AnthropicのS-1を読む⑥ガバナンス・経営陣・報酬・大株主
Anthropic, PBC が 2026年10月26日に SEC へ提出した Form S-1(新規株式公開の登録届出書。この段階では価格や株数が空欄の仮目論見書)のうち、目論見書の印刷ページで p.244–292 にあたる5章を読む。扱うのは「Our Governance Structure and Its Goals」「Management」「Executive Compensation」「Certain Relationships and Related Person Transactions」「Principal and Selling Stockholders」である。原典は Anthropic, PBC Form S-1(SEC EDGAR)。
シリーズの全体像は AnthropicのS-1を読む①総覧 にまとめてある。
先に結論を書いておく。
- 上場後の取締役会は7席で、そのうち4席(過半数)は Long-Term Benefit Trust(LTBT)が1株だけの Class T 株を通じて選ぶ。残る3席は、1株だけの Class F 株を持つ Founder LLC(共同創業者7名の LLC)と一般株主の Class A 株が一緒に選ぶ。
- Class F 株は発行済株式の総議決権の50.1%を固定で持つ。このため一般株主が持つ Class A 株の議決権は合計49.9%に抑えられ、株主総会の決議は当面 Founder LLC が決められる。
- 従業員に配る Class E 株は、普段は議決権を持たない。LTBT の仕組みを変えるときや、特定の取締役1席の人事で会社側と LTBT が対立したときにだけ票を投じる。
- 2025年の報酬総額は CEO の Dario Amodei が17,958,298ドル、President の Daniela Amodei が16,408,998ドルである。どちらも数百万ドル規模の警護費を含む。
- 関連当事者取引の中心は、取締役 Yasmin Razavi が属する Spark Capital による各ラウンドへの出資と、経営陣が株を売った2回のテンダーオファーである。この5章には Amazon、Google、Microsoft、NVIDIA との契約や出資の記述は出てこない。
なお、依頼時に示されたページ範囲(p.242–291)と、本文中の印刷ページ番号は2ページほどずれていた。この記事の見出しのページは、すべて本文中の印刷ページ番号に合わせている。
ガバナンス構造とその目的(p.244–254)
PBC としての位置づけ(p.244)
Anthropic はデラウェア州法上の PBC(Public Benefit Corporation。公益の実現を定款上の目的に含めた営利の株式会社)である。PBC の取締役会は、次の3つの釣り合いを取る義務を負う。
- 株主の金銭的利益
- 会社の行動によって大きな影響を受ける人々の最善の利益
- 定款上の会社目的(Company Purpose)
会社は、これまで AI の安全性・社会的便益と長期的な商業的成功はおおむね一致してきたと書く。一方で、この釣り合いを取った結果として、短期・中期・長期の業績や Class A 株の株価に悪影響が出る判断をしうることも認めている。デラウェア州の判例は少なく、裁判所がこの釣り合いをどう評価するかは不確かだという。
公益面の成果は、5本の「mission pillars」(AI 安全性の技術的課題の解決、法に支えられた普遍的な安全慣行、民主主義と世界の安定の強化、繁栄と人間の豊かな生の拡大、恩恵の共有)に照らして取締役会が評価する。定款・付属定款は、客観的な第三者基準で公益成果を測ることを求めていない。基準は取締役会が定め、当面は定性的なものになる見込みだ。デラウェア州一般会社法(DGCL)366条(b)に基づき、少なくとも2年に1回、公益目的の推進状況を株主に報告し、ウェブサイトでも公開するとしている。
Long-Term Benefit Trust(LTBT)の仕組み(p.245–246)
LTBT(長期利益信託)は、上の3つの目的の釣り合いを担保するために作られた信託である。法的にはデラウェア州のコモンロー上の「非慈善目的信託」で、「Long-Term Benefit Trust Amended and Restated Trust Agreement」(Trust Agreement)に従って運営される。会社の業績から受託者(Trustee)が受ける影響を小さくし、独立性を保つ設計になっている。
- LTBT は Class T 株の唯一の保有者である。Class T 株には経済的権利がない
- LTBT は原則として Class T 取締役を選任・解任でき、Class T 取締役は取締役会の授権定数の過半数を占める
- 日々の経営や戦略決定の権限は LTBT にも受託者にもない。役割は、3つの目的の釣り合いを取れる取締役を選ぶことと、助言を通じて経営を支えることである
- 合併や全資産の売却などは、デラウェア州法に従い取締役会の承認が要る。その取締役会の過半数は LTBT が選んだ取締役である
取締役の指名・解任の手続きは次のとおり。
- 指名・解任する側は、少なくとも30日前までに NGC(Nominating and Corporate Governance Committee。指名・コーポレートガバナンス委員会)へ通知する。NGC はこの期間を免除できる
- 上場後の NGC は、Class T 取締役1名と、Class T 以外の取締役2名で構成し、多数決で動く
- Class T 取締役のうち1席は「Specified Class T Director」と呼ばれる。この席の指名、理由なき解任、指定の変更には NGC の同意が要る
- NGC が通知から15日以内に同意しなければ、LTBT が通知を取り下げない限り、Class E 株主の投票にかかる。可決には Class E 株の投じられた票の過半数が要る(定足数は発行済 Class E 株の過半数)
- 正当な理由(cause)による解任は、NGC の同意も Class E 株主の承認も要らない。ただし LTBT と Founder LLC は、相手方と NGC に30暦日前までに通知することに合意している
LTBT と Class T 株の変更条件(p.246)
LTBT の条件と Class T 株の権利を変えるための要件を、目論見書は「Trust Amendment Threshold」と呼ぶ。次のいずれかを満たせば変更できる。
| 場面 | 必要な承認 |
|---|---|
| 受託者が賛成している | 取締役会の授権定数の80%と、在任受託者の80%(端数は四捨五入。ちょうど0.5は切り上げ) |
| Class F 株が残り、受託者が反対。上場後3年まで | (i) 継続創業者(Continuing Founders)全員一致による Class F 株の賛成、(ii) Class E 株の投じられた票の過半数(定足数は発行済 Class E 株の40%)、(iii) Class A 株の投じられた票の過半数(定足数は発行済 Class A 株の過半数) |
| Class F 株が残り、受託者が反対。時期を問わず | (i) 継続創業者の66 2/3%(端数切り上げ)による Class F 株の賛成、(ii) Class E 株の投じられた票の75%(定足数は発行済 Class E 株の過半数)、(iii) Class A 株の投じられた票の過半数(定足数は発行済 Class A 株の過半数) |
| Class F 株が残っておらず、受託者が反対 | 発行済 Class A 株の85% |
同じ要件を満たせば、会社は Class T 株を無償で償還できる。
受託者の顔ぶれ(p.246–247)
受託者の定数は5名で、現在1席が空いている。受託者の選任は在任受託者の過半数で決める。解任は、授権定数の過半数か、「他の在任受託者全員の一致と NGC の承認」で決める。いずれも NGC への30日前の書面通知が要る(NGC は免除可)。不適格な行為があった場合は、デラウェア州衡平法裁判所の命令でも解任できる。任期は1年で、再任の回数に上限はない。実際の運用では、受託者と会社の幹部が一緒に候補者を探し、面接し、選んできたという。
| 受託者 | 就任 | 主な経歴(原文の記載から) |
|---|---|---|
| Dr. Neil "Buddy" Shah | 2023年6月(議長) | Clinton Health Access Initiative(CHAI)CEO(2022年6月〜)。GiveWell の Managing Director、IDinsight の共同創業者・CEO を歴任。Anthropic Public Benefit Fund の初代マネージャーも務める予定 |
| Richard Fontaine | 2025年4月 | Center for a New American Security(CNAS)CEO(2019年2月〜)。Trilateral Commission 北米グループの Executive Director。John McCain 上院議員の外交政策顧問 |
| Dr. Ben S. Bernanke | 2026年6月 | Brookings Institution の Distinguished Fellow(2014年〜)。2006年2月〜2014年1月に連邦準備制度理事会議長。2022年ノーベル経済学賞 |
| Dr. Christopher Stubbs | 2026年10月 | Harvard 大学の物理学・天文学教授。同大で AI 担当シニアアドバイザー(2024〜2026年)、理学部長(2018〜2024年)。JASON のメンバー |
| (空席) | — | — |
LTBT への支払いと受託者報酬(p.247–248)
LTBT の運営費と受託者報酬は会社が出している。LTBT は会社の連結対象の VIE(変動持分事業体。議決権の過半を持たなくても実質的に支配しているとみなして連結する事業体)として扱われる。
| 期間 | LTBT への支払額(ドル) |
|---|---|
| 2023年12月期 | 2,716,750 |
| 2024年12月期 | 0 |
| 2025年12月期 | 906,089 |
| 2026年9月30日までの9か月 | 8,425,213 |
- Trust Agreement は、受託者報酬を「受託者が毎年定める合理的な現金額」に限っている
- 各受託者の年間報酬は現金400,000ドル。議長の Shah にはさらに年25,000ドルが支払われる
- 報酬は会社の利益や会社の行動に連動しない
- LTBT の方針により、受託者は Anthropic の証券を直接買うことも持つこともできない
- 2026年8月、会社は Fontaine が CEO を務める CNAS に450,000ドルを寄付した。AI が国際競争や安全保障、民主的統治に与える影響の研究に使われる
Founder LLC と Class F 株(p.248–249)
上場直前に、会社は Class F 株を1株だけ Founder LLC に発行する。Founder LLC の当初の構成員は共同創業者7名(Dario Amodei、Daniela Amodei、Tom Brown、Jack Clark、Jared Kaplan、Sam McCandlish、Christopher Olah)で、構成員自身が運営する。
- Class F 株は、株主総会に付議される一般事項について、発行済株式の総議決権の50.1%に相当する票を持つ。Class T 取締役以外の取締役の選任もここに含まれる
- 増資・買収・従業員報酬などで新株を出しても、Class F 株の議決権比率は薄まらない
- Founder LLC は原則として構成員の多数決で Class F 株の投票内容を決める。各継続創業者は1票を持つ
- 多数がまとまらない場合、Class F 株は Class A 株の投票結果に比例して投じられる(定足数は発行済 Class A 株の過半数)。一部の事項は、より高い賛成水準に届かなければ「反対」として投じられる
- 共同創業者が個人で持つ Class A 株は、Founder LLC の決定に縛られず各自の判断で投票できる
創業者が亡くなるか能力を失った場合、上場後10年までは後継の構成員を加えられる。継続創業者が3名未満(「Non-Qualifying Member」に当たる後継者は数えない)の状態が90暦日続くと、450日の「Class F Transition Period」が始まる。この期間が終わると、Class F 株と Class E 株はすべて無償で償還される。
継続創業者が Founder LLC から外れる事由は、(1) 辞任、(2) 死亡または能力喪失、(3) 元の共同創業者の Class A 株の保有数(関係者分、オプション・RSU 等を含む)が上場完了時点の2%を下回ったとき、(4) 競業などを含む「cause」による除名、(5) 移行期間の開始前に加わった後継者についての上場後10年の到来、(6) 他の継続創業者の Supermajority が承認した休職の開始、の6つである。
脚注によると、Benjamin Mann は2021年1月の創業時から会社にかかわり共同創業者と呼ばれることも多いが、Founder LLC の構成員にはならず、Class F 株の投票にも加わらない。
共同創業者7名の横顔(p.249–250)
| 氏名 | 現在の役割 | 原文にある主な経歴 |
|---|---|---|
| Dario Amodei | CEO・取締役 | 経営陣の節を参照 |
| Daniela Amodei | President・取締役会議長 | 経営陣の節を参照 |
| Tom Brown | Chief Compute Officer | OpenAI で GPT-3 のエンジニアリングを率いた。Dario Amodei とともに deep RLHF を共同発明 |
| Jack Clark | Anthropic Institute を率いる | OpenAI の Policy Director。以前はテクノロジー記者。ニュースレター「Import AI」の著者 |
| Jared Kaplan | Chief Science Officer | ニューラル・スケーリング則の主要著者の1人。Constitutional AI の開拓にも参加。Johns Hopkins 大学の物理学准教授 |
| Sam McCandlish | Chief Architect | OpenAI でスケーリング研究のチームを立ち上げて率いた |
| Christopher Olah | 解釈可能性(interpretability)研究を率いる | OpenAI で解釈可能性研究を率い、その前は Google Brain の研究者 |
寄付の約束と Class E 株(p.250–251)
共同創業者7名は、それぞれ保有する Anthropic 株式の80%を慈善目的に充てると誓約している。従業員向けには、株式報酬の一部の寄付を誓約すると会社が Class N 株で上乗せする寄付マッチング制度がある。このほか、一部のドナー・アドバイズド・ファンド(DAF。寄付者が助言権を持つ寄付基金)とのあいだに取消不能の議決権委任契約がある(関連当事者取引の節で後述)。
Class E 株は従業員に次の基準で発行される。発行時期は上場後に決める。
- 在籍6か月ごとに1株
- 寄付マッチング制度で寄付を誓約した Class A 株1株につき1株
Class E 株が票を持つのは次の2つの場面だけである(法律で求められる場合を除く)。
- NGC が LTBT の提案に同意しないときの、Specified Class T Director の指名・解任・指定変更
- LTBT の条件や Class T 株の権利の変更、Class T 株の償還
共同創業者は Class E 株を受け取らない。退職者(cause による解雇を除く)の Class E 株は毎年半分ずつ自動で償還され、死亡、能力喪失、cause による解雇、直接の競合への転職のときは全株が償還される。Class F 株がなくなったときも全株が償還される。償還はすべて無償である。
株式クラスの比較(p.245–251 から整理)
この5章の記述から、上場後の株式クラスを並べるとこうなる。
| クラス | 保有者 | 株数 | 議決権 | 経済的権利 |
|---|---|---|---|---|
| Class A | 一般株主・従業員・創業者など | (目論見書では空欄) | 1株1票。Class F 株がある間は合計で総議決権の49.9%まで | あり(公開される株式) |
| Class F | Founder LLC | 1株 | 総議決権の50.1%で固定。Class A と一緒に Class T 以外の取締役を選ぶ | この章では記載なし |
| Class T | LTBT | 1株 | 一般事項では原則として議決権なし。Class T 取締役(取締役会の過半数)を選任・解任 | なし |
| Class E | 従業員 | 在籍期間と寄付誓約に応じて発行 | Specified Class T Director の争いと LTBT 関連の変更のときだけ | この章では記載なし |
| Class N | 寄付マッチングの上乗せなど | (目論見書では空欄) | 法律で求められる場合を除きなし | この章では記載なし |
取締役会運営とサンセット条項(p.251–254)
上場直前に、会社は LTBT・Founder LLC と Stockholders' Agreement(株主間契約)を結ぶ。両者は、定款が定める取締役会の構成・指名・解任の規定どおりに投票することを約束する。2者を合わせれば取締役全員を選べる。取締役の再任回数に上限はない。
Nasdaq Global Select Market の基準上、LTBT が取締役会の過半数を選べるため、Anthropic は「controlled company」(支配株主のいる会社)に当たる。会社はこの例外を NGC についてだけ使う予定で、NGC は独立取締役だけで構成されない。取締役会は現在独立取締役が過半数で、監査委員会と報酬委員会は独立取締役だけである。
2つの特殊株には「サンセット」(効力の終了)の条件がある。
| 項目 | Class T Sunset Time | Class F Sunset Time |
|---|---|---|
| 発生の契機 | Class T 株が1株も残っていない状態になったとき。償還や権利変更で消すには Trust Amendment Threshold の承認が要る | (i) Class F 株が残っていない状態(継続創業者の Supermajority による償還合意、Founder LLC の解散を含む)か、(ii) Class F Transition Period の完了の、早いほう |
| 自動で起きるか | 時間の経過や特定の出来事では自動的に起きない | 継続創業者が3名未満の状態が90暦日続くと移行期間が始まる。辞任・死亡・上場後10年の到来による脱退は自動。能力喪失は医師の判定などが、cause は他の継続創業者の Supermajority の判断が要る |
| 延長 | 一度起きたら延長・猶予・免除はできない | 同じく延長・猶予・免除はできない |
| その後の議決権 | Class F 株が残っていれば、Class A と Class F が全取締役を選ぶ。Founder LLC が50.1%で全決議を決められる | Class T 株が残っていれば、LTBT は引き続き Class T 取締役を選ぶが、Specified Class T Director の手続きは不要になる。残りの取締役は Class A 株が選ぶ |
両方とも消えた場合は、Class A 株が全取締役の選任を含むすべての決議を決める。
経営陣と取締役会(p.255–264)
執行役員と取締役(p.255–256)
2026年9月30日時点の一覧である。
| 氏名 | 年齢 | 役職 | 上場後に選任する株式クラス | 委員会など |
|---|---|---|---|---|
| Dario Amodei | 43 | CEO、共同創業者、取締役 | Class A と F | — |
| Daniela Amodei | 39 | President、共同創業者、取締役会議長、取締役 | Class A と F | NGC |
| Krishna Rao | 43 | CFO | (原文で記載なし) | — |
| Reed Hastings | 65 | 取締役 | Class T | 監査、NGC、筆頭独立取締役 |
| Christopher Liddell | 68 | 取締役 | Class T | 監査、安全・リスク、Specified Class T Director |
| Vas Narasimhan | 50 | 取締役 | Class T | 報酬、安全・リスク |
| Yasmin Razavi | 37 | 取締役 | Class A と F | NGC、報酬 |
経歴の要点は次のとおり。
- Dario Amodei: 2021年1月の創業時から CEO・取締役。OpenAI の研究担当 VP など(2016年7月〜2020年12月)、Google Brain の Senior Research Scientist(2015年10月〜2016年6月)
- Daniela Amodei: 創業時から President・取締役で、現在は取締役会議長。OpenAI の Safety and Policy 担当 VP など(2018年10月〜2020年12月)、Stripe の Risk Manager など(2013年5月〜2018年7月)
- Krishna Rao: 2024年4月から CFO。Fanatics Commerce の CFO、Cedar の CFO、Airbnb、Blackstone を経た
- Reed Hastings: 2025年5月から取締役。Netflix の共同創業者で、1999年〜2023年1月に CEO 兼 President、2026年6月まで取締役会会長
- Christopher Liddell: 2026年2月から取締役。Microsoft と International Paper の CFO、General Motors の副会長兼 CFO を歴任。2017年1月〜2021年1月はホワイトハウス副首席補佐官など
- Vasant "Vas" Narasimhan: 2026年4月から取締役。Novartis AG の CEO(2018年2月〜)
- Yasmin Razavi: 2023年3月から取締役。Spark Capital の General Partner(2020年3月〜)
Dario Amodei と Daniela Amodei は兄妹(siblings)で、それ以外に親族関係はない。
取締役会の構成の変化(p.257–258)
現在の取締役は6名で、選ばれ方は次のとおり。
- Dario Amodei: CEO 枠として、Voting Common Stock の保有者(優先株の転換分を除く)が選任
- Liddell: Voting Common Stock の保有者(同上)が指名した候補として選任
- Razavi: Senior Voting Preferred Stock の保有者が選任
- Daniela Amodei、Hastings、Narasimhan: LTBT が Class T 株の保有者として指名した候補
上場後は定数7名になる。
- Class T 取締役4席(LTBT が選任・解任): Hastings、Narasimhan、Liddell、空席1。Liddell が Specified Class T Director
- 残り3席(Class F と Class A が一緒に選任): Dario Amodei、Daniela Amodei、Razavi
Class F Sunset Time までは期差任期制(取締役を3組に分け、毎年1組ずつ改選する仕組み)を取らず、全員が1年任期になる。Class F Sunset Time の後は3年の期差任期制に移る。
Class F 株か Class T 株が残っている間、株主は書面同意で取締役の選任・解任などを行える。それでも会社は Nasdaq の基準に沿って年次株主総会を開き、Class A 株主の票を求める予定だとしている。
取締役会議長は Daniela Amodei、筆頭独立取締役(Lead Independent Director)は Hastings である。取締役会は Hastings、Liddell、Narasimhan、Razavi の4名を Nasdaq 基準上の独立取締役と判断した。
委員会(p.259–261)
| 委員会 | 委員(◎は委員長) | 主な役割 |
|---|---|---|
| 監査委員会 | ◎Liddell、Hastings、空席1 | 監査法人の選任、監査結果の協議、内部通報手続き、関連当事者取引の審査など。Nasdaq の経過措置を使い、上場から1年以内に3名にする |
| 報酬委員会 | ◎Narasimhan、Razavi | 執行役員の報酬の審査・決定、株式報酬制度の運営、報酬コンサルタントの起用など |
| NGC | ◎Daniela Amodei、Hastings、Razavi | 取締役候補の評価、取締役会の評価、ガバナンス指針。LTBT と Founder LLC による取締役の指名・解任や、受託者の選任・解任について30日前の通知を受ける |
| 安全・リスク委員会 | ◎Narasimhan、Liddell | AI モデルの安全性とセキュリティ、法務・規制・サイバーセキュリティ・プライバシー・コンプライアンスのリスクを監督 |
NGC についての手続き規定は、LTBT 受託者と経営陣が候補者探しで協力するためのものだと説明している。取締役会が LTBT の取締役選びを実質的に制限するものではない、とも明記している。Liddell と Hastings は監査委員会の財務専門家(audit committee financial expert)に当たる。
社外取締役の報酬(p.262–264)
2025年12月期に取締役として報酬を受け取った社外取締役は Jay Kreps だけである。
| 氏名 | 現金報酬(ドル) | 合計(ドル) |
|---|---|---|
| Reed Hastings | — | — |
| Jay Kreps(2026年5月に退任) | 200,000 | 200,000 |
| Christopher Liddell(2026年2月就任) | — | — |
| Vas Narasimhan(2026年4月就任) | — | — |
| Yasmin Razavi | — | — |
2025年12月31日時点で、未行使・未確定の株式報酬を持つ社外取締役はいなかった。Dario Amodei と Daniela Amodei は、取締役としての報酬を受け取っていない。
2026年9月に取締役会が採択し、株主が承認した「Director Compensation Policy」は、登録届出書の効力発生日の前日から適用される。
| 区分 | 年額(ドル) |
|---|---|
| 取締役としての基本報酬 | 100,000 |
| 非執行の取締役会議長(該当する場合) | 75,000 |
| 筆頭独立取締役(該当する場合) | 60,000 |
| 監査委員長 | 40,000 |
| 監査委員 | 20,000 |
| 報酬委員長 | 30,000 |
| 報酬委員 | 15,000 |
| NGC 委員長 | 30,000 |
| NGC 委員 | 15,000 |
委員長は委員としての報酬を重ねて受け取らない。現金は四半期ごとに後払いする。
株式報酬は RSU(譲渡制限付株式ユニット。条件を満たすと株式を受け取れる権利)で支払う。2027年以降の各年次株主総会の日に価値325,000ドル分を自動付与し、4回の四半期で確定する。新任の社外取締役には価値400,000ドル分の初回付与(6か月後に12.5%、残りは14回の四半期で確定)と、在任月数で按分した年次分を付与する。支配権の変更(change in control)があれば、この方針で付与した分はすべて確定する。
役員報酬(p.265–282)
報酬の考え方(p.265–268)
2025年の指名役員(NEO。報酬の開示対象になる役員)は Dario Amodei、Daniela Amodei、Krishna Rao の3名である。
報酬方針の柱は次の3つ。
- AI 開発市場の90パーセンタイルを目標にした競争力のある水準
- 同じ役割・等級・勤務地には同じ報酬
- 制度設計の単純さ
共同創業者7名には同額の報酬を払う方針で、執行役員に当たるのは Dario と Daniela の2名だけである。Rao は共同創業者ではないので、役割と等級の市場データに基づいて決める。市場データの見直しは年2回行う。
これまでの役員報酬は社外取締役が決めてきた。上場後は報酬委員会が監督する。上場に合わせて、独立した報酬コンサルタントとして Semler Brossy Consulting Group LLC を起用した。President は共同創業者7名の報酬について助言するが、自分と CEO の報酬の決定には加わらない。
会社が「しないこと」として挙げているのは、固定期間や自動昇給・株式付与の保証を伴う雇用契約、シングルトリガー(支配権の変更だけで発動する)の手当、過大な現金退職金、ゴールデンパラシュート課税の補填(グロスアップ)、役員専用の年金、ディスカウント価格でのオプション付与などである。ダブルトリガー(支配権の変更と解雇の両方で発動する)の退職手当は CFO にだけ設けている。
基本給と株式報酬(p.268)
| 対象 | 期間 | 年額の基本給(ドル) |
|---|---|---|
| Dario Amodei、Daniela Amodei(各) | 2025年1月1日〜6月15日 | 600,000 |
| 同上 | 2025年6月16日〜 | 700,000 |
| Krishna Rao | 2025年1月1日〜12月15日 | 700,000 |
| 同上 | 2025年12月16日〜 | 850,000 |
2025年6月12日、取締役会は Dario と Daniela にそれぞれ次の株式報酬を付与した。
- ストックオプション 992,500株分(2025 Options)。行使価格は1株2.38ドル。2025年1月1日を起点に1年かけて毎月均等に確定する
- RSU 1,717,000株分(2025 RSUs)。勤務条件と業績条件の両方を満たした日に確定する。勤務条件は2026年2月20日に12分の1、以後四半期ごとに満たされる。業績条件は、この登録届出書の効力発生で満たされる
警護と出張の費用(p.268–269)
2025年、外部の警備コンサルティング会社が CEO と President の個人リスクを調査した。この調査と、報道の増加、地位に伴う具体的な脅威を踏まえ、取締役会は2人への警護強化を必要と判断した。内容は、家族を含む身辺警護と自宅警備、車と運転手、そして Dario Amodei については業務・私用の両方でのプライベート機の利用である。会社はこれを事業継続のための費用と位置づけ、税金の補填(グロスアップ)はしないとしている。
報酬総額表(Summary Compensation Table、p.271–272)
2025年12月期の数字である。株式報酬とオプション報酬は付与日の公正価値(会計基準 ASC 718 による)で、実際に得られる金額ではない。
| 氏名・役職 | 年 | 基本給 | 株式報酬 | オプション報酬 | その他の報酬 | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Dario Amodei(CEO) | 2025 | 654,167 | 9,264,932 | 4,028,558 | 4,010,641 | 17,958,298 |
| Daniela Amodei(President) | 2025 | 654,167 | 9,264,932 | 4,028,558 | 2,461,341 | 16,408,998 |
| Krishna Rao(CFO) | 2025 | 706,250 | — | — | 14,000 | 720,250 |
単位はドル。「その他の報酬」の内訳は脚注にある。
| 内訳(単位ドル) | Dario Amodei | Daniela Amodei | Krishna Rao |
|---|---|---|---|
| 401(k) の会社拠出 | 14,000 | 14,000 | 14,000 |
| 身辺警護など | 2,745,874 | 1,293,629 | — |
| 私用のプライベート機 | 97,055 | — | — |
| 2025年6月のテンダーオファーでの買取価格と時価の差額 | 1,153,087 | 1,153,087 | — |
| 評価報告書費用の按分 | 625 | 625 | — |
Daniela の警護費は「身辺警護・自宅警備・移動サービス」としてまとめて記載されている。評価報告書は寄付マッチング制度の参加者向けに会社が取得したもので、2人は制度に参加していないが、個人の寄付の税務申告に使った。
2026年以降の変更(p.272–273)
- 基本給: Dario と Daniela は2026年1月16日から各915,000ドル、7月1日から各1,380,000ドル。Rao は2026年2月1日から1,250,000ドル
- 2026年2月20日の付与: オプションを Dario と Daniela に各1,431,490株分、Rao に1,122,840株分(行使価格1株17.66ドル)。RSU を Dario と Daniela に各2,374,010株分、Rao に1,862,140株分。RSU の勤務条件は2027年5月20日に12分の1、以後四半期ごと
- 2026年7月15日の付与: 2026 Co-Founder RSUs として Dario と Daniela に各537,430株分。勤務条件は2026年8月20日に16分の1、以後四半期ごと
- 退職手当: 2026年10月、3名と Executive Severance Agreement を結んだ。理由なき解雇か正当な理由による辞任のとき、基本給の24か月分(Dario と Daniela)または12か月分(Rao)、COBRA(退職後も医療保険を続ける米国の制度)保険料12か月分、時間で確定する株式報酬の12か月分の前倒し確定が支払われる
- HSR 申請料: 2026年10月、Dario と Daniela が独占禁止法(Hart-Scott-Rodino 法)上の届出で払う必要があった申請料を、会社が各250万ドル(原文は2.5 million)肩代わりして FTC に直接払った
- Rao にも2026年から警護サービスの提供を始めた
付与・保有・行使の明細(p.273–274)
2025年12月31日時点の未行使・未確定の株式報酬は次のとおり。
| 氏名 | 付与日 | 行使可能なオプション(株) | 行使不能なオプション(株) | 行使価格(ドル) | 満期 | 未確定 RSU(株) | 未確定 RSU の時価(ドル) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Dario Amodei | 2025-06-12 | 909,790 | 82,710 | 2.38 | 2035-06-11 | 1,717,000 | 30,317,069 |
| Daniela Amodei | 2025-06-12 | 909,790 | 82,710 | 2.38 | 2035-06-11 | 1,717,000 | 30,317,069 |
| Krishna Rao | 2024-05-31 | 5,756,350 | 8,166,670 | 1.30 | 2034-05-30 | — | — |
時価は2025年12月31日時点の Class A 株の公正価値1株17.66ドルで計算されている。Rao のオプションは入社時の14,000,000株分(Rao Options)で、入社1年後に4分の1、その後は毎月48分の1ずつ確定する。
2025年中の行使と確定は次のとおり。
| 氏名 | オプション行使(株) | 行使による実現額(ドル) | 確定した株式(株) | 確定による実現額(ドル) |
|---|---|---|---|---|
| Dario Amodei | — | — | 5,058,340 | 12,013,558 |
| Daniela Amodei | — | — | 5,058,340 | 12,013,558 |
| Krishna Rao | 76,980 | 385,285 | — | — |
Rao の退職・支配権変更時の支払い見込み(p.274–276)
2025年中に退職手当の権利を持っていた NEO は Rao だけである(入社時の offer letter による。この letter は2026年10月に終了し、支配権変更時の前倒し確定だけを別の letter agreement で同じ条件のまま引き継いだ)。2025年12月31日に退職したと仮定した見積もりは次のとおり。
| 場面 | 現金の退職手当 | 前倒し確定する株式報酬の価値 | 医療保険の継続 | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 通常の理由なき解雇など | 425,000 | 28,626,500 | 16,079 | 29,067,579 |
| 支配権の変更に伴う解雇など | 425,000 | 133,590,388 | 16,079 | 134,031,467 |
単位はドル。通常時はオプションの8分の1(1,750,000株)、支配権変更時は未確定分の全量(8,166,670株)が前倒しで確定する前提である。Dario と Daniela の欄はいずれも「—」になっている。
株式報酬制度(p.276–282)
- 2026 Equity Incentive Plan: 2026年9月1日に取締役会が採択し、10月22日に株主が承認した。上限株数は(目論見書では空欄)の Class A 株に、2021 Plan から引き継ぐ分を加えたもの。引き継ぎ分の上限も(目論見書では空欄)。2027〜2036年度の各期首に、経済的権利のある普通株の発行済株数の5%か取締役会が決めた数の少ないほうだけ自動で増える。社外取締役への付与と現金報酬は年1,000,000ドル(初年度は2,000,000ドル)が上限
- Amended & Restated 2021 Stock Plan: 2021年1月28日に採択、2026年5月28日に最終改正。発行枠は Class A 株3,864,826,090株。上場の直前に終了し、以後の新規付与はない
- 2026 Employee Stock Purchase Plan(ESPP。従業員が割引価格で自社株を買える制度): 上限株数は(目論見書では空欄)。毎年の自動増加は発行済株数の1%か取締役会が決めた数の少ないほう。購入価格は募集開始日か購入日の時価の低いほうの85%以上。米国税法423条の部分では、拠出は給与の15%まで、購入額は年25,000ドルまで
このほか、Rule 10D-1 に沿った報酬の回収方針(クローバック)を上場時に導入する。ヘッジ取引や証券の担保差し入れは原則禁止である。
関連当事者取引(p.283–288)
対象は、2023年1月1日以降の取引のうち、金額が120,000ドルを超え、取締役・執行役員・5%超の株主やその家族が重要な利害を持つものである。この章に Amazon、Google、Microsoft、NVIDIA との契約・出資・転換社債(Amazon Notes など)の記述はない。
優先株による資金調達(p.283–285)
各ラウンドの全体像は次のとおり。
| シリーズ | 時期 | 株数 | 1株の価格(ドル) | 総額(ドル) |
|---|---|---|---|---|
| H-1 | 2026年5〜6月 | 77,637,878 | 589.0095 | 45,729,447,703 |
| G-1 | 2026年1〜2月 | 90,510,425 | 259.1364 | 23,454,545,698 |
| F-1 | 2025年8〜9月 | 92,219,720 | 140.9676 | 12,999,992,602 |
| E-1 | 2025年1〜3月 | 63,610,106 | 56.0865 | 3,567,668,210 |
| D-1・D-3 | 2024年1〜5月 | 39,978,675 | 30.0045 | 1,199,540,154 |
| C-1・C-2 | 2023年3〜6月 | 39,669,823 | 11.2261 | 445,337,400 |
このほか、2024年1月に元本1,000,000ドルの SAFE(将来の株式取得権)の転換で D-1 株33,328株を、2023年3月に同じく元本1,000,000ドルの SAFE の転換で C-1 株89,078株を発行している。
関連当事者による購入は次のとおり。
| 購入者 | シリーズ | 株数 | 購入額(ドル) |
|---|---|---|---|
| Spark Capital | H-1 | 747,016 | 439,999,521 |
| Bodhi LLC | H-1 | 16,977 | 9,999,614 |
| Spark Capital | G-1 | 96,474 | 24,999,925 |
| Spark Capital | F-1 | 439,817 | 61,999,947 |
| Spark Capital | E-1 | 1,782,959 | 99,999,930 |
| Spark Capital | D-1 | 2,499,624 | 74,999,968 |
| Spark Capital | C-1 | 6,680,859 | 74,999,991 |
Spark Capital 側の購入主体はラウンドごとに異なるファンド(Fund IV、V、VI など)で、取締役 Razavi は各ファンドの General Partner の managing member である。Bodhi LLC は取締役 Narasimhan 夫妻が全持分を持つ会社である。
先買権・議決権契約・テンダーオファー(p.285)
- 先買権(Right of First Refusal): 2026年5月28日付の契約で、株主が第三者に株を売るときに会社が先に買える。Dario、Daniela、Spark Capital 関連の主体が当事者。上場で終了する
- 議決権契約: 2026年5月28日付。Spark Capital 関連の主体などが取締役選任などで投票内容を約束している。Dario と Daniela も当事者。上場で終了し、以後 Class A・Class N 株主に取締役選任の特別な権利は残らない
- 2026年4月のテンダーオファー: 会社が仲介し、株主の一団が Class A 株を1株25.9136ドルで買い付けた。応募は合計179,883,540株、総額4,661,437,298ドル。Dario、Daniela、Rao、Daniela の配偶者 Holden Karnofsky が売却した
- 2025年6月のテンダーオファー: 会社が Class A 株を1株5.61ドルで買い付けた。応募は合計27,942,000株、総額156,716,898ドル。Dario と Daniela が売却した
DAF との議決権委任契約(p.285–286)
会社は Daffy Charitable Fund(2025年10月6日付)と Dechomai Asset Trust(2024年12月20日付)の2つの DAF と、取消不能の議決権委任契約を結んでいる。DAF は会社や株主から株式の寄付を受ける。Dario Amodei はこの契約の議決権代理人で、DAF が持つ議決権付き株式を自分の判断で投票できる。ただし Dario 本人や家族・関係者が寄付した株は対象外である。どちらの DAF も、いずれの議決権付き株式クラスでも5%以上は持っていない。
親族の雇用(p.286)
Daniela Amodei の配偶者 Holden Karnofsky は2025年1月から社員である。
- 2025年の現金報酬(基本給・賞与など): 430,213ドル
- 2026年(現在まで)の現金報酬: (目論見書では空欄)
- この間に受けた株式報酬: Class A 株179,500株分のオプションと、761,700株分の RSU
会社は、報酬が同程度の経験・役割の社員と同じ水準だとしている。
Stockholders' Agreement と LTBT 関連(p.286–287)
上場直前に結ぶ LTBT・Founder LLC との株主間契約には、次の内容が入る。
- 議決権: 両者は取締役会の構成・指名・解任の規定どおりに投票する
- 通知: Class T 株が残っている間、会社は次の行為の前に LTBT へ書面で事前通知する(LTBT は免除可)。清算、取締役会が定めた能力の閾値を超える AI モデルの支配権の移転、議決権または経済的持分の50%以上の売却、破産などの手続きの開始
- 費用と補償: Founder LLC と LTBT が株式保有や権利行使に関して負う弁護士費用などを会社が負担・前払いし、補償契約も結ぶ
ガバナンス構造の設計・交渉で Founder LLC が負った弁護士費用も会社が負担し、その見込み額は約(目論見書では空欄)である。LTBT への資金提供の額はガバナンスの節で示したとおりである。
役員の責任限定と補償(p.287–288)
上場時の定款で、取締役と一部の役員の金銭賠償責任を DGCL が許す範囲で限定する(忠実義務違反や故意の不正などは除く)。PBC 特有の点として、利益相反がない限り、3つの目的の釣り合いを取れなかったことは責任免除・費用前払い・補償の判断で「不誠実」や忠実義務違反とはみなさない、と定款に入れる。上場後は監査委員会が関連当事者取引を審査・承認する。
主要株主と売出株主(p.289–292)
2026年9月30日時点の実質保有(beneficial ownership。議決権か処分権を単独・共同で持つ株)と、上場後の見込みを示す表である。持株比率の計算の土台になる Class A 株・Class N 株の発行済株数、上場で出す株数、引受証券会社の追加購入枠は、いずれも(目論見書では空欄)である。60日以内に行使できるオプションや確定する RSU も、本人の保有に含めて数えている。
個人の行は、上場前の Class F 株と Class T 株がすべて「—」である。Class A 株のクラス内比率、上場前後の議決権比率、上場後の Class A 株数は、個人の行ではすべて(目論見書では空欄)になっている。数字が入っているのは次の欄だけである。
| 株主 | 上場前の Class A(株) | 売出株数 |
|---|---|---|
| Dario Amodei(本人分) | 240,637,980 | (空欄) |
| Dario Amodei(議決権委任を受けた株) | 4,621,120 | (空欄) |
| Dario Amodei(合計) | 245,259,100 | — |
| Daniela Amodei | 241,408,940 | (空欄) |
| Krishna Rao | 9,497,900 | — |
| Reed Hastings | 9,410 | — |
| Christopher Liddell | 9,410 | — |
| Vas Narasimhan | 176,050 | — |
| Yasmin Razavi | — | — |
| 役員・取締役7名の合計 | 496,360,810 | — |
| Tom Brown | 244,173,040 | (空欄) |
| Jack Clark | 242,271,840 | (空欄) |
| Jared Kaplan | 242,351,170 | (空欄) |
| Sam McCandlish | 231,809,780 | (空欄) |
| Christopher Olah | 242,882,420 | (空欄) |
5%超の株主として載っているのは LTBT と Founder LLC の2者だけである。LTBT は上場前も上場後も Class T 株1株(100%)を持ち、議決権比率の欄は「—」。Founder LLC は上場前の欄がすべて「—」で、上場後に Class F 株1株(100%)、議決権比率50.1%となっている。
原文の表は列が崩れて抽出されており、売出株数の列は空欄と「—」の位置から推定した。共同創業者5名(Brown、Clark、Kaplan、McCandlish、Olah)は「Other Selling Stockholders」(その他の売出株主)の見出しの下に並んでいる。
脚注から読める内訳は次のとおり。
- Dario Amodei: 本人と信託の保有237,813,080株、60日以内に行使できるオプション2,185,400株、60日以内に確定する RSU 639,500株。これとは別に DAF から委任された4,621,120株を自分の判断で投票できる
- Daniela Amodei: 本人と信託の保有238,319,540株、オプション2,185,400株、RSU 639,500株に、配偶者のオプション130,550株と RSU 133,950株を含む
- Krishna Rao: 保有153,960株、オプション7,843,940株、信託を通じたオプション1,500,000株
- Narasimhan: Bodhi LLC の保有169,770株と RSU 6,280株
- Razavi: Spark Capital 関連ファンドの保有分は含まない。Razavi は実質保有を否認している
- 役員合計: 保有481,077,470株、オプション13,845,290株、RSU 1,438,050株
売出株主として並ぶ共同創業者5名は、全員が60日以内に行使できるオプション2,185,400株と、60日以内に確定する RSU 639,500株を持つ。違いは直接・信託での保有分だけである。5名とも Founder LLC の構成員である。
| 共同創業者 | 本人・信託の保有(株) | 保有の形 | 合計(株) |
|---|---|---|---|
| Tom Brown | 241,348,140 | 本人または信託(投資・議決の支配権を持つ) | 244,173,040 |
| Jack Clark | 239,446,940 | 本人または信託(投資・議決の支配権を共同で持つ) | 242,271,840 |
| Jared Kaplan | 239,526,270 | 本人または信託(投資・議決の支配権を共同で持つ) | 242,351,170 |
| Sam McCandlish | 228,984,880 | 信託のみ(投資・議決の支配権を共同で持つ) | 231,809,780 |
| Christopher Olah | 240,057,520 | 本人名義 | 242,882,420 |
Jack Clark は、Anthropic Public Benefit Fund の初代マネージャーの1人になる見込みだと脚注に書かれている(ガバナンスの節で触れた受託者の Shah も同じ役を務める予定)。
議決権比率の脚注では、比率は Class A 株と Class F 株の票だけで計算し、Class T・Class N・Class E は含めないとしている。Class F 株が50.1%を固定で持つため、各 Class A 株主の議決権は、上場前の比率の49.9%に縮めて表示するという。共同創業者の議決権比率には、Founder LLC が持つ Class F 株の議決権は含めない。
この章から読み取れること
ここからは筆者の解釈である。上の各節は原文の要約で、ここだけ区別して読んでほしい。
- 上場しても、一般株主が会社の行方を決める場面はほとんどない。取締役会の過半数は LTBT が、残りの席と株主総会の決議は50.1%を固定で持つ Founder LLC が押さえる。Class A 株主の票が効くのは、Founder LLC の多数がまとまらないときと、LTBT の仕組みを変えるときぐらいである。投資家は、議決権ではなく、この仕組みそのものへの信頼に対価を払うことになる。
- 創業者支配には終わり方が決めてある。継続創業者が3名を割った状態が90日続くと450日の移行期間に入り、その後 Class F 株と Class E 株は消える。株を手放した創業者は外れる(上場時保有の2%を下回ると脱退)。期限なしの複数議決権株とは設計が違う。一方で LTBT 側には自動で終わる条件がない。
- 従業員の Class E 株は、LTBT と創業者が対立したときの「第三の票」として置かれている。会社側の NGC が LTBT の人事に同意しない場面と、LTBT の権限を削る場面で、在籍期間に応じて株を持つ従業員の判断が加わる。
- 報酬の大きさは、給与より株式と警護費に表れている。Dario の2025年の「その他の報酬」4,010,641ドルのうち2,745,874ドルが警護費である。2026年には基本給が1,380,000ドルまで上がり、退職手当(基本給24か月分)と HSR 申請料の肩代わり(各250万ドル)が加わった。上場前の1年で、報酬制度が普通の大型上場企業の形へ急いで寄せられた様子が見える。
- 関連当事者取引に名前が出るのは、取締役の出身ファンドである Spark Capital がほとんどである。C-1 から H-1 までの6回の購入額を足すと776,999,282ドル(筆者による合算。約7.8億ドル)になる。これに対し、主要株主の表には Amazon や Google の名前がない。表の対象が「議決権付き株式の5%超」であることと関係している可能性があるが、この5章からは確かめられない。