AI半導体のTAMは誰がどう出しているか|NVIDIAは年3〜4兆ドル、Samsungは金額を出さない。同じ「TAM」の一語で3つの別物が語られている

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AI半導体のTAMは誰がどう出しているか

別の2本で、AMDが2030年のサーバーCPU市場を8か月で3回引き上げた話と、MicronがHBM 1000億ドルの到達年を2年前倒しした話を書いた。

どちらも「自社で市場規模を推計し、それを上方に書き換える」という同じ形をしていた。では他の会社はどうしているのか。NVIDIA、Marvell、Broadcom、SK hynix、Samsungの発言を一次資料まで当たって並べたところ、TAMを出すこと自体は業界の標準的な作法だが、同じ「TAM」の一語で3つの別物が語られていることが分かった。

この記事の結論

  • TAM発表は珍しくない。ただし数えている対象が3階層に分かれている。業界全体の設備投資(NVIDIA: 年3〜4兆ドル)、製品カテゴリの市場(AMD 2200億ドル、Micron 1000億ドル、Marvell 940億ドル、Broadcom 600〜900億ドル)、自社の売上と受注(Broadcom 1000億ドル超、NVIDIA 5000億ドル)である。
  • 最も大きい数字を出しているのはNVIDIAで、桁が2つ違う。ただしNVIDIAが数えているのは自社製品の市場ではなく、その上流にある買い手の財布そのものである。
  • メモリ3社の姿勢は3通りに割れている。Micronは金額と年を置くSK hynixは率だけを出す(2030年まで年30%)。Samsungは金額をいっさい出さない
  • 金額が大きい数字ほど、契約の裏づけがない。兆ドル級はすべて自社モデルの推計で、外から履行を確認できる数字(Broadcomの受注300億ドル超、Micronの長期契約1000億ドル)は数百億ドル台に収まる。
  • そして今回調べた範囲では、AI関連TAMの下方修正が1件も見つからなかった。AMDは3回上げ、Micronは2年前倒し、Marvellは750億→940億ドル。SK hynixにいたっては自分の予想を「保守的な数字」と呼んでいる。

3つの階層

AI半導体各社が発表する市場規模の3階層。業界全体の設備投資、製品カテゴリの市場、自社の売上・受注の順に輪が小さくなる
図1: 同じ「市場規模」でも数えている輪の大きさが3段ちがう。外側ほど金額は大きく、そのぶん自社の売上からは遠くなる

① 業界全体の設備投資 — NVIDIA

NVIDIAは、AIインフラへの投資額が2029〜2030年に年3〜4兆ドルになるという見方を示している。CFOのコレット・クレスが決算コールなどで繰り返し述べているもので、ジェンスン・フアンも同じ数字を使っている。

これは自社製品の市場規模ではない。データセンター、電力、ネットワーク、サーバーを含めた買い手側の支出全体である。だからAMDやMicronの数字より2桁大きい。「NVIDIAのTAM」と「AMDのTAM」を並べて比較しても意味がないのは、数えている対象がそもそも違うからになる。

同社はもう1つ別種の数字も出している。Blackwell と Rubin について、2025年初から2026年末までに5000億ドルの売上の見通し(visibility)があるというものである。こちらは自社の売上の話で、③に属する。

② 製品カテゴリの市場 — AMD、Micron、Marvell、Broadcom

自社が売っている製品のカテゴリについて、市場規模を金額と年で置くやり方である。前の2記事で見たAMDとMicronがここに入る。

Marvellも同じことをしている。2025年6月17日のカスタムAI投資家イベントで、2028年のデータセンター向けTAMを750億ドルから940億ドルへ引き上げた。年平均成長率の想定を30%から35%へ上げた結果で、AMDが成長率だけを差し替えたのと同じ操作になる。

Broadcomは2024年12月の決算コールで、ホック・タンが「FY2027だけで、XPUとネットワークのSAM(獲得可能な市場)は600億〜900億ドルのレンジになると見込む」と述べた。TAMではなくSAM(Serviceable Addressable Market)と呼んでいるのは、市場全体ではなく自社が取りにいける範囲に限定しているからで、TAMより一段控えめな言い方になる。

③ 自社の売上・受注 — Broadcom、そして例外の2社

市場ではなく自社の数字で語るやり方である。Broadcomは近年こちらに軸足を移している。

2026年3月4日の決算コールで、ホック・タンは「2027年に、チップだけでAI売上1000億ドル超を達成する見通しがある」と述べ、続けて「そのために必要なサプライチェーンも確保済みだ」と付け加えた。市場規模の話をやめ、自社の売上と、それを裏づける供給体制の話に切り替えている。

同年6月3日のFQ2 2026では、AI半導体の受注が300億ドル超だったのに対し、同期の出荷は108億ドルだったことを開示した。受注が出荷の3倍近く積み上がっている。ホック・タンはXPUとネットワークの需要を「まったく飽くことがない(simply insatiable)」と表現した。

メモリ3社は3通りに割れている

同じHBMを作っている3社が、まったく違う姿勢を取っている。ここは見比べる価値がある。

何を出すか直近の内容
Micron金額と年を置く2028年にHBM TAM 約1000億ドル(年約40%)。到達年を2030年から2年前倒し
SK hynix率だけを出す2030年まで年30%成長。金額はカスタムHBMの「数百億ドル」のみ
Samsung何も出さない市場規模に触れず、自社のHBM売上と供給状況だけを語る

SK hynixの数字は、2025年8月11日にHBM事業企画担当副社長の崔俊龍(チェ・ジュンヨン)がロイターの単独取材で述べたものである。AIメモリ市場が2030年まで年30%で伸び、カスタムHBM市場は2030年に数百億ドル規模になる、という内容だった。

興味深いのは本人の但し書きで、「この見通しは電力供給などの制約要因を織り込んだ保守的な数字だ」と言っている。上振れの余地を自分で残す言い方で、Micronが1年後に到達年を前倒ししたのと方向は同じである。

Samsungは決算コールで市場規模の金額を示さない。2026年4月30日の第1四半期コールで語られたのは自社の話に限られる。HBM売上が前年比で3倍超に伸びる見込み、HBM4は用意したキャパがすでに完売、顧客が供給不足を懸念して2027年分の需要まで前倒しで確保しにきている、といった内容である。

3社の違いは、外されたときのコストの引き受け方の違いと読める。金額と年を置けば後で検証される。率だけなら幅がある。何も出さなければ検証のしようがない。Micronがいちばん重いリスクを取り、Samsungがいちばん軽い。

金額が大きい数字ほど、裏が取れていない

同じ数字を「外から確認できるか」で並べ替えると、はっきりした偏りが出る。

AI半導体各社の市場規模の数字を検証可能性で3列に分けた図。金額が大きい数字ほど推計のみで裏が取れない
図2: 兆ドル級の数字はすべて自社モデルの推計で、外から履行を追える数字は数百億ドル台に収まる。金額の大きさと確からしさは逆に並ぶ

右端の3つは、相手のいる約束である。

  • Broadcomの受注300億ドル超は、翌四半期以降の出荷として実績に現れる。300億ドルに対し108億ドルしか出荷していないという開示は、次に何が起きるかを外から追える形になっている
  • Micronの長期契約は、最低契約収益が約1000億ドル、顧客からの前払い現金が約220億ドル。テイク・オア・ペイなので、買い手側に引き取り義務がある
  • Samsungの「HBM4は完売、2027年分まで確保済み」も、金額こそ出ないが顧客との合意という実体を指している

左端はそうではない。AMDのスライドの脚注は "Source: AMD Internal Projections" であり、NVIDIAの3〜4兆ドルも、MicronのHBM 1000億ドルも、Marvellの940億ドルも、SK hynixの年30%も、すべて各社の推計である。第三者の調査会社が裏づけたものではない。

桁が大きいほど検証しにくく、検証できるものほど桁が小さい。これは偶然ではなく、遠い未来の広い範囲を数えるほど契約に落ちていないという、当たり前の構造の裏返しになる。

上方向にしか動いていない

今回集めた範囲で、AI関連のTAMが下方修正された例は1つも見つからなかった。

会社動き
AMD2030年のサーバーCPU TAM を 約600億 → 1200億超 → 約2200億ドル(8か月で3回)
MicronHBM 1000億ドルの到達年を 2030年 → 2028年(2年前倒し)
Marvell2028年のデータセンターTAM を 750億 → 940億ドル(CAGR 30% → 35%)
SK hynix年30%成長を「制約を織り込んだ保守的な数字」と自称
BroadcomFY2026のAI半導体売上見通し 560億ドル(前年比 約180%増)を据え置き、FY2027は1000億ドル超と表明

引き上げが続いている理由は2つ考えられる。実際に需要が想定を超えて伸びている、という説明が1つ。もう1つは、TAMの発表がそもそも株式のストーリーを支えるための道具であり、下げる動機が構造的に働きにくい、という説明である。どちらか一方ではなく、両方が効いていると見るのが妥当だろう。

大事なのは、上がり続けている事実そのものが正しさの証拠にはならない、という点になる。同じ会社が同じ方向にしか直さないなら、それは「予想の精度が上がった」ではなく「見方が変わった」だけかもしれない。

読むときの注意

  • 本記事の数字はすべて各社の決算コール・投資家向けイベントでの発言に基づく。いずれも自社の推計または自社の見通しであり、第三者の検証を経ていない。
  • 「TAM」「SAM」「売上見通し」「受注」は別物である。ニュース記事ではこれらが「市場規模」としてまとめて扱われることがあるので、元の発言がどれを指しているかを確認したほうがいい。
  • NVIDIAの3〜4兆ドルは、AMDやMicronのTAMを内側に含む上位概念である。足し算をしてはいけない。
  • 「下方修正が見つからなかった」は、今回調べた7社の範囲での話である。全数調査ではない。
  • 各社の発言時点が揃っていない。最も古いのはBroadcomのSAM(2024年12月)で、最も新しいのはAMD(2026年7月23日)になる。1年半のあいだにAI需要の見え方は大きく動いているので、時点を揃えずに横並びで比較すると誤読する。

出典