特別会計は使途不明ではない。日本の予算でお金の行方が追いにくいのは予備費と基金の執行

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特別会計は使途不明ではない。日本の予算でお金の行方が追いにくいのは予備費と基金の執行

「日本の特別会計って、中身や使途を明示していないんでしたっけ」と聞かれた。続けて「国の予算は複式簿記ではなくて、使途不明みたいなところがあった気がする」とも。

似た疑問を持つ人は多いと思うので、3つの別々の話がどう混ざっているかを整理しておく。

「使途」には3つの意味がある

この疑問がほどけにくいのは、「使途」という言葉が3つの意味で使われるからだ。

  1. 予算上の目的。何のために使うと法律や予算で決まっているか
  2. 実際の支出先。誰にいくら渡ったか
  3. 追跡できるか。公開されている資料で1から2まで辿れるか

法律で使途が決まっていること(1)と、最後の支出先まで公開資料で追えること(3)は別の問題である。特別会計は1が明確な会計で、「使途が追えない」と報じられてきたのは3の話であり、対象は主に予備費と基金だった。

結論

  • 特別会計の使途は法律で決まっている。「特定の収入を特定の支出に充てる」ために一般会計から切り離す仕組みなので、一般会計より使途の縛りは強い
  • 国の本体の会計が複式簿記でないのは本当。ただし発生主義と複式簿記の考え方で組み替えた「国の財務書類」は平成15年度分から毎年公表されている
  • 「使途が追えない」と指摘されたのは予備費と基金の執行段階。原因は簿記の方式ではなく、予備費が既存予算と混ざって決算書に載ることと、基金に積んだ後の支出が国の決算に出てこないことにある

特別会計の使途はどこで決まっているか

財政法13条は、国の会計を一般会計と特別会計に分けたうえで、特別会計を置ける場合を次のように限定している。

国が特定の事業を行う場合、特定の資金を保有してその運用を行う場合その他特定の歳入を以て特定の歳出に充て一般の歳入歳出と区分して経理する必要がある場合に限り、法律を以て、特別会計を設置するものとする。

これは設置の要件であって、個々の使途を列挙した条文ではない。各会計の目的、歳入、歳出、勘定の区分は「特別会計に関する法律」に書かれ、予算も決算も毎年国会に提出される。

一般会計との違いは、収入と支出を結びつけるかどうかにある。一般会計は税収などを一つの財布に入れ、幅広い支出を賄う。個々の収入と支出の対応は付けない。それでも支出の目的は毎年の予算で決まり、財政法32条は予算の目的外への使用を禁じている。どちらの会計も使途は決まっていて、特別会計はそれに加えて財源まで紐づけている、という関係だ。

令和8年度の規模

令和8年度は経過的なものも含めて14の特別会計がある。令和7年度には、年金特別会計の子ども・子育て支援勘定と労働保険特別会計の育児休業給付関係を統合して、子ども・子育て支援特別会計が新設された。

特別会計の歳出総額441.7兆円から会計間のやりとり89.8兆円と国債の借換え135.8兆円を除くと純計216.2兆円になり、その内訳は国債償還費等88.8兆円、社会保障給付費81.2兆円、地方交付税交付金等24.3兆円、財政融資資金への繰入13.0兆円、復興経費0.5兆円、その他8.3兆円であることを示すウォーターフォールチャート
図1: 歳出総額441.7兆円の半分は会計間のやりとりと国債の借換えで、純計は216.2兆円。その8割近くを国債償還と社会保障給付が占める

歳出総額が純計の2倍あるのは、会計間で資金を移すときの重複(89.8兆円)と、借換債(満期が来た国債を返すために新たに発行する国債)を財源とする国債償還(135.8兆円)が総額に含まれるからだ。財務省はこの2つを除いた純計を毎年示している。

純計216.2兆円の内訳は、国債償還費等88.8兆円と社会保障給付費81.2兆円で8割近くを占め、地方交付税交付金等24.3兆円、財政融資資金への繰入13.0兆円と続く。残りは復興経費0.5兆円とその他8.3兆円で、四捨五入のため内訳の合計は純計と一致しない。

「不透明」と批判されたのは何だったか

特別会計の改革議論を象徴する発言として引かれるのが、2003年2月25日の衆議院財務金融委員会での塩川正十郎財務大臣の答弁だ。

母屋では、おかゆを食って辛抱しようとけちけち節約しておるのに、離れ座敷で子供がすき焼き食っておる

母屋が一般会計、離れが特別会計である。同じ年の11月に財政制度等審議会がまとめた「特別会計の見直しについて」は、問題点を次のように挙げている。

  • 予算の議論が一般会計中心で、特別会計は議論されることが少なく、歳出の効率化が図られていない
  • 特別会計が多数あることで予算全体の仕組みが複雑になり、財政の一覧性が阻害される
  • 時代の変遷の中で、硬直的で過大な資源配分になっている
  • 恒常的な不用や繰越、多額の剰余金が放置されている
  • 国民的視点からのガバナンスが緩い

批判の中身は「使途が書かれていない」ではなく、審議の少なさ、分立による分かりにくさ、溜まった剰余金だった。平成15年度に32あった特別会計はその後統廃合され、令和8年度の14まで減っている。ただし数が減っただけで透明性の問題が消えたわけではなく、剰余金や積立金の扱いは今も毎年の決算検査の対象である。

国の会計は複式簿記なのか

国の本体の会計(官庁会計)は現金主義の単式簿記で、歳入と歳出の現金の出入りを記録する。歳入歳出決算だけでは、資産と負債の全体像も、減価償却のようにその年度に生じた費用も一体では把握できない。国有財産や国債残高にはそれぞれ別の報告があるが、一つの表にはなっていない。

その穴を埋めるために、財務省は平成15年度分から国の財務書類を作成し、毎年公表している。企業会計の考え方を参考に、発生主義(費用や収益をその年度に生じた分で認識する)と複式簿記(資産と負債、費用と収益を対にして記録する)で組み替えたものである。貸借対照表、業務費用計算書、資産・負債差額増減計算書、区分別収支計算書の4表からなる。

令和6年度分は2026年1月30日に公表された。

令和6年度「国の財務書類」金額
資産合計783.4兆円
負債合計1,483.3兆円
資産と負債の差額マイナス699.9兆円

ただしこの財務書類は、国会が議決する予算書そのものではない。現金主義の予算と決算を補完する財務情報という位置づけで、決算が固まった後に作られる。「国の会計は複式簿記でない」という指摘は、この位置づけを指していると思えば正確だ。

なお東京都は平成18年4月、日々の会計処理の段階から複式簿記と発生主義を取り入れた新しい公会計制度を、従来の官庁会計に加える形で国内で初めて導入した。「国より東京都のほうが進んでいる」という文脈でよく引かれる話はこれである。

「使途が追えない」と言われてきたのは何か

「使途が追えない」と指摘されてきたのは、会計の区分ではなく、予備費と基金という仕組みの執行段階である。予備費は一般会計にも特別会計にもあり、基金には特別会計から積まれるものもあるので、特別会計と対立する概念ではない。

予備費: コロナ予備費12兆円はどこまで追えたか

予備費は憲法87条に基づく仕組みで、枠の総額は国会が議決するが、個々の支出は内閣の責任で決め、事後に国会の承諾を得る。

2022年4月22日の日本経済新聞「国費解剖」が、コロナ対策の予備費として執行され国会に報告された12兆3077億円を分析した。その時点で最終的な用途を正確に特定できたのは3つの政策項目の8013億円で、全体の6.5%にとどまった。

追えない理由として記事が挙げたのは次の3つだ。

  • 予備費を割り振られた省庁が、当初予算や補正予算などすでにあるお金と予備費を混ぜて管理するケースが多い
  • 地方創生臨時交付金として自治体に配られた3.8兆円は、自治体が決算報告するまで特定できない
  • 企業との秘密保持契約を理由に公表できない項目がある

1つ目は制度の構造に由来する。予備費の使用を決めた内容は「予備費使用総調書」として国会に出るが、その後の支出は既存予算と一体で決算書に載る。会計検査院が2023年9月15日に参議院の要請で報告した検査結果では、令和3年度に予備費が使われた8府省の22の「項」(予算の区分)について、すべての項に予備費以外の予算が含まれ、予備費分だけの執行状況を区別できなかった。

参議院決算委員会が2022年6月に透明性の向上を求める決議をし、会計検査院の報告も出たことを受けて、政府は令和3年度分から予備費使用額の執行状況を各府省のホームページで公表し始めた。文部科学省の例では、予備費使用相当額の執行状況を事業ごとに、事業予算全体の執行状況と併せて示している。参議院の決算委員会調査室が2025年10月にまとめた分析は、公表が始まった一方で、決算書の構造は変わっておらず、使用が決まったのに全額が繰越や不用になった事例があること、公表資料の分かりやすさに課題があることを指摘している。

つまり「支出先の記録が存在しない」のではない。決算書の構造上、予備費分を切り出せないので、追うには各府省が別に公表する執行状況資料に当たる必要がある、という状態だ。

基金: 残高20兆円はどこで追えるか

国が独立行政法人や都道府県などに補助金を出して積ませる国の基金は、2023年度末の残高が20兆4157億円に達した。会計検査院の調べで、2019年度末の約5倍である。この20兆円は使途不明の額ではなく、まだ使われずに積まれている残高だ。

問題は追跡の経路にある。基金に積んだ時点で国の歳出は完了し、その後の取り崩しは国の歳出決算には出てこない。追うには、各府省が公開する基金シートと執行状況表、そして基金を持つ法人や自治体の決算に当たる必要がある。国の決算書だけを見ていると、積んだ後の使われ方は見えない。

2024年4月に行政改革推進会議が200の基金事業(152基金)を点検し、見直し結果をまとめた。内容は次のとおりで、実施済みのものと方針として決めたものが混ざっている。

  • 使う見込みのない資金として、令和5年度に約4,342億円、令和6年度に約1,124億円を国庫に返納する予定とした
  • 原則として10年以内の終了予定時期を設定し、すべての事業について成果を検証する
  • 支出が管理費だけになっている11事業を令和6年度までに廃止する。このほか4事業を令和5年度に廃止した

官房機密費: 支払先を公表しない前提の経費

内閣官房報償費(官房機密費)は、具体的な支払先や使途の公開が大きく制限される経費である。2024年8月の共同通信の調査では、2002年度から2024年度までの23年間、予算計上額は12億3021万1千円のまま変わっていなかった。公表しないことと使途が不明であることは同じではないが、外から追えないという意味では、予備費や基金と同じ列に並ぶ。

複式簿記にすれば解決するのか

ストックの把握と、支出先の追跡は別の問題だと考えている。

国の財務書類が補っているのは、資産と負債の全体像(複式簿記で対にして記録する)と、その年度に生じた費用(発生主義で認識する)である。単式簿記の歳入歳出決算では見えなかったものが、ここで見える。

一方で「予備費が誰にいくら渡ったか」は、帳簿の方式ではなく執行情報の粒度と公開の問題だ。予備費分を既存予算と区分して管理し、事業単位で執行状況を公開すれば、単式簿記のままでも追える。政府が令和3年度分から始めた執行状況の公表は、まさにその方向の対応である。基金も同じで、国の交付額と基金側の残高、支出、支出先を接続して開示すれば追える。

追いたいときに見る資料を、仕組みごとに整理しておく。

仕組み追う経路
特別会計特別会計の予算書と決算書(毎年国会に提出)
予備費予備費使用総調書(使用決定まで)→ 各府省が公表する予備費使用額の執行状況 → 事業や自治体の実績報告
基金基金シートと執行状況表 → 基金を持つ法人や自治体の決算

行政事業レビューシートは事業ごとの予算と執行を見る道具だが、予備費由来の支出を区別しては示していない。予備費を追うなら、上の表の執行状況資料のほうを見る。

まとめ

よく混ざる話実際
特別会計は使途が不明使途は特別会計法と毎年の予算で明示。財源まで紐づける分、一般会計より縛りは強い
国の会計は複式簿記でない本体は現金主義の単式簿記。発生主義と複式簿記で組み替えた「国の財務書類」は平成15年度分から公表
予算に使途不明のところがある予備費(決算書で既存予算と混ざる)、基金(積んだ後は国の決算の外)、官房機密費(支払先を公表しない)

「特別会計が不透明」は2003年の改革議論の記憶で、「複式簿記でない」はストックの話、「使途が追えない」は予備費と基金の執行の話である。3つを分けて考えれば、どこを見ればお金の流れが追えるかがはっきりする。

参考資料

#財政#特別会計#公会計#予備費#基金