AnthropicのS-1を読む⑤事業の内容(Business)
Anthropic, PBC が2026年10月26日に SEC へ提出した Form S-1(新規株式公開の仮目論見書)のうち、「Business(事業の内容)」章、目論見書の p.180–241 を原文の小見出しの順に要約する。
全体の結論を先に書く。
- 会社は自らを「何よりもまず研究所」と位置づけ、ミッション、人材と文化、フロンティア研究と安全性研究、コンピュートの調達方法、エンタープライズ戦略の5点を競争力の源泉に挙げる。
- 2026年9月30日時点で、直近12か月の売上が10万ドル以上の顧客は11,900社超(1年前は950社超)、Net Revenue Retention は約900%だった。
- 製品は「モデル」「Claude Platform」「アプリケーション」の3層で、Claude Code と Claude Cowork が中核にあり、7つの業界別ソリューションを持つ。
- コンピュートは AWS Trainium、Google TPU、NVIDIA GPU、AMD GPU を1つのプールとして使い、自前調達の「Anthropic Direct」へ広げている。契約上の支出総額は目論見書では空欄である。
- 輸出規制で主力モデルの提供が止まった事例、米戦争省(Department of War)による「サプライチェーン上のリスク」指定をめぐる係争、株価に連動して公益基金へ株式を追加拠出する枠組みなど、安全性・政府との関係・公益に関する記述が厚い。
- p.208–227 には AIG、Salesforce、Walmart など21社の顧客事例が1ページずつ(最後の1ページは2社)載っている。
シリーズの全体像は AnthropicのS-1を読む①総覧 を参照してほしい。原典は Anthropic, PBC Form S-1(SEC EDGAR) である。
概要(Overview)(p.180–181)
冒頭は「史上初めて、知能は人間が作れるものになった」という一文で始まる。会社は、AI の影響は産業化、電気、半導体、インターネットを上回ると見ている。

Anthropic は2021年に、AI の主要な成果を生んだ研究者たちが設立した。ミッションは「人類の長期的な利益のために、先進的な AI を責任をもって開発・維持すること」で、これを「Company Purpose」と呼ぶ。売上は「2023年第1四半期の商用化時点の0ドルから、2026年7–9月期に(目論見書では空欄)へ」と書かれ、Claude を「史上最速でエンタープライズに採用された技術」と表現している。普及は、Claude を改善する「改善ループ」と研究資金を生む「投資ループ」を回すという。
p.181 は5つのコア・アドバンテージの要約で、中身は p.187–190 で詳しく繰り返されるため、本稿ではそこで扱う。p.181 にだけ出てくるのはコンピュート関連の契約額で、3か所とも空欄になっている。
- 2026年9月30日時点およびその後に結んだ購入・リース契約(未開始のリースを含む)の支出総額は(目論見書では空欄)超で、ほぼ全部がコンピュートとインフラ関連。
- うち約(目論見書では空欄)が2030年12月31日までに発生し、残りのほぼ全部は2031年から2045年に発生する見込み。
- 今後12か月以内に支払期日が来るのは約(目論見書では空欄)。
同じ文は p.197 にも再掲されている。
エンタープライズでの Claude 採用(p.182)
2026年9月30日時点の顧客数を、TTM(直近12か月)の売上規模で区切ると次のとおりだ。
| 直近12か月の売上規模 | 顧客数 |
|---|---|
| 10万ドル以上 | 11,900社超 |
| 100万ドル以上 | 1,900社超 |
| 1,000万ドル以上 | 約250社 |
10万ドル以上の顧客のうち Claude Platform と自社アプリの両方を使う比率は、2025年10–12月期の約30%から2026年7–9月期の50%超に上がった。会社は3層を一体で作っている効果だと説明する。
顧客が得る価値は「従業員の生産性」「プロセスの高速化」「自社製品への知能の組み込み」の3つで、Claude は個々の指示に答える道具から、人と並んで複数ステップの仕事を専門家水準でこなす「Virtual Collaborator」へ移りつつあるという。
普及の多くは自然発生的で、営業と Applied AI チームが後押しする。Claude は AWS、GCP、Azure の3大クラウドすべてで使え、CSP(クラウド事業者)とは共同で販売しつつ、顧客との契約は Anthropic が直接結んで CSP に手数料を払う。チャネル間の競合を避け、価格を自社で決め、効率改善の利益を自社に残すための形だ。SI(システムインテグレーター)では Accenture、Deloitte、KPMG、PwC、データ基盤では Salesforce と Snowflake の名前が挙がる。
財務モデルの強み(p.183)
会社は強みを3つ挙げる。
- 売上の急成長:Net Revenue Retention(既存顧客からの売上の伸びを示す指標)は2026年9月30日時点で約900%。
- コンピュート効率:2026年4–6月期の売上は前年同期比1,368%増、コンピュート・インフラ費用は300%増。
- 業務効率:従業員1人あたりの直近12か月売上は、2026年9月30日時点で660万ドル超(1年前は140万ドル)。
| 指標 | 2025年4–6月期 | 2026年4–6月期 |
|---|---|---|
| 売上 | 7億8,700万ドル | 116億ドル |
| 営業利益率 | (152)% | 8% |
| 営業損益 | 12億ドルの損失 | 10億ドルの利益 |
| 調整後営業利益率 | (129)% | 19% |
| 調整後営業損益 | 10億ドルの損失 | 22億ドルの利益 |
2026年6月30日時点の累計資金調達額は1,411億ドル、現金及び現金同等物は1,124億ドル、短期投資は193億ドル。数年先の需要を予測して投資するリスクは認めつつ、コンピュート効率が高いので需要の上振れにも下振れにも耐えられるとしている。
自己強化ループと「closing the loop」(p.183–185)
本番利用から課題を学んで改善する「改善ループ」と、売上をコンピュート・研究・人材に再投資する「投資ループ」に加え、会社は Claude が次の Claude の開発を加速させる仕組みを「closing the loop」と呼ぶ。実験の実行、学習データの生成、評価や安全性監査の自動化、コードの記述とレビューに Claude が関わり、compute multiplier(同じ計算資源から多くの性能を引き出す改良)を生む速度が上がったという。

社内の数字は具体的だ。
- 仕様が曖昧で熟練者の判断が要る難しいエンジニアリング課題での成功率は、2026年9月に約90%。9か月で約50ポイント上がった(社内ベンチマーク)。
- エンジニア1人の1日あたり追加コード量は、2026年7–9月期に2024年通年平均の45倍超。
- 2026年9月のコードベースへの貢献の90%超を Claude が書いた。
- 2024年12月31日から2026年9月30日に人員は5倍超になったが、2026年7–9月期の売上は2024年10–12月期の86倍。
- 社内利用の定価換算額は2026年1月から9月に250倍超になり、2026年4月に月額で人件費(株式報酬を除く)を初めて上回った。
一方で、AI で AI を作ることが進歩を急加速させれば大きな安全上のリスクになるとして、責任あるスケーリング方針(RSP)で「再帰的自己改善」へのリスクを監視するとしている。
AI が知能を変える:Powerful AI とスケーリング則(p.185–186)
会社は数年以内に「Powerful AI」が広く使えるようになると見る。大半の専門分野でトップの専門家に並ぶ能力、人がリモートで使うあらゆるインターフェースの操作、数時間から数週間の自律作業、複数インスタンスや人との協働、実験装置やロボットの操作、の5つが特徴だ。
根拠に置くのがスケーリング則(規模・データ・計算量を増やすと性能が予測どおり上がる経験則)で、基礎論文『Scaling Laws for Neural Language Models』の主要著者(Dario Amodei、Jared Kaplan、Sam McCandlish、Tom Brown を含む)がのちに Anthropic を共同設立した。AI 需要は当面コンピュートの供給を上回り、その大半はフロンティアに集中すると会社は見ている。
認知労働をめぐる近い将来の機会(p.186)
会社が挙げる市場規模の数字は次のとおりだ。
- 世界の知識労働者が生んだ経済価値は2025年に40兆ドル超。
- IDC は、AI ソリューションとサービスへの投資が2031年までに累計22.5兆ドルの経済効果を生むと推計。
- IT 支出は2006年の約1.2兆ドルから2025年の4.3兆ドルへ、年平均約7%で伸び、その間にクラウド支出はゼロから1.9兆ドルになった(IDC)。
- 世界の GDP は2000年の約34兆ドルから2025年の118兆ドル超へ(世界銀行)。同じ期間に時価総額上位10社のテック企業の合計売上は680億ドルから2.5兆ドル超へ約38倍で、GDP の伸びの約11倍だった。
産業の作り替えと新たな発見(p.186–187)
対象として挙がるのは、ソフトウェア開発、ビジネス・専門サービス、サイバーセキュリティ、金融、ヘルスケアとライフサイエンスだ。最も重視するのはサイバーセキュリティで、コードベースを継続的に走査して脆弱性を仕分けし修正コードを書く Claude Security と、その機能をオープンソースへ広げる OSS Scanner がある。審査を通った防御側の専門家は、信頼アクセス制度で最上位モデルを使える。
ライフサイエンスでは、世界の医薬品支出が2026年に2兆ドルを超える見込み(IQVIA)とされ、Claude は顧客、バイオテックのパートナー、自社研究者の創薬に使われている。ロボティクスでは、顕微鏡や液体分注装置、市販のロボットアームを AI エージェントが操作できる「Model Hardware Standard」を進めている。
安全性と倫理的な振る舞いの重要性(p.187)
AI を使ったサイバー攻撃はすでに起きており、生物学分野の悪用はさらに大きな被害になりうる。権力と富の集中や、意図からずれた(misaligned)AI の自律的な行動もリスクに挙がる。そのうえで会社は、安全性とアラインメント(AI を人間の意図に沿わせること)は、重要業務の AI を選ぶ企業にとって決め手になっていると主張する。
5つのコア・アドバンテージ(p.187–190)
ミッションと集中(p.187–188)
会社はデラウェア州の PBC(Public Benefit Corporation、公益目的を定款に持つ営利法人)で、ミッションの推進を任された LTBT(Long-Term Benefit Trust、長期利益信託)を設けている。安全性の手法、モデル評価、RSP を公開するのは、透明性が信頼の前提だと考えるからだ。商業上の利益と安全性がぶつかった例として、2026年4月にフロンティアモデル Mythos を一般公開せず、Project Glasswing を通じて限られた組織にサイバーセキュリティ用途の研究プレビューとして出したことを挙げる。
人材と文化(p.188)
「人材の量より密度」を掲げ、創業チームはスケーリング則、GPT-2 と GPT-3、RLHF(人間のフィードバックによる強化学習)、メカニスティック解釈可能性(モデル内部の仕組みを解明する研究)を生んだ。2026年9月30日までの直近12か月で、引き留めたかった人材の離職は従業員全体の約1%だった。
フロンティア研究と安全性研究(p.188–189)
研究の進め方の利点は4点にまとめられている。モデル研究と推論インフラを同じ計画サイクルと目標で一緒に設計すること。事前学習では改良を小規模で検証し、規模を大きくしても効果が続く証拠を求めること。事後学習をエージェント能力のための主要な研究投資先にしたこと。安全性研究が、破壊的な操作の回避やプロンプトインジェクション(悪意ある指示を紛れ込ませる攻撃)への耐性という形で商業上の利点になること、である。
コンピュートへの取り組み方(p.189)
コンピュートは複数のパートナーから調達した1つの交換可能な(fungible)プールとして管理し、その時点で最も生産的な用途に回す。顧客向けの処理、研究、モデル開発、社内利用が同じインフラで動く。複数チップでの運用経験はまねしにくく、Claude の助けで新しいチップの導入時間は以前の数分の1になった。調達から稼働まで時間がかかるため、需要よりかなり前にコンピュートを確保し、納入前に支払うこともある。
エンタープライズ戦略(p.189–190)
最上位モデルは最も難しい問題のために作り、日常業務にはタスクの難しさに応じて思考量やモデルを振り分ける。ある能力の水準を超えた分野では、採用が試行から本番へ一気に進む。最初がコーディングで、次がサイバーセキュリティだという。カーネギーメロン大学の研究者が作った脆弱性悪用のベンチマーク ExploitBench のスコアは、約4か月で Opus 4.8 の40%から Claude Mythos 5 の78%、Opus 5.5 の91%へ上がった。
Virtual Collaborator としての Claude(p.190–192)
Virtual Collaborator は、組織から与えられたアクセス権と文脈を持ち、社内ツールを使って複数ステップの業務を進める AI だ。対象となる知識労働者は2028年に世界で10億人を超えると推計されている(IDC)。

最も分かりやすい形が Claude Code である。会社は、エンタープライズ AI にとって Claude Code の登場は最初に普及した対話型 AI アシスタントの登場に匹敵すると評価する。NASA のエンジニアが Claude Code で火星探査車 Perseverance の走行コマンドを計画・記述し、火星で初めて AI が計画した走行が実現した例も紹介されている。
Claude Cowork は Claude Code の仕組みを知識労働全般に広げたもので、ファイルを読み、アプリを操作し、デスクトップ上で業務を進める。2026年1月に研究プレビューとして公開され、2026年9月30日時点で、その普及の速さは2025年2月に研究プレビューを出した Claude Code の同じ経過時点を上回った。2026年9月から Claude.ai との統合を始めている。
会社は最終的に数百万の Virtual Collaborator が並行して働く状態を想定し、これを「データセンターの中の天才たちの国」と呼ぶ。
エンタープライズに選ばれる理由と Claude Platform(p.192–194)
企業は新しい最上位モデルが出るとすぐ使い始め、最も価値の高い仕事に最も高度なモデルを使う傾向があるという。Claude Platform は、ツール利用、コンピュータ操作、メモリ、拡張思考、長いコンテキストといったモデル能力の上に、Agent SDK、Claude Managed Agents、エージェントスキル、マルチエージェントの協調、企業のデータやツールにつなぐ共通規格 MCP(Model Context Protocol)を載せた構成だ。用途の違うエージェントも同じ部品で作れることが、業界をまたいだ拡大を支えるとしている。
アプリは、仕事の種類(Claude Code、Claude Cowork)、業界(7つの業界別ソリューション)、普段使うソフト(Claude for Microsoft 365、Claude in Chrome)の3つの軸で用意されている。
顧客の例として、Fortune 500 からは American International Group と Bristol Myers Squibb、研究機関からは Garvan Institute of Medical Research、Gladstone Institutes、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)が挙がる。Legora と Salesforce は Claude を使った AI 製品を数百万の最終利用者に届けている。
普及戦略:知能をあらゆる場所へ(p.194–195)
経路は4つある。使い始めた人が社内の推進役になる「知能主導の成長」、すでに広がった利用をもとに全社導入を進める直販チーム、一部の顧客に深く入り込んで仕組みを一緒に作る Applied AI チーム、そしてパートナーシップだ。パートナーシップの中身は次のとおり。
- クラウド:Amazon、Google、Microsoft が AWS、GCP、Azure で Claude をネイティブに提供し、各社の営業部隊も Claude を売れる。
- エコシステム:大手 SI が Claude 専門部門を作った。2026年3月に Claude Partner Network を立ち上げ、2026年に初期資金1億ドルを研修、技術認定、共同マーケティングに充てる。2026年9月30日時点で、4,000超の組織の15万人超が Claude Certification Program の認定を受けた。
- Claude Frontier Academy:2026年10月に1億ドルの拠出とともに開設。AI を本番運用へ持っていけるエンジニアの不足に対応し、2027年末までに1万人の育成を目指す。
- Ode with Anthropic:大手プライベート・エクイティ各社と立ち上げた AI サービス会社で、中堅企業に Claude を届ける。
前例のない財務モデル(p.195–197)
2026年9月30日時点で、直近12か月の売上が10万ドル以上の顧客には、Fortune 10 の全社、Fortune 500 の50%超、Global 2000 の30%超が含まれる。Fortune 500 の中では、ソフトウェア・IT サービス、インターネット、銀行の各上位10社すべて、製薬と半導体の上位10社のうち9社、ヘルスケア上位10社のうち8社が含まれる。
売上の急成長と顧客の拡大(p.195–196)
2026年10月31日時点の Run-Rate Revenue(ある時点の売上ペースを年換算した運営指標)は(目論見書では空欄)である。脚注では、GAAP(米国会計基準)の売上の代わりでも予測でもないこと、従量課金が大半なので変動しうること、規約違反で後に利用を止めた顧客の分も含まれうることが断られている。
拡大の例として、2026年7–9月期に Claude Code を使わない Claude Enterprise 利用者の支出は平均で月75ドル未満、Claude Code を使う利用者の上位5%はその約20倍だった。
タスクあたりのコストも下げている。2026年9月の Claude Fable 5.1 は典型的な作業で Fable 5 比約25%、複雑なコーディングやエージェント作業で最大45%下げた。同じ月の Opus 5.5 は Opus 5 比で約40%下げた。いずれも値下げと効率改善の組み合わせで、利益率は保ったという。過去には、2025年11月に Opus 4.1 より高性能で安い Opus 4.5 を出した後、売上の前四半期比成長率が2025年10–12月期の48%から2026年1–3月期の132%に加速した。会社は複数の要因が重なった結果だとしている。
コンピュート効率と業務効率(p.196–197)
コンピュート効率の根拠は、重要業務に組み込まれることによる高い継続率と収益化、複数パートナーにまたがる単一プールの柔軟さ、closing the loop の3点だ。業務効率では、2026年9月30日時点の従業員約5,300人、1人あたり直近12か月売上660万ドル超を示し、従来型の大規模な営業部隊だけに頼らないことを挙げる。
長期投資の考え方(p.197)
2026年4–6月期の前年同期比で、売上1,368%増、コンピュート・インフラ費用300%増、その他の営業費用741%増、営業利益率は(152)%から8%、調整後営業利益率は(129)%から19%になった。コンピュート関連の契約総額の3つの空欄は、ここでも p.181 と同じ文で繰り返されている。
成長戦略(p.197–199)
成長戦略は7本の柱からなる。
- 人材と文化:人材密度を保ち、Claude を使って人員を売上に比例させずに伸ばす。
- コンピュート:既存契約を超えて確保し、自社データセンターの規模を広げ、コスト構造を改善する。
- Claude の知能・能力・安全性:自律作業の複雑さと時間を伸ばし、専門分野へ広げる。
- あらゆる場所での提供:入口は Claude Code、Claude Cowork、Claude.ai、Claude Security、Claude Design、Claude Science、AWS・GCP・Azure のマーケットプレイス、企業向けアプリへの組み込み。
- 既存・新規顧客への浸透:直販と Applied AI を増やし、海外展開を成長の大きな要因と見込む。
- 新しい市場:ライフサイエンスで業界の専門家を採用し、分子生物学の実験室を作り、Coefficient Bio を買収した。
- 戦略的な取引と提携:2026年4月に計算生物学の会社 Coefficient Bio, Inc. の買収を完了した。
モデル、プラットフォーム、アプリケーション(p.199–205)
研究チームと製品チームが隣り合って働くので、今の能力ではなく、これから来る能力に合わせて製品を作れると会社は言う。Claude Code はモデルが獲得すると見込んだコーディング能力に合わせて設計され、能力が追いついたときに急拡大した。

Claude モデルファミリー(p.200)
4つのクラスがあり、すべてテキスト、コード、マルチモーダルの入力に対応する。
| クラス | 位置づけ |
|---|---|
| Mythos(Fable を含む) | 最上位。特にコーディングと長時間のエージェント作業に強い |
| Opus | 推論の多い仕事の主力。最新の Claude Opus 5.5 は企業の日常使いのモデル |
| Sonnet | 性能・コスト・速度のバランス型。マルチエージェントのサブエージェントにも使う |
| Haiku | 最安・最速。カスタマーサービスや大量の文書処理向け |
Mythos クラスは、脆弱性発見や生物学の能力が高いため、同じ基盤モデルを2つの設定で出している。一般提供版の Fable は、機微な話題で応答を止めたり、能力の低いモデルへ処理を回したりする安全策付きで動く。Mythos は審査を通ったサイバーセキュリティとライフサイエンスの組織・個人向けに、Cyber Verification Program などの信頼アクセス制度で提供する。2026年4月に Claude Mythos Preview を Project Glasswing で初提供し、6月に Fable 5 を一般提供して Mythos 5 を Glasswing 参加者に提供、9月に Mythos 5.1 と Fable 5.1 を出した。
Claude Platform の機能(p.201–202)
| 機能 | 内容 |
|---|---|
| Extended Thinking / Adaptive Thinking / Effort Controls | 回答前の追加推論、その要否と量の自動判断、リクエストごとの推論量の指定 |
| Tool Use | 外部の関数や API を呼ぶ。並列実行に対応し、必要なツールだけを読み込む |
| Long Context / Structured Outputs | 大量の入力を扱い、応答を JSON などの形式に固定する |
| Code Execution | 隔離環境でコードを書いて実行する |
| Web Search / Files API | 引用付きの Web 情報、一度アップロードした文書の再利用 |
文脈をつなぐ仕組みとして、2024年11月に会社が発表し2025年12月に Linux Foundation の Agentic AI Foundation へ寄贈した MCP、業務知識を再利用できる形にまとめる Agent Skills(Word、Excel、PowerPoint、PDF 用を提供)、研究プレビュー中の Model Hardware Standard がある。
コスト面では、Prompt Caching で繰り返し使うプロンプトを最大1時間キャッシュでき、長いプロンプトではコストを最大約97%、遅延を約60%減らせる。ほかに Batch Processing と Fast Mode がある。エージェントを本番で動かす実行基盤(ハーネス)は2通りで、Claude Code と同じハーネスを顧客のコンピュートで使う Agent SDK と、会社のコンピュート上で会社が運用する Claude Managed Agents がある。
直接提供するアプリケーション(p.202–204)
| 製品 | 内容 |
|---|---|
| Claude Code | ターミナル、デスクトップ、Web、モバイルで使うコーディングエージェント。並列セッションで複数の作業を同時に進める |
| Claude Cowork | 知識労働エージェント。ファイル、アプリ、Chrome、デスクトップを操作し、文書や表計算を仕上げて返す |
| Claude.ai | 主力の対話型製品で、企業導入の入口。2026年9月から Cowork と統合中 |
| Claude Security | Claude Enterprise 顧客向けの公開ベータ。パターン照合型が見落とす脆弱性を見つけ、Claude Code で修正を適用できる |
| Claude Tag | Slack などで Claude をタグ付けして仕事を頼む協働エージェント |
| Claude Design | 会話と直接編集でデザイン、試作、プレゼン資料を作る |
| Claude Science | 60超の科学データベースを使い、論文用の図と原稿、再現可能なコードを返す研究用の作業台 |
これらは Claude Enterprise から使え、シングルサインオン、役割別のアクセス制御、監査ログ、Compliance API、HIPAA(米国の医療情報保護法)対応を支える設定を備える。2026年9月に発表した Enterprise Frontier Safeguards は、安全監視用の利用データを顧客自身のクラウドに顧客の暗号鍵で保存し、自動システムが深刻な悪用を検知して顧客に直接通知する仕組みだ。Anthropic の従業員による確認は不要で、100社超の顧客と開発した。段階展開が終わるまで、対象顧客は Fable 5 と Fable 5.1 でゼロデータ保持(入出力を処理後に保存しない)を受けられる。
業界別ソリューション(p.204–205)
これまでに7つを出している。
| ソリューション | 主な内容 |
|---|---|
| Claude for Financial Services | ピッチブック作成、決算確認、本人確認(KYC)などのエージェント。Excel や Outlook の中で動く |
| Claude for Financial Advisors | 顧客面談の準備やリバランス確認。各業務にアドバイザーの確認を組み込む |
| Claude for Healthcare | 臨床推論と医療コーディング。ICD-10 や NPI Registry に接続 |
| Claude for Life Sciences | 早期探索から臨床試験、承認申請までを支える |
| Claude for Legal | MCP で Relativity や Ironclad などにつながる |
| Claude for Education | 大学向けと、米国の K-12 教員に無償提供する Claude for Teachers |
| Claude for Government | FedRAMP High(米政府クラウドの最上位区分の認証)の環境で米政府機関に提供 |
インフラ:マルチチップとデータセンター(p.205–207)
チップ基盤ごとの調達相手は次のとおりだ。
| チップ | 調達の相手と内容 |
|---|---|
| AWS Trainium | Amazon との戦略的協業。次世代 Trainium の設計にも関与できる |
| Google TPU | Google と Broadcom との提携。複数世代の TPU |
| NVIDIA GPU | NVIDIA との戦略的提携と、Microsoft、SpaceXAI、Nscale、Lambda などとの契約。Grace Blackwell と Vera Rubin を含む |
| AMD GPU | AMD との関係と、Helios ラック規模システムの認定メーカーなどとの契約。AMD Instinct MI450 Series を含み、複数年のエンジニアリング協業を行う |
以前は期間を決めてクラウドとしてコンピュートを買っていたが、現在はそれに加えて、AI アクセラレータを直接調達し、自社の仕様で借りて運営してもらう専用データセンターで動かす混合型に移っている。会社はこれを「Anthropic Direct」と呼び、最初のデータセンターは今年稼働した。準備期間は長いが費用全体に占める割合が小さいデータセンター容量を早めに押さえ、金額の大きいアクセラレータ投資は必要量がはっきりするまで後に回せるのが利点だという。
契約は3種類ある。アクセラレータと CPU、HBM(広帯域メモリ)などは、2026 Lease Arrangement を含むマスター機器リースで調達する。データセンターは、外部パートナーが土地・電力・施設を用意して会社が容量を借りる形が中心で、例として Fluidstack USA I Inc. とのコロケーション・サービス契約がある。一部の開発案件では資金提供者やパートナーがリース債務を保証しており、今後の拡大は限られた数の CSP、パートナー、資金提供者に左右されうると会社は書く。電力は電力会社との契約か、送電網を介さない「behind-the-meter」の発電設備が必要になる。案件は現在主に米国にあり、海外でも確保を進めている。
Claude は Amazon Bedrock、Gemini Enterprise Agent Platform、Microsoft Foundry の3大クラウドの AI サービスで使える(p.207)。
顧客(p.207)
本番の重要業務の例として、保険の引き受け審査、医薬品の臨床報告書の作成、サイバー脅威の検知と対処、資産運用のポートフォリオ分析が挙がり、規制業種で特に深く採用されているという。顧客は大きく、エンタープライズと prosumer(個人のプロ利用者)に分かれる。
エンタープライズでは、ソフトウェア開発者が顧客であり、アプリの設計者であり、全社導入の推進役でもあると位置づけられる。prosumer は Claude Pro と Claude Max を契約する研究者、開発者、アナリストなどで、新モデルを公開から数時間で試し、社内に広める「上流の需要を生むエンジン」だという。
顧客事例(p.208–227)
p.208–227 は画像だけのページで、1社1ページの顧客事例が並ぶ(最後のページは小規模事業者2社)。各ページは「Customer since(利用開始年)」、Results 欄、Background、Impact、経営者などの引用で構成されている。
次の表は、21社それぞれの業種と利用開始年、導入した製品、Results 欄の数字(画像の表記のまま、括弧内に意味)、引用者をまとめたものである。
| 会社(業種、利用開始) | 導入した製品 | Results 欄 | 引用者 |
|---|---|---|---|
| Accenture(プロフェッショナルサービス、2025年) | Claude Code、Claude Enterprise、Claude を推論エンジンに使う Cyber.AI | 45,000(Anthropic の研修を受けた専門職)/10% → 80%(Cyber.AI によるセキュリティスキャンのテストカバレッジ)/7x(共通顧客の大手ブロードバンド事業者が報告した AI 投資リターン) | Julie Sweet(Chair and CEO) |
| AIG(保険、2023年) | Underwriting by AIG Assist、Claims by AIG Assist | 8(Claude を使う事業ライン)/Lexington の Middle Market Property 事業で +30%(見積もり件数)、-55%(見積もりまでの時間)、+40%(成約件数)。いずれも2026年3月31日時点 | Eric Andersen(President & CEO) |
| Bristol Myers Squibb(製薬、2023年) | Claude Enterprise(2026年5月に全社の AI 基盤に採用)、Claude Code、MCP 連携 | 30,000+(Claude を使える従業員。全員)/Dozens(MCP でつないだ社内データソース。数千を追加検討中)/~2 mo → ~5 min(リアルワールドエビデンスの問いに答える時間) | Greg Meyers(EVP and Chief Digital and Technology Officer) |
| DoorDash(地域商取引プラットフォーム、2023年) | Claude Code、Claude Cowork | 100%(Claude Code と Claude Cowork を全社員が利用可能)/7,000+(Cowork の月間利用者)/-50%+(主要製品のローンチ期間) | Andy Fang(Co-Founder) |
| International Rescue Committee(人道支援団体、2025年) | Claude for Nonprofits | 8x(Claude 利用者の伸び。2025年12月〜2026年5月)/20.5M+(2025年に40か国で支援した人数)/464(毎週取り戻したスタッフの時間) | Katherine Rodrigues(Senior Director, Policy & Planning) |
| Jane Street(トレーディング会社、2023年) | Claude 3.7 Sonnet 以降のモデル、Claude Fable | +32%(社内のエージェント型コーディング評価での Fable 5.1 の Fable 5 比)/~1 week(大規模コードベースの移行時間。従来は数か月) | Craig Falls(Head of Quantitative Research, Jane Street Capital) |
| Legora(法律家向け AI、2024年) | 自社プラットフォームの推論層、Claude Enterprise、Claude Code | 1,500+(顧客の法律事務所・企業法務チーム)/4.3(31事務所の独立調査で、弁護士1人が毎週取り戻した非請求時間)/100%(Claude Enterprise の社員アクセス)/14x(Claude Code の伸び。約50→700) | Jacob Lauritzen(CTO) |
| Eli Lilly(製薬、2024年) | Amazon Bedrock 経由で利用開始、Claude Enterprise、Claude Science(試行中) | 50,000+(Claude Enterprise を使える従業員)/5x(展開開始からの拡大)/>85%(主要部門で Claude を積極的に使う従業員) | Diogo Rau(EVP and Chief Information and Digital Officer) |
| Mercado Libre(中南米の EC・フィンテック、2023年) | Claude Code、Claude Cowork | >100%(マージされたコードの前年比)/500,000+(過去1年に自律的にレビューしたコード提出)/78%(Cowork を毎週使う非技術部門の比率) | 個人名なし(社名のみ) |
| Mozilla(Firefox の開発元、2025年) | Claude Code、Claude Opus 4.6、Claude Mythos Preview | 22(Opus 4.6 が見つけ、Firefox 148 までに修正した脆弱性)/271(Mythos Preview が見つけ、Firefox 150 までに修正した脆弱性) | Bobby Holley(Firefox の CTO) |
| PayPal(デジタル決済、2025年) | Claude Enterprise、Claude Code、社内 MCP サーバー、Claude で作った分析基盤 AMOS | 12,000+(Claude Enterprise の月間利用者)/45 min(営業担当1人が毎週節約した平均時間) | Anshu Bhardwaj(Chief AI Transformation & Simplification Officer) |
| Rakuten(インターネット・EC、2024年) | Claude Code、Claude Managed Agents | 70+(AI を使う事業)/99.9%(複雑なコード修正の正確さ)/7+ hrs(自律コーディングの時間)/24→5 days(新機能の市場投入までの営業日数) | Yusuke Kaji(General Manager, AI for Business) |
| Salesforce(業務ソフトウェア、2023年) | Claude Code、Claude Enterprise、Slackbot、Claude Tag、Agentforce 360 | +151%(開発者1人あたり実効アウトプットの前年比)/18x faster(API 移行。231日分の作業を13日で)/2x(生産性向上の前四半期比。年換算で推定810万時間)/99%(Slackbot を使う社員) | Marc Benioff(Chair & CEO) |
| SAP(企業向けアプリケーション、2023年) | Business AI Platform と Joule に Claude などのモデルを組み込み | Up to 14% faster(Joule for Consultants によるプロジェクトの納期)/25 hrs(コンサルタント1人が毎月節約した時間) | Christian Klein(CEO, SAP SE) |
| Shopify(コマース基盤、2024年) | 加盟店向け AI アシスタント Sidekick(Claude はそのモデルの1つ)、Claude Code | Millions(AI が支援する加盟店)/3x(Sidekick を使う日次アクティブ加盟店の前年比、2026年)/7,500+(Claude Code を使う社員) | Tobi Lütke(CEO) |
| Travelers(保険、2024年) | Claude のアシスタント、Claude Code | Nearly 25k(Claude のアシスタントを使う従業員)/-50%(コードのマージまでの時間) | Mojgan Lefebvre(EVP, Chief Technology & Operations Officer) |
| UST(デジタル変革支援、2023年) | Claude Code(Opus 4.8)、UST CarePath、UST IntelliOps、UST FinX | 20,000(Claude の研修を受ける社員)/50–70%(チップ検証サイクルの短縮)/4 → 2 days(標準的な検証の所要日数) | Krishna Sudheendra(CEO) |
| Verizon(通信、2023年) | Claude Code、Project Glasswing で Claude Mythos を試験 | 33,000+(Claude Code を使うエンジニア) | Yago Tenorio(SVP and CTO) |
| Walmart(小売、2024年) | AI ショッピングエージェント Sparky(Claude Sonnet 4.6 など)、開発者向けエージェント WIBEY | 110%(Sparky の週間利用者の前四半期比の伸び)/+35%(Sparky 経由の平均注文額。経由しない注文との比較)/2x(Sparky 経由の販売点数の前四半期比) | Daniel Danker(EVP AI Acceleration, Product & Design) |
| Shy Bird(ボストンの飲食店、利用開始年の記載なし) | Claude、Claude で作った飲食店向け基盤 Colette | 60%+(ブランチの提供時間の短縮。12分に)/60(Colette を使う飲食店)/6 months(給仕係が Colette の専任バックエンドエンジニアになるまで) | Eli Feldman(Partner) |
| KBF Design Gallery(フロリダ州オーランドの内装・リフォーム、2025年) | Claude Code、Claude Cowork | 490 hrs(従業員1人が年間で取り戻した時間)/7 hrs(契約範囲の文書作成で1件あたり削減)/70(AI の支援で年間に設計した案件) | Adam Vellequette(Co-Owner) |
利用開始年は2023年が9社、2024年が6社、2025年が5社(KBF は本文の記述による)で、Shy Bird だけ記載がない。業種は保険、製薬、小売、通信、金融から人道支援団体、地域の飲食店までにわたる。Mozilla の事例では、2週間の評価で Claude Opus 4.6 が Firefox の重要なコードから未知の脆弱性22件(うち14件が高深刻度)を見つけたと書かれている。Salesforce と SAP のページには、それぞれが Anthropic の発行済株式の1%未満を(転換後ベースで)実質的に保有しているとの脚注がある。
Claude が顧客にもたらす価値(p.228)
Claude Code の普及は、企業の調達部門がこの分野を検討する前に、個人の開発者から始まったという。価値は「従業員の生産性」から「プロセスの高速化」、さらに「自社製品への組み込み」へと深まる。新しいモデルが既存用途の性能を上げるため、拡大の多くは新たな営業や調達手続きを必要としない。会社は、大半の企業はまだ一部のチームにしか展開しておらず、世界の知識労働者の多くはフロンティア AI を使っていないと見ている。
文化、価値観、人材(p.229–230)
7人の共同創業者は全員が今も経営に関わっている。文化の特徴は、自社製品を使い倒すこと(2026年9月のコード貢献の90%超を Claude が作成)、安全性の評価を能力の閾値に結びつける正式な RSP をフロンティア AI 研究所として初めて採用したこと、人材密度の重視(従業員は社内で「Ants」と呼ばれる)、全部門での厳密さの4点だ。
価値観は7つで、Act for the Global Good、Hold Light and Shade、Be Good to Our Users、Race to the Top on Safety、Do the Simple Thing That Works、Be Helpful, Honest, and Harmless、Put the Mission First である。
2026年9月30日時点の従業員は世界で約5,300人で、過半が研究、エンジニアリング、製品開発に従事する。RLHF、Constitutional AI、GPT-2 と GPT-3、メカニスティック解釈可能性を生んだ研究者や、スケーリング則の論文の著者がいる。哲学、ジャーナリズム、教育など AI 企業としては珍しい経歴の人材も採る。国によっては産業別の労働協約が従業員に適用される。
研究所としての自己認識と研究から製品への流れ(p.230–231)
研究の原則は「うまくいく単純なことをやる」だ。ソフトウェア開発とエージェント能力に集中するのは、経済効果が大きく、安全上の懸念が現れ、出力を検証しやすいからだという。逆に、商業的な魅力はあっても動画・画像生成モデルの開発には現在注力しておらず、その分のコンピュートをコーディング、エージェント能力、安全性研究に回している。
研究から製品への流れは、事前学習(小規模で検証してから大規模学習に入れる)、事後学習(実際の専門業務に近い課題で実用性を磨く。課題の蓄積は外から見えにくくまねしにくい優位だとする)、推論(モデル構造と推論インフラを一緒に設計する)の3段階で説明される。
安全性研究は事業の中核(p.231–235)
RSP は破局的リスクへの対応を定め、モデルごとの評価とリスク報告書の定期公表を求める。現行版では「Frontier Safety Roadmap」も公開している。過去には公開の延期や提供範囲の制限(Project Glasswing での Mythos の限定公開など)を行った。
Claude には、AI のあるべき姿を記した「憲法(constitution)」があり、学習に直接使われる。質の高い憲法文書と、意図に沿う AI を描いた架空の物語で学習させると、意図からずれる率が下がったという。優先事項は、Be Broadly Safe、Be Broadly Ethical、Be Compliant with our Guidelines、Be Genuinely Helpful の4つだ。
公開前には能力、安全上の振る舞い、偏りを含む社会的影響を多段階で評価し、結果をシステムカードに記録する。学習データは、インターネット上の公開情報、第三者からのライセンスや委託によるデータ、自社モデルが作った合成データなどだ。AI マネジメントシステムの国際規格 ISO/IEC 42001 の認証を第三者監査で取得し、米国の CAISSI(Center for Advancing Innovation and Standards for Super Intelligence)と英国 AI Security Institute に公開前のアクセスを提供している。
アラインメントでは、業界でサンドボックス制限の回避や作業完了の偽りなどが観察されているとしたうえで、社内評価では新しいモデルほど改善したという。解釈可能性では、モデルは「作られるのではなく育つ」ため内部の解明が必要だとする。安全策では、入出力を監視する分類器、プロンプトインジェクション対策、深刻な場合のアカウント停止、バグ報奨金制度を持つ。
公開判断は案件ごとで、学習の中断、公開の延期、アクセス制限もありうる。2026年4月の Mythos は限定的な研究プレビューにとどめ、その後の Fable 5 はサイバーセキュリティ、生物学、化学の一部の能力に制限をかけて一般公開した。
会社は各社が安全性で競う「race to the top」を掲げる。2023年9月に RSP 初版を公表した後、数か月以内に他の大手研究所2社が似た枠組みを採用した。さらに、AI で AI 開発を加速することに業界共通の基準を設ける「pacing the frontier」を呼びかけている。これは政府と協力する構想で、自社の公開日程を示すものではないと断っている。その第一歩として独立した評価者が社内に入る仕組みを始め、今後5年間で少なくとも10億ドルを投じて Accenture と外部レビュー体制を作る見込みだ(条件は未確定)。Project Glasswing を通じてサイバー防御関連の取り組みに最大1億ドルを拠出すると約束している。
公益へのコミットメント(p.235–236)
社会への影響の調査として、8万人超が AI について語った多言語の定性調査、公開データセット「Anthropic Economic Index」、社内の研究とデータを外部と共有する Anthropic Institute がある。資源の配分は次のとおりだ。
- Initial Public Benefit Issuance:Class N 普通株式846,840,960株を全額子会社の Anthropic Public Benefit Fund に拠出した。2026年6月30日時点の完全希薄化後株式数(Amazon Notes の全額転換を仮定)の5%にあたる。
- 株価連動の追加拠出:IPO 価格を起点に株価が前回の基準から50%上がるたびに、発行済株式(潜在株式などを含む)の最大2%分の Class N 株式を追加発行できる枠組みを取締役会が承認した。到達条件は、直近120営業日のうち90日以上で終値が閾値を上回り、発行前10営業日の平均終値も上回ること。実施は取締役会の裁量である。
- 基金の当初の管理者は Dario Amodei、Daniela Amodei、Jack Clark、Dr. Neil “Buddy” Shah。
- 従業員の寄付を Class N 株式で上乗せする寄付マッチング制度がある。
- 共同創業者はそれぞれ、個人で持つ Anthropic 株式の80%を慈善に充てると誓約している。
競争(p.236–238)
競争相手は3層で説明される。第1はモデル開発会社で、OpenAI と Google、フロンティアを目指す大手テック企業に加え、国家主体や研究機関が出すオープンウェイト(重みを公開する)モデルも含む。第2は企業向けソフトウェア会社で、自社アプリを増やせば一部の分野で競合しうる。第3は現状維持で、古いシステムや業務手順に根ざした組織の抵抗が普及の障害になる。会社は、ミッションへの集中、フロンティアにとどまる力、研究人材、コンピュートへのアクセス、資金調達など13の競争要因を挙げ、すべてで優位に競争できているとしている。
知的財産(p.238)
2026年9月30日時点の件数は次のとおりだ。
| 区分 | 米国 | 米国外 |
|---|---|---|
| 登録済み特許 | 40件 | 26件 |
| 出願中の特許 | 67件(本出願32件、仮出願35件) | 12件 |
| 登録済み商標 | 29件 | 237件 |
| 出願中の商標 | 11件 | 261件 |
政府規制(p.238–241)
会社は政府機関からの照会、調査、召喚状を受けてきたと書く。規制づくりへの関与として、CAISSI と公開前後のモデル試験に関する契約を結び、英国 AI Security Institute にも同趣旨のアクセスを約束し、カリフォルニア州のフロンティア AI 透明性法(SB 53)を公に支持した。
AI 規制では、米国の NIST AI Risk Management Framework(現在は任意)、FTC と州司法長官による消費者保護法の運用が挙がる。2026年9月24日には、ニューヨーク州とニュージャージー州を含む州・準州の司法長官の連合が、フロンティア AI の連邦法整備を求める書簡を米議会指導部に送った。EU AI Act は汎用 AI モデルに透明性や学習データ概要の公表を、システミックリスクのあるモデルに評価や重大インシデントの報告を求める。会社は、自らが支持する規制が採用されれば開発の自由度が下がり成長が鈍る可能性も認めている。
プライバシーでは CCPA、EU と英国の GDPR、EU のデジタルサービス法、データ法、NIS 指令が挙がる。
輸出管理は実害が出た分野だ。2026年6月、米商務省は Fable 5 と Mythos 5 に全世界を対象とする輸出制限を課した。会社は米政府や業界パートナーと安全策を更新し、制限の解除後に両モデルの提供を再開した。同様の制限が再び課されれば、採用、モデル改善、海外提供が制約されうるとしている。そのほか、特許・著作権、労働法、競争法、消費者保護、税務、FDA などヘルスケア関連の規制も挙げられている。
施設(p.241)
本社はカリフォルニア州サンフランシスコで、欧州とアジア太平洋にオフィスがある。米国でデータセンターを借り、米国の計算インフラ拡大に数十億ドル(原文は billions)を投じると約束している。オーストラリアとカナダでもデータセンター容量のリースを結んだ。
訴訟(p.241–243)
会社は知的財産、労働、競争、データプライバシーなどの訴訟に関わっているか、今後関わりうる。詳細は財務諸表の注記13「Legal Matters」に譲られる。
知的財産をめぐる訴訟
モデルの学習に著作物を使ったことを理由とする著作権侵害訴訟が、米国内外の裁判所で相次いで起こされている。代表例が Bartz で、2024年8月に著作者のグループが、モデルの構築と運用の過程で著作権のある書籍を違法に複製したとして集団訴訟を起こした。会社は不正を否定しつつ、2025年9月に15億ドルで和解する合意を結び、2026年7月に連邦地裁が承認した。会社は各訴訟に正当な抗弁があるとしているが、防御や和解の費用、経営資源の分散が業績に響きうると認めている。
米政府による「サプライチェーン上のリスク」指定
会社は、自社の技術を国内の大規模監視や完全自律型兵器に使うべきではないと公に表明してきた。これを受けて2026年2月、米大統領は全連邦行政機関に Anthropic の技術の使用停止を指示したと述べた。同時に Secretary of War(戦争長官)は Department of War(戦争省)に対し、Anthropic を「国家安全保障上のサプライチェーンのリスク」に指定するよう指示し、米軍と取引する請負業者、供給業者、パートナーは即時に Anthropic と商取引をしてはならないと表明した。2026年3月4日には戦争省が、10 U.S.C. § 3252 と FASCSA(連邦調達のサプライチェーン安全に関する法律)第4713条に基づく2通の書簡で、会社のモデル、プラットフォーム、アプリケーションがサプライチェーン上のリスクだと主張した。目論見書はこれらをまとめて「Challenged Actions」と呼ぶ。
会社はカリフォルニア北部地区連邦地裁と D.C. 巡回区控訴裁判所で争っている。経過は次のとおりだ。
- 連邦地裁:まず、戦争省の指示と第3252条による指定、および大統領指示の実施を、判決確定まで差し止める仮差止命令を得た。2026年8月27日には、会社の主張をおおむね認める略式判決を得た。裁判所は、Challenged Actions は合衆国憲法修正第1条で保護される言論を罰するための報復で、修正第5条の適正手続条項にも反すると判断した。戦争長官の行為、特に第3252条に関する行為は、法定権限を超え、法に反し、恣意的であるとして、行政手続法(Administrative Procedure Act)に違反すると判断した。終局判決もおおむね会社側の勝訴となり、被告側は仮差止命令について控訴した。
- D.C. 巡回区控訴裁判所:第4713条による指定について、本案審理までの執行停止を求めた会社の申立てを退けた。2026年9月25日には2対1の判断で会社の審査請求を棄却し、第4713条による指定は適切で、修正第1条と修正第5条の権利の侵害もないとした。会社は控訴裁判所の全裁判官による再審理(en banc)を申し立てている。
会社は最終的な結果を予測できないとしている。政府機関との協力は続けているものの、これらの訴訟の決着が、政府機関や米政府に製品・サービスを売る顧客への販売に悪影響を与えないとは言い切れないと書いている。
この章から読み取れること
ここからは筆者の解釈で、上の要約とは区別して読んでほしい。
- 成長の数字と投資の数字で開示の濃さが違う。売上の伸び、NRR 約900%、1人あたり売上は細かく出ているが、コンピュートとインフラの契約総額、2030年までの発生額、今後12か月の支払額はいずれも空欄で、2031〜2045年に及ぶ長期の約束であることだけが分かる。正式な目論見書で埋まる数字を待つ必要がある。
- 「closing the loop」が事業の説明の中心にある。コードの90%超を Claude が書き、社内利用の定価換算額が人件費を上回ったという開示は生産性の根拠として使われている。同時に会社は、AI による AI 開発の加速をリスクとして挙げ、「pacing the frontier」を提案している。成長の原動力とリスクの源が同じ仕組みだと、会社自身が書いている。
- 安全性が商品設計に組み込まれている。Mythos と Fable という同じ基盤モデルの2つの提供形態や Enterprise Frontier Safeguards は、能力をどこまで出すかを顧客ごとに変える仕組みだ。2026年6月の輸出制限の事例は、政府の判断で主力製品の提供が止まりうることを示している。戦争省によるサプライチェーン上のリスク指定は、連邦地裁では会社が勝ったが控訴裁判所では指定が支持されており、政府向けとその取引先向けの販売に残る不確実性として注視する必要がある。
- コンピュートは「借りる」から「持つ」へ広がりつつある。4系統のチップを1つのプールで使い、Anthropic Direct でデータセンター、アクセラレータ、電力を別々に手当てする段階に入った。ただし、限られた数の CSP、パートナー、資金提供者に依存する構造だと会社は認めている。
- PBC としての性格が株式の設計にまで及んでいる。完全希薄化後の5%を公益基金に拠出し、株価が50%上がるたびに最大2%を追加できる枠組みは、株価の上昇が追加の希薄化につながりうる設計でもある。株主にとっての意味は、ガバナンスやリスク要因の章とあわせて読む必要がある。
原典の画像:顧客事例20ページ(p.208–227)
顧客事例のページは S-1 に画像だけで載っている。上の顧客事例の表と照らし合わせられるよう、20ページをそのまま掲げる。



















