盛土規制法 — 危険な盛土を全国で許可制にする2023年改正の体系
この章の主張
- 旧『宅地造成等規制法』は2023年5月に全面改正され、規制対象が宅地中心から全国の盛土・切土・堆積に広がった。
- 3つの規制区域(宅地造成等工事規制区域・特定盛土等規制区域・造成宅地防災区域)で役割が分かれる。
- 知事の許可と完了検査、違反時の改善命令と罰則の体系を1枚の流れで押さえる。
1. 法律の沿革と改正 — 2023年5月の全面改正
盛土規制法は、正式名称を宅地造成及び特定盛土等規制法といいます。昭和36年に施行された旧『宅地造成等規制法』を全面改正し、2023年5月26日に施行されました(→ e-Gov 盛土規制法)。
改正の眼目は、規制対象を市街地中心の宅地造成から、全国の盛土・切土・土石の堆積まで広げた点にあります。旧法では届かなかった山間部や農村部の危険な盛土も、新法のもとで知事の許可制の対象になります。
1.1 改正の背景 — 熱海土石流災害(2021)
2021年7月、静岡県熱海市伊豆山地区で発生した土石流災害は、上流の違法盛土が起点になりました。土石流の規模と被害の大きさが、規制対象を抜本的に広げる立法の引き金になります。
2022年5月に改正法が公布され、2023年5月26日から盛土規制法として全国で運用が始まりました。あなたが試験で問われるのは、改正により規制が全国に拡大したという結論部分です。
2. 3つの規制区域 — 宅地造成等/特定盛土等/造成宅地防災
盛土規制法は、3つの規制区域を用意し、それぞれで対象工事と規制手段を切り分けます。いずれも都道府県知事が指定権者です。
| 区域 | 根拠条文 | 対象 | 主な手段 |
|---|---|---|---|
| 宅地造成等工事規制区域 | 第10条 | 市街地・市街地近郊での新規工事 | 知事の許可 |
| 特定盛土等規制区域 | 第26条 | 市街地外で危険な盛土が想定される地域での新規工事 | 知事の許可 |
| 造成宅地防災区域 | 第45条 | 既存の造成宅地で災害発生の恐れが大きい区域 | 改善命令 |
新規工事を許可制で抑える前2つと、既存宅地に改善命令で対処する3つ目の役割分担を、まず押さえてください。
2.1 宅地造成等工事規制区域 — 市街地・市街地近郊で指定
宅地造成等工事規制区域は、市街地や市街地近郊で指定されます。区域内で宅地造成・盛土・切土・土石の堆積を行う場合、工事の規模が一定基準を超えれば知事の許可を受けます。
許可対象の規模は盛土規制法施行令で具体化されます。盛土なら高さ1m超、切土なら高さ2m超、いずれも面積500m²超なら許可対象です。土石の堆積は高さ2m超または面積300m²超が目安になります。
2.2 特定盛土等規制区域 — 市街地外でも危険な盛土を許可制に
特定盛土等規制区域は、市街地外の山間部や農村部のうち、放置すると下流の人家や道路に被害を及ぼし得る盛土が想定される地域に指定されます。第26条に基づき知事が指定し、区域内の工事は宅地造成等工事規制区域と同じく許可制です。
旧法では市街地外は対象外で、山間部の危険な土石堆積を直接規制する手段がありませんでした。この区域類型の新設が改正の中核です。
2.3 造成宅地防災区域 — 既存の造成宅地で災害リスクの高い区域
造成宅地防災区域は、すでに造成された宅地のうち災害発生の恐れが大きい区域として、知事が第45条に基づき指定します。前2つと異なり、対象は既存の宅地であり、新規工事の許可ではなく所有者・管理者への改善命令で対処します。
擁壁の劣化、排水施設の機能低下、盛土の地盤の不安定化、のり面の崩落の予兆などが具体的な指定理由になります。
3. 工事の許可と完了検査 — 申請から完了までの手続
許可手続は二段構えです。事前に知事の許可を受け、工事完了後に完了検査を受けて検査済証の交付を得る流れになります。
盛土規制法第12条: 「宅地造成等工事規制区域内において行われる宅地造成等に関する工事については、工事主は、当該工事に着手する前に、(中略)都道府県知事の許可を受けなければならない」(→ e-Gov 盛土規制法)
工事主が許可申請を行い、知事が技術的基準に照らして審査します。許可を受けずに着工した工事は違反であり、後述の監督処分の対象になります。
完了検査では工事が許可内容と技術的基準に適合しているかを確認します。検査済証の交付を受けて初めて、造成宅地として使用を開始できるのが原則です。
3.1 許可の対象工事 — 高さ・面積基準で判定
許可対象になる工事は、工事の類型ごとに高さ基準と面積基準が施行令で定められます。盛土なら高さ1m超の崖を生む工事、切土なら高さ2m超の崖を生む工事、両者の併用なら合計高さ2m超の崖を生む工事が高さ基準の典型です。
どの類型でも、高さ基準または面積基準のいずれかを上回れば許可対象になる点が重要です。「両方を満たさないと許可不要」と読まないようにしてください。
⚠️ 試験での問われ方
- 高さ基準と面積基準は「いずれか」を満たせば許可対象(両方を満たす必要はない)
- 完了検査済証の交付を受ける前の使用開始は原則できない
- 許可権者は都道府県知事(市町村長ではない)
- 工事主の許可申請 → 知事の許可 → 工事 → 完了検査 → 検査済証 の順序を逆転させない
4. 監督処分と改善命令 — 違反工事への対処
違反工事や災害発生の恐れがある状況に対し、知事には改善命令・工事停止命令・罰則の3段の対処手段があります。手段は重さの順に並び、状況に応じて選択されます。
改善命令は擁壁や排水施設の改良などを所有者・管理者に求める行政指導の中核です。工事停止命令は無許可工事や許可条件違反など、緊急性が高い状況で出されます。悪質な違反には罰則として拘禁刑または罰金が用意されます。
4.1 土地所有者の義務 — 災害防止の維持管理
土地の所有者・管理者・占有者には、常時安全な状態に維持する努力義務が課されます。擁壁・排水施設・のり面が崩落・崩壊しないよう、豪雨や地震、経年劣化を想定して必要な措置を講じる立場に置かれます。
法的な性質は努力義務であり、直接の刑罰で担保されるわけではありません。違反状態が放置された場合は、改善命令を経由して是正を担保する仕組みです。所有者が変わっても義務の主体は引き継がれます。
⚠️ 試験での問われ方
- 努力義務の主体は所有者・管理者・占有者の全員(所有者だけではない)
- 改善命令は造成宅地防災区域に限られない(規制区域内の維持管理が不適切な土地も対象)
- 違反した盛土工事には拘禁刑・罰金が用意される(令和7年6月1日施行の刑法等改正で「懲役・禁錮」表記は「拘禁刑」に一本化されています)
- 改善命令は知事が発出する(市町村長ではない)
このカテゴリから出る過去問
本カテゴリは旧『宅地造成等規制法』時代を含めて過去問27問が蓄積されています。直近の過去問は、令和5年度(2023年度)試験以降、新法名・新制度を前提とした出題に切り替わっています。
公式由来確認済の過去問は、一般財団法人 不動産適正取引推進機構(→ RETIO 試験情報)から最新公表分を引きます。
本カテゴリの過去問27年分のクリーン抽出と個別解説は Phase 3 で
/takken/quiz/{year}/{q-number}/に展開します。リリース時点では本ページの体系図で出題範囲を俯瞰する位置づけです。
参照条文
- 盛土規制法(宅地造成及び特定盛土等規制法): → e-Gov 盛土規制法
- 盛土規制法 第10条(宅地造成等工事規制区域の指定): 同上
- 盛土規制法 第12条(工事の許可): 同上
- 盛土規制法 第17条(完了検査): 同上
- 盛土規制法 第20条(監督処分・工事停止命令): 同上
- 盛土規制法 第26条(特定盛土等規制区域の指定): 同上
- 盛土規制法 第45条(造成宅地防災区域の指定): 同上
- 盛土規制法 第46条(造成宅地防災区域における改善命令): 同上
- 盛土規制法施行令(規模基準の具体化): → e-Gov 法令検索(「宅地造成及び特定盛土等規制法施行令」で検索)
参考書籍(論点漏れチェックに参照、本文の引用なし)
- みんなが欲しかった!宅建士の教科書(TAC出版, 第2025-2026年版, 2025年, ISBN: 978-4-300-11290-1, 該当章 法令上の制限編 盛土規制法)
- 1週間で宅建士の基礎が学べる本(KADOKAWA, 2024年版, 2024年, ISBN: 978-4-04-606546-4, 該当章 法令上の制限 盛土規制法)
- 動画で学べる宅建士テキスト(中央経済社, 2025年版, 2025年, ISBN: 978-4-502-49011-3, 該当章 法令上の制限 盛土規制法)
- パーフェクト宅建士基本書(住宅新報出版, 2025年版, 2025年, ISBN: 978-4-910499-93-1, 該当章 法令上の制限編 盛土規制法)
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本教材は 令和8年度(2026年度)宅地建物取引士資格試験 を対象として、2026年4月1日時点で施行されている法令 に基づき執筆しています。法改正は
/takken/changelog/に掲載します。