AnthropicのS-1を読む⑧連結財務諸表と注記

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Anthropic, PBC が2026年10月26日に SEC へ提出した Form S-1(新規株式公開の届出書。値決め前の版なので仮目論見書と呼ぶ)から、巻末の連結財務諸表と注記(F-1〜F-65)を読む。最後に Part II(目論見書に含めない情報)にも短く触れる。原典は Anthropic, PBC Form S-1(SEC EDGAR)。シリーズの全体像は AnthropicのS-1を読む①総覧 にある。

表の数値は原文のままで、( )はマイナス、「—」はゼロまたは該当なしを表す。2025年6月30日に終わる6か月(以下「2025年上期」)、2026年6月30日に終わる6か月(「2026年上期」)と2026年6月30日時点の数値は未監査である。

この章の範囲と監査意見(F-1–4)

監査人は2社いる。2025年12月期は Ernst & Young LLP(San Jose。2025年から監査人)、2024年・2023年12月期は Grant Thornton LLP(San Francisco。2023年から2025年まで監査人)が監査した。どちらも無限定適正意見(すべての重要な点で適正に表示しているという、最も良い意見)で、継続企業の前提(会社が事業を続けられるという前提)に関する注記や強調事項はない。報告書の日付は2社とも2026年6月1日で、株式分割の影響だけ2026年9月30日付である。内部統制の監査は行っていない。

Ernst & Young は監査上の主要な検討事項(CAM。監査人が特に難しい判断を要した事項)を2つ挙げた。1つは訴訟などの偶発損失で、損失の可能性と金額の見積りに大きな判断を要する。もう1つは転換社債の公正価値で、2025年12月31日の公正価値は417億ドル、2025年の公正価値変動による損失は345億ドルである。評価は条件付請求権分析(CCA)と普通株式相当法(CSE)を組み合わせたハイブリッド法で、結果は2つの手法の重み付けに強く左右される。重みの判断には IPO の可能性や資金調達の条件が効くため、監査人は IPO に関する社内資料も確認した。

先に結論を書く。

  • 売上は2023年の41百万ドルから2025年に4,585百万ドル、2026年上期に16,286百万ドルとなった。2026年上期の営業損失は693百万ドルまで縮み、営業キャッシュフローは3,929百万ドルの黒字に転じた。
  • それでも2026年上期の純損失は80,748百万ドルに達した。転換社債などの公正価値変動(72,388百万ドルの損失)と、Google・Amazon との株式購入契約の損失(9,405百万ドル)が大半を占める。
  • 2026年上期に優先株で110,432百万ドル(純額)を調達し、6月30日の現金同等物は112,389百万ドル、短期投資は19,262百万ドルになった。
  • 負債117,467百万ドルの9割超(筆者計算)は公正価値で測った転換社債108,566百万ドルで、株主資本は127,619百万ドルのマイナスである。
  • 貸借対照表に載らない計算資源の契約が大きい。2026年6月30日時点で、開始前のリース契約が約3,214億ドル、購入コミットメントが約2,656億ドルある。

連結貸借対照表(F-5–6)

この表から分かること:2026年上期に総資産は約6倍(筆者計算)に膨らんだが、増えた資産の大半は現金と短期投資で、負債側では転換社債の公正価値が膨らんでいる。

項目(百万ドル)2024年12月31日2025年12月31日2026年6月30日
現金及び現金同等物3,14117,388112,389
短期投資—2,88919,262
売掛金(純額)959095,833
流動資産合計5,31223,746137,980
拘束性現金13132,529
有形固定資産191461,187
使用権資産351261,157
その他の非流動資産2,3734763,929
資産合計7,75224,661147,358
買掛金・未払費用など3332,5115,422
契約負債(前受収益)282691,650
転換社債14,11641,677108,566
負債合計14,67945,397117,467
償還可能転換優先株式2,87429,769157,510
累積欠損(10,040)(52,154)(132,902)
株主資本合計(欠損)(9,801)(50,505)(127,619)

のれんは2025年末154百万ドル、2026年6月30日576百万ドル。優先株の清算優先額(清算時に普通株主より先に受け取れる額)は、2024年末2,874百万ドル、2025年末24,646百万ドル、2026年6月30日136,286百万ドルである。普通株式は Class A(議決権あり)、Class N(議決権なし)、Class T(Long-Term Benefit Trust だけが持つ株式)の3種類で、2026年6月30日の発行済株式数は Class A 2,157,398千株、Class N 30,643千株である。

連結損益計算書と包括損失計算書(F-7–8)

この表から分かること:2026年上期は売上が営業費用にほぼ追いつき、損失の中心は営業外の公正価値変動に移った。

項目(百万ドル)2023年2024年2025年2025年上期2026年上期
売上高413864,5851,16316,286
計算資源・インフラ費4332,5227,3262,3348,945
人件費954541,8395383,152
Bartz 和解金——1,500——
販売・マーケティング・パートナー費2435681203,168
その他営業費・管理費623471,4123061,714
営業損失(551)(2,980)(8,060)(2,135)(693)
受取利息691064311151,111
転換社債などの公正価値変動(1,045)(5,434)(34,308)(10,942)(72,388)
その他の収益(費用)(2)—(8)—(8,757)
税引前損失(1,529)(8,308)(41,945)(12,962)(80,727)
当期純損失(1,531)(8,309)(41,965)(12,969)(80,748)

営業費用の合計は2023年592百万ドル、2024年3,366百万ドル、2025年12,645百万ドル、2025年上期3,298百万ドル、2026年上期16,979百万ドル。法人税等は1百万〜21百万ドルと小さい。1株当たり純損失は2025年が23.04ドル、2026年上期が39.88ドルである。費用は性質別(計算資源・人件費など)に並び、機能別の内訳は注記8にある。2026年上期の売上高は2025年上期の約14.0倍で、計算資源・インフラ費の売上高比は2025年の159.8%から54.9%に下がった(いずれも筆者計算)。

包括損失は、純損失に評価差額や為替換算差額のように損益計算書を通さずに純資産を動かす項目(その他の包括損益)を加えたものである。

この表から分かること:その他の包括損益は小さく、包括損失は純損失とほぼ同じである。

包括損失計算書(百万ドル)2023年2024年2025年2025年上期2026年上期
当期純損失(1,531)(8,309)(41,965)(12,969)(80,748)
売却可能有価証券の未実現損益——4—(49)
為替換算調整——11(9)
包括損失(1,531)(8,309)(41,960)(12,968)(80,806)

優先株式と株主資本の変動計算書(F-9–11)

償還可能転換優先株式は、買収などのみなし清算事由で会社がコントロールできない償還が起こりうるため、負債でも株主資本でもない中間区分に置かれる。

この表から分かること:優先株は現金での発行に加え、転換社債の転換でも積み上がっている。

優先株式(百万ドル)2023年2024年2025年2026年上期
期首残高1,1061,5522,87429,769
発行(発行費用控除後)4451,18816,548122,242
SAFE・転換社債の転換113410,3475,499
期末残高1,5522,87429,769157,510

2026年上期の発行額122,242百万ドルは、現金での調達110,432百万ドルと、株式購入契約から Series G-2 への転換11,810百万ドル(非資金取引)の合計に一致する(筆者計算)。

この表から分かること:株主資本の欠損は、ほぼ純損失の積み上がりで説明できる。

株主資本(百万ドル)2023年2024年2025年2026年上期
期首残高(195)(1,694)(9,801)(50,505)
株式報酬費用291921,1582,185
株式の発行3102471,556
当期純損失(1,531)(8,309)(41,965)(80,748)
その他——(144)(107)
期末残高(1,694)(9,801)(50,505)(127,619)

「株式の発行」と「その他」は筆者が原文の行を合算した。2026年上期の株式の発行は、オプション行使など355百万ドル、買収534百万ドル、寄付マッチング債務の決済による Class N 株式667百万ドルからなる。2025年の「その他」は自己株式の買取(149)百万ドルとその他の包括利益5百万ドルである。

連結キャッシュフロー計算書(F-12–13)

この表から分かること:2026年上期に営業キャッシュフローが初めて黒字になり、財務活動の流入の一部を短期投資に回した。

項目(百万ドル)2023年2024年2025年2025年上期2026年上期
当期純損失(1,531)(8,309)(41,965)(12,969)(80,748)
株式報酬費用291921,1582792,185
転換社債などの公正価値変動1,0455,43434,30810,94272,388
その他金融商品の認識と公正価値変動————8,720
売掛金の増減(10)(90)(834)(384)(4,982)
前払費用その他資産の増減(1,253)(3,190)1,7712122,094
買掛金・未払費用などの増減842222,0792572,679
契約負債の増減7212411241,380
営業キャッシュフロー(1,627)(5,692)(2,637)(1,513)3,929
短期投資の取得——(3,082)—(18,972)
投資キャッシュフロー(2)(22)(3,077)(49)(17,181)
優先株式の発行収入4451,18816,5483,549110,432
転換社債の発行収入1,7506,0503,4501,300—
財務キャッシュフロー2,3207,24819,9604,749110,774
期末の現金・拘束性現金1,6203,15417,4016,342114,918

投資活動では、2026年上期に有形固定資産の取得482百万ドル、短期投資の売却・償還2,610百万ドルがある。2023年と2024年の営業キャッシュフローの赤字は、前払費用の増加(2024年3,190百万ドル)の影響が大きい。

注記1 事業の概要と重要な会計方針(F-14–25)

Anthropic は2021年1月に Delaware 州で設立された公益法人(PBC。株主利益と並んで定款上の公益目的を追う会社形態)で、公益目的は「人類の長期的な利益のために、先進的な AI を責任をもって開発・維持すること」である。定型の方針は次のとおり短くまとめる。

  • 2025年に費用の表示を機能別(売上原価・研究開発費など)から性質別に変え、過去の期間も組み替えた。営業損失や純損失の合計は変わらない。
  • 2026年9月17日に Class A・Class N 普通株式を10分割し、Class T は1,000株を1株に併合した。株式数はすべて遡って修正済みである。
  • 連結範囲には変動持分事業体(VIE。契約などで実質的に支配する事業体)を含む。Long-Term Benefit Trust(LTBT)も会社の資金支援に依存する VIE として連結しているが、資産・負債は重要でない。
  • モデル開発費は不確実性が大きいため原則として発生時に費用にする。

収益は「intelligence service」の提供から生じ、顧客が送る Prompts と受け取る Results をトークン数で量る。従量課金は使われた時点で売上にし、サブスクリプションは利用上限が短い間隔でリセットされるため契約期間(通常12か月以内)にわたって均等に売上にする。CSP(クラウドサービス事業者)のマーケットプレイス経由の販売でも、Anthropic が顧客と直接契約し、価格を決め、提供責任を負うため、本人として総額で売上を計上する。CSP は代金回収の代理人という位置づけである。

売上高の10%以上を占めた顧客は次のとおり(原文は記号で匿名化。「*」は10%未満)。

顧客2023年2024年2025年2025年上期2026年上期
Customer A**12%**
Customer B**12%18%*
Customer C43%***11%
Customer D11%****

CSP マーケットプレイス経由の売上の比率は、2023年約11%、2024年約32%、2025年約47%、2026年上期約48%で、2026年6月30日の売掛金の58%を占める。一部の CSP は会社の議決権なし優先株と転換社債も持つ。計算資源は2025年まで実質的にすべて3社の CSP から調達していたが、2026年上期は限られた数の CSP やその他の供給元からの長期ホスティング・リース契約が大部分になった。広告宣伝費は2024年33百万ドル、2025年147百万ドルである。

注記2 売上高(F-26)

この表から分かること:米国が7割強を占め、サブスクリプションの比率は少しずつ上がっている。

内訳(百万ドル)2023年2024年2025年2025年上期2026年上期
米国342633,36282011,763
米国外71231,2233434,523
従量課金392883,79698313,064
サブスクリプション2987891803,222
合計413864,5851,16316,286

地域は請求先住所で分ける。米国の比率は2026年上期72.2%、サブスクリプションの比率は同19.8%である(筆者計算)。契約負債は2025年末269百万ドルから2026年6月30日1,650百万ドルに増えた。残存履行義務(解約不能な契約のうち未計上の売上)は2026年6月30日で108億ドルあり、約75%を今後12か月で売上にする見込みである。

注記3 投資(F-27–28)

2026年6月30日の現金同等物108,897百万ドルのうち108,603百万ドルが MMF(マネー・マーケット・ファンド)である。短期投資19,262百万ドルは米国債・政府機関債14,785百万ドル、社債2,888百万ドル、コマーシャルペーパー1,589百万ドルで、未実現損失は44百万ドル。減損や信用損失の引当はない。持分法投資は重要でないが、最大325百万ドルの出資約束のうち265百万ドルが未拠出である。

注記4 公正価値測定(F-29–32)

公正価値は、市場価格を使うレベル1、その他の観察可能な情報を使うレベル2、社内の見積りを主に使うレベル3に分かれる。

この表から分かること:資産側は安全資産が中心だが、負債側の転換社債はすべて社内モデルによる評価である。

主な項目(百万ドル)レベル2024年12月31日2025年12月31日2026年6月30日
MMF13,02916,455108,603
債券など2—2,89319,556
ワラント受領権(資産)3—3451,069
株式購入契約(資産)3——2,405
転換社債(負債)314,11641,677108,566
その他のレベル3負債315056958

その他のレベル3負債は、2024年末がデリバティブ負債、2025年末が寄付マッチング債務541百万ドルとホールドバック負債28百万ドルの合計(筆者計算)、2026年6月30日がホールドバック負債である。

  • 転換社債:保有者が優先株に転換する、Class N 普通株式に転換する、満期まで持つ、という結果ごとに確率で重み付けして評価する。前提は CCA と CSE の重み、ボラティリティ、流動性イベントまでの期間、資金調達の条件、無リスク金利である。残高は2025年に追加3,450百万ドル、転換(10,347)百万ドル、公正価値変動34,458百万ドルで動き、2026年上期は転換(5,499)百万ドル、公正価値変動72,388百万ドルで108,566百万ドルになった。監査報告書の「損失345億ドル」は34,458百万ドルに当たり、損益計算書の(34,308)百万ドルはデリバティブ負債の決済(150)百万ドルを合わせた額である(筆者計算)。
  • 株式購入契約:2026年3月に Google と、4月に Amazon(Amazon Web Services, Inc.)と、Series G-2 優先株を1株259.1364ドルでそれぞれ3,860万株、1,930万株売る約束をした。この約束を毎期時価評価する。2026年上期は当初認識2,348百万ドル、公正価値変動(11,753)百万ドル、優先株への転換による決済11,810百万ドルで、6月末残高は2,405百万ドルである。
  • ワラント受領権:2025年、開始前の契約の対価として非上場会社の株式を取得できる権利を受け取った。デリバティブとして扱い、2026年上期に724百万ドル増えた。

注記5 のれんと無形資産(F-32–33)

のれんは2025年の Bun の買収で154百万ドル、2026年上期の買収などで422百万ドル増え、576百万ドルになった。無形資産(純額)は2024年末5百万ドル、2025年末20百万ドル、2026年6月30日109百万ドルで、2026年上期の償却費は27百万ドルである。

注記6 有形固定資産(F-34)

取得原価は2025年末158百万ドルから2026年6月30日1,234百万ドルに増えた。増加の中心はサーバー・ネットワーク機器(34百万ドルから618百万ドル)と建設仮勘定(63百万ドルから536百万ドル)である。2026年上期の減価償却費は35百万ドル。

注記7 リース(F-34–36)

リースの対象はオフィスとインフラ機器で、残存期間は1年未満から20年。2026年上期のリース費用は89百万ドル(2025年は22百万ドル)で、初めてファイナンス・リース(実質的に資産を買ったのと同じ効果のリース)18百万ドルが含まれる。2026年6月30日のリース負債(現在価値)はオペレーティング1,079百万ドル、ファイナンス443百万ドル。オペレーティング・リースの加重平均残存期間は10.8年、割引率は7.5%である。

この表から分かること:開始済みのリースと開始前の契約では、桁が2つ違う。

項目2025年12月31日2026年6月30日
オペレーティング・リースの割引前支払額149百万ドル1,601百万ドル
ファイナンス・リースの割引前支払額—523百万ドル
開始前リース契約の割引前支払見込額約502億ドル約3,214億ドル

開始前の契約は主に計算資源・インフラの容量に関するもので、一部は条件付き、開始は2026〜2028年、期間は1年未満から20年である。会社は支払の一部を転換約束手形の発行で賄うことを選べる。また計算資源の資金調達・配備のために VIE を連結しており、2026年6月30日の VIE の資産は296百万ドル、負債は328百万ドル(うちリース負債310百万ドル)。会社が VIE の債務の一部を保証しているため、債権者は会社本体にも請求できる。

注記8 補足財務情報(F-36–39)

拘束性現金は2026年6月30日に2,529百万ドルあり、一部の契約では最大100億ドルを追加で拘束する必要が生じうる。流動負債の内訳では、CSP への未払金が2,810百万ドル、未払訴訟費用が1,309百万ドルである。

この表から分かること:2026年上期のその他の費用は、ほぼ株式購入契約の損失で説明できる。

その他の収益(費用)(百万ドル)2025年2026年上期
株式購入契約の認識と公正価値変動—(9,405)
ホールドバック負債の公正価値変動(3)(39)
ワラント受領権の公正価値変動—724
その他(5)(37)
合計(8)(8,757)

(9,405)百万ドルは、注記4の当初認識2,348百万ドルと公正価値変動(11,753)百万ドルの合計に当たる(筆者計算)。一方、ホールドバック負債の2026年上期の変動は、注記4の表では30百万ドルで、この表の(39)百万ドルと合わない。原文に説明はない。

この表から分かること:機能別に組み替えると、2026年上期の売上原価は売上高の15%を下回る。

機能別の営業費用(百万ドル)2023年2024年2025年2025年上期2026年上期
売上原価267522,7731,0192,380
研究開発費4222,2756,3381,8509,741
販売費・マーケティング費761639112393,808
Bartz 和解金——1,500——
一般管理費681761,1231901,050

売上原価は実質的にすべてが顧客向けワークロードの計算資源費である。売上高に対する比率は2024年194.8%、2025年60.5%、2026年上期14.6%(筆者計算)。販売費には無料提供分の計算資源費も含む。

注記9 転換社債、リボルビング・クレジット契約、SAFE(F-39–44)

転換社債(一定の条件で株式に転換できる社債)は、主に Google・Amazon との社債購入契約(NPA)から発行している。会社は公正価値オプション(毎期の時価で測り、変動を損益に入れる方法)を選び、負債部分と株式部分を分けて処理する複雑さを避けている。

契約主な条件2026年6月30日の残高
Google 2023 NPA最大20億ドル(5億・7.5億・7.5億ドルの3回)。年10.0%、48か月満期なし(全額転換)
Google 2024 NPA約13億ドル。年8.5%、2030年8月満期なし(全額転換)
Google 2026 NPA2030年末まで最大300億ドルの手形(年9.0%、6年満期)または議決権なし普通株式未発行。枠は200億ドル
Amazon 2023 NPA最大40億ドル。元本12億ドルと34億ドル(受取28億ドル)。年8.0%、10年満期約22億ドル(無利息、2034年3月満期)
Amazon 2024 NPA最大40億ドル(13億・13億・14億ドル)。第1回は年8.5%、第2・3回は無利息40億ドル
Amazon 2026 NPA最大200億ドルの手形(年8.0%、10年満期)または議決権なし普通株式未発行。枠は150億ドル

Google の社債は、2025年の Series E-1(1株56.0865ドル)の資金調達時に Series E-3(1,270万株、44.8692ドル)、E-4(1,530万株、50.4779ドル)、E-5(2,420万株、53.2822ドル)に、2026年1月に Series G-4(330万株、233.2228ドル)に転換した。2026年5月に Google は Series H に100億ドル、Amazon は50億ドルを出資し、その分2026 NPA の枠が減った。

Amazon の社債の転換価格は、2023 NPA が20.9280ドル、2024 NPA が50.4779ドルと直近の優先株価格のいずれか低い方である。IPO の際は元本と未払利息が自動的に Class N 普通株式に転換し、その価格は2023 NPA が2.0928ドル、2024 NPA が5.0478ドルと公開価格の低い方である。Amazon には持株比率の上限があり、上限を超えて転換できない部分は無利息・10年満期のロールオーバー手形として発行し直す。IPO 後は上限の範囲で四半期ごとに転換していく。満期には現金返済のほか、Amazon の選択で商取引上の債権との相殺もできる。転換の実績は、2025年に Series E-2 へ9,530万株、F-2 へ2,070万株、2026年1〜2月に G-3 へ2,060万株(いずれも20.9280ドル)である。

このほか、計算資源のリース賃料を払うためだけの社債購入契約が2本ある。2025年8月の契約は最大100億ドルで、IPO で発行権が消える。2026年3月の契約は最大420億ドル、年9.0%の利息を手形の追加発行で払う(PIK)。どちらも残高はない。

SAFE(将来の株式取得の簡易契約)は2023年に122百万ドル発行し、2024年までにすべて優先株に転換した。2024年末のデリバティブ負債150百万ドルは Amazon 2024 NPA の後続分の発行権で、2025年に消滅した。

2025年5月14日には Morgan Stanley Senior Funding, Inc. を事務代理人とする25億ドルの担保付き与信枠を設定し、2025年中に33億ドルまで増やした。2030年5月満期で、四半期末に500百万ドル以上の流動性を保つ財務制限条項がある。借入はなく、2026年6月30日の信用状残高は78百万ドルである。

注記10 償還可能転換優先株式、普通株式、株主資本(F-44–53)

この表から分かること:2026年上期に発行した Series G と H が帳簿価額の8割超(筆者計算)を占め、転換社債から生まれたシリーズは帳簿価額が清算優先額を大きく上回る。

シリーズ(2026年6月30日)発行済株式数(千株)当初発行価格(ドル)帳簿価額(百万ドル)清算優先額(百万ドル)
Series A48,5742.57125125
Series B87,43011.23982982
Series C-126,39711.23296296
Series C-213,36211.23150150
Series D-135,01330.001,0421,051
Series D-24,44427.00133120
Series D-34,99930.00146150
Series E-163,61056.093,5493,568
Series E-295,28220.934,7281,994
Series E-312,66456.09856710
Series E-415,34350.48986774
Series E-524,24453.281,5981,292
Series F-192,220140.9712,99913,000
Series F-220,74020.932,179434
Series G-190,510259.1423,45423,455
Series G-283,929259.1433,55821,749
Series G-320,56320.934,571430
Series G-43,322233.22928775
Series H-177,638589.0145,72845,729
Series H-233,110589.0119,50219,502
合計853,394—157,510136,286

転換社債から発行した優先株は、転換直前の社債の公正価値で計上するため、帳簿価額が清算優先額を上回る。G-2 の差額(約118億ドル)は株式購入契約からの転換額11,810百万ドルとほぼ同じである(いずれも筆者計算)。Series H-3、H-4 は授権のみで未発行。2026年の資金調達は、第1四半期に Series G-1・G-2 で総額302億ドル、第2四半期に G-2 で150億ドル、Series H-1・H-2(1株589.0095ドル)で総額652億ドルである。

優先株の権利は次のとおり。配当は宣言時に当初発行価格の年6%を優先して受け取る非累積型で、宣言実績はない。清算時は当初発行価格を優先して受け取り、転換した方が有利なら転換したものとして扱う。議決権ありの Series(A、C-1、D-1、D-2、E-1、F-1、G-1、H-1)は Class A に、それ以外は Class N に転換し、比率は原則10対1(D-1、D-2、D-3 は希薄化防止条項で約10.6、10.4、10.6)。手取り1億ドル以上の引受公募などで自動的に転換する。保有者が任意に償還を求める権利はない。

株式報酬は次のとおり。

  • ストックオプション:2026年6月30日の残高は1,797,066千株(加重平均行使価格2.89ドル)、本源的価値(株価と行使価格の差額の合計)は98,205百万ドル。2026年上期に227,942千株が行使され、その本源的価値は68億ドルだった。公正価値は Black-Scholes-Merton モデルで計算し、2026年上期の前提は普通株式の公正価値21.56〜57.14ドル、ボラティリティ65.7%、無リスク金利3.8%、予想期間5.3年である。未認識の費用は約28億ドル。
  • RSU(譲渡制限付株式ユニット):4年の勤務条件に加え、7年以内の上場か支配権移転という業績条件が付く。条件の達成が見込まれていないため、費用はまだ計上していない。見込まれていれば累積の費用は2025年末671百万ドル、2026年6月30日29億ドルで、未認識の費用はそれぞれ52億ドル、237億ドル残っていた。2026年6月30日の残高は1,049,631千株(付与日の加重平均公正価値25.34ドル)。
  • 2025年に27.9百万株を1株5.61ドルで買い取って消却し(公正価値149百万ドル)、超過分7百万ドルを株式報酬費用にした。2026年4月には外部の買い手による株式公開買付け(1株25.9136ドル、179.9百万株)があった。

寄付マッチング制度は、従業員の公益団体への寄付に会社が Class N 普通株式か現金で上乗せする仕組みである。2025年末に541百万ドルの債務を計上し、2026年第1四半期に Class N 株式30.6百万株を発行して決済した。決済までの公正価値の変動126百万ドルは費用にした。

注記11 法人税(F-53–57)

損失はほぼすべて米国で生じ、法人税等は小さい。2025年の税率差異では、連邦法定税率21%による(8,808)百万ドルの節税効果を、損金にならない時価評価7,192百万ドルと評価性引当額の変動1,870百万ドルが打ち消している。繰延税金資産は全額に評価性引当額(回収見込みが低いとして資産計上を見送る額)を設け、その額は2025年末3,422百万ドルである。2025年末の繰越欠損金は連邦82億ドル(期限なし)、州42億ドル、研究開発税額控除の繰越は連邦656百万ドル、California 343百万ドル。2023年末以降は株主構成の変化による利用制限(内国歳入法382条)を分析しておらず、制限がかかる可能性がある。未認識税務ベネフィットは2025年末293百万ドルである。

注記12 1株当たり当期純損失(F-57–58)

Class A と Class N は議決権以外の権利が同じなので合算して示す。損失のため潜在株式はすべて逆希薄化となり、計算から除いた株式は2026年上期で12,211,499千株(うち優先株8,558,869千株、転換社債1,840,445千株、オプション1,797,066千株)。業績条件の達成が見込まれていない RSU 1,049.6百万株は、これにも含めていない。

注記13 コミットメントと偶発事象(F-58–61)

この表から分かること:2025年末の購入コミットメントは年50億〜110億ドル程度の支払が続く形だったが、半年後に約5倍(筆者計算)に膨らんだ。

購入コミットメント(2025年12月31日、百万ドル)金額
2026年7,059
2027年11,128
2028年10,832
2029年8,304
2030年5,428
それ以降11,808
合計54,559

主に CSP のホスティングなどの解約不能契約である。2026年6月30日の同種の支払見込額は約2,656億ドル、期間は1〜20年である。金額を定めていない計算資源契約は含めていないが、支払は相当な額になる見込みである。データセンター開発業者への保証は最大8億ドルある。

訴訟の主なものは次のとおり。会社はいずれも不正行為を否定し、争う方針である。

  • Bartz 訴訟:作家らによる書籍の著作権侵害の集団訴訟。15億ドルとその運用益で和解し、2026年7月に裁判所が承認した。2025年に300百万ドルを払い、2026年6月30日の未払額は12億ドルである。和解から離脱した作家や出版社の個別訴訟もある。
  • 音楽出版社:2023年10月の Concord Music Group らの訴訟(Concord I)は、2026年10月21日に略式判決の審問が開かれた。2026年1〜10月には Universal Music Publishing Group、Sony Music Publishing (US) LLC、Warner Chappell Music, Inc. などが学習と出力の両面で著作権侵害を訴え、一部は役員2名も被告にしている。
  • カナダで4件(作家の集団訴訟2件、報道機関2件)、Reddit, Inc. の契約違反などの訴訟、サブスクリプションの広告を巡る複数の集団訴訟がある。
  • FTC や州司法長官などから、消費者保護、データ保護、製品の安全性について照会や調査を受けることがある。

知的財産侵害に関する顧客への補償契約は、一部に上限がない。

注記14 セグメントと地域情報(F-61)

事業セグメントは1つで、最高経営意思決定者は CEO と President からなる経営陣である。連結純損失で業績を見ており、個別に報告している費用は株式報酬費用(2026年上期22億ドル)だけである。長期性資産の95%が米国にある。なお2025年上期の株式報酬費用は、キャッシュフロー計算書と株主資本変動計算書では279百万ドル、注記1と注記14の本文では286百万ドルで、原文の中で一致していない。

注記15 企業結合(F-61–62)

2026年5月18日に Stainless Software, Inc. を取得対価306百万ドル(主に Class A 株式295百万ドル)で買収し、のれん253百万ドルを計上した。2026年上期のその他の買収の対価は合計260百万ドル。2025年12月2日には Bun(Codeblog Corp.)を約171百万ドル(株式136百万ドル、株式で払うホールドバック25百万ドル、現金10百万ドル)で買収し、のれん154百万ドルを計上した。

注記16 後発事象(F-62–64)

監査済み財務諸表を発行した2026年6月1日までの事象である。

  • 資金調達:Series G-1・G-2 の売却(総額302億ドル)、Google 2026 NPA(G-2 を約100億ドル、最大300億ドルの追加資金)、Amazon 2026 NPA(G-2 を約50億ドル、最大200億ドル)、2026年5月の Series H-1・H-2 の売却(総額608億ドル。6月にも追加売却予定)。
  • 計算資源:2027年開始・20年のデータセンターのリース契約、最大420億ドルの賃料用転換約束手形の発行契約、データセンター事業者の電力購入契約への最大5億ドルの保証、リース契約に関する25億ドルのエスクロー預託。2025年末以降の新規・変更契約の将来の最低支払額は約4,170億ドルで、2028〜2031年に提供される容量の既存契約の拡大分は約1,250億〜1,500億ドルと見積もっている。
  • 買収・出資:Coefficient Bio, Inc.(Class A 株式15.4百万株)、Stainless Software, Inc.(同11.6百万株)、中堅企業の AI 導入を支援する新会社への325百万ドルの出資契約。
  • 米国政府:2026年2月27日、大統領が政府機関に同社モデルの使用停止を命じ、戦争省(Department of War)が同社を国家安全保障上のサプライチェーン・リスクに指定した。会社は重要な減収が起こりうるとしている。California 北部地区連邦地裁は、指定が修正第1条で保護された言論への報復で、修正第5条の適正手続や行政手続法にも反するとして、会社の主張をおおむね認める略式判決を出し、被告側は仮差止命令について控訴した。一方、D.C. 巡回区控訴裁判所は2対1で会社の申立てを退け、指定は連邦調達サプライチェーン安全法(FASCSA)4713条のもとで適法と判断した。会社は対応を検討中である。

注記17 後発事象(未監査)(F-64–65)

中間財務諸表を発行した2026年10月26日までの事象である。

  • 6月30日以降に約91百万株の RSU(付与日の公正価値合計58億ドル)を承認した。業績条件はこの届出書の効力発生で満たされる。
  • 2026年9月に与信枠を150億ドルに増やし、満期を2031年9月に延ばした。最低流動性の条項は50億ドルに上がった。
  • 2026年第3四半期、寄付マッチング債務で20億ドルの費用を計上し、10月に Class N 株式約28.0百万株で決済した。
  • 2026年10月、一部の執行役員の雇用契約を改定し、退職金や権利確定の前倒しを定めた。株主は公益目的のための新設完全子会社に最大846.8百万株の Class N を発行することを承認した。2026 Equity Incentive Plan(最大2,950.0百万株)と Employee Stock Purchase Plan(同160.0百万株)も承認した。
  • 2026年7月、AMD と MI450 シリーズ GPU の Helios ラックシステムに関する枠組み契約を結んだ。条件を満たせば AMD が最大50億ドルの Class N 株式を買う。
  • 6月30日以降の新規・変更契約の将来の最低支払額は約2,450億ドル(2026〜2036年開始)で、別に短期契約の最低支払額が約210億ドルある。

Part II 目論見書に記載しない情報(II-1–9)

発行費用(Item 13)は、SEC 登録手数料、FINRA 届出手数料、上場手数料、印刷費、弁護士費用、会計士費用、名義書換代理人費用、その他、合計のすべてが(目論見書では空欄)で、補正で記載するとされている。

最近の未登録証券の発行(Item 15)には、2023年11月以降の優先株の私募が並ぶ。Series G-1 は261名に約235億ドル、Series H-1 は305名に約457億ドル、H-2 は11名に約195億ドルを売った。2025年10月には、元保有者が会社と無関係の訴訟で米国政府に没収された Series B 4,453,900株を政府から1株140.9676ドルで買い戻し、同じ価格で9名に転売した(約627百万ドル。会社の手取りなし)。同じ期間に2名の投資家へ元本合計102億ドルの転換約束手形を発行した。

添付書類(Item 16)の一覧には、Google・Amazon との2026年の契約に加え、Broadcom Inc. との社債購入契約(2026年3月31日)と登録権契約(2026年6月8日)、子会社 AI Infrastructure OpCo II, LLC と Broadcom Inc. の機器リース基本契約(2026年3月31日)、会計監査人の交代に関する書簡などが並ぶ。届出書は2026年10月26日付で、CEO の Dario Amodei らが署名している。

この章から読み取れること

ここからは筆者の解釈である。

  1. 損益の大半は事業ではなく評価で動いている。2026年上期は営業損失が693百万ドルにとどまり、営業キャッシュフローは黒字だった。純損失80,748百万ドルの大部分は、企業価値が上がるほど膨らむ転換社債や株式購入契約の評価損である。純損失の大きさから事業の採算は読めない。
  2. 転換社債108,566百万ドルの元本は、Amazon 向けの約62億ドル(筆者計算)にすぎない。IPO で1株2.0928ドルまたは5.0478ドルと公開価格の低い方で Class N 株式に転換する条件なので、上場で負債の大半が株式に置き換わり、株主資本のマイナスも大きく変わるとみられる。ただし持株比率の上限があり、一度に全額が転換するとは限らない。
  3. 貸借対照表の外の約束が、貸借対照表そのものを大きく上回る。開始前のリース約3,214億ドル、購入コミットメント約2,656億ドル、その後の新規契約約4,170億ドル、約2,450億ドルは範囲や時点が重なるため足せないが、現金同等物と短期投資の合計約1,317億ドル(筆者計算)と比べても規模の差は大きい。
  4. 上場の時点で大きな株式報酬費用が出る。RSU は IPO まで費用ゼロで、6月末時点の累積見込みは29億ドル、7月以降に付与した約91百万株(58億ドル)は届出書の効力発生で業績条件を満たす。
  5. Google と Amazon は出資者、社債の保有者、計算資源の供給元、販売チャネルを兼ね、CSP 経由の売上は約48%を占める。注記に名前の出ない Broadcom が、添付書類では2026年3月31日付の社債購入契約と機器リース契約の相手方として現れる。同じ日付の注記9の「最大420億ドルの賃料用転換約束手形」との関係は原文に書かれていないが、計算資源の調達先が CSP の外へ広がっている兆しとして読める。
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