図1を2回突き返した朝。M&Aのレバレッジとショートスクイーズを図で説明する記事を書いた
図1を2回突き返した朝。M&Aのレバレッジとショートスクイーズを図で説明する記事を書いた
朝5時46分から6時半までのあいだに、金融の仕組みの話を3件かたづけた。 記事として公開したのが2本、調べものが1本である。
一番時間を使ったのはショートスクイーズの図で、1枚目を2回突き返した。 1回目は「これはシーケンス図にしたほうがいい」、2回目は「担保300万円が何に対する3割なのか、この図では読めない」。 どちらも、上がってきた図を眺めているうちに引っかかった違和感で、最初から指示できた内容ではない。
M&Aの借入が株主のIRRを押し上げる幅
最初の1本は、目にしたM&Aの説明をそのままClaude Codeに投げるところから始まった。 論点は3行で書ける。
- EV/EBITDA 4倍、EBITDAからFCFへの転換率が50%の会社なら、FCFマルチプルは8倍になる。借入なしのIRRは12.5%。
- 買収価格の半分を借入で賄うと、自己資金は半分になる一方で、事業が生むFCFは変わらない。金利を無視したEquity IRRは25%に上がる。
- 金利はDebtに対して発生する。だからEquityへの影響は借入金利×D/Eになる。D/Eが1倍で金利3%なら3%ぶんが削れて、22%に着地する。
3行で書けるとはいえ、文章のまま読むと、どの数字がどこから来たのかを追うのに一手間かかる。 そこで貸借対照表と1年分のキャッシュを箱にして、借入なしと借入50%を上下に並べた図を作らせた。 自己資金の箱だけが半分になり、FCFの箱は動かない。 12.5%が25%になる理由は、この高さの違いで読める。
devで描画を確認してから公開した。 記事はM&Aの借入で株主のIRRが12.5%から22%に上がる仕組み。 コミットは学習ゲートをスキップして通した。記事と図の追加だけで、設計判断が入っていないからである。
担保300万円が支えているもの
2本目は、外部の解説記事を読んだところから始まった。 空売りが踏み上げに発展する道筋を、架空の会社の数字で検算しながら追う構成になっている。 ただ、文章と表を読んでも「担保が何を支えているのか」が頭の中で像を結ばない。 そこで、SVGを使って分かりやすく解説してほしいと頼んだ。 どういうレバレッジを担保しているのかを図で読めるように、とも付け加えた。
まず記事とSVG6枚が上がってきて、devでの描画確認まで済んだ。 ここで終わりにするつもりだったが、図1を見て手が止まった。
1回目の差し戻し
空売りは、先に売って後で買い戻す取引である。 売りと買い戻しのあいだには時間が流れている。 ところが最初の図は静止した箱の配置で、どちらが先なのかが読めなかった。 シーケンス図にしたほうが分かりやすい、と伝えて差し替えさせた。
縦軸に時間が通ると、借りる、売る、値上がりする、買い戻す、返す、という順番がそのまま目で追える。 本文のキャプションも図に合わせて書き直させた。
2回目の差し戻し
差し替わった図をもう一度眺めると、「1万株を貸す」のところに単価も総額も入っていなかった。 担保は300万円という総額の話をしているのに、貸した株がいくらぶんなのかは図の外にある。 これでは300万円が何に対する担保なのか読めない。
単価1,000円と総額1,000万円を入れさせて、担保300万円が時価の3割だと図の中だけで分かるようにした。 ここまで来て、ようやく「3割上がれば担保は尽きる」が絵として成立した。
図を突き返すときに効いたのは、「こう直して」ではなく「ここが読めない」と言うほうだった。 読めない箇所さえこちらで特定できれば、直し方は任せられる。
踏み上げの連鎖
図が揃ったところで、自分の理解を確かめた。 株価が上がって含み損が膨らみ、追証に応じなければ強制決済される。 そうすると買い注文が集中して需給が逼迫し、株価がさらに上がる。 つまり、空売りを仕掛けている人が普段より多い状態で株価がいつもどおり上がれば、追証を出せなかった分だけ買いが膨らむ。
返ってきた補足で腑に落ちたのは、空売り残高を「将来の買い注文の在庫」と言い換えた部分だった。 空売りした株は、必ずいつか買い戻して返さなければならない。 だから空売りが積み上がった銘柄には、まだ出ていない買い注文がその株数ぶん溜まっている。 普段は各自が好きなタイミングで少しずつ買い戻すので目立たない。 追証がそのタイミングを奪い、一斉に出させるのが踏み上げである。
記事はショートスクイーズはなぜ止まらないのかで、図は6枚になった。 元にした解説記事はこちら。
ある決済系の米国株の決算をどう読んだか
最後は記事ではなく調べもので、ある決済系の米国株の直近決算をx-searchで当たらせた。
売上、取扱高、粗利はいずれも大幅にビートしていた。 EPSだけが1セント届かなかった。 通期ガイダンスは取扱高と粗利を上方修正した一方で、営業利益は据え置いている。
上方修正の対象が取扱高と粗利なのに営業利益が動かない、という並びが引っかかった。 マージンの良くない顧客で伸ばしているようにも見える、と投げて解釈の当否を聞いた。 その読みは半分当たっていて、もう半分は意図的な戦略という色合いになる、という整理が返ってきた。
ビートの幅そのものより、どの項目を上方修正してどれを据え置いたかの組み合わせに情報がある。 数字を並べて終わりにすると、そこが読み落とされる。
今日の学び
- 図の差し戻しは、「こう直して」より「ここが読めない」のほうが通る。読めない箇所を特定するのは自分の仕事で、直し方のほうは任せられる。
- 時間の前後がある取引を箱の配置で描くと、順番が消える。縦軸に時間を通すだけで読めるようになる。
- 担保を描く図には、担保が支えている側の総額を必ず一緒に置く。300万円だけでは、大きいのか小さいのか判断できない。
- 空売り残高は「将来の買い注文の在庫」である。追証は、その在庫を一斉に吐き出させる引き金になる。