地理と主要都市

台湾は南北400km・東西140kmの細長い島で、真ん中を3000m級の中央山脈が縦に走る。 『街道をゆく40 台湾紀行』に出てくる地名を地図上で結びつつ、なぜ都市が西側に集中し、なぜ高雄は「打狗」と呼ばれていたのか、そんな問いから台湾の地理を読み解く。

このページで考える4つの問い

  1. なぜ主要都市は西部にだけ集中するのか?
  2. なぜ「6直轄市」はこの6つになったのか?
  3. なぜ「打狗→高雄」「鶏籠→基隆」と旧地名が書き換えられたのか?
  4. なぜ東部(宜蘭・花蓮・台東)は今も「島の裏側」のままなのか?

全島マップ

南北約400km、東西約140kmの島。主要都市はほぼすべて西部の平野に並び、東部(宜蘭・花蓮・台東)は中央山脈の向こう側で交通の便が悪い。 括弧の旧地名は清代〜日本統治期のもの。詳しい対照は 下の対照表 に。

北部中部南部東部台北市新北市桃園市 / 旧桃仔園台中市台南市 / 旧大員高雄市 / 旧打狗基隆市 / 旧鶏籠新竹市嘉義市宜蘭 / 旧蛤仔難花蓮台東

Q1. なぜ主要都市は西部にだけ集中するのか?

全島マップで都市ピン(青と緑)の位置を見ると、12都市のうち9つが西側の海岸沿いに一直線に並んでいる。 理由は単純で、台湾の真ん中を 中央山脈(標高3000m級)が縦に走り、島を物理的に2枚におろしているから。 西側は嘉南平野・台中盆地・台北盆地と農地に向く広い平地が広がるのに対し、東側は山が直接海に落ち込み、平地はごく細い帯しかない。

中央山脈の山並み
中央山脈。台湾を南北に貫く背骨で、3000m超の峰が60座以上ある。最高峰は玉山(3952m、富士山より140m高い)。 Photo: Wikimedia Commons
日本統治期に最初に作られた基幹インフラは、後藤新平の縦貫鉄道(基隆〜高雄、1908年全通)だった。 西部平野を縦に1本繋いだことで、都市はその沿線にさらに集まっていく。 現在の高鉄(2007年開業)もこの縦貫ルートを高速化したもので、台北〜高雄を1時間30分で結ぶ。 「西部にだけ街がある」のは地形の結果でもあり、20世紀のインフラ投資の累積でもある。

中央山脈と地形の話は 観光・自然 でも触れる。 山に追いやられた原住民の分布については 人口構成と原住民族 へ。

Q2. なぜ「6直轄市」はこの6つになったのか?

現在の台湾の地方行政は、第一級が 6直轄市(台北・新北・桃園・台中・台南・高雄)、第二級が 3市+13県。 この6直轄市体制は実は新しく、2010年の大規模再編+2014年の桃園昇格で完成したものだ。それ以前は直轄市は台北と高雄の2つだけだった。

高雄のスカイライン
高雄市街。1979年に台湾で2番目の直轄市となった港湾+重工業都市。2010年に旧高雄県と合併して現在の高雄市になり、面積で台湾最大の直轄市になった。 Photo: Wikimedia Commons
2010年の合併で、台中・台南・高雄は「市」と隣接する「県」が丸ごと合体して直轄市になった。 たとえば現在の台南市は「旧台南市+旧台南県」、高雄市は「旧高雄市+旧高雄県」。 県側の田園地帯までまとめて1つの直轄市にしたので、面積では高雄市が日本の岩手県より広い2900km²に達する。 日本の感覚で「市」と聞いて想像するサイズと一桁違う。

この6つに住む人口は約1660万人で、台湾総人口(約2300万人)の 7割超 を占める。 政治・経済・人口の重心はほぼこの6点に集中している。直轄市の昇格史と人口比は次の表のとおり。

区分名称
6直轄市台北市 / 新北市 / 桃園市 / 台中市 / 台南市 / 高雄市
3市(旧省轄市)基隆市 / 新竹市 / 嘉義市
13県新竹県 / 苗栗県 / 彰化県 / 南投県 / 雲林県 / 嘉義県 / 屏東県 / 宜蘭県 / 花蓮県 / 台東県 / 澎湖県 / 金門県 / 連江県

台北市を完全に取り囲んでいるのが「新北市」。旧「台北県」が2010年に直轄市化されたもので、本省人の生活圏としては台北市+新北市が事実上の一体。

Q3. なぜ「打狗→高雄」「鶏籠→基隆」と旧地名が書き換えられたのか?

『街道をゆく40』には清代・日本統治期の旧地名が頻出する。 多くは 原住民の集落名を漢人が音だけ拾って当て字 し、後に清朝や日本総督府が縁起のいい漢字(佳字)に書き換えた、という二段階の変遷をたどっている。

安平古堡(旧ゼーランディア城)
安平古堡(台南市安平区)。1624年にオランダ東インド会社が築いたゼーランディア城の跡。原住民シラヤ族の地名「タイオワン(大員)」がここで使われ、後に島全体の名「台湾」に転用された。 Photo: Wikimedia Commons
「打狗(ターカウ)」は原住民マカタオ族の集落名「Takau」の音写で、漢字の意味(犬を打つ)とは関係がない。 1920年(大正9年)、台湾総督府はこれを 京都の景勝地「高雄(たかお)」 に重ねて改称した。 植民地行政が、現地の音を残しつつ宗主国の地名に寄せていく、典型的なリブランディングだった。
旧地名現在由来・備考
大員 / 大灣(タイワン)台南(安平区が拠点)原住民シラヤ族の地名に由来。オランダはここにゼーランディア城を築いた。後に島全体の名前「台湾」に転用された。
鶏籠(雞籠 / ケーラン)基隆(キールン)原住民ケタガラン族の族名がなまって「ケーラン」、漢字「鶏籠」が当てられた。1875年、清朝が「基地昇隆」の意で「基隆」に改称。
滬尾(ホービ)淡水(タンスイ)清代の淡水庁の置かれた港町。「滬」は漁具のこと。日本統治期に「淡水」に統一された。
艋舺(バンカ)萬華(ワンホア)台北で最も古い街。原住民ケタガラン族の小舟「Mankah」が語源。日本統治期に「萬華(マンカ)」と当て字された。龍山寺がある。
打狗(ターカウ)高雄(カオション)原住民マカタオ族の集落名「Takau」が起源。1920年に台湾総督府が「高雄」(日本語読み「たかお」)と改称した。京都の高雄から取ったとされる。
桃仔園(タオアーヘン)桃園(タオユエン)清代の地名。日本統治期に「桃園」に簡略化。空港のある場所。
蛤仔難(カマラン)宜蘭(イーラン)原住民クバラン族の族名「Kavalan」に由来。清朝が「蛤仔難」と当て字し、後に佳字「宜蘭」に改めた。

地名の層を剥がしていくと、表面の漢字の下に 原住民の音 → 漢人の当て字 → 清朝・日本の佳字 という3層が露出する。 詳しい原住民族の分布は 人口構成と原住民族、地名読みの言語的背景は 使われている言語 へ。

Q4. なぜ東部(宜蘭・花蓮・台東)は今も「島の裏側」のままなのか?

全島マップの右側、緑のピンが集まる東海岸を見ると、宜蘭・花蓮・台東しか町がない。 中央山脈が海に直接落ち込む地形で平地が極端に狭く、清代までは漢人の入植もほとんど進まなかった。 「化外の地」と呼ばれた台湾の中でも、東部はさらに 「外の外」 として原住民の世界が残った。

基隆の街並み
基隆(旧鶏籠)。台湾本島北端の港町で、日本統治期の縦貫鉄道の始発駅。雨が多いことで知られ「雨港」とも呼ばれる。東部とは対照的に、西部縦貫線の起点として人と物が集まった。 Photo: Wikimedia Commons
東部の交通は 台鉄の北廻線(1980年全通)と南廻線(1991年全通) がやっと島を一周させた。 台北から花蓮までは台鉄で2時間半、台東までは4時間。高鉄は西部だけを走るので東部には来ない。 2024年4月の 花蓮地震 で蘇花公路・北廻線が何度も寸断されたように、東部の生命線は今も山を回り込む細い線1本に依存している。

台湾の鉄道は2系統で覚えると早い。台鉄(在来線・環島線)が島を1周し、高鉄(高速鉄道)が西部だけを縦に貫く。

台湾高速鉄道 700T型
台湾高鉄 700T型。JR東海・西日本の700系をベースにした車両で、2007年に開業。南港〜台北〜板橋〜桃園〜新竹〜苗栗〜台中〜彰化〜雲林〜嘉義〜台南〜左営(高雄)の12駅を結ぶ。 Photo: Wikimedia Commons
  • 台鉄 環島線: 西部幹線(基隆〜高雄)+東部幹線(宜蘭線・花東線)+南廻線で島を一周。九份への玄関口・瑞芳駅、平渓線(十分・菁桐)など観光路線もここ。
  • 高鉄(台湾高鐵): 2007年開業。台北〜高雄(左営)が最速 約1時間30分。在来線で6時間半かかっていた区間が一気に縮んだ。
  • 台北MRT: 1996年運行開始。主要観光地は赤・青・緑などのライン名で覚えると早い。

桃園空港から台北中心部は 桃園機場捷運(空港MRT) で台北駅まで直達35分・各停50分前後。

北・中・南・東の4地域

Q1〜Q4の整理を踏まえて、地域ごとのキャラクターを一覧で押さえておく。

地域主な都市キャラクター
北部台北・新北・基隆・桃園・新竹政治・金融・IT(新竹サイエンスパーク)の中心。旅行で滞在する大半はここ。
中部台中・彰化・南投・雲林製造業+農業。日月潭・阿里山など内陸観光。八田與一の烏山頭ダムは台南方面だが嘉南平野の北端に近い。
南部嘉義・台南・高雄・屏東台湾最古の都・台南(旧オランダ拠点)、海運・重工業の高雄。気候は亜熱帯〜熱帯。
東部宜蘭・花蓮・台東山と海。原住民の比率が比較的高い。太魯閣渓谷・花東縦谷。台北からは台鉄で2〜3時間。

歴史的経緯は 歴史概観、日本統治期のインフラ整備は 日本統治時代、戦後の政治史は 戦後と民主化 へ。

出典・参考