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朝の7時半ごろ、1枚のインフォグラフィックがクリップボードから飛んできた。「メモリ税(Memory Tax)はこう解消される」という9マスの論点整理で、画面の右下に「Created: May 2024」と入っていた。2年前にこの構造化ができていたなら、作った人はまあまあの慧眼だ。論点としても光るものがある。

そう思って眺めていたら、隅の作成日に違和感が走った。「2年前にこの粒度で書けるか?」

違和感を拾うところから始まった

筆者本人の最初の指示はシンプルだった。

これ作成日が2024年の5月になってて、2年前にこれを作るってまあまあの人だと思うんですけど、まずファクトチェックしてもらえませんか。

「論点として優れている」ことと「2年前に書けたか」は別問題で、2026年現在の業界用語が混じっていないかを Claude Code に確認させた。9マスを1枚に押し込んだ図は読みづらいので、ファクトチェックが終わったらSVG9枚に分解して、文章で全部書き起こす、という方針も同時に渡した。

「2024年5月」では存在し得なかったもの

Web検索を走らせて、9マスの中身を1つずつ年表に照らした。最初に怪しかったのは「AMD が MEXT を買収」という箇所。MEXT 自体が新しい固有名で、2024年5月時点で公開資料に出てくる気配がない。

そのあと「Memory Tax」というフレーズで原典を辿らせたら、決定打が出た。原典は Damnang's Substack の「How the Memory Tax Gets Solved」で、公開日は 2026年6月19日 — つまり前日。9マスの論点構造はそのまま Damnang の本文の章立てに対応していて、インフォグラフィックは Damnang 記事を画像化した生成AIの出力だった。

「Created: May 2024」は、生成AIが画像内に書き込んだ偽日付だった。

2024年5月に存在し得なかった証拠を Claude Code に列挙させて、年表で潰した。AMD-MEXT 周りの動き、HBM4 のロードマップ更新、SOCAMM2 の文脈、3層シグナルの整理 — どれも2026年に入ってから組み上がった話で、2024年5月の地平からは描けない。

ここで筆者本人の中で結論が固まった。論点は確かに優れている。ただし作者は2024年の慧眼ではなく、2026年6月19日に書かれた Damnang の議論。それなら堂々と「Damnang 由来の論点を、自分で確認して、自分の言葉で書き起こした」と公開記事にして残しておけばいい。

まず4枚で公開し、ユーザーから「全部図にして」と返ってきた

ファクトチェック結果を apps/web/content/2026-06/2026-06-20/memory-tax-nine-tracks-factcheck.md にまとめて、9トラックの本文を書き起こした。SVGは別ファイル参照が慣例なので、最初は重要そうな4枚だけ起こした。

  • memory-tax-9-tracks.svg(全体俯瞰)
  • memory-tax-timeline.svg(時間軸)
  • memory-tax-pyramid.svg(階層)
  • memory-tax-wafer-3x.svg(供給インパクト)

これで公開した段階で、ユーザーから明確な追加注文が来た。

メッセージラインごとにチャート全部できるじゃないですか。例えば3とか4とか、これも全部図にしてほしいんですよ。

そうだ、と思った。文章で書き起こすだけで満足してしまっていたが、9トラックそれぞれにメッセージラインが立っていて、それぞれが図にできる構造を持っている。残り5セクション(3, 4, 6, 8, 9)を Claude Code に派遣して、本文の該当箇所に差し込んだ。

追加した5枚はこうなった。

  • memory-tax-dram-vs-nand.svg(DRAM vs NAND の対比)
  • memory-tax-amd-mext.svg(AMD-MEXT の構造)
  • memory-tax-four-fronts.svg(4正面作戦)
  • memory-tax-investor-points.svg(投資家視点の論点)
  • memory-tax-beyond.svg(その先の地平)

「内容を重複しても構わないんで、全部図にしてほしい」というユーザー指示が筋を通していた。記事に読みに来た人が、本文を全部読まなくても図だけで論点を追えるようになる。図解の存在意義はそこにある。

さらに「Micron の現在地」を補論として追加

9トラックが揃った段階で、もう1つの依頼が来た。

マイクロンのポジションをちょっと記述しておいてくれませんか。どういうふうに進化していくかとか、IRとか、今わかっている事実ベースで書いておいてください。

メモリ税の話は業界構造の議論だが、個別銘柄に落とすなら Micron が一番分かりやすい。IR 情報と最新の決算開示を Claude Code に拾わせて、補論「Micron の現在地」を1セクション追加した。HBM の出荷ロードマップ、SOCAMM2 の量産時期、設備投資の規模感など、2026年6月時点の公式開示ベースで固める方針にした。

ここでも SVG を1枚追加した(memory-tax-micron-roadmap.svg)。Micron のロードマップを時間軸で並べたシンプルな図で、本文の補強として置いた。

結果: SVG 10枚 + 本文 + memo HTML

最終的な成果物は1コミット(9383d76a)にまとまった。

  • SVG: 10枚(9トラック + Micron補論1枚)
  • 公開記事: memory-tax-nine-tracks-factcheck.md
  • 検討メモ: memo/2026-06-20/memory-tax-9-tracks.html(HTMLで検討キャンバスとして残した)

検討段階の HTML を memo に残したのは、SVG をどういう配色・余白で並べるかを試行錯誤した過程を取っておきたかったため。Markdown だけだと配色判断の根拠が失われる。

学び

AI生成インフォグラフィックの日付偽装パターン

今回引っかかったのは「Created: May 2024」という小さな文字列ひとつ。生成AIで画像化すると、それっぽい日付・著者名・出典が画像内に自動で入ることがある。読み手は「画像内に書いてあるメタ情報」を本物だと受け取りがちだが、根拠は皆無。

筆者本人の防御策として固まったのは:

  • 画像内のメタ情報(作成日・著者・出典)は信用しない。画像生成AIは平気で捏造する
  • 論点が新しすぎる場合は、その論点がいつ業界で言語化されたかを年表で確認する
  • キーフレーズ(今回は「Memory Tax」)で原典を辿る。論点が優れているほど元ネタが存在する確率が高い

原典確認の価値

原典(Damnang's Substack)に辿り着くと、議論の輪郭が一段はっきりした。9マスの図だけ見ていると印象論で終わるが、本文を当たれば「なぜこのトラックが立っているか」「次に何を観察すべきか」まで降りられる。インフォグラフィックは入り口にすぎず、原典に降りた瞬間に学習効率が跳ね上がる。

「文章で書く」と「図にする」は別の作業

最初に文章で書き起こして満足しかけたが、ユーザーから「全部図にして」と返ってきた瞬間に、図解の役割を再認識した。文章は線形に読ませる装置で、図は構造を一目で見せる装置。同じ論点でも、文章と図の両方があると読者の理解速度が変わる。重複していい、というユーザーの判断が正しかった。

違和感を拾うのは人間、確認と実装は AI

「2年前にこれ書けるか?」という違和感は、業界の時系列感覚を持つ人間が拾うしかない。一方で、Web検索を9マス分回す、9枚のSVGを起こす、Micron の IR を整理する、といった実装は Claude Code に派遣すれば順次回る。今回もこの構図が綺麗にハマった。