毛色の違うリサーチ記事を1日で3本書いた執筆デー: Kimi K3のHBM試算、BigTech決算プレビュー、生成AIの効きどころ
毛色の違うリサーチ記事を1日で3本書いた執筆デー: Kimi K3のHBM試算、BigTech決算プレビュー、生成AIの効きどころ
朝6時、「Kimi K3はDeepSeekショックの再現にはなり得ない。むしろ好材料だ」という論を立てるところから1日が始まった。DeepSeekショックは「中国もフロンティアAIを作れる」という事実を市場に刻み込んだ出来事で、今回は同じ構図にならない、というのが自分の読みだった。
その論を1本目の記事にして、7時に2本目、10時すぎには3本目に取りかかっていた。終わってみれば公開記事2本と非公開の要約1本。ただ、振り返って考えたくなったのは本数ではなく、3本とも作り方がまるで違ったことだ。その違いに意味があると気づいたのは、3本目を書き終えたあとだった。
Kimi K3の記事: HBM代「288兆円」を検証する
X上で流れていた試算は「SuperPod 1万台、11.52EB、HBM代288兆円」。この数字を土台に論を組むわけにはいかないので、まずClaude Codeに数値のファクトチェックをさせ、x-searchでXの反応も確かめながら記事に組み立てさせた。
返ってきた結論はこうだった。「288兆円」は通貨の誤変換で、原文は288兆ウォン。円にして約30.6兆円、ドルで約1,890億ドル。
一人当たりに割ると差はもっと分かりやすい。表記どおりの288兆円なら576万円、原文どおりなら約61万円(約3,800ドル)。桁がひとつ違う。
出どころの見当もすぐついた。Xの翻訳ボタンだ。「조 원」が通貨換算されないまま「兆円」に置き換わるので、ボタンを押しただけで金額が約10倍に見える。誤訳が世に拡散しているのではなく、自分の画面の中で化けていただけだった。
だから、最初に書かせた「誤変換の指摘」を軸にした構成は捨てた。誤訳や自動翻訳の話は本文から全部削り、原文の288兆ウォンを正として、その金額の妥当性を検証する構成に作り直させた。逆算するとHBM単価は約16.4ドル/GBで、HBM3Eの契約価格帯(13〜17ドル/GB)と整合する。原文は実勢ベースのまともな見積もりだった。
作り直しのたびに、devサーバーを立てて描画も確かめさせた。表と引用ブロックの崩れはなく、コンソールエラーもなし。QA用のタブを閉じてから次の修正に進む往復を、書き直しのたびに回した。
同時接続5,000万人を実ユーザーに換算し直す
約61万円という数字を見て、次に考えたのは償却だ。5年使うなら、HBMのコスト自体は回収できる。ただ全体で見れば、いまは損益分岐トントンくらいだろう。感覚としてはそう思ったが、それを数字で言えるかは別の話だった。
引っかかったのは「同時接続5,000万人」の意味だ。同時接続とは、その瞬間に実際にモデルを使っている人数であって、登録ユーザーでも日次ユーザーでもない。10人に1人が使っていて、残り9人は休んでいるか別のことをしている、というイメージで合っているかをまず確認した。
合っているなら、話は変わってくる。収益を考えるときの分母は同時接続数ではなく実ユーザー数で、1人あたりのコストは61万円よりずっと軽くなるはずだ。
そこで同時接続率20%(5人に1人)という想定を置き、実ユーザーあたりのコスト計算を記事に足させた。実ユーザーは5,000万人の5倍で2.5億人。HBM代は1人あたり約12万円になり、5年償却なら月約2,000円。ChatGPT Plus(月20ドル、約3,200円)の約6割が、メモリの償却だけで消える計算になる。
記事の「一人当たりに割るといくらか」のセクションは、この往復で2段構成に育った。同時接続で割った約61万円が1段目、実ユーザーに換算し直した約12万円が2段目。朝の「損益トントンくらいだろう」という感覚が、ここで初めて数字と噛み合った。
完成したのがKimi K3のHBM試算を検証した記事だ。
BigTech決算プレビューの要約: 読める形への変換だけ頼む
2本目は手数が少ない。I/O Fundの決算プレビュー記事(AIのマネタイズとCapexの対比がテーマ)のURLを渡して、「画像もちゃんと見て、日本語のまとめ記事にして、unpublishedで」と頼んだだけだ。
unpublishedの指定方法(frontmatterに unpublished: true を付ける)は既存記事と設定から確認させた。本文と図版を読ませて日本語に写し取らせ、SSRが200で返ることと、ブラウザでのテーブルと画像の描画まで確認させて終わり。
まとめ記事は非公開のまま手元に置いてある。1本目と違って、ここでは論も違和感も出していない。
生成と評価の非対称性: 音声入力から公開まで
3本目は持論の記事化だった。骨子は音声入力でそのまま喋った。生成AIが一番効くのは、生成と評価の非対称性が大きい仕事。「自分では作れない、あるいは時間がかかるが、できあがったものの良し悪しは判定できる」仕事だ。
続きも喋った。コーディングはもうボトルネックではなく、ボトルネックは評価に移っている。出力の評価さえできれば、中のコードがどうなっていようが確認しなくてもいいのではないか。生成AIをどこに使うべきかをずっと考えていて、この形でようやく言葉になった。
これを4象限マトリックスに整理させ、SVGの図解を作らせた。チャートは軸を入れ替えて作り直し、本文の「非対称性」という語は平易な言い換えに統一した(最後まで残っていた1箇所も拾って直した)。SVGはテキストレイアウトのlintを通してから貼った。
honda-sakubunで日本語の校閲を回し、codex-review-docで外部レビューも取った。指摘は2件で、どちらも断定のトーンを保ったまま該当する節への追記で反映した。
描画確認はひと手間かかった。デバッグ用Chromeの9222ポートが応答しなかったので、一時プロファイルで立ち上げ直してから、図と記事ページをスクリーンショットで見た。図は崩れなし。公開したのが「作れないけど、見れば分かる」仕事の記事だ。
3本を並べ直す
書き終えて並べると、自分の手の入れ方が3本で全部違う。1本目は、論を立てたのも、金額の桁に説明を求めたのも、同時接続と実ユーザーの比率に引っかかったのも自分で、検証と執筆はClaude Codeに回した。2本目は評価らしい評価すらしていない。3本目はアイデアの中身が全部自分で、文章化と図解と校閲とレビューはツールチェーンに任せた。
そして、この1日の働き方そのものが3本目の主題だった。288兆ウォンのHBM代を自分の手で検証する時間はない。Xの反応を自分で集めて回る余裕もない。それでも、返ってきた試算の中の「同時接続5,000万人」に引っかかって、換算をやり直させることはできる。作れないけど、見れば分かる。
持論を記事にした日に、その持論を朝からずっと実演していた。評価を挟まなかった2本目だけが非公開のままなのは、たぶん偶然ではない。
学びメモ
- Xの翻訳ボタンは通貨単位を換算しない。「조 원」がそのまま「兆円」になり、金額が約10倍に見える。桁が不自然な数字は、まず原文の通貨を疑う
- 「同時接続」と「実ユーザー」を区別して換算率を1段挟むと、1人あたりコストの風景が変わる(同時接続割りで約61万円、同時接続率20%の実ユーザー割りなら約12万円、5年償却で月約2,000円)
- 記事の枠組みが崩れたら、部分修正ではなく枠組みごと作り直させる。誤訳の話を全部削って原文を正とする構成に組み替えたほうが、記事として素直になった
- 音声入力で喋った骨子から、4象限の図解、校閲、外部レビュー、描画確認までが1セッションで回り、持論が公開記事1本になった