相続 — 不動産はどの順位で誰に承継されるか

この章の主張

  • 不動産の相続は「誰が・どの割合で・どの手続で承継するか」の3点を順に決めるだけで処理できる。
  • 配偶者は必ず相続人、それ以外は第1〜第3順位で1組だけが選ばれ、遺留分は兄弟姉妹には認められない。
  • 2024年4月以降は相続登記が3年以内の義務になり、宅建実務でも登記の有無を必ず確認する論点が増えている。
相続人の順位ツリー — 配偶者と第1〜第3順位の組合せ

1. 相続人の範囲と順位 — 配偶者は必ず、他は第1〜第3順位で1組だけ

民法第887条から第890条は、相続人を配偶者順位制の血族の組合せで定めます。配偶者がいれば必ず相続人になり、これに第1〜第3順位のうち最上位の1組だけが加わる仕組みです。

民法第890条: 「被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第887条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。」(e-Gov 民法第890条

第1順位は(民法第887条第1項)、第2順位は直系尊属(民法第889条第1項第1号)、第3順位は兄弟姉妹(同項第2号)です。上位順位が1人でも存在すれば、下位順位は相続人になりません。あなたが「配偶者と父母と弟」と聞いた場合、相続人は配偶者と父母だけで、弟は相続しません。

子の代襲相続は再代襲まで認められます(民法第887条第3項)。孫が先に死亡していればひ孫が代襲します。一方、兄弟姉妹の代襲は甥姪までの1代限りで、甥姪の子は代襲しません(民法第889条第2項が第887条第3項を準用しないため)。代襲の範囲を入れ違える出題は頻出です。

⚠️ 試験での問われ方

  • 配偶者と兄が相続人で、兄も先に死亡 → 甥姪が代襲相続する
  • 配偶者と兄が相続人で、甥も先に死亡 → 甥の子は代襲相続しない(1代限り)
  • 配偶者と子が相続人で、子も孫も先に死亡 → ひ孫が代襲相続する(再代襲)
  • 内縁の妻と子が相続人 → 内縁の妻は相続人にならない(婚姻関係が要件)
法定相続分と遺留分の対応表

2. 法定相続分と遺留分 — 配偶者の分は順位が下がるほど増える

民法第900条は法定相続分を配偶者と各順位の組合せで決めます。配偶者と第1順位(子)なら1/2ずつ、配偶者と第2順位(直系尊属)なら配偶者が2/3、配偶者と第3順位(兄弟姉妹)なら配偶者が3/4です。配偶者の分は順位が下がるほど増える仕組みになっています。

民法第900条第1号: 「子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。」(e-Gov 民法第900条

同順位の血族が複数いれば、その順位の取り分を頭割りします。子3人なら1/2を3等分して各1/6、兄弟姉妹2人なら1/4を2等分して各1/8です。父母双方が相続人の直系尊属も同じく頭割りします。

遺留分は被相続人の財産処分の自由を一定範囲で制限する制度です。民法第1042条は配偶者・子・直系尊属に遺留分を認め、兄弟姉妹には遺留分がないことを明定しています。総体的遺留分は原則として被相続人の財産の1/2、直系尊属のみが相続人のときだけ1/3です。

⚠️ 試験での問われ方

  • 配偶者と子3人 → 配偶者1/2、子は各1/6
  • 配偶者と父母 → 配偶者2/3、父母各1/6
  • 配偶者と兄弟姉妹2人 → 配偶者3/4、兄弟姉妹各1/8
  • 「全財産を慈善団体に遺贈する」遺言で配偶者と兄弟姉妹が相続人 → 兄弟姉妹は遺留分侵害額請求できない
  • 「全財産を長男に相続させる」遺言で配偶者と子が相続人 → 配偶者・他の子は遺留分侵害額請求できる
相続開始から熟慮期間3か月と遺産分割のタイムライン

3. 遺言と遺産分割・相続放棄 — 熟慮期間3か月で選択する

被相続人が遺言を残していれば、原則として遺言が法定相続より優先します。遺言の普通方式は自筆証書・公正証書・秘密証書の3種類です(民法第967条)。自筆証書遺言は本人が全文と日付と氏名を自書し、押印する必要があります(民法第968条第1項)。財産目録だけは自書を要しません(同条第2項)。

公正証書遺言は公証人が作成するため検認が不要です(民法第1004条第2項)。自筆証書遺言と秘密証書遺言は家庭裁判所の検認が必要ですが、法務局保管制度を利用した自筆証書遺言は検認を要しません。検認は遺言の有効性を判定する手続ではなく、内容を確認して証拠を保全する手続にすぎない点を押さえてください。

相続人は相続開始を知った時から3か月以内に、単純承認・限定承認・相続放棄のいずれかを選択します(民法第915条第1項)。限定承認と相続放棄は家庭裁判所への申述が必要で、何もせず3か月を経過すると単純承認とみなされます(民法第921条第2号)。相続放棄は初めから相続人とならなかったものとみなされ、代襲原因にもなりません(民法第939条)。

遺産分割は相続人全員の協議で行うのが原則ですが、協議が整わなければ家庭裁判所の調停・審判で決めます(民法第907条)。遺産分割の効力は相続開始時にさかのぼって生じるため、分割で取得した不動産は相続開始時から取得していた扱いになります(民法第909条本文)。

⚠️ 試験での問われ方

  • 自筆証書遺言の財産目録 → 自書不要(民法第968条第2項)
  • 公正証書遺言 → 検認不要
  • 法務局保管の自筆証書遺言 → 検認不要
  • 相続放棄した者の子 → 代襲相続しない(放棄は代襲原因にならない)
  • 3か月以内に何もしない → 単純承認とみなされる
  • 遺産分割協議書の作成日 → 効力は相続開始時にさかのぼる
相続登記の義務化と配偶者居住権の比較パネル

4. 相続登記の義務化と配偶者居住権 — 2020〜2024年改正の最新論点

宅建実務で押さえるべき直近改正は2つです。1つは2024年4月1日施行の相続登記の義務化(不動産登記法第76条の2)、もう1つは2020年4月1日施行の配偶者居住権(民法第1028条)です。どちらも宅建試験では新論点として頻出が予想されます。

相続登記の義務化は、所有権の登記名義人について相続が発生した場合、取得を知った日から3年以内に登記申請をする義務を相続人に課します(不動産登記法第76条の2第1項)。正当な理由なく違反すれば10万円以下の過料の対象となります(同法第164条第1項)。遺産分割が確定しない段階でも、相続人申告登記を法務局にすれば義務を履行したとみなされるため(同法第76条の3第1項・第2項)、まず申告登記で時間を稼ぐ運用が想定されています。

不動産登記法第76条の2第1項: 「所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。」(e-Gov 不動産登記法第76条の2

配偶者居住権は、相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた配偶者が、その建物に終身居住できる権利です(民法第1028条第1項本文)。遺産分割・遺贈・死因贈与のいずれかで取得し、遺産分割の場合は所有権と切り離して評価額を低く抑えられるため、配偶者が居住を維持しつつ預貯金も承継する選択肢が生まれました。第三者に対抗するには登記が必要です(民法第1031条第1項)。

これに対し配偶者短期居住権(民法第1037条)は、配偶者が無償で居住していた建物について、遺産分割が終わるまで最低6か月間は無償で居住できる権利です。期間は短いものの登記不要で、当然に発生する点が異なります。

⚠️ 試験での問われ方

  • 相続による所有権取得 → 知った日から3年以内の登記義務
  • 義務違反 → 10万円以下の過料
  • 遺産分割未了 → 相続人申告登記で義務履行とみなす
  • 配偶者居住権の存続期間 → 原則終身(遺産分割等で別段の定めがあれば別)
  • 配偶者居住権の第三者対抗 → 登記が必要
  • 配偶者短期居住権 → 最低6か月、登記不要で当然発生

このカテゴリから出る過去問(公式由来確認済の問題)

  • 令和4年度試験 問9(正しいものはいくつあるか)— 論点: 辞任のうち遺言執行者の辞任要件(民法第1019条第2項)。出典: 一般財団法人 不動産適正取引推進機構(→ RETIO 試験情報

本カテゴリの過去問27年分の集約・解説は Phase 3 で /takken/quiz/{year}/{q-number}/ に展開予定です。

参照条文

参考書籍(論点漏れチェックに参照、本文の引用なし)

  • みんなが欲しかった!宅建士の教科書 権利関係(TAC出版, 2025年度版, 2024年, ISBN: 978-4-300-10864-1, 該当章 P.220〜260)
  • 1週間で宅建士の基礎が学べる本(翔泳社, 第3版, 2024年, ISBN: 978-4-7981-8294-8, 該当章 P.140〜166)
  • 動画で学べる宅建士テキスト 2025年度版(中央経済社, 2025年度版, 2024年, ISBN: 978-4-502-49831-2, 該当章 P.180〜210)
  • パーフェクト宅建士基本書 2025年版(住宅新報出版, 2025年版, 2024年, ISBN: 978-4-910499-86-1, 該当章 P.250〜290)

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本教材は 令和8年度(2026年度)宅地建物取引士資格試験 を対象として、2026 年 4 月 1 日時点で施行されている法令 に基づき執筆しています。法改正は /takken/changelog/ に掲載します。