不動産登記法 — 登記簿の構造と相続・住所変更登記義務化を押さえる
この章の主張
- 登記簿は表題部(物的状況)と権利部(権利関係)の二段構造で、権利部は甲区と乙区に分かれる。
- 所有権登記は保存→移転の順で甲区に並び、共同申請が原則だが相続・判決等は単独申請できる。
- 2024年4月施行の相続登記義務化(3年以内)と2026年4月施行の住所変更登記義務化(2年以内)が新論点として加わる。
1. 登記簿の構造 — 表題部と権利部
不動産登記法第12条は、登記記録を表題部と権利部に分けると定めます。表題部は不動産の物的状況(所在・地番・地目・床面積など)を記録し、権利部は権利の発生・移転・消滅を記録します。権利部はさらに甲区(所有権に関する事項)と乙区(所有権以外の権利に関する事項)に分かれます。
不動産登記法第12条: 「登記記録は、表題部及び権利部に区分して作成する」(e-Gov 不動産登記法第12条)
抵当権設定登記は乙区、所有権移転登記は甲区、というように区を覚えれば登記事項証明書を読むときに迷いません。
1.1 表題登記の申請義務 — 建物新築から1か月以内
新築建物の所有者は、所有権を取得した日から1か月以内に表題登記を申請する義務があります(不動産登記法第47条第1項)。土地の表題登記も新たに生じた土地(埋立地等)について同じく1か月以内です(同法第36条)。表題登記がない不動産には権利の登記(保存登記等)を入れられないため、表題部は権利部の前提です。
⚠️ 試験での問われ方
- 新築建物の表題登記は所有権取得から1か月以内(罰則: 過料10万円以下、同法第164条第1項)。
- 表題部の登記事項に変更があれば、所有者は1か月以内に変更登記を申請する(同法第51条)。
- 表題登記と保存登記は別物。表題登記は物的状況、保存登記は所有権の最初の登記。
2. 所有権の登記 — 保存登記と移転登記
所有権の登記は保存登記と移転登記の2層で動きます。保存登記は権利部甲区への最初の登記で、新築建物や新たに生じた土地について、表題部所有者または相続人等が申請します(不動産登記法第74条第1項)。以後の売買・贈与・相続・遺贈は、すべて移転登記の形で甲区に積み重なります(同法第60条)。
所有権保存登記がないと、所有権移転登記もできません。新築建物の場合、表題登記→保存登記の順で甲区に最初の所有者が記載され、その後の取引はすべて移転登記の連鎖になります。
2.1 共同申請主義と単独申請の例外
権利の登記は登記権利者と登記義務者の共同申請が原則です(不動産登記法第60条)。売買による所有権移転登記なら、買主(登記権利者)と売主(登記義務者)が共同で申請します。
ただし次の場合は単独申請ができます。
| 単独申請ができる場合 | 根拠条文 | 理由 |
|---|---|---|
| 相続・法人合併による所有権移転登記 | 同法第63条第2項 | 義務者となるべき被相続人が既に存在しない |
| 判決による登記 | 同法第63条第1項 | 確定判決が共同申請と同等の効力を持つ |
| 所有権保存登記 | 同法第74条第1項 | 対立する登記義務者が存在しない |
| 仮登記(仮登記義務者の承諾あり) | 同法第107条第1項 | 承諾書面で義務者の意思を担保 |
⚠️ 試験での問われ方
- 売買による所有権移転登記は買主と売主の共同申請。
- 相続による所有権移転登記は相続人の単独申請で足りる(戸籍謄本等の登記原因証明情報を添付)。
- 判決による登記は勝訴した側が単独申請できる。被告の協力は不要。
3. 仮登記 — 1号仮登記と2号仮登記
仮登記は、将来の本登記の順位を保全するための制度です(不動産登記法第105条)。本登記をすると、その順位は仮登記の順位に遡って効力を生じます(同法第106条)。
仮登記には2類型あります。
- 1号仮登記: 物権変動はすでに発生したが、登記識別情報や第三者の承諾書等の手続的要件が整わないときに行う(同法第105条第1号)。
- 2号仮登記: 物権変動の請求権を保全するときに行う。所有権移転請求権、条件付請求権、始期付請求権など、まだ物権変動は発生していないが将来発生する権利を順位確保のため登記する(同号第2号)。
仮登記中の権利は本登記に比べ対抗力が弱く、第三者に対する優先関係は本登記をして初めて確定します。仮登記の段階では順位保全効しかありません。
⚠️ 試験での問われ方
- 1号仮登記は実体的権利は既発生、手続要件が未充足。
- 2号仮登記は実体的権利が将来発生する予定(請求権段階)。
- 本登記の順位は仮登記の順位に遡るが、対抗力は本登記で初めて生じる。
- 仮登記権利者と仮登記義務者が共同で申請するのが原則だが、義務者の承諾書があれば権利者が単独申請できる(同法第107条第1項)。
4. 登記原因証明情報・登記識別情報
権利の登記を申請するときは、登記原因証明情報の提供が必要です(不動産登記法第61条)。売買契約書、相続関係を示す戸籍謄本、判決書などがこれにあたります。
登記が完了すると、申請人が登記名義人となる場合に登記識別情報が通知されます(同法第21条)。これは12桁の英数字で、次の登記申請のときに本人確認資料として提示します(同法第22条)。
登記識別情報を紛失または失念した場合、再発行はされません。次回の登記申請では次の方法で代替します(同法第23条第1項・第4項)。
- 事前通知: 登記官が登記義務者の登記上の住所に通知し、本人から申出を受ける。
- 資格者代理人による本人確認情報の提供: 司法書士・土地家屋調査士が本人を確認した情報を申請に添付する。
- 公証人による本人確認: 公証人の認証を受けた書面で代替する。
⚠️ 試験での問われ方
- 登記原因証明情報は全権利登記で必須。形式は売買契約書・判決書・戸籍謄本など事案に応じる。
- 登記識別情報は新名義人になる申請で交付。共同申請の登記義務者は通知されない。
- 識別情報を紛失したら再発行はなく、本人確認情報等で代替する。
5. 相続登記の義務化(2024改正)
2024年4月1日施行の不動産登記法改正で、相続による所有権の取得を知った日から3年以内に登記申請をする義務が新設されました(不動産登記法第76条の2第1項)。正当な理由なく義務を怠ると10万円以下の過料が科されます(同法第164条第1項)。
施行日前に開始した相続も対象です。2024年4月1日より前に発生した相続については、施行日から3年以内(つまり2027年3月31日まで)が登記期限になります。
| 場面 | 起算日 | 期限 |
|---|---|---|
| 2024年4月1日以降に発生した相続 | 自己のため相続開始を知り、所有権取得を知った日 | 知った日から3年以内 |
| 2024年4月1日より前に発生した相続 | 施行日(2024-04-01) | 2027年3月31日まで |
| 遺産分割成立後 | 分割成立日 | 成立日から3年以内(追加義務、同条第2項) |
この改正は所有者不明土地問題への対応として導入されました。相続登記がされず数代にわたって名義変更が止まり、土地の利用・処分が困難になるケースを抑える狙いです。
5.1 相続人申告登記 — 義務履行のための簡易制度
遺産分割協議がまとまらないと、通常の相続登記には進めません。そのため不動産登記法第76条の3で相続人申告登記が新設されました。
相続人申告登記は、相続人の1人が単独で「自分は法定相続人である」と登記官に申し出る簡易な手続きです。これだけで義務を履行したものとみなされます(同条第2項)。
| 比較項目 | 通常の相続登記 | 相続人申告登記 |
|---|---|---|
| 申請する内容 | 所有権移転登記(持分まで確定) | 相続人としての氏名・住所の付記 |
| 添付書類 | 戸籍一式・遺産分割協議書等 | 自分が相続人と分かる戸籍 |
| 持分の確定 | 必要 | 不要 |
| 義務の履行 | 完全に履行 | みなし履行(持分は別途登記が必要) |
| 申請人 | 共同相続人または代表者 | 申告する相続人単独 |
遺産分割が成立したら、成立日から3年以内に改めて移転登記をする追加義務があります(同法第76条の2第2項)。相続人申告登記は「とりあえず義務だけ果たす」ための緊急避難的な制度です。
⚠️ 試験での問われ方
- 相続登記義務は知った日から3年以内、過料は10万円以下。
- 義務化施行日(2024-04-01)より前の相続は、施行日から3年以内が期限。
- 相続人申告登記をすれば義務を履行したとみなされる(持分の確定は別途必要)。
- 申告登記は相続人の単独申請ができる。
6. 住所変更登記の義務化(2026改正)
2026年4月1日施行の不動産登記法改正で、所有権登記名義人の氏名・住所に変更があった場合、変更があった日から2年以内に変更登記を申請する義務が新設されました(不動産登記法第76条の5)。正当な理由なく怠ると5万円以下の過料です(同法第164条第2項)。
施行日前から登記名義人だった人も対象です。2026年4月1日より前に住所変更があった場合、施行日から2年以内(2028年3月31日まで)が登記期限になります。
| 場面 | 起算日 | 期限 |
|---|---|---|
| 2026年4月1日以降の住所・氏名変更 | 変更があった日 | 変更日から2年以内 |
| 2026年4月1日より前の住所・氏名変更 | 施行日(2026-04-01) | 2028年3月31日まで |
法務省の住基ネット・商業登記システム連携により、職権で住所変更登記が行われるしくみも同時に整備されました(同法第76条の6)。所有者が事前に同意していれば、住民票上の住所変更を法務局が把握して自動的に登記を更新します。
⚠️ 試験での問われ方
- 義務期限は2年以内(相続登記の3年とは異なる)、過料は5万円以下。
- 法人の本店移転・代表者氏名変更も同様の義務対象。
- 個人が同意すれば職権で変更登記が行われる仕組みもある。
- 基準日2026-04-01時点でこの改正は新規論点として令和8年度試験の対象。
7. 対抗要件としての登記
不動産の物権変動は、登記をしなければ第三者に対抗できません(民法第177条)。不動産登記法第3条は、所有権・地上権・抵当権など、登記できる権利を列挙します。
登記は対抗要件であって、当事者間の効力発生要件ではありません。AがBに土地を売却した時点で所有権は移転しますが、登記をしないうちにAが同じ土地をCに二重譲渡した場合、先に登記をしたBまたはCが優先します。これを二重譲渡の優劣といい、契約締結の前後ではなく登記の前後で決まります。
民法第177条: 「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない」(e-Gov 民法第177条)
ただし、登記がなくても対抗できる相手がいます。
- 無権利者: 登記名義はあるが実体的な権利を持たない者(書類偽造で名義を入れた者など)。登記の有無を問わず、真の権利者が優先する。
- 背信的悪意者: 第一譲受人を害する目的で取引に介入した第二譲受人。判例上、信義則違反として民法第177条の保護を受けられない。
- 不法行為者・不法占拠者: 法律上の利害関係がないため、第三者にあたらない。
二重譲渡で先に登記したCが背信的悪意者でない限り、Bは登記がないことを理由にCに所有権を主張できません。
⚠️ 試験での問われ方
- 物権変動は登記で初めて第三者に対抗できる。当事者間では登記なしで効力発生。
- 二重譲渡では登記の先後で優劣が決まる。契約日の先後ではない。
- 背信的悪意者は民法第177条の第三者にあたらないため、登記がなくても対抗できる。
- 無権利者には登記なしで対抗できる。
このカテゴリから出る過去問(公式由来確認済の問題)
- 令和5年度試験 問14 — 論点: 仮登記・登記識別情報・相続登記。出典: 一般財団法人 不動産適正取引推進機構(→ RETIO 試験情報)
- 令和4年度試験 問14 — 論点: 登記の申請手続・共同申請主義の例外。出典: 同上
- 令和3年度10月試験 問14 — 論点: 表題部所有者・所有権保存登記。出典: 同上
- 令和2年度10月試験 問14 — 論点: 登記識別情報・登記原因証明情報。出典: 同上
- 令和元年度試験 問14 — 論点: 仮登記・本登記の順位効。出典: 同上
本カテゴリの過去問27年分の集約・解説は Phase 3 で
/takken/quiz/{year}/{q-number}/に展開予定です。
参照条文
- 不動産登記法 第3条(登記することができる権利): e-Gov 不動産登記法第3条
- 不動産登記法 第12条(登記記録の作成): e-Gov 不動産登記法第12条
- 不動産登記法 第21条〜第23条(登記識別情報): e-Gov 不動産登記法第21条
- 不動産登記法 第47条(建物の表題登記の申請): e-Gov 不動産登記法第47条
- 不動産登記法 第60条(共同申請の原則): e-Gov 不動産登記法第60条
- 不動産登記法 第61条(登記原因証明情報): e-Gov 不動産登記法第61条
- 不動産登記法 第63条(単独申請の例外): e-Gov 不動産登記法第63条
- 不動産登記法 第74条(所有権保存登記): e-Gov 不動産登記法第74条
- 不動産登記法 第76条の2・第76条の3(相続登記義務化): e-Gov 不動産登記法第76条の2
- 不動産登記法 第76条の5・第76条の6(住所変更登記義務化): e-Gov 不動産登記法第76条の5
- 不動産登記法 第105条〜第107条(仮登記): e-Gov 不動産登記法第105条
- 不動産登記法 第164条(過料): e-Gov 不動産登記法第164条
- 民法 第177条(不動産物権変動の対抗要件): e-Gov 民法第177条
参考書籍(論点漏れチェックに参照、本文の引用なし)
- みんなが欲しかった!宅建士の教科書 権利関係(TAC出版, 2026年度版, 2025年, ISBN: 978-4-300-11281-1, 該当章 P.330〜380)
- 1週間で宅建士の基礎が学べる本(KADOKAWA, 第3版, 2024年, ISBN: 978-4-04-606617-9, 該当章 P.180〜200)
- 動画で学べる宅建士テキスト 2026年版(住宅新報出版, 2025年, ISBN: 978-4-910499-87-8, 該当章 P.215〜245)
- パーフェクト宅建士基本書 2026年版(住宅新報出版, 2025年, ISBN: 978-4-910499-95-3, 該当章 P.290〜325)
関連カテゴリ
- 1_5 所有権・共有・占有権・用益物権 — 登記が公示する物権の本体
- 1_13 家族法(親族・相続) — 相続登記義務化の前提となる相続法
- 1_16 区分所有法 — マンションの専有部分の登記
次に読む
2_1 都市計画法 — 権利関係を一通り押さえたら、法令上の制限の本丸である都市計画法に進みます。
本教材は 令和8年度(2026年度)宅地建物取引士資格試験 を対象として、2026 年 4 月 1 日時点で施行されている法令 に基づき執筆しています。法改正は
/takken/changelog/に掲載します。