脂肪の出口は本当に「吐く息」なのか|84%がCO2として肺から出ていく。ただし深呼吸で痩せるわけではない
脂肪の出口は本当に「吐く息」なのか
次のような投稿を見かけた。
脂肪の出口知ってる?たぶん9割が便と答えるはず。私もそう思ってた。否!!!便は食べかす。脂肪の本当の出口はほとんどが吐く息。まさかのC・O・2ー!他は汗・尿など。エグっ!腹圧意識した深呼吸の重要性がよーくわかる原理だ。心拍数エグイHIITも納得。
結論から書くと、前半の「脂肪の出口はほとんどが吐く息」は本当だ。燃えた脂肪の重さのうち84%は二酸化炭素(CO2)として肺から出ていき、残りの16%は水として尿や汗などから出ていく。
一方で、後半の「だから深呼吸が大事」は原理から導けない。呼吸は脂肪を燃やした結果の「排気口」であって、排気口を大きく開けても燃える量は増えない。HIITに納得するのは筋が通っているが、理由は「息が上がるから」ではなく「エネルギーを多く使うから」である。
主張ごとの判定
投稿の主張を一つずつ分けると、判定は次のようになる。
| 主張 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 脂肪の本当の出口はほとんどが吐く息(CO2) | 正しい | 燃えた脂肪の重さの84%がCO2として肺から出る |
| 他は汗・尿など | 正しい | 残り16%は水になり、尿・汗・呼気・便・涙などから出る |
| 便は食べかす(脂肪の出口ではない) | おおむね正しい | 便の中身は消化しきれなかった食べ物や腸内細菌など。体脂肪を燃やした後の出口ではない |
| 9割が便と答えるはず | 根拠なし | 専門家への調査では、多かった誤答は「エネルギーや熱に変わる」だった |
| 腹圧を意識した深呼吸の重要性がわかる | 誤り | 呼吸の量は代謝が決める。余計に吐いても脂肪は燃えない |
| 心拍数の上がるHIITも納得 | 結論は妥当、理由付けは要注意 | 効くのは消費エネルギーが増えるから。息が上がるのはその結果 |
以下、根拠を順に見ていく。
出典はBMJの2014年の論文
この話の出どころは、オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)の物理学者ルーベン・ミアマン氏と生化学者アンドリュー・ブラウン氏が、2014年12月に英国の医学誌BMJに書いた論文だ。
- Meerman R, Brown AJ. "When somebody loses weight, where does the fat go?" BMJ 2014;349:g7257(BMJ掲載ページ、PubMed)
論文の要点は次の3つである。
- 10kgの脂肪を燃やすと、8.4kgがCO2として肺から出ていき、1.6kgが水になる
- 10kgの脂肪を燃やすには29kgの酸素を吸う必要があり、その結果28kgのCO2と11kgの水ができる
- 医師・栄養士・パーソナルトレーナー150人に聞いたところ、半数以上が「脂肪はエネルギーか熱に変わる」と答えた
3つ目が面白い。投稿者は「9割が便と答えるはず」と書いたが、専門家の間で多かった誤答は便ではなく「エネルギーや熱に変わる」だった。「9割」という数字に裏付けはない。
なぜCO2になるのか
体脂肪の主成分は中性脂肪(トリグリセリド)である。論文は代表的な中性脂肪の分子を C55H104O6 として、燃焼(酸化)の反応式を次のように置いた。
C55H104O6 + 78 O2 → 55 CO2 + 52 H2O + エネルギー
炭素・水素・酸素の3種類の原子しか登場しない。燃えた脂肪の原子は、最終的にCO2か水のどちらかになるしかない。
10kgの脂肪で重さの出入りを計算すると、次のように左右が一致する。
| 物質 | 重さ | |
|---|---|---|
| 入る | 脂肪 | 10kg |
| 入る | 吸い込む酸素 | 29kg |
| 出る | 吐き出すCO2 | 28kg |
| 出る | 水 | 11kg |
ここで注意したいのは、28kgのCO2の大半は吸い込んだ酸素の重さだという点だ。「脂肪そのもの」がどこへ行ったかを知るには、脂肪の原子だけを追う必要がある。
- 脂肪の炭素(重さの約77%)は、すべてCO2になる
- 脂肪の水素(約12%)は、すべて水になる
- 脂肪の酸素(約11%)は、生成物の酸素の比率に合わせて、約3分の2がCO2に、約3分の1が水に割り振られる
足し合わせると、脂肪10kgのうち約8.4kgがCO2に、約1.6kgが水に入る。これが「84%対16%」の出どころである。CO2は肺から吐く息として出ていく。水は尿・汗・吐く息の湿り気・便・涙など、体の水分として出ていく。
「エネルギーに変わる」はなぜ誤りか
脂肪を燃やすとエネルギーが出るのは事実だ。ただし、そのエネルギーは化学結合の組み替えで生まれるもので、物質の重さはほぼ変わらない。反応の前後で失われる質量は測れないほど小さく、10kgの脂肪が「エネルギーになって消える」ことはない。消えたように見える重さは、目に見えないCO2と水になって体の外へ出ていっている。
便は脂肪の出口ではない
投稿の「便は食べかす」はおおむね正しい。便の中身は、消化しきれなかった食べ物のかす、腸内細菌、はがれ落ちた腸の細胞、水分などだ。食事の脂肪のうち吸収されなかった分は便に出るが、それは「体脂肪が減った」こととは別の話である。
燃えた体脂肪のうち便から出ていく分は、生じた水のごく一部が便の水分に混ざる程度にすぎない。
深呼吸で脂肪が減らない理由
ここが投稿のいちばん危うい部分だ。「出口が吐く息なら、たくさん吐けば脂肪が出ていく」と考えたくなるが、順番が逆である。
- 体は、細胞が脂肪や糖を燃やしてできたCO2を、血液に乗せて肺まで運ぶ
- 呼吸の量は、血液中のCO2の量に合わせて自動で調整される
- 必要以上に深く速く呼吸しても、吐き出されるのは血液中にもともとあったCO2で、脂肪は1gも余分に燃えない
論文の著者も、代謝に見合う以上に呼吸すると過換気になり、めまい・動悸・意識を失うことがあると注意している(UNSWのニュースリリース)。
腹圧を意識した呼吸に、姿勢や体幹の安定といった別の効果があるかどうかは、この記事の範囲外だ。ただ、少なくとも「脂肪の出口が吐く息だから深呼吸が大事」という理屈は成り立たない。
HIITが効くのは「息が上がるから」ではない
心拍数が大きく上がるHIITに「納得」するのは、結論としては妥当だ。ただし理由の向きに気をつけたい。
運動で筋肉がエネルギーを多く使うと、脂肪や糖を燃やす量が増え、できるCO2も増える。その結果、息が上がる。息が上がるのは燃やした結果であって、原因ではない。 HIITでも、ジョギングでも、階段の上り下りでも、消費するエネルギーが増えれば吐き出す炭素は増える。
もう一つ、運動中にできるCO2は脂肪だけでなく糖(グリコーゲン)からも出ている。吐く息の量がそのまま脂肪の減った量を示すわけではない。
1日にどれくらい出ていくのか
論文の試算では、体重70kgの人が睡眠・安静・軽い活動(代謝が安静時の約2倍)を8時間ずつ過ごすと、1日に約0.74kgのCO2を吐き出し、体から約203gの炭素が出ていく。安静時の呼吸は1分に12回ほどで、1回ごとに約33mgのCO2(うち炭素は約8.9mg)を吐き出す。この値で計算すると、8時間の睡眠中だけでも約50gの炭素が出ていく。
この1日のうち、安静の1時間を、代謝を安静時の約7倍に上げる運動(ジョギングなど)に置き換えると、出ていく炭素は約40g増え、その日の合計は約20%増しの約240gになる(ScienceDailyの紹介記事)。
ただし、100gのマフィン1個で1日に必要なエネルギーの約20%をまかなえてしまう、と論文は付け加えている。運動で増やした排出は、少し食べるだけで簡単に取り戻せる。
まとめ
- 燃えた脂肪の重さの84%はCO2として吐く息から、16%は水として尿・汗などから出ていく。投稿の前半は正しい
- 便は体脂肪の出口ではない。「9割が便と答える」には根拠がなく、専門家の間で多い誤解は「エネルギーや熱に変わる」だった
- 呼吸の量は代謝が決める。深呼吸を増やしても脂肪は燃えず、やりすぎれば過換気になる
- 脂肪を減らすには、食べる量より使う量を多くすることが前提になる。吐く息は、その結果として脂肪が出ていく通り道である