物だが、DRAMのビット数で見ると、エージェント用CPUラックのほうが桁違いに食う。AMDが配布資料40ページで「Venice 256コア構成のラック49,152コア対 Vera 88コアMGX構成22,528コア」と比較していたのは、まさにこの領域である。
つまり、エージェント用CPUという新しい層の立ち上がりは、サーバー向けDDR5(RDIMM/MRDIMM)だけでなく、これまでモバイルが主戦場だったLPDDRをサーバーに引き込む動きとセットで進んでいる。
需要はこれだけ積み上がるのに、メモリ株は利益の3〜5倍で値付けされている
ここまでの話を需要側の証言として読むと、妙なことに気づく。AMDとNVIDIAという当事者2社が、CPUとそこに付くメモリの需要を上へ上へと書き換えているのに、それを供給するメモリメーカーの株価は「この利益は続かない」という前提で値付けされている。
2026年7月30日時点のスナップショット(Koyfin Estimates)はこうなっている。
| 株価 | 今後12か月のEPS予想 | 今後12か月ベースのPER | EPS成長率 | |
|---|---|---|---|---|
| Micron | $739 | $143.50 | 5.1倍 | +218% |
| SanDisk | $1,015.89 | $182.45 | 5.6倍 | +486% |
| Samsung Electronics | ₩208,500 | ₩57,724 | 3.6倍 | +359% |
| SK hynix | ₩1,401,000 | ₩419,669 | 3.3倍 | +84% |
半導体セクターの予想PER中央値がおよそ30倍であることを思えば、極端に低い。ここで整理しておくべきなのは、保守的なのはアナリストの利益予想ではないということである。予想EPSは前年比で3倍から6倍に伸びる形になっている。マイクロンの四半期EPS予想は、2025年8月期の3.03ドルから2027年5月期の39.89ドルへと一本調子で積み上がる。悲観的なのは予想の中身ではなく、その予想に市場が掛けている倍率のほうである。PER3〜5倍は「2027年あたりがピークで、その先は大きく落ちる」という前提の値付けになる。
メーカーは「作ってから売る」のをやめた
この値付けを見るうえで押さえておきたいのは、供給側の行動が過去のサイクルと変わっている点である。何度も供給過剰で自滅してきた産業が、今回は売り先を固定してから作る形に切り替えつつある。
マイクロンのSCA(Strategic Customer Agreements)がその代表になる。2026年度第3四半期末までに16件を締結し、内容は次のとおりと報じられている。
- 最低契約収益は約1000億ドル、顧客からの前払い現金が約220億ドル
- 形式はテイク・オア・ペイ。顧客は約定した数量を複数年にわたって購入する義務を負う
- 価格は帯(バンド)で決める。下限と上限を置き、その範囲内で調整する
- 期間は5年(車載は3年)。DRAM数量の約20%、NAND数量の約3分の1をカバー
- 経営陣は、いずれ全社収入の半分以上をこの形にしたいと説明している
ここが重要な訂正になる。長期契約は価格だけでなく数量も縛っている。前払いを受け取っている以上、買い手には引き取る義務が生じる。ただし全量ではない。マイクロンで言えばDRAMの2割であり、残る8割は従来どおり市況にさらされる。「数量が保証されている部分と、されていない部分がある」というのが正確な形になる。
業界全体の契約形態も、年次から3〜5年の長期契約(LTA)へ移りつつある。価格の下限は64GBあたり約500ドル(7.8ドル/GB)、上限は約1,350ドル(21ドル/GB)とされ、契約総額の10〜30%が前払いになる。なおSK hynixは上限を撤廃したと報じられており(サムスンとマイクロンは上限つき)、供給側の強気度合いは各社で分かれている。
供給計画のほうは、サムスンが2026年に生産能力を約50%拡大、SK hynixがインフラ投資を4倍超へ。SK hynixは2026年分のHBM・DRAM・NANDが「実質完売」と説明している。マイクロンはコンシューマ市場から撤退し、エンタープライズとAIに絞った。そしてジェンスン・フアンは「DRAM工場を拡張してほしい、NVIDIAが全部買う」と述べ、メモリ不足は数年続きうると2026年6月に発言している。
加えて今回のCPU側の需要は、HBMではなくDDR5とLPDDRを食う。HBMの取り合いはすでに株価に織り込まれてきたが、エージェント用CPUラックが積む汎用DRAMのほうはまだ相対的に語られていない。1ラック400TBという数字は、その意味で軽くない。
買う側の財布も見ておく
需要が本物かどうかは、買う側の決算に出る。直近の2026年4-6月期はこうだった。
| 実績 | |
|---|---|
| Alphabet | 売上1198億ドル(+24%、市場予想1169億ドルを上回る)。Google Cloudは248億ドルで+82%。クラウドの受注残は5140億ドルで前期比500億ドル超の増加 |
| Alphabet の投資 | フリーキャッシュフローは-59億ドル。2026年の設備投資ガイダンスを1800〜1900億ドルから1950〜2050億ドルへ引き上げ |
| Microsoft | 売上812.7億ドル(+16.7%)、EPS 4.14ドル(予想3.85ドルを7.6%上回る)。Azureは前年比43%増で、市場予想の約40%を上回る |
| Microsoft の投資 | 設備投資298.8億ドルで前年比ほぼ倍。AI関連の年換算収益は370億ドル |
アルファベットは営業活動で稼いだ現金をデータセンター投資が食い尽くし、フリーキャッシュフローがマイナスに沈んでいる。それでも設備投資の計画を引き上げた。クラウドが82%伸び、受注残が5140億ドル積み上がっている以上、投資を止めるほうが損だと判断している格好になる。
企業がAIを入れる動機も、投資対効果の計算だけでは説明しきれない部分がある。競合が業務フローを書き換えている状況で、自社だけ様子を見るという選択は取りにくい。入れるかどうかではなく、どれだけ早く入れ替えるかの競争になっている、という見方である。この構図が続くかぎり、クラウド側の投資意欲は簡単には落ちない。ただしこれは解釈であって、数字で裏づけられた事実ではない。
PERが上がるのか、EPSで上がるのか
ここまでを並べると、需要と契約の両面で「昔のメモリサイクルとは違う」材料は揃っている。それでもPERが3〜5倍でとどまっている理由も、公平に置いておく。
- 市況産業は利益のピーク時に低いPERが付くのが常態である。PER3〜5倍は割安の証明ではなく、「ここが山だ」という市場の判定そのものでもある
- 過去のサイクルでは、増産は決まって遅れて効き、需要が緩んだ局面に供給が着地して価格を崩してきた。今回の増産(サムスン+50%)が2027年以降にどう効くかはまだ見えていない
- テイク・オア・ペイでカバーされるのはDRAM数量の2割程度。残りは市況次第で、稼働率が落ちれば利益率は素直に下がる
- 需要側の前提はAMDの自社推計とNVIDIAの発言に依存している。この記事の本題どおり、その数字は8か月で3回書き換わってきた
- 中国勢(CXMT等)の汎用DRAM増産という、契約でも需要でも制御できない変数が残っている
そのうえで論点を絞るなら、「単価が半分になるか」ではない。単価が2〜3割下がったときに、数量がそれを上回って伸びるかである。数量が倍になれば、2割の値下がりは利益を減らさない。CPU側の需要増は、この数量側に効く材料になる。
そして株価の上がり方には2通りある。市場が「この利益は続く」と認めてPERが切り上がるか、PERは3〜5倍のままEPSが増えて株価がついてくるか。どちらになるかを事前に当てる必要はない。代わりに見るべき目盛りははっきりしている。テイク・オア・ペイがカバーする数量比率が上がるか、契約価格の下限が切り上がるか、クラウド各社の設備投資ガイダンスと受注残が伸び続けるか。この3つが揃って伸びる間は、PER3〜5倍の前提のほうが疑わしくなっていく。
読み違えないよう、注意点を3つ挙げておく。
- 「CPU:GPUが1:1へ」はGPUラック内の比率ではない。Helios は4,600 CPUコア対18,000 GPU演算ユニットで、GPU72台に対しCPUは18ソケット相当、ラック内は依然1:4程度である。1:1に近づくのは、GPUラックの外に立つエージェント用CPUラックを足したデータセンター全体の比率になる
- TAMが8.5倍(260億→2200億ドル)でも台数が8.5倍になるわけではない。256コア級の高価なSKUで単価が上がる分、台数の伸びは金額の伸びより小さい。DRAMのビット需要に効くのは台数×搭載量である
- サンドボックスは軽量なコンテナを大量に走らせる用途なので、コアあたりのメモリ容量が従来の汎用サーバーより低くなる可能性がある。AMD自身の脚注にも、GPUオフロードのベンチで「host DRAM utilization remained below 10%」と書かれている場面がある
読むときの注意
- スライドの脚注は Source: AMD Internal Projections。第三者の調査会社の数字ではなく、自社推計である。同じ日のGPU TAM(1.4兆ドル)も同様。自社推計のTAMを出すのはAMDに限らず業界の作法で、NVIDIA・Marvell・Broadcom・SK hynix・Samsungがそれぞれ何をどこまで出しているかは別記事で並べた(AI半導体のTAMは誰がどう出しているか)。
- 本記事の層別内訳は、スライドの棒の高さを画素で測って2点(2025年・2030年)でスケールを合わせた概算である。AMDが数値として明示したのはその2点の合計だけで、層別の金額も中間年の合計も公表されていない。読み取り誤差として各層±20〜30億ドル程度は見ておく必要がある。
- TAMは市場規模であり、AMDの売上ではない。ここが2200億ドルになっても、AMDの取り分はシェア次第で変わる。
- CPU:GPU比率が「1:1に向かう」という主張は、エージェントが本番環境に出た後の負荷構成に依存する。2026年時点ではまだ移行の初期段階だと、AMD自身がブログで書いている("We are now in the early days of the Agentic AI Era.")。
- 8か月で3回上がったということは、次の四半期にまた動く可能性もある。Financial Analyst Day(例年11月)と決算コールが、この数字の更新される場所になっている。
出典
- → Agentic AI Changes the CPU/GPU Equation(AMD公式ブログ, Dan McNamara, 2026年5月7日)
- → Advancing AI 2026 配布資料(PDF, 132ページ。CPU TAMは8ページ目、3層の定義は33ページ目)
- → AAI 2026: AMD Delivers Full-Stack Compute for the Agentic AI Era(AMD IR, 2026年7月23日)
- → Decoding Micron's SCAs: 20% of DRAM Output, Toward 50% of Long-Term Memory Revenue(TrendForce, 2026年6月25日。テイク・オア・ペイと1000億ドルの最低契約収益)
- → Alphabet Announces Second Quarter 2026 Results(PDF。Google Cloud +82%、フリーキャッシュフロー -59億ドル)
- → SK hynix Reportedly Removes Price Cap in Memory Long-Term Agreements(TrendForce, 2026年7月2日)
- → From Annual Deals to 3–5 Year LTAs: Samsung and SK hynix Reset Big Tech Memory Contracts(TrendForce, 2026年4月9日)
- → AMD reaches 46% of server x86 CPU revenue(Tom's Hardware。Mercury Research / UBS のシェア数値)
- → Jensen Huang Warns Memory Shortage Could 'Last for Years'(24/7 Wall St., 2026年6月7日)
- → NVIDIA Launches Vera CPU, Purpose-Built for Agentic AI(NVIDIA Newsroom, 2026年3月16日)
- → NVIDIA Vera CPU Rack 製品ページ(LPDDR5X 最大400TB、45,056スレッドの公称値)
- → AMD Q1 2026 決算コール書き起こし(Motley Fool, 2026年5月6日。3カテゴリの説明、TD Cowen・BofAとの質疑)
- → AMD posts Q1 2026 data center revenue of $5.8bn, forecasts $120bn server CPU TAM by 2030(DCD, 2026年5月6日)
- → AMD: Firm Raises the Server CPU Bar Yet Again at Its Advancing AI Event(Morningstar, 2026年7月24日)
- 本サイト: MicronはHBMが1000億ドルに届く年を2030年から2028年へ2年前倒しした
- 本サイト: AI半導体のTAMは誰がどう出しているか