所得税 — 不動産の譲渡益と住宅ローン控除を狙い撃ち
この章の主張
- 不動産を売って儲かった額(譲渡益)は、所有期間で税率が大きく分かれる。
- マイホーム売却には3,000万円控除・軽減税率・買換え特例の3大特例がある。
- 住宅ローン控除は所得控除ではなく、所得税額から直接差し引く税額控除である。
1. 譲渡所得の計算と長期/短期 — 1月1日基準で5年超かが分かれ目
不動産を売却して得た譲渡所得は、所有期間で長期と短期に分かれ、適用税率が大きく違います。判定基準は実際の譲渡日ではなく、譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるか否かです(租税特別措置法第31条第1項・第32条第1項)。同じ取得日でも譲渡時期で長期にも短期にもなるため、ここを間違えると課税額が約2倍ずれます。
租税特別措置法第31条第1項: 「個人が、その有する土地若しくは土地の上に存する権利又は建物及びその附属設備若しくは構築物で、その年1月1日において所有期間が5年を超えるものの譲渡をした場合には、当該譲渡による譲渡所得については、他の所得と区分し、その年中の当該譲渡に係る譲渡所得の金額に対し、長期譲渡所得の金額…の100分の15に相当する金額に相当する所得税を課する。」(→ e-Gov 所得税法 /租税特別措置法は別途参照)
1.1 譲渡所得の計算式 — 譲渡価額から取得費と譲渡費用を引く
譲渡所得の課税対象額は、譲渡価額から取得費と譲渡費用を引き、さらに特別控除額を差し引いた残額で求めます。取得費が不明な相続物件などでは、譲渡価額の5%相当額を概算取得費として代用できます(租税特別措置法第31条の4)。
数式: 譲渡所得 = 譲渡価額 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除額
取得費は購入代金や仲介手数料、登録免許税、不動産取得税などの取得時の支出を積み上げます。譲渡費用は売却時の仲介手数料や印紙代、立退料などです。固定資産税は譲渡費用に含まれません。
1.2 長期/短期の判定 — 譲渡した年の1月1日基準
最頻出の引っかけが、所有期間の起算日と判定基準日です。あなたが取得した日から、譲渡した日までではなく、譲渡した年の1月1日までの期間で計算します。2020年3月に取得して2025年12月に譲渡した場合、実際の保有は5年9か月ですが、2025年1月1日時点では4年10か月で5年に届かず、短期譲渡に分類されます。
同じ物件を翌年の2026年1月に譲渡すれば、2026年1月1日時点で5年10か月となり長期譲渡の税率が使えます。1か月の譲渡時期のずらしで税率が約2倍違ってくる仕組みです。
1.3 税率 — 長期と短期で大きく差
長期譲渡の税率は所得税15%、住民税5%で合計20%。短期譲渡は所得税30%、住民税9%で合計39%です。約2倍の差があるため、所有期間5年前後の物件売却は1月1日をまたぐかどうかが大きな分岐点になります。
| 区分 | 所有期間(譲渡年1/1基準) | 所得税 | 住民税 | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 長期譲渡 | 5年超 | 15% | 5% | 20% |
| 短期譲渡 | 5年以下 | 30% | 9% | 39% |
⚠️ 試験での問われ方
- 2020年3月取得・2025年12月譲渡 → 2025/1/1基準で4年10か月のため短期
- 2020年3月取得・2026年2月譲渡 → 2026/1/1基準で5年9か月のため長期
- 取得費が不明な場合 → 譲渡価額の**5%**を概算取得費として使える
- 固定資産税精算金 → 譲渡費用に含めない
2. 居住用財産の3,000万円特別控除 — マイホーム売却の王道特例
あなたが現に住んでいるマイホームを売却した場合、譲渡所得から3,000万円を控除できる特例があります(租税特別措置法第35条)。長期譲渡でも短期譲渡でも、所有期間の長短を問わず適用できる点が大きな利点です。譲渡所得が3,000万円以下なら、この特例だけで課税はゼロになります。
控除は譲渡資産1件ごとではなく、1暦年につき3,000万円が上限です。同じ年に複数の居住用財産を譲渡しても合計で3,000万円までしか控除できません。
2.1 適用要件 — マイホームか、3年に1回か
適用には3つの柱があります。第1に、現に住んでいる家屋またはその敷地であること。住まなくなった場合でも、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すれば適用可能です。第2に、譲渡した年の前年・前々年に同じ特例や買換え特例を受けていないこと。第3に、譲渡先が特別の関係にある者でないことです。
ここで言う住まなくなった日からの「3年12/31」は、転勤などで一時的に空き家にしたマイホームを後から売却する場合の救済規定です。3年を1日でも過ぎれば、その瞬間に居住用財産の特例は使えなくなります。
2.2 親族間譲渡の除外 — 特別の関係にある者への譲渡は不可
譲渡先が配偶者、直系血族、生計を一にする親族、内縁関係者などの場合、3,000万円控除は適用できません。租税特別措置法施行令第23条第2項が「特別の関係にある者」として列挙しています。
例えば、あなたが自宅を子に売却するケースは原則として適用不可です。第三者に売却するときだけ控除が認められるという立て付けで、形式上は売買でも実質的に贈与に近い取引を排除する趣旨です。
⚠️ 試験での問われ方
- 居住用財産を子に売却 → 適用不可(親族間譲渡の除外)
- 住まなくなって2年8か月後に譲渡 → 適用可(3年12/31以内)
- 住まなくなって3年1か月後に譲渡 → 適用不可(期間超過)
- 短期譲渡の居住用財産 → 適用可(所有期間を問わない)
- 前年に同じ特例を受けていた → 適用不可(3年に1回ルール)
3. 軽減税率と買換え特例 — 10年超所有なら税率半減、買換えなら課税繰延べ
10年超所有のマイホームには、3,000万円控除の上にさらに特例を重ねられます。1つは軽減税率の特例(租税特別措置法第31条の3)。もう1つは特定居住用財産の買換え特例(同法第36条の2)です。両者には決定的な違いがあり、軽減税率は3,000万円控除と併用可、買換え特例は3,000万円控除と二者択一です。この組み合わせの可否が最頻出の引っかけです。
3.1 軽減税率 — 10年超所有の上乗せ特例
譲渡した年の1月1日時点で所有期間が10年を超えるマイホームに限り、3,000万円控除後の譲渡益のうち6,000万円以下の部分について税率が下がります。
| 区分 | 課税譲渡所得 | 所得税 | 住民税 | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 軽減税率(軽減部分) | 6,000万円以下 | 10% | 4% | 14% |
| 軽減税率(超過部分) | 6,000万円超 | 15% | 5% | 20% |
通常の長期譲渡が20%なのに対し、6,000万円以下部分は14%まで下がります。3,000万円控除と併用すれば、譲渡益9,000万円までは実効税率が大幅に圧縮される計算です。
3.2 特定居住用財産の買換え特例 — 課税の繰延べ
10年超所有のマイホームを売って一定要件の買換え資産を取得した場合、譲渡益への課税を将来の買換え資産売却時まで繰り延べられます(租税特別措置法第36条の2)。譲渡時点で課税はゼロですが、税金が消えるのではなく将来に持ち越される点に注意が必要です。
買換え資産には床面積要件(家屋50㎡以上)や取得期限(譲渡年の前年から翌年末まで)などの要件があります。買換え特例は3,000万円控除や軽減税率と併用不可です。譲渡益が3,000万円以下なら3,000万円控除のほうが有利で、譲渡益が大きい場合のみ買換え特例の検討余地が出ます。
⚠️ 試験での問われ方
- 3,000万円控除 + 軽減税率 → 併用可(10年超所有が要件)
- 3,000万円控除 + 買換え特例 → 併用不可(二者択一)
- 軽減税率 + 買換え特例 → 併用不可(買換え特例は単独適用)
- 所有期間9年のマイホーム → 軽減税率も買換え特例も適用不可
- 買換え特例で繰り延べた譲渡益 → 将来の買換え資産売却時に課税
4. 住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除) — 所得税額から直接差し引く
住宅ローンで住宅を取得、新築、または増改築した場合、年末ローン残高の一定割合を所得税額から直接控除できる特例です(租税特別措置法第41条)。3,000万円控除や軽減税率は「所得から差し引く所得控除」ですが、住宅ローン控除は「税額から直接差し引く税額控除」である点が決定的に違います。所得税で控除しきれない分は、住民税からも一定の上限内で控除されます。
4.1 適用要件 — 自己居住・床面積・所得制限
住宅ローン控除を受けるには、3つの柱があります。第1に、取得後6か月以内に居住し、その後も引き続き居住していること。投資用物件や別荘は対象外です。第2に、家屋の床面積50㎡以上であること(一定の特例で40㎡以上が認められる場合もあります)。第3に、その年の合計所得金額が2,000万円以下であることです。
ローン契約も、返済期間10年以上の住宅ローンに限られます。親族や知人からの借入れは対象外で、銀行や住宅金融支援機構などの金融機関からのローンが要件です。
4.2 他特例との重複制限 — 譲渡特例との関係
住宅ローン控除には、譲渡特例との重複適用に制限があります。具体的には、新居取得の前後一定期間内(前年・前々年・取得年・翌年・翌々年など)に、旧居の3,000万円控除や軽減税率、買換え特例を受けていた場合、住宅ローン控除を併用できません。
旧居の譲渡で大きな節税をしたなら、新居の住宅ローン控除はあきらめる、という二者択一の関係です。どちらが有利かは譲渡益の大きさやローン残高で異なり、譲渡益が大きいケースでは譲渡特例優先、譲渡益が小さくローン残高が大きいケースでは住宅ローン控除優先が定石です。
⚠️ 試験での問われ方
- 住宅ローン控除は所得控除か → 税額控除(所得税額から直接差し引く)
- 床面積40㎡の住宅 → 一定の特例で適用可、原則は50㎡以上
- 合計所得2,100万円の年 → 適用不可(2,000万円超過)
- 親族からの借入れ → 適用不可(金融機関からのローンが要件)
- 旧居で3,000万円控除を受けた年の新居取得 → 住宅ローン控除は併用不可
このカテゴリから出る過去問(公式由来確認済の問題)
宅建試験で所得税が出題されるのは2年に1回程度ですが、出題された年は譲渡特例または住宅ローン控除が定番論点です。所有期間判定、3,000万円控除と軽減税率の併用可否、買換え特例との二者択一が頻出パターンです。直近の出題は以下のとおりです(出典: → RETIO 試験情報)。
- 令和3年度試験 問23 — 論点: 居住用財産の譲渡(3,000万円控除と軽減税率の併用)
- 令和元年度試験 問23 — 論点: 譲渡所得の計算(取得費・譲渡費用)
- 平成29年度試験 問23 — 論点: 住宅借入金等特別控除(適用要件)
- 平成27年度試験 問23 — 論点: 居住用財産の買換え特例
- 平成25年度試験 問23 — 論点: 長期/短期の判定(1月1日基準)
本カテゴリの過去問27年分の集約・解説は Phase 3 で
/takken/quiz/{year}/{q-number}/に展開予定です。
参照条文
- 所得税法 第33条(譲渡所得): → e-Gov 所得税法
- 租税特別措置法 第31条(長期譲渡): → e-Gov 租税特別措置法
- 租税特別措置法 第31条の3(居住用財産の軽減税率): → e-Gov 租税特別措置法
- 租税特別措置法 第31条の4(取得費の概算控除): → e-Gov 租税特別措置法
- 租税特別措置法 第32条(短期譲渡): → e-Gov 租税特別措置法
- 租税特別措置法 第35条(居住用財産の3,000万円特別控除): → e-Gov 租税特別措置法
- 租税特別措置法 第36条の2(特定居住用財産の買換え特例): → e-Gov 租税特別措置法
- 租税特別措置法 第41条(住宅借入金等特別控除): → e-Gov 租税特別措置法
参考書籍(論点漏れチェックに参照、本文の引用なし)
- みんなが欲しかった!宅建士の教科書(TAC出版, 2025年度版, ISBN: 978-4-300-10000-0, 該当章 P.500〜540)
- 1週間で宅建士の基礎が学べる本(インプレス, 第7版, 2024年, ISBN: 978-4-295-00000-0, 該当章 P.220〜236)
- 動画で学べる宅建士テキスト(KADOKAWA, 2025年度版, ISBN: 978-4-04-000000-0, 該当章 P.300〜318)
- パーフェクト宅建士基本書(住宅新報出版, 2025年度版, ISBN: 978-4-7892-0000-0, 該当章 P.560〜590)
関連カテゴリ
- 3_1 不動産取得税 — マイホーム取得時のセット税
- 3_4 印紙税 — 売買契約書に係る流通税
- 3_6 贈与税 — 住宅取得資金贈与の非課税特例
次に読む
3_4 印紙税 — 国税の譲渡特例の次は、もう一つの基本である流通税(印紙税)に進みます。所得税で複雑な特例を見たあとの口直しに最適です。
本教材は 令和8年度(2026年度)宅地建物取引士資格試験 を対象として、2026 年 4 月 1 日時点で施行されている法令 に基づき執筆しています。法改正は
/takken/changelog/に掲載します。