何でも進められる人のからくり
正直に言うと、私自身、コンサルに入るまではからきしでした。
専門外のテーマを渡されても、調べ方も、何から手をつけるかも分からない。それが当たり前だと思っていました。だから、入った先でみんなが平然とそれをこなしているのを見て、面食らいました。「専門外なので動けません」が、(ほぼ)起きないのです。
「専門外なので動けません」が起きない世界
たとえば、こんなテーマが普通に降ってきます。
- 物流業界の「2024年問題」で、荷主・元請け・庸車の多層構造のうち、運賃転嫁の交渉力が最も弱い層にしわ寄せが集中する構造を、どこから崩すか
- 洋上風力発電が浮体式の実証から商用化へ移る段で、漁業権者・自治体・系統接続の空き容量という三すくみを、どの順で解くか
- 地方銀行の勘定系刷新と並行して、預金者の世代交代でメインバンク機能が空洞化していく中で、統合後の店舗網と人員をどう再配置するか
- 食品メーカーのフードロス削減で、製造・卸・小売の「3分の1ルール」が需給予測を歪める中、自社だけ動くと在庫リスクを被るだけ、という協調問題をどうほどくか
自分の専門とは地続きでも何でもない。それでも担当が決まれば、翌週には何かしら前に進んでいる。最初は、どうしてこんな芸当ができるのか不思議でした。
慣れると、これはとんでもなく便利な技です。専門外だろうと、とりあえず動かせる。何でもできる人のように見えてきます。(いや、実際にはできないことばかりなのですが。)
種を明かすと、やっているのは4ステップだけです。拍子抜けするほど当たり前で、読めば「知ってる」と思うはずです。本当にやっかいなのは、知っていても止まる人がほとんどだ、という事実のほうです。
難しいのは、知識ではなく初期動作のほう
だから先に、止まる理由から片付けます。つまずく場所は知識の層ではありません。理由は、ざっくり3つあります。
一つ目は、塊の重さ。「分からない」は、最初ひとかたまりの塊で来ます。分解した後のタスクは小さいのに、割る前の塊は大きく見える。だから多くの人は、最初のステップに入る手前で止まります。知らないのではなく、塊を割る前の重さに負けているんです。
二つ目は、順番の思い込み。「理解してから動くのが正しい」と思っているケースです。情報を集めてから判断するのは、誠実で慎重な態度に見える。だから「待つ」が正当化される。後述の4ステップはこの順番を逆にします。動いて、理解する。正しいと思い込んでいる初期設定を上書きする話なので、知っていても腰が重いのです。
三つ目は、恐れの罠。仮説は、外すのが怖くて言い切れない。質問は、仮説なしで聞くと無知がばれそうで切り出せない。たたき台は、未完成を見せたくなくて完璧になるまで抱え込む。どれも能力ではなく、恐れの問題です。
逆に言えば、ここを越えるのに才能はいりません。塊を割る、待たずに置く、未完成のまま出す。この3つに少し慣れるだけで、止まる時間はほぼ消えます。
進め方が分からないときの、進め方(4ステップ)
その上で、種明かしです。やることは次の4つを、この順番で踏むだけです。
STEP 1 | 分からないを言語化する
「全部わからない」は、思考停止のサインです。
実際には、全部が分からないことはまずありません。目的が不明なのか、範囲か、手順か。不明の中身は、必ず分解できます。
まず「何が不明か」を項目に切り出す。漠然とした不安は、抱えたままだと大きさを保ちます。言語化して項目にした瞬間、不安は「埋めればいいタスク」に変わります。
STEP 2 | 分かる範囲で仮説化する
情報が揃うのを待ってはいけません。
手元の材料だけで「恐らくこうだ」と仮の答えを置く。現状はこう、目指す姿はこのあたり、と一旦描いてしまう。前提が完璧に揃うのを待つと、いつまでも始まりません。
ただ、頭の中だけではすぐ手が止まります。仮説を立てるにも、分からないことが多すぎるからです。止まらず、そこら中にアタリにいく。調べ方・聞き方の引き出しを増やしておくと、ここで詰まらなくなります。引き出しは、大きく4方向に分かれます。
❶の「人・知見を借りる」だけは気を付けることがあり、あくまで「主は自分」です。人に丸投げして指示を待つのは、全く違います。
AIで調べるのも、上司に壁打ちするのも、現場に足を運ぶのも、すべて同じ「仮説を埋めにいく動き」です。一本に偏らず、掛け合わせるのがコツです。
STEP 3 | 仮説を起点に自ら動く
肝は、答えをもらうのではなく、仮説を検証しにいくことです。
「どう動けばいいですか」ではなく、「恐らくこうなので、こう動きます。ここだけ確認させてください」に変える。前者は指示待ち、後者は検証です。受け取られ方がまるで違います。
全部を自分で抱える必要もありません。AIやデスクリサーチを使う、詳しそうな人を上司のツテでたどる。情報を「取りにいく」動きそのものが、このステップです。
STEP 4 | 動きながら精度を上げる
完璧を待たず、小さく動いて直す。行動が、次の情報を連れてくるからです。
最初はたたき台で構いません。出せば、相手から「ここは違う」「ここは合っている」と差分が返ってくる。その差分を埋めれば、精度は勝手に上がります。
進めれば、どうしても取れない情報も出てきます。そのときは、取れないなりの進め方を決めて軌道修正する。「製造業の同規模データがないので、構造の近い銀行業を厚くして代替する」といった判断です。止まる代わりに、別ルートに乗り換える。
具体シーンで当てはめる
抽象論だけだと掴みにくいので、よくある場面で。
「MTGの終わり際に、他社事例を来週までに調べておいて、と振られた」。
NGはこうです。何をすればいいか分からず止まる。とりあえず調べ始める。途方に暮れる。止まったまま、最終的に怒られる。
OKは、まず「何が分からないのか」を書き出すところから入ります。資料の目的か、調査範囲か、手順か、構成か。そこから、分かる範囲を仮説化する。「ゴールがコスト削減なら、事例だけでなく打ち手も知りたいはず」「同業だけでなく他業種にも関心がありそう」といった具合です。
あとは自ら取りにいき、取れない情報が出たら軌道修正する。同じ依頼でも、進められるかどうかの差は、能力ではなくこの順番を踏んだかどうかです。
次に手が止まったら
未知のテーマで止まるのは、「分からないから」ではありません。分からないものを、まだ割っていないからです。専門知識は、4ステップを回すうちに後から付いてきます。これが、業界が変わっても効く「未知への入り方」です。
次に手が止まったら、この順番だけ思い出してください。
- 分からないを言語化する(何が不明かを項目に切り出す)
- 分かる範囲で仮説化する(「恐らくこうだ」を置く)
- 仮説を起点に自ら動く(答えをもらわず、検証しにいく)
- 動きながら精度を上げる(たたき台を出して差分を埋める)
その上で、今まさに止まっている案件を一つ思い浮かべてください。その1件について、STEP 1の「何が分からないのか」を3つだけ書き出す。それが、いちばん小さく確実な最初の一手です。
もし3つがうまく書けないなら、それは塊がまだ大きいサインです。そのときは、この記事をまた開いてください。