会社設立と消費税対策の完全ガイド
注意: 本記事の数値基準は2024年時点の税制に基づく。インボイス制度は2023年10月に開始済み。税制改正により変更される可能性があるため、最新の法令を確認すること。
会社設立の手続き
法人形態の選択(株式会社 vs 合同会社)、設立手続きの進め方、設立後に必要な税務・労務の届出について解説。
法人形態の選択基準
✅ DO:
- コスト重視なら合同会社を選択する(定款認証不要、登録免許税が安い)
- 取引先との信用力が重要なら株式会社を選択する
- 大企業との取引が想定される場合は株式会社を選択する
❌ DON'T:
- 税金計算が有利になると期待して法人形態を選ぶ(株式会社・合同会社で税率・計算方法は同一)
- 最初から完璧を目指しすぎる(合同会社から株式会社への変更は可能)
💡 WHY: 法人税の計算方法や税率は株式会社と合同会社で差異がなく完全に同一。違いは設立コスト、社会的信用力、意思決定の柔軟性にある。
📊 数値基準:
| 項目 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 定款認証 | 50,000円 | 不要 |
| 登録免許税 | 150,000円〜 | 60,000円〜 |
| 役員任期 | 最長10年 | 任期なし |
専門家への依頼方法
✅ DO:
- 司法書士と税理士に同時に(三者で)相談する
- 会社設立計画・経営計画を打ち明けた上で、法務と税務両面の助言をもらう
- 時間と調べる力があれば、クラウド会計ソフトの設立サービスを活用する
❌ DON'T:
- 税理士や行政書士に商業登記を依頼する(違法行為)
- 税務に疎い司法書士のみに任せきりにする
💡 WHY: 会社設立の登記内容(資本金額・決算日等)は税務と密接に関連する。片方の専門家だけでは最適な判断ができず、無駄な税金を払うリスクがある。
税務届出の期限管理
✅ DO:
- 青色申告承認申請書を設立後3か月以内(原則)に提出する
- 法人設立届出書を設立後2か月以内に税務署へ提出する
- 給与支払事務所等の開設届出書を設立後1か月以内に提出する
- 3カ所(税務署・都道府県・市区町村)への届出を漏れなく行う
❌ DON'T:
- 青色申告承認申請書の提出を忘れる(白色申告となり赤字の繰越不可)
- 個人事業と同じ感覚で税務署のみに届出する
💡 WHY: 青色申告が承認されないと、欠損金の10年間繰越控除や特別償却などの税制優遇が受けられない。期限遅れは取り返しがつかない。
📊 数値基準:
| 届出書 | 提出先 | 提出期限 |
|---|---|---|
| 法人設立届出書 | 税務署 | 設立後2か月以内 |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 税務署 | 設立後1か月以内 |
| 青色申告承認申請書 | 税務署 | 設立後3か月以内(原則) |
| 法人設立届出書 | 都道府県 | 都道府県の定めによる |
| 法人設立届出書 | 市区町村 | 市区町村の定めによる |
社会保険の加入義務
✅ DO:
- 法人設立後すぐに年金事務所で健康保険・厚生年金の手続きを行う
- 従業員を雇用したら労災保険・雇用保険の手続きを行う
- 代表者の労災保険は「中小事業主等の特別加入制度」か民間保険で対応する
❌ DON'T:
- 社会保険加入を回避しようとする(法人は強制加入)
- 代表取締役が通常の労災保険に加入できると誤解する(対象外のため別途対策が必要)
💡 WHY: 個人事業と異なり、法人は社会保険(健康保険・厚生年金)が強制加入。ただし労災保険は代表取締役本人は対象外のため別途対策が必要。
消費税の節税戦略
消費税の仕組みと免税制度、決算日・資本金の設定による節税効果を解説。
消費税の計算方式選択
✅ DO:
- 年商5,000万円以下の場合、本則課税と簡易課税のシミュレーションを行う
- 簡易課税を選択する場合、事業年度開始前に届出を提出する
- 毎月の月次決算で仮受・仮払消費税を把握し、別口座にプールする
- 本則課税の場合、経費に含まれる消費税(約9%)が還付されることを認識する
❌ DON'T:
- 大きな設備投資がある年に安易に簡易課税を選択する(本則課税が有利になる可能性)
- 消費税の届出を忘れる(一度選択すると2年間継続強制)
- 預かった消費税を運転資金に使い込む
- 簡易課税でも「経費の消費税9%引き」効果があると誤解する(簡易課税では経費の実額は関係ない)
💡 WHY: 本則課税と簡易課税では税額が大きく異なる場合がある。簡易課税はみなし仕入率で計算するため、実際の仕入率との差で有利・不利が発生する。本則課税の事業者は、経費として支払った消費税分(約9%)が還付される。これは「値引き」と同様の効果がある。
本則課税における経費の消費税還付
消費税の仕組みを正しく理解する:
- 預かり金: 売上時に顧客から預かる消費税
- 立替金: 仕入・経費支払時に立て替える消費税
- 納付額: 預かり金 − 立替金
| 項目 | 還付対象 |
|---|---|
| 経費に含まれる消費税(標準税率) | 約9%(110分の10) |
| 食品等(軽減税率) | 8% |
例: 接待交際費100万円(税込)を支払った場合、本則課税なら約9万円が消費税還付の対象となる。
📊 数値基準:
| 業種 | みなし仕入率 |
|---|---|
| 卸売業 | 90% |
| 小売業 | 80% |
| 製造業・建設業 | 70% |
| 飲食店業 | 60% |
| サービス業 | 50% |
| 不動産業 | 40% |
消費税免税期間の最大化
✅ DO:
- 第1期をできるだけ12か月に近くなるよう決算日を設定する
- 設立日を決める際は、消費税免税期間24か月を確保できるよう逆算する
- 個人事業からの法人成りは、個人の免税期間終了直前に行う(最大4年以上の免税)
❌ DON'T:
- 第1期を数か月の短期間で区切る(免税期間が短くなる)
- 年換算で課税売上1,000万円超になる第1期設定をする
- 売上を抑えて免税を維持しようとする(本末転倒)
💡 WHY: 設立1〜2期は前々期の課税売上がないため原則免税。ただし第1期が1年未満の場合は年換算で判定されるため、短い第1期は不利になる。
📊 数値基準:
- 免税の基準: 前々期の課税売上高1,000万円以下
- 特定期間の判定: 前期開始から6か月の課税売上高1,000万円超 かつ 給与支払総額1,000万円超で課税
- 第1期が7か月以下の場合: 特定期間判定が不要になる
資本金の設定
✅ DO:
- 資本金は1,000万円未満(理想は999万円以下)に設定する
- 消費税免税期間中は1,000万円以上への増資を控える
- 社会的信用と節税のバランスを考え、100万円〜300万円程度を下限とする
❌ DON'T:
- 資本金を1,000万円以上にする(初年度から消費税課税)
- 資本金を1億円超にする(中小企業優遇措置が受けられなくなる)
- 資本金1円や10万円でスタートする(社会的信用に問題)
💡 WHY: 資本金1,000万円以上は設立初年度から消費税課税事業者となり、法人住民税均等割も増加する。節税と信用力のバランスが重要。
📊 数値基準:
| 資本金 | 消費税 | 法人住民税均等割(年額) |
|---|---|---|
| 1,000万円未満 | 1〜2期免税可能 | 7万円 |
| 1,000万円以上 | 初年度から課税 | 18万円 |
| 1億円超 | 課税 | 増額+中小企業優遇なし |
決算日設定の5大ポイント
✅ DO:
- 消費税免税を最大化するため、第1期を12か月近くに設定する
- 法人住民税均等割節税のため、設立日は月初でなく2日以降にする
- 繁忙月を期首に設定する(決算月にしない)
- 納税期限月(決算日から2か月後)が資金に余裕のある月になるよう設定する
- 会計事務所の繁忙期を避け、3月決算を避ける
❌ DON'T:
- 繁忙月を決算月にする(決算直前の大型案件で節税計画が崩れる)
- 3月決算を安易に選択する(税理士の繁忙期でサポートが手薄になる可能性)
- 決算日を頻繁に変更する(租税回避行為とみなされるリスク)
💡 WHY: 繁忙期が決算月だと、期末の大型案件で利益が急増し節税対策が間に合わない。繁忙期を期首にすれば、残り11か月で節税計画を練れる。
📊 数値基準:
- 均等割の月数計算: 1月未満の端数は切り捨て
- 例: 4月2日設立・3月31日決算 → 11か月で計算(約6,000円節税)
インボイス制度への対応
✅ DO:
- 適格請求書発行事業者として登録する(取引から排除されないため)
- BtoB取引が中心の場合は早めに課税事業者を選択する
- 登録番号を請求書等に記載できる体制を整える
- 経過措置期間中の段階的な影響を把握し、対応を計画する
❌ DON'T:
- 免税事業者のまま放置する(取引先から敬遠される可能性)
- BtoCビジネスでも影響がないと決めつける
- 経過措置終了後の影響を考慮せずに意思決定する
💡 WHY: インボイス制度開始後、免税事業者からの仕入は仕入税額控除不可となる。取引先は消費税負担が増えるため、適格請求書発行事業者以外との取引を避ける傾向が生じる。
📊 数値基準:
- 制度開始: 2023年10月1日
- 従来の免税事業者のメリット(益税): 制度開始後は実質消滅
インボイス制度の経過措置
免税事業者からの仕入れについて、経過措置期間中は一定割合の仕入税額控除が認められる:
現在の状況(2026年1月時点): 80%還付期間(令和5年10月〜令和8年9月)です。2026年10月から50%還付期間に移行し、令和11年10月以降は経過措置が完全廃止されます。
| 期間 | 西暦 | 還付率 | 状況 |
|---|---|---|---|
| 令和5年10月〜令和8年9月 | 2023年10月〜2026年9月 | 消費税相当額の80% | 現在 |
| 令和8年10月〜令和11年9月 | 2026年10月〜2029年9月 | 消費税相当額の50% | 9ヶ月後から |
| 令和11年10月以降 | 2029年10月〜 | 0%(完全廃止) | 約3年9ヶ月後 |
経過措置期間中の追加負担:
| 期間 | 追加負担の例(消費税3万円の場合) |
|---|---|
| 80%還付期間(現在) | 本来の20%(6,000円) |
| 50%還付期間(2026年10月〜) | 本来の50%(15,000円) |
影響を受けやすい免税事業者
以下に該当する免税事業者は特に影響が大きい:
- 売上1,000万円以下かつ顧客が事業者中心
- 例:デザイナー、コンサルタント、建設業の一人親方等
判断のポイント: 顧客が一般消費者中心の場合は、そもそも消費税還付がないため影響は限定的。顧客が事業者中心の場合は、課税事業者への転換を積極的に検討すべき。
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