AnthropicのS-1を読む⑦募集の諸元・株式の内容・引受
この記事は、Anthropic, PBC が 2026年10月26日に SEC へ提出した Form S-1 のうち、将来予測に関する注意書き(p.121)から追加情報の入手先(p.336)までを扱う。具体的には p.121–133 と p.293–336 で、間に挟まる経営陣・主要株主などの章は別の回で扱う。原典は Anthropic, PBC Form S-1(SEC EDGAR)。
全体の結論を先に書く。
- 仮目論見書なので、公募価格・株数・手取金・資本構成表の金額・希薄化額はすべて空欄である。この章で確定しているのは「仕組み」のほうだ。
- 普通株は A(1株1票)・N(議決権なし)・T(LTBT が保有する1株)・F(Founder LLC が保有する1株で議決権の 50.1%)・E(従業員向け・議決権は限定的)の5種類に分かれる。公開市場で買えるのは Class A だけで、Class A の株主は一般議案の結果を通常は左右できない。
- ロックアップは 180日型と 365日型の2系統で、決算発表日を起点に十数回に分けて少しずつ解ける設計になっている。
- 引受団は Goldman Sachs と Morgan Stanley を代表とする22社。米国外では Australia・Canada・EEA の一部・Japan・Switzerland・UK でも公募を行う。
- 監査法人は 2025年10月30日に Grant Thornton から Ernst & Young へ交代しており、意見の不一致はなかったと開示されている。
シリーズの全体像は AnthropicのS-1を読む①総覧 を参照。
将来予測に関する注意書き(p.121–123)
目論見書に書かれた歴史的事実以外の記述は、すべて将来予測(forward-looking statements)だと宣言する定型の章である。「may」「will」「expect」「believe」などの語が目印になる。
列挙された対象には、コンピュート投資を予定どおり売上を生むワークロードに変えられるか、少数の顧客と販売チャネルへの売上の集中、競合する AI を開発するクラウド事業者・チップパートナーとの利益相反、フロンティアモデルへの安全上のアクセス制限の商業的な影響、パブリック・ベネフィット・コーポレーション(PBC、公益目的を定款に掲げる会社形態)であることと LTBT(Long-Term Benefit Trust、長期利益信託)の役割から生じるリスク、輸出管理を含む法規制など、この会社らしい項目が並ぶ。予測は目論見書の日付時点のもので、法律が求める場合を除き更新義務を負わない。
業界・市場データの出典(p.124)
この章には市場規模の数値そのものは載っていない。載っているのは、目論見書の他の箇所で使う推計の出典一覧と、ひとつの推計の作り方である。
出典として挙げられているのは次の6件。
| 出典 | 資料名 | 時点 |
|---|---|---|
| IDC | The Economic Impact of AI: 2026 Edition(doc # US54452226) | 2026年4月 |
| IDC | Worldwide Black Book: Live Edition V2 2026 Forecast | 2026年7月 |
| IDC | Worldwide Developer Population Growth Forecast, 2025–2029(doc # US53789825) | 2025年9月 |
| IQVIA Institute for Human Data Science | Global Medicine Use Trends 2026 | 2026年2月 |
| U.S. Bureau of Labor Statistics | Occupational Employment and Wage Statistics | 2025年5月 |
| World Bank Group | GDP(current US ドル建て), 2025 | 2025年 |
会社独自の推計として手順が説明されているのが「世界のナレッジワーカーの賃金総額」(目論見書の呼び方では、世界のナレッジワーカーが表す年間の経済価値)である。BLS の 2025年の職業別賃金から、ナレッジワーカーにあたると会社が考える職種の米国の賃金総額を出す。次に ILO(国際労働機関)の「世界 GDP に占める労働所得の比率」と 2025年の世界 GDP から世界の賃金総額を推計し、米国の賃金総額との比率を米国のナレッジワーカー賃金総額に当てて世界の値を出す。第三者の資料を会社は独自に検証していない、とも書かれている。
手取金の使途(p.125)
会社の手取金は約(目論見書では空欄)ドル、追加購入オプションが全部行使されれば約(目論見書では空欄)ドルである。前提の想定公募価格は1株(目論見書では空欄)ドルで、表紙に載る想定価格帯の中央値にあたる。想定価格が1.00ドル動いた場合、募集株数が100万株動いた場合の増減額も(目論見書では空欄)。売出株主(selling stockholders)が売る分の代金は会社に入らない。
募集の主目的は、資本の増強と財務の柔軟性、Class A 株の公開市場の創設、売出株主の株式を秩序立てて放出すること、会社と株主が公開株式市場を使えるようにすることの4点とされる。
手取金は一般的な企業目的に使う。運転資金、営業費用、設備投資(コンピュートとインフラへの投資を含む)、高度人材の採用と引き留めが例示されている。事業・製品・技術の買収や投資に回す可能性にも触れるが、現時点で重要な買収・投資の契約や約束はないという。
もうひとつの使途が、RSU(譲渡制限付株式ユニット)の一括決済(RSU Settlement)に伴う源泉税の納付である。必要額は(目論見書では空欄)ドルで、想定公募価格と想定源泉徴収率(目論見書では空欄)% を前提に計算される。想定価格が1.00ドル動くごとの増減額も空欄である。
使途が決まるまでは、短期の投資適格・利付きの商品で運用する可能性があるとする。
配当方針(p.126)
設立以来、現金配当を宣言したことも払ったこともない。当面は手元資金と将来の利益を事業の運営と拡大に回し、予見できる将来に配当を払う予定はない。
将来の配当は取締役会の裁量で決める。加えて、A&R Credit Agreement(改定後の与信契約)が、借入残高がない場合でも現金配当の額に一定の制限をかけている点が明記されている。
資本構成(p.127–129)
2026年9月30日時点の現金・現金同等物・短期投資と資本構成を、3つの列で示す表である。
- 実績(Actual)
- プロフォーマ(Pro Forma):次の5つが 2026年9月30日に起きたと仮定した数字。(i) 優先株の普通株への転換(Preferred Stock Conversion)、(ii) 転換社債の転換(Convertible Notes Conversion)、(iii) Class F 株の発行(Class F Stock Issuance)、(iv) RSU 一括決済の対象 RSU にかかる株式報酬費用(目論見書では空欄)ドル分の資本剰余金と累積欠損の増加、(v) 上場直前に効力を持つ改定後のデラウェア州定款の提出と発効
- 調整後プロフォーマ(Pro Forma As Adjusted):プロフォーマに加え、今回の Class A 株の発行(想定公募価格は目論見書では空欄)と、手取金(必要なら既存の現金も)による RSU 一括決済の源泉税の納付を反映した数字
表の単位は百万ドル(株数と1株あたりの数値を除く)。行は、現金・現金同等物・短期投資、転換社債、償還可能転換優先株、株主資本(優先株、Class A・N・T・F・E の各普通株、資本剰余金、その他の包括利益累計額、累積欠損、株主資本合計)、総資本の順に並ぶ。金額欄は3列とも全行が(目論見書では空欄)である。
金額は空欄だが、行ラベルの中に授権株数(定款で発行が認められている株数)が書き込まれている。額面はいずれも1株 0.00001ドル。
| 株式 | 実績 | プロフォーマ・調整後プロフォーマ |
|---|---|---|
| 償還可能転換優先株 | 授権・発行済・流通 1,040,440,652株 | 授権・発行なし |
| 優先株(株主資本の部) | 授権・発行なし | 授権 30,000,000,000株、発行なし |
| Class A 普通株 | 授権 10,906,111,730株、発行済は(目論見書では空欄) | 授権 300,000,000,000株、発行済は(目論見書では空欄) |
| Class N 普通株 | 授権 7,128,888,270株、発行済は(目論見書では空欄) | 授権 100,000,000,000株、発行済は(目論見書では空欄) |
| Class T 普通株 | 授権1株、発行済1株 | 授権1株、発行済1株 |
| Class F 普通株 | 授権・発行なし | 授権1株、発行済1株 |
| Class E 普通株 | 授権・発行なし | 授権 30,000,000,000株、発行なし |
追加購入オプションが全部行使された場合の調整後の現金等・資本剰余金・株主資本合計・総資本・Class A 株数も、すべて(目論見書では空欄)。
プロフォーマの株数から除外されているものとして、次の項目が挙がる。株数はすべて空欄である。
- 2026年9月30日時点の未行使ストックオプションの行使で発行される Class A 株(加重平均行使価格も空欄)
- 勤務条件が未充足の RSU の決済で発行される Class A 株
- 2026年9月30日以降に非上場会社の買収に関連して発行した Class A 株
- 株式報酬制度のための留保分:寄付マッチング制度(Donation Matching Plan)で発行される Class N 株の転換用、2026 Plan、2021 Plan(2026 Plan の発効とともに付与を停止し、残りを 2026 Plan へ移す)、ESPP(従業員株式購入制度)
2026 Plan と ESPP には、留保株数を毎年自動で増やす条項がある。
希薄化(p.130–133)
希薄化(dilution)は、公募価格と、上場直後の1株あたり正味有形簿価(net tangible book value)との差として計算する。正味有形簿価は「有形資産の合計 − 負債の合計 − 償還可能転換優先株」で、これを Class A と Class N の株数で割る。Class T・F・E は経済的な権利を持たないので、1株あたりの計算から外す。
1株あたりの表は次の順に積み上がる。
- 2026年9月30日時点の正味有形簿価(実績)
- プロフォーマ調整による増加
- プロフォーマの正味有形簿価
- 新規投資家の払込みによる増加
- 上場直後の調整後プロフォーマ正味有形簿価
- 想定公募価格から 5 を引いた「新規投資家にとっての希薄化」
金額は想定公募価格を含め、すべて(目論見書では空欄)である。
プロフォーマ調整に含まれるのは、優先株の転換、転換社債の転換、Initial Public Benefit Issuance(目論見書の別の章で定義される発行。本記事の範囲に説明はない)、RSU 一括決済である。想定価格が1.00ドル動いた場合、募集株数が100万株動いた場合、追加購入オプションが全部行使された場合の数値も、すべて空欄になっている。
既存株主と新規投資家を、取得株数(株数・比率)、払込総額(金額・比率)、1株あたり加重平均価格で比べる表もある。埋まっているのは合計行の比率「100%」だけで、ほかは(目論見書では空欄)。この表は売出株主の売却を反映していない。売出しを反映すると既存株主の持株は(目論見書では空欄)株、上場後の Class A 発行済株式の約(目論見書では空欄)% に減り、新規投資家は(目論見書では空欄)株、約(目論見書では空欄)% に増えると書かれている。
上場後の Class A・N・T・F の株数は、2026年9月30日時点の Class A(目論見書では空欄)株、Class N(目論見書では空欄)株、Class T 1株、Class F 1株を前提とする。優先株の転換、転換社債の転換、Class F 株の発行、Initial Public Benefit Issuance、RSU 一括決済を反映した数である。除外される株式は資本構成の節と同じ4系統(未行使オプション、勤務条件が未充足の RSU、9月30日以降の買収に伴う発行、株式報酬制度の留保分)で、株数と加重平均行使価格はいずれも(目論見書では空欄)。
2026 Plan と ESPP には、留保株数を毎年自動で増やす条項がある。2026 Plan では、2021 Plan の報奨が失効・取消・没収された分や、行使価格・源泉税の支払いに充てられた分、会社が買い戻した分も、付与できる株数に加わる。未行使オプションの行使、RSU の決済、株式報酬制度による新たな付与があれば、今回の投資家はさらに希薄化を受ける。
株式の内容(p.293–307)
上場直前に効力を持つ改定後の定款・付属定款、Trust Agreement(LTBT の信託契約)、Founder LLC Agreement、IRA(投資家権利契約)、Stockholders’ Agreement(株主間契約)の要約である。
授権株式の総数
上場完了直後の授権株式は合計 460,000,000,002株、額面は1株 0.00001ドル。内訳は Class A が 300,000,000,000株、Class N が 100,000,000,000株、Class T と Class F が各1株、Class E と優先株が各 30,000,000,000株である。
一連の転換・発行が 2026年9月30日に起きたと仮定した場合の流通株数は、Class A・Class N とも株数と株主数が(目論見書では空欄)。Class T と Class F はそれぞれ1株・株主1名、Class E と優先株は流通なしである。
5種類の普通株の比較
普通株は4つの区分からなる。Participating Common Stock(経済的権利を持つ普通株)が Class A と Class N の2シリーズに分かれ、ほかに LTBT に発行される Class T、Founder LLC に発行される Class F、共同創業者を除く従業員に発行される Class E がある。
| 項目 | Class A | Class N | Class T | Class F | Class E |
|---|---|---|---|---|---|
| 保有者 | 一般投資家ほか | 主に戦略的事業パートナー | LTBT | Founder LLC | 従業員(共同創業者を除く) |
| 1株あたりの議決権 | 1 | 0 | 1 | 基準日の議決権総数の 50.1%(1株で) | 1 |
| 議決できる事項 | 一般議案全般、Class T 以外の取締役の選任、LTBT の条件や Class T の権利の一部変更、Class T の償還 | 原則なし(法律が求める場合は1株1票) | Class T 取締役(取締役会の過半数)の選任、Class E の償還、Class F の権利の一部変更 | 一般議案全般、Class T 以外の取締役の選任、LTBT の条件や Class T の権利の一部変更、Class T の償還、Class E の償還 | Specified Class T Director の指名・変更・解任(NGC が LTBT の判断に同意しない場合に限る)、LTBT の条件や Class T の権利の一部変更、Class T の償還 |
| 転換 | なし | 関係のない第三者への売却・譲渡で Class A に転換 | なし | なし | なし |
| 譲渡 | 原則自由 | 原則自由(譲渡時に Class A へ転換) | Trust Amendment Threshold の承認が必要 | 原則不可(取締役会が承認し、メンバーが変わらない Founder LLC の組織再編・本拠移転のみ可) | 不可 |
| 配当 | 比例で参加 | 比例で参加 | なし | なし | なし |
| 清算時の分配 | 比例で参加 | 比例で参加 | 額面のみ | 額面のみ | 額面のみ |
| 会社による償還 | なし | なし | 一定の事由で無償償還 | 一定の事由で無償償還 | 一定の事由で無償償還 |
NGC は取締役会の指名・ガバナンス委員会(Nominating and Governance Committee)を指す。議決権のない Class N も、Class A に同じ不利益を与えずに Class N の権利だけを不利に変える定款変更などには、デラウェア州一般会社法(DGCL)によりシリーズ単位で投票できる。Class F の票は Founder LLC Agreement の定めに従って投じられる(後述)。
Class N の転換条件と保有上限
Class N 株は、次のいずれかの譲渡で同数の Class A 株に自動転換する。
- 登録された売出し、または市場での売却
- 次の両方を満たす第三者への譲渡:(A) Class N 株主(とその関係会社)ではない、(B) 譲渡後に会社のどのクラス・シリーズの持分証券についても 9.99% を超えて実質保有・支配しない
保有上限に関しては、ほかに転換社債の転換条件として「ownership cap(保有上限)」が出てくる。上場直前に転換できる社債は保有者が上限を超えない範囲に限られ、超える分は上場後に一定の間隔で転換するという(次の「将来売却可能な株式」の章)。ただし、本記事が扱う範囲には、上限の具体的な比率や、どの保有者のどの契約に由来するかの記載はない。
償還(Class T・F・E)
Class T は、次のいずれかで無償償還される。この条件は、後で述べる Trust Amendment Threshold と同じ構造である。
- 受託者(Trustees)が賛成する場合:取締役会の授権定数の 80% と在任受託者の 80% の承認(いずれも端数は四捨五入で、ちょうど 0.5 は切り上げ)
- Class F が残っていて受託者が賛成しない場合:
- 上場から3年以内は、(i) Continuing Founders(後述)の全員一致に基づく Class F、(ii) Class E の投票の過半数(定足数は Class E 発行済の 40%)、(iii) Class A の投票の過半数(定足数は Class A 発行済の過半数)の3つ
- 期限なしで、(i) Continuing Founders の 66 2/3%(切り上げ)の決定に基づく Class F、(ii) Class E の投票の 75%(定足数は Class E 発行済の過半数)、(iii) Class A の投票の過半数(定足数は Class A 発行済の過半数)の3つ
- Class F が残っておらず受託者が賛成しない場合:Class A 発行済株式の 85% の承認
Class F は、(i) Continuing Founders の Supermajority の承認に基づく Founder LLC の選択、(ii) Founder LLC の解散、(iii) Class F Transition Period の完了、のいずれかで無償償還される。Transition Period は、Continuing Founders が3人未満の状態が90暦日続くと始まる(Founder LLC Agreement が定める Non-Qualifying Member にあたる後継メンバーは人数に数えない)。
Class E は保有者の請求では償還されない。従業員が理由(cause)による解雇以外で退職すると、保有する Class E の半分が毎年自動で無償償還される。死亡、就業不能、理由による解雇、直接の競合先での勤務開始の場合は全株が無償償還される。さらに、Class F が残っていない状態になったとき、または取締役会の授権定数の 80%・Class F 保有者・Class T 保有者の三者が承認したときには、Class E の全株が無償償還される。
配当・新株引受権・清算
配当を受けられるのは Class A と Class N だけで、Class T・F・E は配当を受けない。普通株に新株引受権(preemptive rights)はない。清算時は債務と優先株の優先分を払った後、残りを Class A・Class N(と参加型優先株)で比例配分し、Class T・F・E は額面(0.00001ドル)だけを受け取る。
サンセット条項
特別な株式の効力が終わる時点(サンセット)が、Class T と Class F で別々に定められている。
| 項目 | Class T Sunset Time | Class F Sunset Time |
|---|---|---|
| 発生条件 | Class T が1株も残っていない状態になったとき(償還や権利変更による消滅を含む)。いずれも Trust Amendment Threshold の承認が必要 | 次のうち早いほう。(i) Class F が残っていない状態(Continuing Founders の Supermajority が合意した償還、Founder LLC の解散を含む)、(ii) Class F Transition Period の完了 |
| 自動発生の有無 | 時の経過や特定の出来事では自動的に起きない | Continuing Founders が3人未満の状態が90暦日続くと Transition Period が始まり、その完了で発生する |
| 一度起きた後 | 延長・延期・放棄はできない | 延長・延期・放棄はできない |
| サンセット後 | Class F が残っていれば Class A と Class F で全取締役を選ぶ。Class F が 50.1% を持つので Founder LLC が全議案を決められる | Class T が残っていれば LTBT は引き続き取締役会の過半数を選ぶ。ただし Specified Class T Director の手続きは不要になる。残りの取締役と一般議案は Class A が決める |
| 両方が終わった後 | Class A が全取締役の選任を含む全議案を決める | 同左 |
Trust Amendment Threshold は、上の Class T の償還条件と同じ3通りの承認経路を指す。
Continuing Founder(継続する創業者メンバー)が Founder LLC から外れる事由は6つある。
- 本人の辞任
- 死亡または就業不能
- 当初の7人の共同創業者について、株主総会の基準日に、上場完了時点の自身(と関係者)の Class A 保有数の 2% 以上(オプション・RSU などを含む)を持たなくなったこと
- 理由(cause)による除名。Founder LLC Agreement が定める競合行為を含む
- Transition Period の開始前に加わった後継メンバーについては、上場から10年の経過(Transition Period 中のメンバーを除く)
- 当初の7人について、他の Continuing Founders の Supermajority が承認した休職の開始。ただし Transition Period 中や、休職の承認で Transition Period が始まってしまう場合は承認できない
辞任・死亡・10年経過では自動的に外れる。就業不能は本人と他の創業者の過半数が共同で選ぶ医師(心身の障害の場合)か他の創業者の Supermajority(不当な拘禁などの場合)が、理由による除名は他の創業者の Supermajority が判断し、本人は争える。
上場から10年以内に死亡または就業不能で外れた場合は後継メンバーを迎え入れることができ、その人は10年の経過まで「3人」の人数に数えられる。
優先株
上場後に流通する優先株はない。取締役会は、授権定数の 80% が承認すれば、株主の追加の決議なしに優先株を1つ以上のシリーズで発行し、権利内容を決められる(最大 30,000,000,000株)。ただし Class F Sunset Time までは、Founder LLC の賛成がなければ優先株のシリーズを設けることも発行することもできない。議決権付きの優先株を出すと Class A の議決権は薄まるが、Class F の議決権は議決権総数の 50.1% で固定されたままになる、と原文は明記している。現時点で優先株を発行する計画はない。
2026年9月30日時点の未行使オプション(2021 Plan)は(目論見書では空欄)株分、加重平均行使価格は約(目論見書では空欄)ドル、未決済 RSU は(目論見書では空欄)株分である。
登録請求権
登録請求権(registration rights)は、保有株を SEC に登録して売りやすくするよう会社に求める権利である。IRA に基づくものと、Google・Broadcom との個別契約に基づくものがある。
| 区分 | 主な条件 |
|---|---|
| IRA:Demand(要求登録) | 効力発生から6か月後以降、登録可能株の 60% 以上の保有者が請求できる。見込み総額(手数料控除後)200,000,000ドル以上、会社の義務は2回まで、延期は12か月に2回まで各最長120日。対象株数は(目論見書では空欄) |
| IRA:Piggyback(相乗り登録) | 会社の登録に自分の株を含められる。削減されても募集全体の 20% は確保し、他の保有者が外されるなら共同創業者の株は入れない。対象株数は(目論見書では空欄) |
| IRA:Form S-3 登録 | 60% 以上の保有者が請求でき、見込み総額 2,000,000ドル以上。12か月に2回まで。対象株数は(目論見書では空欄) |
| IRA の失効 | 次のうち最も早い時点。(i) 上場完了から2年、(ii) 保有者が Rule 144 で3か月以内に全株を売れるようになったとき、(iii) IRA の終了 |
| Google RRA(2026年5月締結) | Google 2026 NPA(社債購入契約)に関連。効力発生から1年以内に、Rule 144 でまだ売れない登録可能株の再売出しを1回だけ請求できる。Form S-3 が使えるようになったら、NPA の四半期ごとのクロージングから60日以内に、取得株の再売出しを S-3 で登録する。権利の期限は 2033年2月7日と、最後の四半期クロージングから12か月後の早いほう |
| Infrastructure Partner RRA(Broadcom、2026年6月締結) | Infrastructure Partner 2026 NPA に関連(指定の金融パートナーへ譲渡可能)。対象は社債から転換した Class N をさらに転換した Class A。S-3 が使えるようになったら60日以内にシェルフ登録。要求登録は社債 5.0 billion ドル(50億ドル)ごとに1回・最低 500,000,000ドル、引受型の売出しは12か月に3回まで。削減時は共同創業者の株を先に外し、他の株主により有利な条件を与えたら同等に引き上げる。終了は登録可能株がなくなった時点と社債の最終満期から9か月後の早いほう。目論見書の日付時点で社債は未発行 |
会社は登録費用(引受手数料を除く)を負担する。登録請求権は今回の募集には使えず、ロックアップにも服する。本記事の範囲で個別の登録請求権契約が明記されているのは Google と Broadcom の2社である。
買収防衛にかかわる規定
- DGCL 第203条:特定株主(議決権の 15% 以上を持つ者)が、その地位を得てから3年間は会社と企業結合を行えないとする規定。会社は Class F と Class T のサンセットの遅いほうまで適用を外し、その後は適用を受ける。
- 複数クラスの株式:LTBT と Founder LLC が合わせて全取締役を選び、当面は Founder LLC が一般議案のすべてを決める。合併や会社売却の株主承認も Founder LLC が決め、取締役会の承認(過半数は LTBT が選ぶ)も要る。Class A 株主は、Continuing Founders の過半数が投票方針で合意できない場合(このとき Class F は Class A の投票と同じ比率で投じられる)を除き、結果を左右できない。
- 期差選任:Class F Sunset Time までは期差選任をとらず、全取締役の任期は1年。サンセット後は3つのグループに分け、任期3年を順にずらす形に移る。
- 取締役の欠員:Class T Sunset Time までは Class T 取締役の欠員を Class T 保有者だけが埋められる。Class F Sunset Time までは、その他の欠員を Founder LLC の推薦に基づく取締役会、または Class A と Class F の株主が埋める。取締役の定数は Class T Sunset Time まで授権定数の 80% の承認でしか変えられず、F と T のサンセットの早いほうまで奇数でなければならない。
- 事前通知:株主提案と取締役候補の指名には事前通知の手続きがある。NGC は、LTBT や Founder LLC による取締役の指名・解任と、LTBT の受託者の任免について30日前の書面通知を受ける。
- 臨時株主総会:招集できるのは取締役会、議長、CEO、President などで、Class F Sunset Time 前は Founder LLC も招集できる。一般株主に招集権はない。
- 累積投票はなく、書面決議は取締役の選解任など一部の事項に限られる(Class E の決議は必ず総会で行う)。
- 定款・付属定款の変更:Class F Sunset Time までは Class A と Class F の合算議決権の過半数、その後は Class A の議決権の 66 2/3%。
- 専属的管轄:会社のための代表訴訟や信認義務違反などは Delaware Court of Chancery、1933年証券法に基づく請求は米国の連邦地方裁判所、1934年証券取引所法上の義務を執行する代表訴訟は U.S. District Court for the District of Delaware を専属管轄とする。
Founder LLC と Class F の投票の決め方
7人の共同創業者がそれぞれ当初の Continuing Founder となり、1人1票で Class F の投票方針を決める。Class F Transition Period の長さは 450日で、完了すると Class F と Class E がすべて無償償還される。期間中に後継メンバーを加えて3人を保てるが、それで期間が止まったり延びたりはしない。共同創業者が個人で持つ Class A 株は、各自の判断で投じる。
| 議案 | 必要な賛成(1人1票) | 達した場合 | 達しない場合 |
|---|---|---|---|
| 一般議案 | 過半数 | その方針どおりに投票 | Class A の投票と同じ比率で投票(定足数は Class A 発行済の過半数) |
| Class F の権利の変更 | Supermajority | 賛成票を投じる | 反対票(または不支持)を投じる |
| LTBT・Class T の権利の変更 | Trust Amendment Supermajority | 賛成票を投じる | 反対票(または不支持)を投じる |
| 書面決議 | 総会なら必要になる上記の各基準 | 同意を出す | 同意を出さない |
用語の定義は脚注にある。
- Supermajority:投票権を持つ Continuing Founders の人数から1を引いた人数が賛成すること。3人未満なら全員一致。
- Trust Amendment Supermajority:上の Class T の償還条件のうち「受託者が賛成しない場合」の2経路と同じ組み合わせ(Continuing Founders の 66 2/3% と Class E の 75% と Class A の過半数、または上場3年以内に限り創業者全員一致と Class E の過半数と Class A の過半数)。
- 過半数の Continuing Founders が「棄権」を指示した場合や、指示がそろわない場合は、Class A の投票と同じ比率で投じる。
- 株主間契約により、取締役会の授権定数の 80% と在任受託者の 80% が承認した変更には、Founder LLC が賛成票を投じる。
名義書換代理人と上場先
名義書換代理人は Computershare Trust Company, N.A.(150 Royall Street, Canton, MA 02021)。Class A 株は Nasdaq Global Select Market に、ティッカー「ANT」で上場を申請している。
将来売却可能な株式(p.308–311)
上場後に市場へ出てくる可能性のある株式の量と時期を示す章である。株数と比率はすべて空欄だが、解除の日程は細かく決まっている。
ロックアップの4つの階層
ロックアップ(lock-up)は、引受人との契約で一定期間の売却を禁じる約束、マーケット・スタンドオフ(market standoff)は会社との間の同種の約束である。取締役・役員と実質的にすべての株主がどちらかに服し、対象は Class A・Class N とそれに転換できる証券である。期間の終わりは次の4通りに分かれる。
| 対象 | 期間の終わり(早いほう) |
|---|---|
| (1) 創業者以外の取締役・役員、一部の現・元従業員とコンサルタント | 2027年3月31日に終わる四半期の決算発表後2つ目の終日取引日(second full trading day)の午前6時(米東部時間)/目論見書の日付から180日目の取引終了後 |
| (2) 一部の株主(上場直前の完全希薄化後株式の約(目論見書では空欄)%を保有) | 同上 |
| (3) 一部の株主(上場直前の完全希薄化後株式の約(目論見書では空欄)%を保有。引受の章では完全希薄化後株式の 0.5% 超を持つ一部の株主) | 2027年9月30日に終わる四半期の決算発表後2つ目の終日取引日の午前6時/365日目の取引終了後 |
| (4) 7人の共同創業者 | 同上 |
決算発表日は速報値や部分的な数字を含まない正式な発表を指す。以下、目論見書の略称に合わせて、2026年12月期の年次決算の発表日を「FY26発表日」、2027年の各四半期決算の発表日を「Q1発表日」「Q2発表日」「Q3発表日」と書く。
段階的な解除の日程
各階層には、期間の途中で一部を売れるようにする早期解除の条項がある。比率は「上限」で、基準日の保有ロックアップ証券に対する割合である。基準日は (1) と (4) が「目論見書の日付の前月末日」、(2) と (3) が「目論見書の日付の7日前」と、階層によって違う(いずれも引受の章 p.322–324 の記載)。
| 解除日 | (1) 創業者以外の役員・従業員 | (2) 180日型の株主 | (3) 365日型の株主 | (4) 共同創業者 |
|---|---|---|---|---|
| 上場初日(目論見書の日付の翌取引日)の取引開始後 | 10% | なし | なし | なし |
| 目論見書の日付から27日目・48日目 | なし | 各6% | 各1.8% | なし |
| 同62日目・76日目 | なし | 各7% | 各2.1% | なし |
| FY26発表後2取引日目 | 35% | 12.5% | 3.75% | なし |
| FY26発表日から13・27・41・55・69日目 | なし | 各9.5% | 各2.85% | なし |
| Q1発表後2取引日目と180日目の早いほう | 残り全部 | 残り全部 | 4.2% | 29% |
| Q1発表日から34・48・62・76日目 | なし | なし | 各5.6% | なし |
| Q2発表後2取引日目 | なし | なし | 7.0% | なし |
| Q2発表日から27・41・55・69・83日目 | なし | なし | 各6.3% | なし |
| Q3発表後2取引日目と365日目の早いほう | なし | なし | 残り全部 | 残り全部 |
階層ごとに途中解除の上限を足し上げると、(1) は 45%、(2) は 86%、(3) は 90.9% になり、残りがそれぞれ期間の終わりに解除される(筆者計算)。共同創業者 (4) は、今回の売出しで売る分を除き、Q1発表後2取引日目と180日目の早いほうで 29% まで売れるようになる。
「将来売却可能な株式」の章の表は、同じ日程について解除される Class A の株数と、180日型・365日型の対象全体に占める比率を示すが、株数と比率はすべて(目論見書では空欄)である。解除日が取引日でなければ翌取引日にずれる。
代表引受人は共同の裁量でいつでもロックアップを全部または一部解除でき、その場合に他の保有者の分も比例して解除される仕組みがある。
Class N 株の今後の供給
Class N 株は上場も SEC 登録もされていないが、条件を満たす譲渡で Class A に転換するので、実質的に市場への供給源になる。上場後の Class N は、(i) 既存分と議決権のない優先株の転換分、(ii) 転換社債のうち保有上限を超えない範囲で上場直前に転換される分、(iii) 上限を超えるため上場後に一定の間隔で転換される分、(iv) 上場後に発行されうる分(NPA に基づく新たな社債の転換、NPA の引出しの Class N による直接決済、寄付マッチング制度、契約上の私募の権利)からなる。株数はすべて(目論見書では空欄)。
Rule 144・Rule 701・Form S-8
| 制度 | 内容 |
|---|---|
| Rule 144(非関係者) | 会社の開示義務が90日以上続いた後、6か月以上保有した株を売れる。1年以上なら要件なし |
| Rule 144(関係者) | ロックアップ明け後、3か月ごとに発行済株式の 1%(上場直後で(目論見書では空欄)株)と直近4週間の週平均出来高の大きいほうまで |
| Rule 701 | 報酬制度で取得した株は Rule 144 の要件の多くを免除。目論見書の日付から90日後から |
| 登録請求権 | IRA と Google RRA に基づき(目論見書では空欄)株の保有者が登録を求められる |
| Form S-8 | 2021 Plan・2026 Plan・ESPP の対象株を上場後すみやかに登録し、提出と同時に効力が生じる見込み |
非米国居住者の米国連邦税(p.312–316)
公募で取得した Class A 株を持つ非米国居住者(non-U.S. holder)への米国連邦所得税の扱いの要約である。各国の税法や、個別の条約税率は扱っていない。
- 配当:総額の 30% が源泉徴収される。居住国との租税条約でより低い税率が定められていれば、IRS Form W-8BEN(法人は W-8BEN-E)を出して軽減を受け、払い過ぎは還付請求で取り戻せる。米国での事業と実質的に関連する配当は源泉の対象外だが通常の税率で課税され、法人には 30% の支店利益税がかかりうる。
- 売却益:原則として米国では課税されない。例外は、(i) 米国での事業と実質的に関連する場合、(ii) 個人がその年に183日以上米国に滞在した場合(30% または条約税率)、(iii) 会社が米国不動産保有法人(USRPHC)にあたり、かつ(Class A が市場で継続的に取引されている場合は)その期間に Class A を 5% 超保有していた場合。会社は USRPHC ではなく今後もならないと考えている。
- バックアップ源泉徴収:配当と売却代金に情報申告と 24% のバックアップ源泉徴収がかかりうるが、W-8 系の書式で非米国居住者であることを証明すれば免れる。追加の税ではなく、税額から差し引かれる。
- FATCA:外国金融機関や一部の外国事業体が所定の手続きをしていない場合、配当に 30% の源泉がかかる。売却代金への適用は、財務省の規則案により当面かからない扱いになっている。
引受(p.317–334)
引受団
代表引受人(representatives)は Goldman Sachs & Co. LLC と Morgan Stanley & Co. LLC。引受団は次の22社で、各社の引受株数と合計は(目論見書では空欄)である。
Goldman Sachs & Co. LLC、Morgan Stanley & Co. LLC、J.P. Morgan Securities LLC、Citigroup Global Markets Inc.、Barclays Capital Inc. and Barclays Bank PLC、Wells Fargo Securities, LLC、BofA Securities, Inc.、Deutsche Bank Securities Inc.、RBC Capital Markets, LLC、UBS Securities LLC、BMO Capital Markets Corp.、BNP Paribas Securities Corp.、Credit Agricole Securities (USA) Inc.、Jefferies LLC、Mizuho Securities USA LLC、MUFG Securities Americas Inc.、SG Americas Securities, LLC、TD Securities (USA) LLC、BTIG, LLC、Cantor Fitzgerald & Co.、Capital One Securities, Inc.、Macquarie Capital (USA) Inc.
Bernstein Institutional Services LLC は SG Americas Securities, LLC の販売代理人(selling agent)を務める。Barclays Bank PLC は SEC 登録のブローカー・ディーラーではないため、米国内での販売は Barclays Capital Inc. を通す。
オプション・手数料・費用
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 引受方式 | 引受人は、オプション分を除き、買い取るなら全株を買い取る(買取引受) |
| 追加購入オプション | 目論見書の日付から30日間、追加で(目論見書では空欄)株を公募価格から引受手数料を引いた価格で買える。用途はオーバーアロットメント(需要に応じた追加販売)の手当てに限る |
| 裁量口座への販売 | 募集総数の 5% を超えない見込み |
| 引受手数料(会社負担) | 1株あたり・合計とも、行使なし・全部行使の両ケースで(目論見書では空欄) |
| 引受手数料(売出株主負担) | 同上で(目論見書では空欄) |
| ディーラーへの割引 | 公募価格から1株あたり最大(目論見書では空欄)ドル |
| 会社の募集費用 | 引受手数料を除き約(目論見書では空欄)ドル |
| FINRA 関連費用の払戻し | 最大(目論見書では空欄)ドル |
公募価格は、会社・売出株主・代表引受人の交渉で決める。考慮要素は市況、業績、会社と業界の見通し、経営陣の評価、類似企業の市場評価である。
安定操作は Morgan Stanley & Co. LLC が引受人を代表して行う。オプションの範囲内の空売り(カバード・ショート)と、それを超える空売り(ネイキッド・ショート)があり、後者は市場での買い戻しでしか解消できない。
会社のロックアップと例外
会社自身も、Q1発表後2取引日目と180日目の早いほうまで、代表引受人の同意なしに Class A(Class N を含む関連証券)の発行・売却や登録届出書の提出をしない。例外は (a)〜(m) の13項目で、今回売り出す株、既存のオプション・RSU・転換証券の行使や決済、株式報酬と ESPP、Form S-8 の提出、Rule 10b5-1 計画の設定支援、源泉税のための売却支援、クラス間の転換に加え、この会社に固有のものとして、NPA に基づく転換社債の発行と社債・Class N の転換、慈善寄付と寄付マッチング制度による発行、Class F と Class E の発行、上場と同時の私募が並ぶ。買収・ライセンス取得・合弁・事業提携に伴う発行も例外で、登録請求権のための非公開の届出準備も、公表せず事前に引受人へ通知することを条件に認められる。
マーケット・スタンドオフ(会社との約束)は目論見書の日付から180日で、会社は代表引受人の同意なしにこれを変更・放棄しないと約束する。
株主のロックアップの例外
ロックアップ契約を結んだのは、創業者、取締役・役員、一部の現・元従業員とコンサルタント、上場前の完全希薄化後株式の 0.5% 超を持つ一部の株主などで、合計で完全希薄化後株式の約(目論見書では空欄)% を持つ。禁止されるのは売却・質入れ・オプション付与などのほか、ヘッジ取引、登録請求権の行使、その意図の公表である。創業者は、許される取引であれば3営業日前に代表引受人と会社へ書面で通知したうえで公表できる。
例外は、相続・家族信託・関係会社やファンドへの移転・出資者への分配(多くは受け手も同じロックアップに服すことが条件)、上場後に市場で買った株(取締役・役員を除く)、RSU やオプションの決済に伴う源泉税のための売却(sell to cover)、ヘッジ目的でない質入れ、期間中に売らない Rule 10b5-1 計画の設定、取締役会が承認した支配権の移転を伴う公開買付けや合併、クラス間の転換、オプションの現金行使などである。創業者には、慈善団体への移転と真正な遺産計画のための移転も認められている。
指名販売の扱い
本記事の範囲(引受の章)には、Directed Share Program(会社が指定した従業員や関係者などに株を割り当てる指名販売)についての記載はない。電子目論見書を引受人のウェブサイトに置くこと、代表引受人がオンライン証券口座向けに一定数を割り当てる場合があることは書かれている。
引受人との他の関係
A&R Credit Agreement では、Morgan Stanley & Co. LLC の関係会社が事務代理人・担保代理人・リード・レフト・アレンジャーなどを務め、ほかに引受団のうち15社(Barclays から TD まで)の関係会社がアレンジャーやブックランナーに名を連ねる。引受人の一部は会社の顧客でもある。
米国外での販売
今回の募集には、Australia・Canada・EEA(欧州経済領域)の一部加盟国・Japan・Switzerland・UK での公募が含まれる。これらの国の取引所に上場する予定はない。いずれかの国の公募を取りやめた場合、その国に割り当てる予定だった株は米国を含む他の国へ回し、募集の総規模は変えない見込みである。
国別の販売制限は次の25の国・地域について書かれている:Argentina、Australia、Brazil、Chile、Colombia、Dubai、European Economic Area、India、Indonesia、Israel、Malaysia、Mexico、New Zealand、Peru、Philippines、Qatar、Saudi Arabia、Singapore、South Africa、South Korea、Switzerland、Taiwan、Thailand、United Arab Emirates、United Kingdom。公募の対象に名前のある Japan と Canada には、個別の販売制限の節がない。
- Australia:この目論見書で勧誘できるのは適格な投資家だけで、一般向けの公募は ASIC に届け出る別の Australian Prospectus で行う。適格投資家が取得した株は、割当から12か月は原則として国内で転売できない。
- EEA:一部の加盟国(Covered EEA Country)では、別の European prospectus を使って個人にも販売する(European retail offering)。それ以外の加盟国は、適格投資家や150人未満などの免除の範囲に限る。
- Switzerland:BaFin(ドイツの金融監督庁)が承認した European prospectus に基づく公募を除き、プロの顧客にしか販売しない。
- UK:POATRs(2024年の公募・取引承認規則)の免除の範囲で募集し、UK の目論見書は作らない。
- そのほかの国・地域は、おおむね私募や適格投資家への販売に限られる(Israel は適格投資家と35人以内、Colombia は100人未満など)。
法律事項(p.335)
株式の有効性は、会社の代理人である Wilson Sonsini Goodrich & Rosati, P.C.(Palo Alto)が判断する。同事務所の一部のメンバーと関係者は、会社の発行済株式の 0.01% 未満を直接・間接に持つ。引受人側の代理人は Freshfields US LLP(Redwood City)。役員報酬と株式の一部の事項は Orrick, Herrington & Sutcliffe LLP が会社の代理人を務めた。
ガバナンスの一部の事項について、LTBT の主たる法律顧問 John Morley と Cleary Gottlieb Steen & Hamilton LLP が LTBT の顧問を、Cravath, Swaine & Moore LLP が共同創業者の顧問を務めた。会社・LTBT・共同創業者がそれぞれ別の法律顧問を立てていたことが分かる。
監査法人の交代(p.335)
開示されている事実は次のとおり。
- 2025年10月30日、会社は Ernst & Young LLP を独立登録会計事務所に選び、2025年12月31日に終わる事業年度の連結財務諸表の監査を任せた。同時に Grant Thornton LLP を解任した。いずれも取締役会が追認している。
- Grant Thornton による 2023年と2024年の監査報告書には、否定的意見や意見不表明はなく、不確実性・監査範囲・会計原則についての限定もなかった。
- 2023年・2024年と 2025年10月30日までの期間に、Regulation S-K Item 304 でいう「意見の不一致」も「報告すべき事象」もなかった。
- 会社は Grant Thornton に、この記載に同意するかを SEC 宛ての書簡で示すよう求めた。その書簡は 2026年10月26日付で、登録届出書の Exhibit 16.1 として提出されている。
- 同じ期間に、会社は特定の取引への会計原則の適用や監査意見の種類などについて Ernst & Young に相談していない。
交代の理由は、この章には書かれていない。
専門家(p.335–336)
2024年12月31日時点と、2023年・2024年の各事業年度の連結財務諸表は Grant Thornton LLP の報告書に依拠して掲載されている。2025年12月31日時点と同年度の連結財務諸表は Ernst & Young LLP が監査した。
追加情報の入手先(p.336)
会社は SEC に Form S-1 の登録届出書を提出しており、目論見書はその一部である。契約などの全文は届出書の添付書類(exhibits)で確認できる。上場後は1934年証券取引所法に基づく定期報告書や委任状説明書を提出し、SEC のウェブサイトと会社のウェブサイトで無料で閲覧できるようになる。
この章から読み取れること
ここまでは原文の要約で、この節だけが筆者の解釈である。
- 価格はまだないが、支配の構図は固まっている。資本構成表も希薄化表も金額は空欄だが、Class F が議決権の 50.1% を持ち、LTBT が取締役会の過半数を選ぶという枠組みは数値つきで確定している。公開市場で Class A を買う投資家は、経済的な持分は得ても、一般議案の結果を左右する手段をほぼ持たない。優先株を発行しても Class F の 50.1% は動かないと明記している点にも、この設計の意図が表れている。
- 創業者の支配には人数と期限の歯止めがある。Continuing Founders が3人未満の状態が90日続けば 450日の移行期間を経て Class F と Class E は消える。最低保有数(上場時の Class A の 2%)や10年の期限など、支配がいつまでも続かないようにする条件が細かく書かれている。
- ロックアップの解除は少しずつ、長く続く。180日型の株主は上場後27日目から、365日型の株主は Q3発表まで、決算発表をまたいで十数回に分けて解除される。一度に大量の株が出る日を作らない設計だが、裏を返せば上場後1年近く、売りが出うる日が途切れずに続く。
- Class N は見えにくい供給源である。議決権も上場もないが、市場で売れば Class A に変わる。社債の転換、NPA の引出しの株式決済、Google と Broadcom の登録請求権が重なり、ロックアップとは別の経路で Class A の供給が増えうる。9.99% の上限と社債の保有上限が、その出方を調整する弁になっている。
- 公募の地域が広い。Japan を含む6つの地域で公募を行い、欧州と Australia では別の目論見書で個人にも販売する。個人投資家への配分を米国の外にも広げる構えが見える。ただし Japan での販売の方法は、本記事の範囲には書かれていない。