売買契約 — 手付・契約不適合責任・危険負担・解除を契約段階別に押さえる

この章の主張

  • 売買契約は契約締結時の手付、引渡し前の危険負担、引渡し後の契約不適合という時系列で論点が動く。
  • 手付は2割上限(業者売主)、契約不適合は知った時から1年通知、危険負担は引渡しで移転という基準が各段階に用意されている。
  • 契約締結→履行着手→引渡し→不適合発見の時系列を1本の流れで押さえれば、出題のどこに位置する論点かが分かる。
手付は解約手付と推定 — 履行着手前なら解除可

1. 手付 — 解約手付の推定と履行の着手

買主が売主に交付した手付は、別段の合意がなければ解約手付と推定されます。民法第557条第1項は、相手方が契約の履行に着手するまでなら、買主は手付を放棄、売主は手付の倍額を現実に提供することで契約を解除できると定めます(e-Gov 民法第557条)。

民法第557条第1項: 「買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。」

自分が履行に着手していても、相手方が着手していなければ解除できます。判断の軸は「相手方が着手したかどうか」一点です。

1.1 履行の着手の判断基準

履行の着手は『外部から認識できる行為』で判定する

履行の着手とは、客観的に外部から認識できる履行の準備または実行をいいます。最高裁昭和40年11月24日判決は、中間金の支払い、所有権移転登記に必要な書類の準備など、契約上の債務の履行行為に着手することを要件としました。契約書への押印や内部での融資相談だけでは履行の着手にあたりません。

2. 契約不適合責任 — 4つの請求権

契約不適合は4つの請求権を段階的に行使する

目的物が種類・品質・数量について契約に適合しないとき、買主は以下の4つの請求権を行使できます(e-Gov 民法第562条〜第566条)。

請求権根拠条文要点
追完請求民法第562条修補・代替物引渡し・不足分引渡しを請求
代金減額請求民法第563条相当期間を定めて追完催告 → 応じなければ減額請求
損害賠償請求民法第564条(415条準用)売主に帰責事由が必要
解除民法第564条(541条・542条準用)軽微な不適合は催告解除不可

追完請求が原則で、追完に応じない場合に代金減額に進みます。損害賠償と解除は債務不履行の一般則(民法第415条・541条・542条)が準用されます。

2.1 通知期間(1年)と消滅時効

通知期間1年と消滅時効5年・10年は二段で進む

種類・品質の不適合は、買主が不適合を知った時から1年以内に売主へ通知しなければ、上記4つの請求権を行使できなくなります(民法第566条)。この通知期間と並行して、消滅時効(知った時から5年または引渡しから10年)も進みます。

⚠️ 試験での問われ方

  • 「引渡しから1年」と書かれていたら誤り。正しくは「知った時から1年」(民法566条)。
  • 1年は「通知」期間であって「請求」期間ではない。通知だけしておけば消滅時効の範囲内で請求できる。
  • 数量や権利の不適合(民法565条)には、この1年の通知制限は適用されない(民法566条かっこ書)。

3. 危険負担 — 引渡し時点で移転

危険負担は引渡しを境に買主に移転する

目的物が当事者双方の責めなく滅失・損傷したとき、その損失をどちらが負担するかが危険負担の論点です。2020年改正民法は、引渡しを境に危険を移転する基準を採用しました(民法第567条第1項)。

  • 引渡し前に滅失・損傷 → 売主が負担。買主は代金支払いを拒絶できる(民法第536条第1項)
  • 引渡し後に滅失・損傷 → 買主が負担。代金は支払い、契約不適合の請求もできない

なお、買主が受領を遅滞している間に当事者双方の責めなく滅失・損傷した場合は、引渡し後と同じ扱いになります(民法第567条第2項)。

令和2年改正前は「特定物の引渡し債務は債権者主義」というルール(旧民法534条)でしたが、現行法は債務者主義(売主負担)に統一されました。改正前の知識で答えると誤ります。

4. 解除 — 催告解除・無催告解除

解除の類型 — 催告解除を原則、無催告解除を例外で押さえる

債務不履行による解除は、原則として相当期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がなければ解除する催告解除民法第541条)が基本形です。例外として、催告が無意味な場合は無催告解除民法第542条)が認められます。

催告解除の例外(軽微性)と無催告解除の事由を整理します。

類型根拠条文主な事由
催告解除(原則)民法第541条相当期間を定めて催告 → なお不履行
催告解除の例外民法第541条ただし書不履行が軽微なときは解除不可
無催告解除民法第542条第1項履行不能、明確な履行拒絶、定期行為の経過、催告が無意味な場合
一部の無催告解除民法第542条第2項一部不能・一部拒絶で残余の目的達成不能

4.1 解除と第三者

解除と第三者は登場時期 × 登記で決まる

解除には遡及効があり、契約が初めからなかったことになります(民法第545条第1項本文)。ただし、第三者を害することはできず(同項ただし書)、扱いは第三者の登場時期で分かれます。

  • 解除前の第三者: 民法第545条第1項ただし書で保護される。判例(最判昭33.6.14)は登記を保護要件として要求する。善意・悪意は問わない。
  • 解除後の第三者: 民法第177条の対抗関係になる。売主と第三者は登記の早い者勝ち。

⚠️ 試験での問われ方

  • 解除前の第三者を「善意でないと保護されない」と書かれていたら誤り。判例は善悪を問わず、登記の有無で判定する。
  • 解除後の第三者を「545条1項ただし書で保護される」と書かれていたら誤り。解除後は177条の対抗関係。

5. 他人物売買と買戻し

他人物売買は有効、買戻しは5年以内の特約に限る

他人の物を売る契約も有効に成立します(民法第561条)。売主は所有権を取得して買主に移転する義務を負い、取得できなかった場合は契約不適合責任を負います。

買戻しは、不動産の売買契約と同時にする特約で、売主が代金と契約費用を返還して目的物を取り戻せる制度です(民法第579条〜第585条)。

項目内容根拠条文
特約の時期売買契約と同時にしなければ無効民法第579条
期間最長5年、定めなければ5年、伸長不可民法第580条
第三者への対抗売買と同時の買戻特約登記で可能民法第581条

⚠️ 試験での問われ方

  • 「買戻特約は売買契約後でもできる」と書かれていたら誤り。同時にしないと買戻特約として効力を生じない。
  • 「買戻期間を10年と定めた」と書かれていたら誤り。最長5年で、5年を超える定めは5年に短縮される。

このカテゴリから出る過去問

宅建試験では、売買契約の論点は権利関係の中でも繰り返し問われています。手付・契約不適合・解除を中心に、近年の出題傾向を確認してください。

  • 令和5年度試験: 契約不適合責任(追完請求と代金減額請求の関係)
  • 令和4年度試験: 解除と第三者(解除前後の保護)
  • 令和3年度12月試験: 手付による解除(履行の着手の有無)
  • 令和2年度10月試験: 危険負担(2020改正の引渡し基準)

過去問の問題文・正答は、→ RETIO 試験情報 で公式の年度別問題に当たれます。本カテゴリ27年分の集約・解説は Phase 3 で /takken/quiz/{year}/{q-number}/ に展開予定です。

参照条文

参考書籍(論点漏れチェックに参照、本文の引用なし)

  • みんなが欲しかった!宅建士の教科書(TAC出版, 2025年版, ISBN: 978-4-300-11000-0 系列)
  • 1週間で宅建士の基礎が学べる本(翔泳社, 2024年版, ISBN: 978-4-7981-8000-0 系列)
  • 動画で学べる宅建士テキスト(中央経済社, 2024年版, ISBN: 978-4-502-48000-0 系列)
  • パーフェクト宅建士基本書(住宅新報出版, 2025年版, ISBN: 978-4-909-90000-0 系列)

上記4冊は論点網羅性のチェック専用に参照しました。本文の説明・例示・図解は公式条文(e-Gov)と過去問の事案から独自に組み立てており、書籍の言い回し・章立て・例示は写していません。各書籍の正確な ISBN・版・該当章ページは Phase 3 の Turso 蔵書 DB 突合時に補完予定です。

関連カテゴリ

  • 1_2 意思表示 — 売買契約の有効性を支える意思表示の論点
  • 1_9 賃貸借契約 — 売買と並ぶ典型契約。契約不適合責任との比較
  • 5_9 8種制限 — 宅建業者が売主のときの手付額・契約不適合の特則

次に読む

1_9 賃貸借契約 — 売買と並ぶ典型契約。民法上の賃貸借の存続期間・転貸・敷金の論点へ進みます。

本教材は 令和8年度(2026年度)宅地建物取引士資格試験 を対象として、2026 年 4 月 1 日時点で施行されている法令 に基づき執筆しています。法改正は /takken/changelog/ に掲載します。