第Ⅱ期AI基本計画を図解で読む。国の戦略は「AIを導入する」から「AIを前提に作り直す」へ

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第Ⅱ期AI基本計画を図解で読む。国の戦略は「AIを導入する」から「AIを前提に作り直す」へ

2026年7月14日、「人工知能基本計画」の第Ⅱ期が閣議決定された。第Ⅰ期の閣議決定は2025年12月23日。国の基本計画としては異例の、7か月足らずでの全面改定になる。急いだ理由は計画自身が冒頭で書いている。AIが「業務を支援するツール」から「意思決定・実行を担う主体」——エージェント型AIへと急速に変わり、それをどう社会に実装するかが経済力・防衛力・技術力といった国力に直結するようになったからだ。

この記事では、内閣府が公表した概要資料(6ページ)を4枚の図に描き直して、計画の骨格をたどる。原文はこちら。

先に要点を3つ。

  • 計画は「使う・創る・信頼を高める・協働する」の4方針で組まれ、AIの利活用と技術革新の好循環を回す設計になっている
  • 中心に置かれた言葉は「AX(AIトランスフォーメーション)」。AIツールの導入ではなく、意思決定や業務の進め方をAI前提で作り直すことを、政府・企業・地方のすべてに求める
  • 開発では汎用モデルの正面競争を避け、現場の暗黙知を活かす「バーティカルAI」と、ロボット・自動運転などの「フィジカルAI」に投資を集中する

7か月で書き直された計画

人工知能基本計画は、2025年に成立したAI法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)に基づいて政府が定める計画だ。第Ⅰ期の副題は「『信頼できるAI』による『日本再起』」だった。第Ⅱ期の副題は「日本AX、より強く、より豊かに」。キーワードが「再起」から「AX」へ移ったところに、この7か月の変化が集約されている。

概要資料の現状認識はこうだ。世界ではエージェント型AIが、産業から安全保障まで広い分野で「業務全体を自律的に回す基盤」になりつつある。日本でも現場実務でのAI利用は加速し開発投資も伸びているが、組織全体・中小企業・地域への広がりに課題がある。だから計算資源、電力、人材、データ、制度・政策まで含めた「総体としてのAI実装能力」を強化する——。

もう1つ、計画の性格として押さえておきたいのは、当面は毎年変更すると明言していることだ。KPIなどのベンチマークを設定してモニタリングし、毎年書き直す前提で作られている。技術の変化速度に対して、数年固定の計画では持たないという判断が計画自体に織り込まれている。

全体の骨格 — 4つの方針

計画の施策は4つの基本方針に整理されている。図1がその全体マップだ。

第Ⅱ期AI基本計画の全体構造。「AIを使う」「AIを創る」「AIの信頼性を高める」「AIと協働する」の4つの基本方針と、それぞれの主な施策
図1: 4つの基本方針は独立したメニューではなく、「使う」が需要を作り「創る」が供給を強くし、その循環を「信頼」と「協働」が支える役割分担になっている

それぞれの中身を1〜2行でまとめる。

  • 1. AIを使う(利活用の加速的推進): 政府・自治体が率先してAIを導入する。政府内で使われているガバメントAI「源内」を進化させ、オープンソース化して自治体へ広げる。医療・金融・教育・防災などの分野で社会実装を進め、分野をまたぐデータ連携基盤を作る
  • 2. AIを創る(開発力の戦略的強化): 計算資源・データ・安定した電力供給を国家基盤として確保する。データセンターや半導体の生産能力を広げ、国内外のトップ人材を確保し、日本の文化を踏まえた基盤モデルの開発を進める
  • 3. AIの信頼性を高める(ガバナンスの主導): AI法を含めた制度を不断に見直し、AISI(AIセーフティ・インスティテュート)の評価能力を強め、AIサミットを早期に日本で開く
  • 4. AIと協働する(社会の継続的変革): 中小企業や地方を含めて産業のAXを進め、責任分界や知財保護の枠組みを検討し、リ・スキリングと全国民のAIリテラシー向上を支援する

中心概念「AX」— 道具の導入ではなく、仕事の作り直し

計画でいちばん重要な言葉はAXだ。計画は「AIを前提として意思決定や業務の進め方を根底から見直す」ことをAXと呼ぶ。この定義は、これまで多くの組織がやってきた「AI導入」とは別物を指している。図2がその違いだ。

AI導入とAXの対比。これまでのAI導入は業務の進め方を変えずAIを道具として使う。計画が求めるAXは意思決定・業務の進め方を根底から見直し、AIを実行まで担う主体として扱う
図2: AXは既存業務にAIツールを足すことではなく、エージェント型AIが実行まで担う前提で業務そのものを組み直すこと

背景にあるのはエージェント型AIの急伸だ。指示を待って文章を返すだけでなく、目標を与えると計画を立てて一連の業務を自律的に進めるAIが実用になった。人の業務プロセスをそのままにAIを「足す」使い方では、この変化を取り込めない。だから計画は、業務の側を作り直せと言っている。

そして政府自身が最初にやると宣言している。府省庁横断で法制度・ガイドライン・運用ルールを抜本的に見直し、優良なユースケースの横展開で自治体業務の構造変革をめざす。「まず政府が自分の業務で示す」という構図は、掛け声だけの計画と区別する試金石になるはずだ。

日本の勝ち筋 — 現場とハードで勝つ

開発力の章で計画がはっきり打ち出しているのは、汎用の大規模モデルでの正面競争ではなく、日本の持ち味が効く場所に投資を集中する方針だ。図3がその構造になる。

日本の勝ち筋の構造。現場の暗黙知をバーティカルAIに、ものづくりのハードの力をフィジカルAIに変換し、土台として開かれたAI主権を確保する
図3: 現場の暗黙知はバーティカルAIに、ものづくりの供給網はフィジカルAIに変換する。土台には「開かれたAI主権」を置く
  • バーティカルAIは、医療・金融・教育・防災といった特定領域に特化したAIを指す。計画は領域別の戦略を作り、官民で投資を集中するとしている。暗黙知が豊富な現場に向けて開発・実装し、輸出まで視野に入れる
  • フィジカルAIは、AIロボティクスや自動運転など、モノを動かすAIを指す。産業用ロボットと自動車産業で培ったサプライチェーンの強みを土台に、多用途ロボットの国産メーカーやシステム・インテグレーターを育てる
  • 土台に置かれるのが開かれた「AI主権」だ。AIエコシステム全体の中で戦略的な自律性と不可欠性を確保し、同志国と連携しながら、供給を断たれても運用を続けられる能力を保つ

科学研究の分野でも「AI for Science」として、AI駆動型の研究への支援や研究データの戦略的な管理・利活用を進めるとしている。

信頼の作り方 — 制度・技術・組織の三本立て

リスク対応の章で目を引くのは、法規制だけに寄りかからない構成だ。エージェント型AIの普及でリスクは複雑になり深刻になる、という認識を置いたうえで、対応を3つの経路に分けている。図4だ。

リスク対応の3本柱。制度による対応、技術による対応、組織管理による対応を統合し、責任あるアジャイル・ガバナンスで信頼できるAIを体現する
図4: 制度・技術・組織管理の3つの対応を統合して「責任あるアジャイル・ガバナンス」に取り組む。規制一本槍ではない設計
  • 制度: AI法第16条に基づく調査研究を機動的に運用し、制度やガイドラインを能動的・不断に見直す。行政事務でAIを使うときの留意点や、権利侵害に関する法的整理も進める
  • 技術: AISIを中心に、AIモデルの評価、トレーサビリティ、ガードレールといった技術的な制御・評価能力を確立する。サイバーセキュリティでは「Project YATA-Shield」に基づき、重要インフラ事業者への対応と脆弱性の発見・修正を進める
  • 組織管理: 制度と技術に加えて、AIを導入する組織側の管理体制づくりにも統合的に取り組む

国際面では、AISIの国際ネットワークを使った標準化の議論やASEANなどグローバルサウス諸国との協調を進め、AIサミットの早期日本開催で「世界のAIイノベーションの結節点」をめざすとしている。

暮らしと仕事はどう変わるか

4つ目の方針「AIと協働する」は、生活者に近い論点を扱っている。

  • 雇用: AIが働き方や雇用に与える影響を調査研究し、リ・スキリングの推進を含めた対策に取り組む
  • 責任と知財: エージェント型AIを前提に、権利侵害や損害が起きたときの責任分界を継続的に検討する。知的財産の保護と利活用につながる透明性を確保し、コンテンツホルダーへの対価還元を進める
  • 教育: 初等中等教育での生成AI利活用ガイドラインを改訂し、教職員向けの研修を充実させる
  • 人間力: 創造力・批判的思考・判断責任といった、人が担うべき力を「人間力」と呼び、人とAIの役割分担を探りながらその向上を図る

「人間力」という言葉が国の計画に据わっているのは面白い。AIが実行を担うほど、何をやるか決めて結果に責任を持つ側の力が問われる、という整理だ。

まとめ — 「導入したか」ではなく「作り直したか」が問われる

概要資料6ページを読み終えて残るのは、評価の物差しが変わったという感触だ。

  • 計画は毎年変更・KPIモニタリング前提で作られており、書きっぱなしではなく進捗が毎年測られる
  • 問われるのは「AIツールを入れたか」ではなく「業務の進め方をAI前提で見直したか」。政府・自治体が源内で先行し、中小企業・地方への支援メニューが並ぶ
  • 開発投資はバーティカルAIとフィジカルAIに集中する。医療・金融・教育・防災・ロボット・自動運転あたりの現場を持つ事業者には、政策の追い風が最も強く当たる

自分の仕事に引き付けるなら、試すべき問いは1つだと思う。いまの業務フローのどこかにAIを「足す」のではなく、エージェント型AIが実行を担う前提で業務を組み直すとしたら、何が残って何が消えるか。国の計画は、その問いを全員に配ったところだ。

では、誰がAXをできるのか。計画が書いていないこの問いへの私見は、Claude Code の作者 Boris Cherny のポストとつなげて別の記事に独立させた。続きは誰がAXをできるのか。業務をコードに落とし込める人の条件へ。