freeeの「+更新」は何を解決する機能か。マネーフォワードに同じ操作がない理由
freeeの「+更新」は何を解決する機能か。マネーフォワードに同じ操作がない理由
freeeが2026年9月9日に更新した「取引の登録・編集画面 リニューアルの今後の方針についてのご案内資料」を読んだ。 18枚のうち2枚が「+更新」ボタンに割かれている。 β版画面では「+更新のボタンが見つけにくい場所になっていました」「操作方法がこれまでと大きく異なり、会計知識が必要な画面になっていました」と課題に挙げられ、新画面では取引詳細の1ページ目にボタンを戻すという。
私はマネーフォワード クラウド会計を使っていて、「+更新」に相当する操作をしたことがない。 それで不便を感じたこともない。 freeeが旧画面の仕様に戻すと決めたこのボタンは、何を解決しているのか。 freeeのヘルプと税理士の解説を読んで整理した。
結論を先に置く。
- 「+更新」は、登録済みの取引に紐づけたまま振替仕訳を1本足すボタンである。取引そのものは書き換えない
- 使う場面は大きく2つある。1つは、未決済の売掛金や買掛金の残高を、入出金以外の理由(返品、値引き、貸倒)で減らすとき。もう1つは、前受金や前払費用を売上や費用に振り替えるとき
- マネーフォワードにこの操作がないのは、入力単位が仕訳だからである。値引きなら「売上値引高/売掛金」の仕訳を1本切れば売掛金の残高は減る。「取引を更新する」という操作が要らない
- つまり「+更新」は、freeeが「取引」という単位で債権債務の残高を持つことの帰結として必要になった機能である。その見返りに、1件の取引の中に発生から消込までの経緯が残る
freeeの「取引」は仕訳ではない
freeeのヘルプは「取引」を「勘定科目と決済状況の指定で入力する仕訳データ」と定義し、仕訳入力との違いを「売掛金や買掛金などの債権・債務を管理できる点」だとしている1。
入力項目は、収支区分(収入か支出か)、勘定科目、金額、決済状況、口座または決済期日である。 決済済みなら相手勘定は口座になり、未決済なら相手勘定は売掛金や買掛金になる。 たとえば4月25日に130,000円の売上を未決済で登録すると、仕訳は「売掛金 130,000/売上高 130,000」と自動生成される。
ここまでなら仕訳入力と変わらない。 違いは、この取引が未決済残高130,000円を自分で持っていることにある。 後日130,000円が入金されたら、その取引に対して「決済」を登録する。 すると「普通預金 130,000/売掛金 130,000」の仕訳が生成され、取引の残高は0になって決済済みに変わる。
freeeでいう消込は、この「取引に決済を登録する」操作を指す。 売掛金の残高は勘定科目の元帳ではなく、まず1件1件の取引が持っている。 未決済取引の一覧が、そのまま売掛金と買掛金の台帳になっている。
決済では減らせない残高をどう減らすか
この設計には、埋めなければならない隙間が1つある。 取引の残高を減らす標準の手段は「決済」で、決済とは口座への入出金である。 では、入出金を伴わずに残高が変わったらどうするか。
売上200,000円を未決済で登録したあとに、50,000円の返品が確定したとする。 入金されるのは150,000円だが、取引の残高は200,000円のままなので、150,000円の決済を登録しても50,000円が未決済で残り続ける。 残高を減らしたいが、入金はない。
ここで登場するのが「+更新」である。 freeeのヘルプの言葉を借りれば、「勘定科目」または「未決済状態により認識された債権・債務」について振替仕訳を登録する機能だ1。 ヘルプに載っている手順はこうなる2。
- 取引の詳細画面で、「決済」欄の「+更新」をクリックする(「+決済」ではない)
- 更新日に返品が確定した日、勘定科目に「売上戻り高」、金額に50,000円を入れて保存する
- 取引の決済残額が150,000円に調整される
- 150,000円の入金を決済として登録すると、残額が0になる
生成される仕訳は「売上戻り高 50,000/売掛金 50,000」で、振替伝票で切るものと同じである。 違いは、この仕訳が元の取引にぶら下がり、取引の残高を減らす点だけだ。
2種類の「+更新」
ヘルプを読むと、「+更新」のボタンは2つの欄にある3。 どちらの欄から押すかで、振り替える側が変わる。
| 押す場所 | 振り替える対象 | 用途 | 仕訳の例 |
|---|---|---|---|
| 「決済」欄の+更新 | 未決済の債権や債務(売掛金、買掛金など) | 返品、値引き、貸倒 | 売上戻り高 50,000/売掛金 50,000 |
| 「収入」「支出」欄の+更新 | 取引の勘定科目そのもの | 前受金、前渡金、経過勘定、仮勘定の振替 | 外注費 5,000/前渡金 5,000 |
「収入」「支出」欄のほうは、取引の相手側ではなく取引の科目自体を振り替える。 10月26日に前渡金5,000円を現金で支払い、11月15日に納品されたら、支出の取引を選んで「+更新」から借方の科目を外注費に更新する。 仕訳は「外注費 5,000/前渡金 5,000」となり、前渡金の取引は「外注費に化けた」という履歴を持ったまま残る。
使いどころを4つに分ける
ヘルプと税理士の解説に出てくる場面を並べると4つになる。 前の2つは「決済」欄、後の2つは「収入」「支出」欄の「+更新」を使う。
1. 請求額より少なく入金される(返品、値引き)
「決済では減らせない残高をどう減らすか」で挙げた例そのものである。 返品や値引きが確定したら、決済欄の「+更新」で残高を減らし、残額を決済で消し込む。 freeeはこの差額処理を「+更新」から行うようヘルプで明示している2。 仕入側なら「買掛金 5,000/仕入高 5,000」のように、元の科目をそのまま減らす登録もできる4。
なお、振込手数料が差し引かれて入金されたケースでは「+更新」を使わない。 「決済を登録」画面で入金額を入れると「支払手数料として登録する」というチェックボックスが出るので、それを使う。 「自動で経理」でも「差額の調整」から支払手数料の行を足せる2。 入出金に伴う差額は決済側、入出金と無関係な差額は「+更新」側、という切り分けになる。
2. 回収できなくなる(貸倒)
取引先が倒産して売掛金100,000円が回収不能になったら、決済欄の「+更新」で勘定科目に「貸倒損失」を指定する。 仕訳は「貸倒損失 100,000/売掛金 100,000」となり、取引は残高0で閉じる3。 貸倒引当金を50,000円繰り入れていたなら、「+更新」の画面で行を追加し、1行目に貸倒引当金50,000円、2行目に貸倒損失50,000円と入れる。
貸倒れは、入金が永遠に来ない取引である。 「+更新」がなければ、この取引は未決済の一覧に残り続けるか、削除するしかない。
3. 手付金を売上や資産に振り替える(前受金、前渡金)
30万円の備品を売る契約で9月1日に10万円の手付金を受け取ったら、「前受金」の収入取引として登録する。 10月1日に納品したら、その取引の「+更新」で前受金を売上高に変更する。 仕訳は「前受金 100,000/売上高 100,000」になる5。 買い手側の前渡金も同じで、車両の手付金20万円を10月10日の納車時に「車両運搬具 200,000/前渡金 200,000」と振り替える。
4. 経過勘定を月ごとに取り崩す(前払費用、未払費用)
年払いの保険料や家賃を前払費用で計上し、毎月費用化する処理も「収入」「支出」欄の「+更新」で行う。 植村一樹税理士の解説によれば、「毎月末に1,000円ずつ取り崩す」ような複数回の更新を、1度の操作でまとめて登録できる6。 同氏はこれを「他の会計ソフトでは見られない」機能と評している。
ただし、件数が多いと「+更新」は向かない。 freeeアドバイザー向けの解説で竹市真由香税理士は、前受金と前払金の処理方法を4つ並べている7。
| 方法 | 長所 | 短所 |
|---|---|---|
| +更新 | 1件ごとの取り崩し状況が明確 | 1件ずつ手作業なので、件数が多いと繁雑。月に数件向け |
| 前受/前払入力アプリ | 24か月分などの期間按分を一気に登録できる | 登録後の一括修正や削除が難しい |
| 「口座」として管理 | 自動化でき、手間が最も少ない | 1件ごとの取り崩し状況は分からない |
| 振替伝票 | インポートなら記帳の手間は少ない | 取引との紐づきがなく、1件ごとの状況は分からない |
「前受/前払入力アプリ」は「+更新」を一括で行うアプリで、今回のリニューアル資料でも「+更新」の画面からこのアプリへの動線を足したとある。 freeeのアドバイザーガイド上でも、「+更新」は1件ごとの紐づきと引き換えに手作業が要る方法だと位置づけられている。
マネーフォワードに同じ操作がない理由
マネーフォワード クラウド会計の入力単位は仕訳である。 売上を計上するときは「売掛金/売上高」の仕訳を切り、入金されたら「普通預金/売掛金」の仕訳を切る。 2本の仕訳は互いを知らない。 売掛金の残高は、勘定科目の残高として、必要なら取引先ごとの補助科目の残高として、元帳が持つ。
だから返品が確定したら、「売上値引高/売掛金」の仕訳を1本切るだけでよい。 補助科目の残高は150,000円に減り、入金の仕訳を切れば0になる。 「取引の残高を更新する」という操作は、更新すべき取引が存在しないので要らない。 私が不便を感じたことがないのは、不便が生じる構造をそもそも持っていないからだった。
その代わり、マネーフォワードの仕訳帳を見ても、摘要に書いておかない限り「この入金はどの請求に対するものか」は分からない。 補助科目の残高が合っていれば結果は正しいが、1件ごとの対応は、マネーフォワード クラウド請求書との連携で入金と請求書を突き合わせる消込機能や、表計算の売掛金台帳のような別の場所で持つことになる。
freeeは逆で、1件ごとの対応を「取引」という箱で最初から持つ。 箱を持つと、箱の中身を書き換える手段が要る。 それが「+更新」である。
「取引」概念に引っ張られた機能なのか
引っ張られている。 ただし欠陥ではなく、設計の対価である。
freeeの「取引」は、発生の仕訳と消込の仕訳を1つの単位に束ねる。 束ねることで、未決済取引の一覧がそのまま債権債務の台帳になり、「自動で経理」が入金明細と未決済取引を突き合わせて消込を提案できる。 一方で、束ねた単位の残高を減らす標準の手段は決済なので、入出金を伴わない変動(返品、値引き、貸倒)と、科目の変化(前受金の充当、経過勘定の取り崩し)には専用の入口が要る。 仕訳が単位のソフトでは「もう1本仕訳を切る」で済むことが、取引が単位のソフトでは「取引を更新する」という名前のついた操作になる。
見返りは、取引を開けば「200,000円で発生し、50,000円が返品され、150,000円が入金された」という経緯が1か所で読めることである。 前受金なら「9月1日に受け取り、10月1日に売上になった」が、前受金の取引に残る。 竹市税理士の比較表で「+更新」だけが「1件ごとの取り崩し状況が明確」とされているのはこのためで、振替伝票で同じ仕訳を切れば紐づきは消える。
リニューアルで「+更新」がどう戻るか
資料によれば、β版画面では「+更新」のボタンが見つけにくい場所にあり、操作方法もこれまでと大きく異なって会計知識が必要な画面になっていた。 新画面ではボタン、履歴表示、登録画面の3つを旧画面に合わせる方向で進めるとある。
- 取引詳細の1ページ目に「+更新」のボタンを置く
- β版で残高表示にしていた「+更新」の内容を、旧画面と同じく時系列で発生額を表示する
- 登録画面を旧画面に合わせ、「+更新」の内容を折りたためるようにする
- 前受/前払入力アプリへの動線を追加する
日程は、2026年4月以降にβ版を順次アップデートし、2026年9月以降に新画面を正式リリースして移行期間に入り、2026年秋以降(時期未定)に旧画面を廃止する予定と書かれている。
「残高表示」から「時系列の発生額表示」に戻す、という1行が目を引く。 β版は「+更新」の内容を残高で見せていたが、旧画面のユーザーは「取引に何が起きたか」の履歴として読んでいたのだろう。 ボタンの場所と表示形式の両方が旧画面に戻るのは、この機能がfreeeのユーザーにとって日常の操作だからだと読める。 取引が単位である以上、入出金なしに金額が変わるたびに必ず通る入口なのだから。
マネーフォワードのユーザーがfreeeを触るときに覚えておくこと
- 登録済みの未決済取引の金額が入出金なしに変わったら、取引を編集するのではなく「+更新」で差額を足す。取引の編集は入力ミスの訂正に使う
- 入出金に伴う差額(振込手数料、過入金)は決済側の「差額の調整」で、入出金と無関係な差額(返品、値引き、貸倒)は「+更新」で処理する
- 前受金や前払費用は「+更新」で振り替えると取引に履歴が残る。件数が多ければ前受/前払入力アプリを使う
- 売掛金と買掛金の相殺は「+更新」ではなく、「自動で経理」の消込で収入と支出の未決済取引を両方選んで行う8
- 振替伝票は特定の取引と紐づかない。日常の売掛金や買掛金の消込は未決済取引で行い、振替伝票で売掛金や買掛金を書くのは開始残高の消込のような例外に限る9
Footnotes
- freeeの「取引」で作成される仕訳について知りたい(freee ヘルプセンター) ↩ ↩2
- 未決済取引の消し込み金額に過不足があった時の記帳方法(freee ヘルプセンター) ↩ ↩2 ↩3
- 貸倒損失の計上・経過勘定などの振替を行う(+更新)(freee ヘルプセンター) ↩ ↩2
- 値引きを記帳する(freee ヘルプセンター) ↩
- 手付金(前払金・前受金など)がある取引を登録する(freee ヘルプセンター) ↩
- 経過勘定項目の会計処理には「+更新」機能が便利【freee】(植村一樹税理士事務所) ↩
- freee独自の前受金・前払金の処理について理解しよう(freeeアドバイザーガイド、竹市真由香税理士) ↩
- 未決済取引の消込についてのよくある質問と対処方法(freee ヘルプセンター) ↩
- 開始残高に入力した内容を消し込む・振り替える(freee ヘルプセンター) ↩