150万円で利回り52%のアパートはどこにあるか
150万円で利回り52%のアパートはどこにあるか
今朝、X でこんなポストを見かけた。
150万で購入した築浅アパート。6世帯中2世帯しか入ってない状態で利回り52%。経費かけてリフォームしたとしても家賃は上がらないし、空室が埋まる保証もないほど、立地が悪い。満室じゃなくても困らない物件をそこそこの値段で購入することが大事と思ったのは、割と最近になってから。
オトドビ氏(@En5kF)の2026年9月18日のポストで、添付は2階建て木造アパートの外観写真だった。 本文にも写真にも所在地は書かれていない。
満室でなくても困らない値段で買う、という考え方は分かる。 分からないのは、こんな物件がどこにあるかだ。 東京や首都圏ではまず無理だろうが、田舎ならあり得るのか。 Claude Code に調査を3本並列で投げて、公開データで追ってみた。
数字を逆算する
150万円で利回り52%なら、年間の家賃収入は78万円になる。 2世帯で割ると、1世帯あたり月3.25万円だ。 探すべきは「1室3万円前後で貸せて、建物がほぼ無価値の6戸アパート」ということになる。
楽待で300万円以下の一棟アパートを数える
投資物件サイトの楽待で価格300万円以下の一棟アパートを検索すると、67件あった(2026年9月18日時点)。 安い順に並べた中から、ポストの物件像に近いものを抜き出す。 利回りは掲載の表示のままで、大半は満室想定だ。
| 所在地 | 価格 | 築年 | 戸数 | 表示利回り |
|---|---|---|---|---|
| 千葉県香取市佐原 | 10万円 | 1972年 | 2戸 | 85.71% |
| 長崎県長崎市高尾町 | 40万円 | 1979年 | 4戸 | 300.00% |
| 北海道芦別市 | 50万円 | 1972年 | 4戸 | 211.20% |
| 北海道稚内市中央 | 80万円 | 1970年 | 6戸 | 240.00%(満室想定) |
| 北海道釧路市阿寒町 | 90万円 | 1977年 | 6戸 | 320.00%(2棟一括) |
| 徳島県海部郡牟岐町 | 98万円 | 1972年 | 10戸 | 122.44% |
| 石川県加賀市片山津温泉 | 100万円 | 1971年 | 5戸 | 84.00% |
| 青森県むつ市大湊上町 | 125万円 | 1975年 | 4戸 | 115.20% |
| 青森県十和田市 | 150万円 | 1975年 | 10戸 | 144.00%(満室想定) |
| 北海道小樽市 | 150万円 | 1986年 | 2戸 | 48.00%(全戸空室) |
| 北海道深川市 | 190万円 | 1987年 | 20戸 | 30.00% |
| 茨城県高萩市 | 250万円 | 1991年 | 2戸 | 43.20%(全戸空室) |
67件を県別に数えると、北海道がおよそ16件で突出している。 芦別と赤平はかつての炭鉱町、稚内と留萌は道北、釧路は道東の寒冷地で、ほかに小樽、深川、岩見沢、滝川が並ぶ。 次に多いのが長崎市で7件前後、青森県が5件前後だ。 東京23区と横浜周辺に該当はなく、首都圏で最も近いのは三浦半島の南端にある三浦市の198万円だった。
稚内市中央の80万円の物件は、6戸で満室想定の年間収入が192万円と書かれている。 1室あたり月2.7万円で、逆算した3.25万円とほぼ同じ水準だ。 仮に2室しか入っていなければ年64万円で、80万円に対する利回りは80%になる。 ポストの「6世帯中2世帯で52%」は、この地域の相場なら十分に出る数字だと分かる。
統計で裏を取る
サイトの掲載は日々入れ替わるので、公的統計で地域の偏りを確かめた。 使ったのは総務省の2023年住宅・土地統計調査と、2025年国勢調査の人口速報集計だ。
空き家率の上位は徳島県21.3%、和歌山県21.2%、鹿児島県20.4%、山梨県20.4%、高知県20.3%と続き、全国平均は13.8%だった。 下位は沖縄県9.3%、埼玉県9.4%、神奈川県9.8%、東京都11.0%で、首都圏の3都県は沖縄県と並ぶ全国最低の水準だ。 ポストの物件像が首都圏で成り立ちにくいことは、統計の側からも言える。
借家の平均家賃の下位は鹿児島県40,638円、青森県41,884円、宮崎県42,084円、愛媛県42,762円、大分県42,880円で、全国平均59,656円の7割前後だ。 この数字は一戸建てを含む借家全体の平均なので、1Kの木造アパートはこれより下になる。 SUUMOの家賃相場ページで1Kと1DKを拾うと、北海道砂川市1.9万円、夕張市2.2万円、深川市2.3万円、赤平市3.0万円、鹿児島県霧島市と志布志市2.9万円、鹿屋市3.2万円だった。 逆算した「1室3万円前後」は、この帯にある。
人口減少率は2020年から2025年で秋田県-8.07%、青森県-7.89%、岩手県-7.03%、山形県-7.02%、高知県-6.96%が上位で、全国は-2.5%だった。
三つを重ねると、空き家率の高さ、家賃の安さ、人口減少率のすべてで全国10位以内に入るのは高知県と和歌山県だ。 鹿児島県は家賃が全国最安で、青森県と秋田県は人口減少が上位2県になる。
北海道は県全体では上位に入らない。 ただし市町村単位で見ると様子が変わる。 民間サイトの集計では夕張市39.4%、三笠市39.3%、歌志内市36.8%、赤平市30.6%、芦別市28.1%と、全国平均の2倍から3倍の空き家率になる。 楽待の掲載が北海道に偏っていたのは、この市町村レベルの過疎を映しているのだろう。
実際に買っている人
半分空室のまま安く買う、というポストと同じ形の実例は、長崎と山形で見つかった。
| 投資家 | 所在地 | 価格 | 状態 |
|---|---|---|---|
| 脇田雄太氏 | 長崎県 | 165万円 | 4世帯中2世帯入居のまま購入 |
| 脇田雄太氏 | 長崎県 | 110万円 | 11世帯中4世帯入居のまま購入 |
| たかはしぜろ氏 | 山形県酒田市 | 50万円 | 全空の4戸を現金で買い、1階2戸だけ運用 |
| パスカル氏 | 長野県の過疎地 | 300万円 | 10年以上放置の全空、リフォーム800万円で利回り41% |
| 加藤ひろゆき氏 | 北海道 | 500万円 | 6戸を4戸に改装、家賃600万円を得て1,130万円で売却 |
脇田氏の165万円の物件は、健美家のコラムで「4重苦アパート」と呼ばれている。 急斜面の上という立地、床の傾き、使えない外階段、汲み取りトイレの4つを抱えたまま買った。 たかはしぜろ氏の酒田市の物件は、楽待のコラムによると築約50年の軽量鉄骨で、階段が撤去され、電気も来ていなかった。 20万円のDIYで1階の2戸だけ貸せる状態にし、入っている1室の家賃2万7,500円で実質利回り約25%としている。 2階は空けたままだ。
ポストの「満室じゃなくても困らない」は、こういう運用を指している。
なぜその値段になるのか
コラムや解説記事で確認できた理由は、次の6つに集約される。
- 融資が付かない。地方の一棟は融資の有無が価格を大きく左右すると解説されていて、現金で買える人しか買い手にならない。買い手が絞られるぶん値段は下がる
- 相続の処分売り。脇田氏の知人が買った長崎駅徒歩圏の5世帯200万円は、「いくらでもいいから早く処分したい」という相続案件だった
- 再建築不可。接道を満たさず、建て替えられない
- 立地と構造の欠陥。斜面、床の傾き、外階段、汲み取り、階段撤去など
- 競売の特別売却。入札で誰も手を挙げなかった物件は、先着順で売られる
- 解体費が織り込まれる。木造アパートの解体は坪4万円が目安で、延床60坪なら240万円になる。買値と同額かそれ以上の将来費用を抱えて買うことになる
最初の一つが効いている。 銀行が評価しない物件は、家賃がいくら入っていても買い手が現金組に限られ、値段はそこで決まる。
「築浅」の実態
ポストには「築浅アパート」とある。 しかし楽待の300万円以下67件のうち、最も新しい建物は茨城県高萩市の1991年築で、築20年以内は1件もなかった。 大半は1960年代から1970年代の建物だ。 築30年から40年の建物を築浅と呼んでいるのか、借地や災害などの特殊事情があるのかは、ポストからは分からない。 少なくとも「築浅で150万円」を市場で探しても出てこない。
この形で回すときの固定費とリスク
安く買えても、持ち続ける費用はゼロにならない。 実践者と専門家が挙げていた項目を拾っておく。
- 札幌の一棟アパートでは、除雪費とロードヒーティングの電気代で表面利回りから1.5〜2%を差し引いて見る、という解説があった
- 水道管の凍結。氷点下10℃を下回ると急増し、空室は気づくのが遅れる
- 自治体から特定空家や管理不全空家に指定されると、固定資産税が軽くなる住宅用地の特例が外れる
- 管理会社と工務店と除雪業者が現地に少ない。管理会社の約49%が、過去1年に年齢だけを理由に高齢者の入居を断った経験がある
- 所有者が変わった直後に入居者が一斉に退去する傾向がある
分かったこと
「東京では無理、田舎ならあり得る」という見立ては当たっていた。 ただし「田舎」は広すぎる。 楽待の掲載と統計の両方が指しているのは、北海道の旧産炭地と道北道東、長崎市の斜面地、青森県で、次いで高知、和歌山、鹿児島だ。 そこでは1室3万円のアパートが数十万円から200万円で売られていて、半分空室でも利回りが50%前後になる。
値段を壊しているのは、建物の欠陥そのものより、欠陥のせいで融資が付かないことだ。 だから現金で買える人には、銀行の評価と家賃収入のずれがそのまま利回りになる。 一方で解体費と除雪と凍結は、買値に関係なくかかる。 150万円の物件に買値を超える解体費がぶら下がっている、と読める人だけが「満室じゃなくても困らない」と言える。
出典
- 総務省統計局 令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果(空き家率、借家の家賃)
- 総務省統計局 令和7年国勢調査 人口速報集計 結果の要約(人口減少率の順位。実数値は 都道府県市区町村のランキングから)
- 47都道府県別 賃貸住宅 平均家賃ランキング(住宅・土地統計調査の表を整理したもの)
- スマイティ 北海道の空き家率ランキング(民間集計、調査年の明示なし)
- SUUMO 北海道の家賃相場、同 鹿児島県
- 楽待 一棟アパート 価格300万円以下の検索結果(2026年9月18日時点で67件)
- 健美家 脇田雄太氏のコラム 124話、125話、128話
- 健美家 パスカル氏のコラム 14話
- ダイヤモンド不動産研究所 加藤ひろゆき氏の記事
- 楽待 たかはしぜろ氏のコラム
- 不動産投資博士 ユウラクの取材記事(融資と価格、一斉退去)
- イエウール 木造アパートの解体費用
- 東京都主税局 特定空家等の固定資産税
- 北海道副業FIRE研究所 札幌のアパート投資(除雪費)
- 空き家活用.net 水道管の凍結
- 高齢者の入居を断った管理会社の割合