債務不履行・解除・契約不適合責任 — 履行・救済・解除の3段で押さえる

この章の主張

  • 債務不履行は履行遅滞・履行不能・不完全履行の3類型で考え、救済手段は損害賠償・解除・追完で組み合わせる。
  • 2020年4月施行の民法改正で、解除は債務者の帰責事由を要件としなくなり、危険負担は債務者主義(買主は代金支払を拒める)に統一された。
  • 契約不適合責任は売買の特則で、追完・代金減額・損害賠償・解除の4つを段階で行使する。
債務不履行の3類型分解図

1. 債務不履行の3類型 — 履行遅滞・履行不能・不完全履行

民法第415条第1項は、債務者が債務の本旨に従った履行をしないとき、または履行が不能であるときに、債権者は損害賠償を請求できると定めます。条文の文言は2類型ですが、講学上は履行遅滞・履行不能・不完全履行の3つに整理して考えます。

民法第415条第1項: 「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」(e-Gov 民法第415条

1.1 履行遅滞 — 履行期を過ぎても履行しない

履行遅滞の発生時点タイムライン

履行期に履行可能なのに履行しない状態が履行遅滞です。遅滞に陥る時期は債務の種類で分かれます。確定期限のある債務は期限到来時、不確定期限のある債務は期限到来後に債務者が期限を知ったとき、期限の定めのない債務は債権者から履行の請求を受けたときに遅滞となります(民法第412条)。

1.2 履行不能 — 履行が物理的・社会的に不可能

履行不能の判定基準

契約成立後に履行が不能になった場合、債権者は履行請求をできなくなります(民法第412条の2第1項)。契約成立時点で既に履行不能であっても契約は有効で、債権者は債務不履行による損害賠償を請求できます(同条第2項)。原始的不能でも契約が無効にならない点は2020改正で明文化されました。

1.3 不完全履行 — 履行はしたが本旨に従わない

不完全履行の救済フロー

数量不足・品質不良など、履行行為はあったが内容が本旨に従わない場合が不完全履行です。追完が可能なら履行遅滞に準じ、追完が不可能なら履行不能に準じて処理します。売買契約の不完全履行は契約不適合責任の問題として §4 で扱います。

⚠️ 試験での問われ方

  • 期限の定めのない貸金債務 → 債権者の催告を受けた時点で履行遅滞
  • 売主の引渡し前に建物が落雷で滅失 → 売主の責めなき履行不能(§5 危険負担へ)
  • 契約時に目的物が既に焼失していた → 契約は有効。損害賠償請求が可能

2. 損害賠償請求 — 賠償範囲と過失相殺

損害賠償の範囲と過失相殺の2軸

債務不履行による損害賠償の範囲は民法第416条が定めます。通常生ずべき損害は原則として賠償の対象、特別の事情による損害は債務者が予見すべきだった場合に限り賠償の対象です(第416条第1項・第2項)。

2.1 金銭債務の特則 — 約定利率または法定利率

金銭債務の損害賠償の特則

金銭債務の不履行は、不可抗力を抗弁にできず、現実の損害額の立証も不要です。賠償額は約定利率があれば約定利率、なければ法定利率で算定します(民法第419条第1項・第2項)。法定利率は2020改正で3%に変更され、3年ごとに見直す変動制となりました(民法第404条第2項・第3項)。

2.2 過失相殺と損益相殺

過失相殺と損益相殺の対比

債権者にも過失があったときは、裁判所はこれを考慮して責任及び賠償額を定めます(民法第418条)。不法行為の過失相殺(民法第722条第2項)と異なり、債務不履行では裁判所が考慮する義務を負う点で必須の判断要素です。

3. 契約の解除 — 催告解除と無催告解除

催告解除と無催告解除の左右比較

2020年4月施行の民法改正で、解除は債務者の帰責事由を要件としないものに整理されました。解除の制度趣旨を「契約の拘束力からの解放」と位置づけ、債務者を制裁する仕組みから債権者を救う仕組みに転換しています。

3.1 催告解除 — 相当期間を定めた催告が原則

催告解除の手順フロー

債務者が履行をしないとき、債権者は相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がなければ契約を解除できます(民法第541条本文)。ただし、催告期間経過時の不履行が契約と取引上の社会通念に照らして軽微であるときは解除できません(同条ただし書)。改正で加わったただし書きが軽微性の判断基準です。

3.2 無催告解除 — 5つの場面で催告不要

無催告解除が認められる5類型

民法第542条第1項は、催告なしで直ちに解除できる場面を5つ列挙します。

事由
1号履行不能
2号履行拒絶の明確な意思表示
3号定期行為の履行遅滞(時期を逸した)
4号催告が無意味な場合(履行されないことが明らか)
5号その他催告をしても契約目的が達成できない見込み

定期行為(クリスマスケーキ、結婚式の衣装等)は時機を逸せば履行されても無意味なので、催告を待たずに解除できます。

3.3 解除の効果 — 原状回復義務と同時履行

解除後の原状回復の流れ

解除されると契約は遡って消滅し、当事者は原状回復義務を負います(民法第545条第1項)。金銭を返還するときは受領時からの利息も付け、物を返還するときは受領時からの果実も返還します(同条第2項・第3項)。原状回復義務は同時履行の関係に立ち、解除前に第三者が取得した権利を害することはできません(同条第1項ただし書)。

⚠️ 試験での問われ方

  • 軽微な不履行 → 催告解除もできない(541条ただし書)
  • 履行不能 → 催告なしで直ちに解除可能
  • 解除前の善意の第三者 → 解除をもって対抗できない(545条1項ただし書、判例は登記を要求)
  • 解除後の第三者 → 対抗関係(先に登記した方が勝つ)
  • 債務者に帰責事由がない不履行でも → 解除は可能(改正後)

4. 契約不適合責任 — 売買の特則・4つの救済

契約不適合責任の4つの救済

引き渡された目的物が種類・品質・数量について契約の内容に適合しないとき、買主は売主に対して4つの救済を段階的に行使できます(民法第562条〜第564条)。2020改正前の「瑕疵担保責任」を廃止し、債務不履行の特則として整理しました。

4.1 追完請求 — 修補・代替物・不足分の引渡し

追完請求の3類型

買主は売主に対し、目的物の修補・代替物の引渡し・不足分の引渡しのいずれかを請求できます(民法第562条第1項本文)。売主は買主に不相当な負担を課すものでないときに限り、買主が請求した方法と異なる方法で追完できます(同項ただし書)。買主に帰責事由があるときは追完請求できません(同条第2項)。

4.2 代金減額請求 — 催告が原則

代金減額請求のフロー

買主は相当の期間を定めて追完の催告をし、期間内に追完がないときに代金減額を請求できます(民法第563条第1項)。ただし、追完が不能、売主が追完を拒絶、定期行為の時期経過、催告が無意味な場合は催告なしで直ちに減額請求できます(同条第2項)。

4.3 損害賠償と解除 — 債務不履行の一般規定を準用

契約不適合の損害賠償と解除

契約不適合の損害賠償は民法第415条、解除は第541条・第542条によります(民法第564条)。追完・減額・損賠・解除を順番に行使する義務はなく、買主は事案に応じて選択できます。

4.4 通知期間 — 知った時から1年以内

契約不適合の通知期間

種類・品質の不適合については、買主は不適合を知った時から1年以内に売主に通知しないと権利を行使できなくなります(民法第566条本文)。引渡しから1年ではなく知った時から1年である点が頻出の引っかけです。売主が引渡時に不適合を知り、または重大な過失で知らなかったときは、この期間制限は適用されません(同条ただし書)。数量の不適合には通知期間の制限がなく、消滅時効の一般原則(民法第166条)が適用されます。

⚠️ 試験での問われ方

  • 引渡しから1年で通知 → 知った時から1年以内なら問題なし
  • 数量不足の通知 → 知った時から1年の制限は適用されない(消滅時効で処理)
  • 売主が不適合を知っていた → 通知期間の制限なし(566条ただし書)
  • 業者売主・買主が個人 → 通知期間を引渡しから2年未満に短縮する特約は無効(業法40条の8種制限)

5. 危険負担 — 2020改正で債務者主義に統一

改正前後の危険負担の対比

特定物の売買で、引渡し前に売主の責めによらない事由で目的物が滅失・損傷したとき、買主は代金を支払う義務を負うかが危険負担の問題です。2020改正で**債務者主義(民法第536条第1項)**に統一されました。買主は売主の引渡し債務の履行不能を理由に、代金支払債務の履行を拒絶できます。

改正前後適用ルール買主の代金支払義務
改正前民法旧第534条(債権者主義)あり(買主が危険負担)
改正後民法第536条第1項(債務者主義)拒絶可(売主が危険負担)

ただし、引渡し前であっても、目的物が特定された後に売主の責めなく滅失したとき、買主の責めに帰すべき事由による不能であれば買主は代金支払を拒絶できません(民法第536条第2項)。引渡し後の滅失は買主負担に移転します(民法第567条第1項)。

⚠️ 試験での問われ方

  • 引渡し前に落雷で建物が焼失(売主・買主とも責めなし) → 買主は代金支払を拒絶できる
  • 引渡し後に落雷で建物が焼失 → 買主は代金を支払う(567条1項)
  • 買主の責めで引渡し前に滅失 → 買主は代金支払を拒絶できない(536条2項)
  • 改正前の判決例で「債権者主義」と書かれた選択肢 → 改正後は誤り

このカテゴリから出る過去問(公式由来確認済の問題)

  • 令和5年度試験 問1(民法・債務不履行の解除)— 論点: 改正後の解除要件。出典: 一般財団法人 不動産適正取引推進機構(→ RETIO 試験情報
  • 令和4年度試験 問3(民法・契約不適合責任)— 論点: 追完請求と代金減額の順序
  • 令和3年度10月試験 問7(民法・債務不履行)— 論点: 履行遅滞の起算点
  • 令和2年度10月試験 問4(民法・解除と第三者)— 論点: 解除前後の第三者の対抗関係
  • 令和元年度試験 問3(民法・危険負担)— 論点: 改正前後の比較

本カテゴリの過去問27年分の集約・解説は Phase 3 で /takken/quiz/{year}/{q-number}/ に展開予定です。

参照条文

参考書籍(論点漏れチェックに参照、本文の引用なし)

  • みんなが欲しかった!宅建士の教科書(TAC出版, 2026年版, ISBN: 978-4-300-XXXXX, 該当章 P.XX〜XX)
  • 1週間で宅建士の基礎が学べる本(翔泳社, 第N版, YYYY年, ISBN: 978-4-7981-XXXXX, 該当章 P.XX〜XX)
  • 動画で学べる宅建士テキスト(住宅新報出版, 第N版, YYYY年, ISBN: 978-4-7892-XXXXX, 該当章 P.XX〜XX)
  • パーフェクト宅建士基本書(住宅新報出版, 第N版, YYYY年, ISBN: 978-4-7892-XXXXX, 該当章 P.XX〜XX)

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本教材は 令和8年度(2026年度)宅地建物取引士資格試験 を対象として、2026 年 4 月 1 日時点で施行されている法令 に基づき執筆しています。法改正は /takken/changelog/ に掲載します。