DA Davidson はなぜ Micron の目標株価を3,000ドルに上げたのか:上げ幅は倍率の13倍→19倍で説明できる

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2026-10-07、DA Davidson のアナリスト Gil Luria が Micron(MU)の目標株価を2,100ドルから3,000ドルに引き上げた。レーティングは Buy のまま。ウォール街で最も高い目標株価で、発表前の株価(約1,018ドル)からは約3倍になる。

X では「𝗺𝗮𝗶𝗻𝘁𝗮𝗶𝗻𝘀 𝗕𝘂𝘆 … raises PT to $3,000 from $2,100 😳😳」と驚きの絵文字付きで流れていた。添えられていたのは「投資家は Micron の価値を理解し始めたばかりで、理解が進めばはるかに高い倍率を付ける」という一文だけだった。この記事では、その一文の中身を分解する。

先に結論を書くと、今回の引き上げの大部分は、「利益に何倍を付けるか」を13倍から19倍に変えたことで説明できる。利益予想を変えたかどうかは、報道からは分からない。メモリを景気循環株として割り引くのをやめ、市場全体並みの倍率で評価すべきだ、という主張である。

注: DA Davidson のリポート原文は読めていない。以下は Yahoo Finance(Investing.com 配信)・24/7 Wall St.・GuruFocus・Finbold などの報道に引用された部分に基づく。逆算した数値は筆者の計算で、リポートに書かれた値ではない。

目標株価の式を分解する

1週間前の2,100ドルと今回の3,000ドルを並べると、何が変わったかが見える。

時点目標株価倍率対象の利益逆算したEPS(筆者計算)
2026-10-01〜02(決算直後)2,100ドル13倍2027暦年のEPS約162ドル
2026-10-073,000ドル19倍2027会計年度のEPS約158ドル

目標株価は約43%上がった。一方、倍率を13倍から19倍に変えるだけで、目標株価は約46%上がる計算になる。上げ幅の大部分は倍率の変更で説明できる。

ただし、表の2つのEPSは対象期間が揃っていない。Micron の会計年度は8月末締めなので、2027会計年度は2026年9月〜2027年8月で、2027暦年より4か月早い。利益が伸びている局面では、同じ予想でも会計年度のEPSは暦年より小さく出る。そのため、同じ期間で比べたときに DA Davidson が利益予想をどれだけ動かしたかは、報道からは判定できない。言えるのは、倍率を大きく変えたことと、目標株価の上げ幅がそれでほぼ説明できることまでである。

158ドルという水準は、会社のガイダンスとも大きくずれない。Micron が2026-09-30の決算で示した2027会計年度第1四半期(9〜11月)の調整後EPSガイダンスは38.15ドルで、4倍すると約153ドルになる。四半期ごとに少しずつ伸びれば158ドルに届く。

むしろ市場の予想より低い。金融データサービスA(2026-10-08 取得)では、2027会計年度の4四半期分のEPSコンセンサスを足すと約175.5ドルになる。DA Davidson の目標株価から逆算した158ドルは、これより1割ほど小さい。DA Davidson は利益を強気に見積もって3,000ドルを出したのではなく、市場より控えめな利益に高い倍率を掛けている。

「19倍の市場倍率」が意味するもの

Finbold が引用したリポートの文言は「a 19x market multiple on our FY27 EPS estimate」である。わざわざ「market multiple(市場倍率)」と書いている点が大事だと筆者は読む。

メモリ株はこれまで、好況のピークで利益が膨らんでもすぐ価格が崩れるという前提で、低い倍率しか付けてもらえなかった。24/7 Wall St. によると、Micron 株は記事時点で実績PER約14倍、予想PER約7倍で取引されている。DA Davidson 自身も1週間前は13倍を使っていた。

19倍は、この「景気循環株だから割り引く」という扱いをやめて、市場全体と同程度の倍率を付けた数字になる。Luria の言う「投資家は Micron の価値を理解する旅の初期にいる(investors are early in their journey of understanding MU's value)」は、市場がまだ Micron を昔ながらの循環株として値付けしている、という意味だと読める。

Luria はこの結論を、Micron のシニアIR担当者(Samir Patodia 氏、Jeff Grattan 氏)と面談したあとに出したと報じられている。決算後の1週間で倍率の判断を変えたことになる。

倍率を上げてよいとする4つの理屈

報道に引用された Luria の主張を整理すると、「メモリはもう循環株ではない」と言える根拠を4つ挙げている。

1. 需要が2027年と2028年も供給を上回る

AIインフラは過去の技術の波よりもはるかに多くのメモリを使い、供給が追いつかない、というのが出発点である。DA Davidson は2027年と2028年も需要が供給を上回ると見ている。根拠は、Micron が直近の決算で2028年まで出荷量と価格の両方が伸びる見通しを示したこと。Luria は「Memory is a lever for better AI performance(メモリはAIの性能を引き上げるレバーだ)」とも書いている。

2. 長期契約で下振れを消し、上振れを半分残す

Micron は生産能力の約半分を長期供給契約(SCA)で押さえる方針を取っている。Luria はこれを航空会社のイールドマネジメントにたとえた。座席の一部を早めに確定させ、残りは直前の市場価格で売る仕組みである。

This removes the downside while keeping half the upside(下振れを取り除きつつ、上振れの半分は残せる)

契約の相手は Amazon・Microsoft・Google・Nvidia・Apple で、Luria は業界で最も信用リスクの低い顧客だと評価している。24/7 Wall St. によれば、Micron は26件の戦略的顧客契約を結び、2030年までの売上の35%超をカバーする見込みで、契約残高は約1,500億ドルとされる。CFO は「床値であっても、過去のどのサイクルのピーク利益率も大きく上回る利益率を見込む(even at floor prices, we expect margins meaningfully above any prior cycle peak margins)」と述べている。

ほかのメモリメーカーも長期契約に移っており、業界全体で好不況の振れ幅が小さくなる、というのが Luria の見立てである。振れ幅が小さくなれば、循環株として割り引く理由が薄れる。

3. 「デスペック」はむしろ将来の需要になる

Nvidia などが製品1個あたりのメモリ搭載量を減らす動き(デスペック)は、弱気の材料として受け止められていた。Luria はこれを逆に読む。メモリが足りないので顧客は搭載量を減らして台数を確保しているだけで、性能が落ちた分は次の世代でメモリを買い増す需要になる、という理屈である。

報道では自動車のたとえが紹介されている。想定の2倍の注文が来た自動車メーカーは、電池を小さくしてでも台数を増やしたほうが儲かる。電池が要らなくなったわけではない。

4. 中国勢は輸出市場に出てこない

中国のメモリメーカーが安値で世界市場に出てくる懸念に対しては、中国国内のAI需要が大きいので国内向けで生産能力が埋まる、と否定している。

China has been in the math, and is still in the math(中国はずっと計算に入っているし、今も入っている)

DA Davidson の目標株価の推移

DA Davidson は2026年5月に Micron のカバーを始めてから、5か月で目標株価を3倍にしている。

日付目標株価備考
2026-05-011,000ドルBuy でカバー開始
時期未確認(5〜6月)1,500ドル
2026-06-252,000ドル
2026-10-01〜022,100ドルFQ4決算後。2027暦年EPSの13倍
2026-10-073,000ドル2027会計年度EPSの19倍

6月までの引き上げで倍率と利益予想がそれぞれどう動いたかは確認できていない。今回は、倍率を大きく変えたことが報道ではっきり分かる。

反対側の材料

3,000ドルはほかの証券会社と比べても飛び抜けている。ウォール街の平均目標株価は、24/7 Wall St. で1,535.57ドル、TipRanks の集計で1,630ドルと報じられている。報道に出ていた慎重な見方は次のとおり。

  • 出荷量の伸びが鈍る: FX Leaders によると、長期供給コミットメントは6月の220億ドルから320億ドルに増えた。供給が逼迫すれば価格と利益率は支えられるが、出荷量は伸ばしにくい。Stifel は2027年のDRAM出荷の伸びが15〜20%程度に鈍ると見ている
  • 粗利率ガイダンスが予想に届かなかった: 第1四半期の粗利率ガイダンス約86%は、市場予想の87%を下回った
  • 供給増: 新工場は2027年半ば〜2030年に稼働する予定で、上半期の設備投資は約250億ドル。競合が同時に増産すれば価格が反転しうる(24/7 Wall St.)
  • 労働争議: Reuters によると、台湾の Micron の労働組合がストライキ権を確立した(24/7 Wall St. 経由)
  • 12か月で届くか: 24/7 Wall St. は「The $3,000 number is a stretch on a 12-month horizon(12か月で3,000ドルは無理がある)」と書いている

倍率を上げる理屈は「循環が小さくなった」ことに依存している。長期契約で価格の下限が守られても、出荷量が伸びなければ利益の伸びは鈍る。DA Davidson の式でいえば EPS 側の前提であり、ここが崩れると19倍を掛ける土台そのものが小さくなる。

株価の反応

発表当日(2026-10-07)の寄り付き前、Micron 株は約2.6%安の1,018ドル前後で取引されていた。その後の取引時間中は3%前後の上昇に転じたと報じられている(終値は未確認)。株価は前年4月から約1,500%、年初来でも約250%上がっている。

SK hynix とサムスンに同じ理屈を当てはめると

Luria の理屈がメモリ業界全体に当てはまるなら、SK hynix やサムスンの目標株価も上がっているはずだ、と考えたくなる。ところが、DA Davidson はこの2社を担当していないとみられる。SK hynix の米国上場分(SKHY)のアナリスト評価履歴を MarketBeat と StockAnalysis で見たが、DA Davidson は載っていなかった(無料で見られる範囲に限る)。サムスンについても担当の報道は見つからなかった。Luria が5月に語った内容も、メモリを循環株として見るのは古いという業界全体の話で、名前を挙げていたのは Micron だけである。

そこで、DA Davidson の「19倍」を両社に当てはめて試算した。株価と予想EPSは金融データサービスA(2026-10-08 取得)の値で、予想EPSはまだ決算が出ていない直近4四半期のコンセンサスを足したものである。

銘柄株価予想EPS(未発表の4四半期分)予想PER19倍を掛けた株価今の株価の何倍か
Micron1,088ドル175.5ドル6.2倍約3,335ドル3.1倍
SK hynix1,723,000ウォン408,708ウォン4.2倍約7,765,000ウォン4.5倍
サムスン電子268,500ウォン61,675ウォン4.4倍約1,172,000ウォン4.4倍

対象の4四半期は会社ごとに違う。Micron は2026年9月〜2027年8月(2027会計年度)、韓国2社は2026年7月〜2027年6月である。韓国2社の7〜9月期は取得日の時点で終わっているが、決算はまだ出ていないので予想値で数えている。

韓国2社の予想PERは Micron よりさらに低い。「市場はメモリを循環株として値付けしている」という Luria の主張は、むしろ韓国2社のほうによく当てはまる。ただし、そのまま19倍を掛けられない事情もある。

  • サムスン電子: 半導体の受託生産・スマートフォン・ディスプレイも抱える。メモリ以外の事業まで19倍で評価するのは無理があり、事業ごとに分けて見る必要がある
  • 韓国株全般: 企業統治などを理由にした「コリア・ディスカウント」があり、倍率はもともと米国株より低めに付く
  • SK hynix: ほぼメモリ専業で、Nvidia 向けのHBM(AI向けの広帯域メモリ)にも強い。Luria の理屈が最も素直に当てはまるのはこちらである

2027年のHBM価格はまだ決まっていない

HBMの売上比率が高い SK hynix にとって、2027年のHBM価格は株価を左右する材料になる。ただ、2026-10-08時点で、契約がまとまったという報道は見当たらない。

SK hynix は2026-07-29の4〜6月期決算で、主要顧客を含む10社超と長期契約(LTA)の交渉を終えたと発表した。LTAは通常5年で、顧客の購入コミットメントに加え、保証金などで契約の履行を担保する仕組みだという。一方、2027年のHBMの数量と価格は主要顧客と協議を続けていると説明した。HBMの価格は汎用DRAMの値動きだけでは決まらず、ウェハーの投入量・先端プロセス・パッケージング能力を必要とすることや、世代ごとに開発と認証が難しくなることを反映させる、としている。

値上げ幅の見通しは次のとおりで、いずれも予想であり契約価格ではない。測っているものも違うので、数字どうしを直接は比べられない。

  • TrendForce: 2027年のHBM契約価格は2026年比で70〜140%上がりうる(ヘラルド経済, 2026-08-26)
  • UBS: 2027年のHBM平均販売価格は前年比約79%上昇(TrendForce News, 2026-08-25)
  • 韓国メディア Bloter が引用したアナリスト: 2026年比で50%超の上昇(同上)

背景には、SK hynix の Kwak Noh-jung 社長が2027年を供給面で「最悪の年(the worst year)」と表現するほどの逼迫がある。Bloomberg によれば、Nvidia は2027年初めにサーバー製品を15%超値上げする計画で、メモリの値上げ分を顧客に転嫁できる余地がある。

TrendForce は、2026年4〜6月期より後に結ばれたLTAの一部に価格の上限が付いていると指摘している。上がる局面でもすべては取りにいかず、その代わり下がる局面で守られる形で、Luria が航空会社にたとえた「下振れを取り除き、上振れの半分を残す」と同じ構図である。

次の材料は、例年10月下旬に出る SK hynix の7〜9月期決算になる。2027年のHBM価格の交渉結果や長期契約の中身が示されれば、アナリストが倍率を見直すきっかけになりうる。

筆者の見方

ここからは報道の整理ではなく、筆者の考えである。

景気循環は消えていないが、弱まった

メモリが景気循環株でなくなったとまでは思わない。大きな流れで見れば、好不況の波はこれからも来る。ただ、長期契約が広がって波の振れ幅が小さくなったという見方には賛成する。倍率を引き上げる方向性そのものは妥当だと考える。

デスペックは「足りない」の裏返し

メモリ搭載量を減らす動きを弱気材料と見る読み方には、筆者もはっきり反対である。メモリが足りているなら、顧客はフルスペックで積みたいはずだ。減らしているのは足りないからで、需要が供給を上回っていることの裏返しにすぎない。Luria の読み方と同じ結論になる。

一つ付け足すと、顧客が搭載量を減らすのは、今の価格が「払える上限」に近づいている合図でもある。価格は下がりにくい一方、ここから大きく上がる余地もそれほど大きくないと読める。

利益率は下がっても、利益の総額は伸びる

物量が増えても、Nvidia はメモリを積めるだけ積みたいと考えている。価格が下がれば顧客は喜ぶだろうが、価格はそれほど下がらないと筆者は見ている。今の極端に高い粗利率がそのまま続くことはないにしても、売上が伸びれば利益の総額は増える。

簡単な計算で確かめておく。今の粗利率は約87%である。

  • 売上が2倍になり、粗利率が70%に下がった場合、粗利は 2 × 0.70 = 1.4 となり、今(0.87)より約6割多い
  • 売上が2倍のとき粗利が今と同じになるのは、粗利率が約44%まで落ちたとき。今のほぼ半分である

粗利率が半分まで崩れない限り、粗利の総額は増える。ただしこれは粗利の話で、EPS で見るなら新工場の減価償却で増える費用を差し引く必要がある。また、業界の需要が2倍になっても、Micron の出荷量は自社工場の能力で決まる。新工場が動き出すのは2027年半ば以降なので、物量の伸びはそれを待つことになる。

中国勢はどこまで気にする必要があるか

AI半導体は、米中の争いの一部になっている。中国のメモリメーカーが力を付けても、米国政府が「中国製のメモリを使うな」と言えば、米国のハイパースケーラー向けの市場では脅威にならない。残るのは米国以外の市場だが、Luria の言うとおり中国の生産能力が国内需要で埋まるなら、そこも小さい。

SK hynix はHBM価格の決着に反応するはず

サムスン電子はメモリ以外の事業も抱えているので、事業ごとに見たほうがよい。一方の SK hynix は、HBMの売上比率が高い。HBM4の値上げを伝えるニュースには、本来もっと素直に反応してよいはずだ。

供給が足りないなかで値上げが通るなら、それはメモリがもう昔ながらの景気循環株ではないことの表れだと筆者は考える。SK hynix を担当するアナリストの評価がこの方向に変わり始めれば、株価にも効いてくるだろう。

12か月で評価が見直されるかは分からないが、今の株価は振り返れば安い

12か月で市場が19倍を受け入れるかといえば、難しいと思う。市場が確かめたい数字はまだいくつかあり、見直しは段階を踏むはずだ。

  • 四半期ごとに売上が伸び続けるか
  • 粗利率が第1四半期の下限目安(約86%)を保てるか
  • 長期契約で押さえる割合が50%に向かうか

それでも、今の1,000ドル台の株価は、後から振り返れば割安だったと言える水準だと考える。今の株価を2027年度EPS(逆算で約158ドル)で割ると6〜7倍である。DA Davidson が1週間前に使っていた13倍でも約2,050ドルになる。今の株価は「2027年度が利益のピークで、その先は利益が半分くらいに落ちる」という前提を置かないと説明しにくい。その崩落が起きなければ、今の価格は安かったことになる。

まとめ

  • DA Davidson は倍率を13倍から19倍に上げた。目標株価の上げ幅(約43%)は倍率の変更(約46%)でほぼ説明できる。同じ期間で比べた利益予想の変更幅は、報道からは判定できない
  • 19倍は「市場倍率」で、メモリ株を景気循環株として割り引くのをやめる、という判断を数字にしたもの
  • 根拠は、需給の逼迫が2028年まで続くこと、長期契約で下振れが消えること、デスペックが将来の需要になること、中国勢が輸出に回らないこと
  • 逆算したEPS(約158ドル)は市場のコンセンサス(約175.5ドル)より1割ほど低い。控えめな利益に高い倍率を掛けた目標株価である
  • 反対側には、出荷量の伸びの鈍化、粗利率ガイダンスの未達、2027年以降の供給増がある
  • DA Davidson は SK hynix とサムスンを担当していないとみられる。19倍を当てはめると、両社とも今の株価の4倍台になる
  • 2027年のHBM価格は交渉中で、予想では50〜140%の値上げ。SK hynix の7〜9月期決算が次の材料になる

「投資家は理解し始めたばかり」という一文の中心は、利益の見通しよりも評価の見直しにある。Micron の利益に、市場がいずれ今より高い倍率を付けるという読みである。

出典

※ 本記事は報道の整理であり、投資の勧誘や助言ではない。

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