データから見る日本の公認会計士:マクロデータを用いたファイナンシャルプランニング
データから見る日本の公認会計士:マクロデータを用いたファイナンシャルプランニング
JICPA(日本公認会計士協会)組織内会計士研修会(2026年2月25日開催)の講演内容をもとにまとめた記事。講師は明治学院大学経済学部経営学科教授・公認会計士の北浦貴士氏。著書『データブック 日本の公認会計士』(中央経済社、2026年)で明らかになった知見を中心に、公認会計士の待遇や独立状況、女性公認会計士の現状を、マクロデータから読み解く。
結論:若手男性CPAのファイナンシャルプランニング
講演の内容はマクロデータの紹介が中心で、「では自分はどうキャリアを設計し、資産形成すればいいのか」という具体的なプランニングには踏み込んでいなかった。そこで、講演データをもとに若手男性CPA(25〜35歳)のキャリア・ファイナンシャルプランニングのパターンを整理した。
前提となるデータ要約
| 項目 | データ |
|---|---|
| CPA平均年収(全規模) | 約800万円(40歳前後) |
| 大規模法人(1,000名以上) | 若くて高年収、1,000万円超も多い |
| 中規模法人(100〜999名) | 800万円前後 |
| 小規模事務所(10〜99名) | 600万円台、平均年齢が高い |
| 年収ピーク | 60〜64歳 |
| 65歳以降 | 年収が急落 |
| 独立CPA比率 | 全体の約30% |
| 独立事務所の年収推計 | 利益+人件費で約1,269万円 |
| 独立のボリュームゾーン | 45歳以上、特に60歳前後 |
パターン1:大手監査法人キャリア継続型
想定: 25歳で大手監査法人入社 → マネージャー → シニアマネージャー → パートナーを目指す
| 年齢 | ポジション | 想定年収 | 累計貯蓄(税引後) |
|---|---|---|---|
| 25〜29 | スタッフ〜シニア | 550〜750万 | 300〜500万 |
| 30〜34 | マネージャー | 900〜1,100万 | 1,500〜2,500万 |
| 35〜39 | シニアマネージャー | 1,100〜1,400万 | 3,500〜5,000万 |
| 40〜 | パートナー | 1,500〜3,000万 | 右肩上がり |
メリット:
- データ上、1,000名以上の組織が最も年収が高い
- 年齢別年収カーブも急勾配で上昇する
- 厚生年金・退職金制度が充実
リスク:
- パートナー昇進は狭き門。昇進できない場合、40代前半で年収が頭打ちになる
- 繁忙期の長時間労働が常態化しやすい
- 65歳以降の年収急落に備える必要がある
FP上のポイント:
- パートナー昇進の可否が30代後半で見えてくるため、そこが次のキャリア判断のタイミング
- 高年収期間に資産運用を進め、65歳以降の収入減に備える
- 退職金の受取方法(一時金 vs 年金)の選択が老後設計に大きく影響する
パターン2:監査法人 → 事業会社(組織内会計士)転身型
想定: 25歳で監査法人入社 → 30歳前後で事業会社の経理・財務・経営企画へ転職
| 年齢 | キャリア | 想定年収 |
|---|---|---|
| 25〜29 | 監査法人スタッフ | 550〜750万 |
| 30〜34 | 事業会社(課長級) | 700〜900万 |
| 35〜39 | 事業会社(部長級) | 900〜1,200万 |
| 40〜50 | CFO・管理本部長 | 1,200〜1,800万 |
| 50〜 | 役員・顧問 | 会社による |
メリット:
- データ上、正規職員(全体の60%)の中で最も安定したキャリアパス
- 監査法人より労働時間が安定しやすい
- 上場企業なら株式報酬やストックオプションが年収に上乗せされる
リスク:
- 監査法人時代より初期年収が下がる可能性がある(100〜999名規模で800万円前後)
- 一つの会社に依存するため、業績悪化や人事異動のリスクがある
- CPAとしての専門性が薄れる可能性がある
FP上のポイント:
- 転職時の年収ダウンを許容できるか、30歳時点の貯蓄で判断する
- 事業会社の退職金・企業年金制度を確認する(監査法人との差を比較)
- CFOポジションを目指す場合、40代前半までにそのルートに乗れるかが分岐点
パターン3:35〜40歳で独立開業型
想定: 監査法人で10〜15年の経験を積んだ後、35〜40歳で独立開業
| 年齢 | キャリア | 想定年収 |
|---|---|---|
| 25〜34 | 監査法人 | 550〜1,100万 |
| 35〜39 | 独立初期(顧客開拓) | 400〜800万 |
| 40〜49 | 独立安定期 | 800〜1,300万 |
| 50〜64 | 独立成熟期 | 1,000〜1,500万 |
| 65〜 | 縮小 or 継続 | 自分で決められる |
メリット:
- データ上、独立CPAの45歳以降の独立率が高い。35〜40歳での独立は「早めの独立」として差別化になる
- 65歳以降の年収急落がない(自分で仕事量を調整できる)
- データ上、従業員1人あたり売上は規模によらず約1,000万円。少人数でも十分な売上が立つ
リスク:
- 独立初期の収入減。データ上、1〜4名規模の事業所平均売上は2,188万円だが、開業直後はそこに届かない
- 個人事務所の利益率は29.9%。売上2,000万円でも利益は約600万円
- 社会保険料が全額自己負担になる(国民年金+国民健康保険)
- 退職金がないため、小規模企業共済等で自分で積み立てる必要がある
FP上のポイント:
- 独立前に生活費の1.5〜2年分(600〜1,000万円)の運転資金を確保する
- 独立初期の収入減を見込んだキャッシュフロー計画が必須
- 小規模企業共済(月7万円、年84万円の所得控除)で退職金を自分で作る
- 国民年金の上乗せとして付加年金 or iDeCoを活用する
パターン4:監査法人 → 独立(コンサル・アドバイザリー特化)型
想定: 監査法人のアドバイザリー部門で専門性を磨き、30代半ばでコンサルティング・M&Aアドバイザリーに特化して独立
| 年齢 | キャリア | 想定年収 |
|---|---|---|
| 25〜29 | 監査法人(監査) | 550〜750万 |
| 30〜34 | 監査法人(アドバイザリー) | 800〜1,200万 |
| 35〜39 | 独立コンサル初期 | 600〜1,500万 |
| 40〜 | 独立コンサル安定期 | 1,200〜2,500万 |
メリット:
- 記帳代行・税務顧問とは異なる高単価案件を獲得できる
- 時間単価が高く、パートタイムでも十分な収入を得られる(データ上、CPAのパートタイム時給はフルタイムと同水準)
- 規模拡大しなくても個人で高収入を維持できる
リスク:
- 案件の波が大きく、収入が不安定になりやすい
- 専門領域の市場が縮小するリスクがある
- 人脈と実績が収入に直結するため、監査法人時代の人的ネットワーク構築が不可欠
FP上のポイント:
- 収入の振れ幅が大きいため、良い年に多く貯蓄・投資し、悪い年に取り崩すバッファ戦略が必要
- 法人化(マイクロ法人)による節税メリットを早期に検討する
- 案件単価を維持するため、継続的な自己投資(研修・資格取得)をコストとして計上する
パターン5:ワークライフバランス重視型(パートタイム活用)
想定: フルタイム勤務の後、ライフイベント(結婚・育児・介護・サイドプロジェクト等)に合わせてパートタイムに移行
| 年齢 | キャリア | 想定年収 |
|---|---|---|
| 25〜34 | フルタイム(監査法人 or 事業会社) | 550〜1,100万 |
| 35〜44 | パートタイム(フルタイムの55%稼働) | 400〜600万 |
| 45〜 | フルタイム復帰 or パートタイム継続 | 選択による |
メリット:
- データ上、CPAのパートタイム時給はフルタイムとほぼ同水準。時間を減らしても時間単価は下がらない
- 男性にとっても育児参加やサイドプロジェクトに時間を使える選択肢
- 55%稼働でも年収400〜600万円を維持できる
リスク:
- フルタイムに戻る際、キャリアのブランクが不利になる可能性
- 厚生年金の加入期間が短くなり、老後の年金額が減少する
- 昇進ペースが大幅に遅れる
FP上のポイント:
- パートタイム期間中の社会保険の扱い(任意継続 or 国保)を事前に確認する
- フルタイム期間中に多めに資産形成し、パートタイム期間の収入減をカバーする
- iDeCo・NISAなど税制優遇の積立投資をフルタイム期間中に開始しておく
パターン比較:35歳時点のシミュレーション
25歳で監査法人に入所し、35歳時点でどのポジションにいるかによる比較。
| パターン | 35歳時点の年収 | 35歳時点の金融資産(税引後推計) | 65歳時点の見通し |
|---|---|---|---|
| 1. 大手継続 | 1,100〜1,400万 | 3,000〜4,000万 | パートナーなら高い、それ以外は頭打ち |
| 2. 事業会社 | 800〜1,000万 | 2,000〜3,000万 | 安定だが上限あり |
| 3. 独立(税務+監査) | 400〜800万 | 1,500〜2,500万 | 自分次第、65歳以降も働ける |
| 4. 独立(コンサル) | 600〜1,500万 | 1,500〜3,000万 | 高単価を維持できれば最も高い |
| 5. パートタイム | 400〜600万 | 1,500〜2,000万 | 時間の自由と引き換え |
※金融資産は年間貯蓄率30〜40%、運用利回り年3%で概算。住宅購入・結婚費用等の大型支出は含まない。
女性CPAのプランニング補足
男女でプランニングが異なる最大の要因は、データが示す40代の年収格差にある。
- 35歳まで男女格差は1.5倍以内だが、40〜49歳で2〜3倍に拡大する
- 背景は監査業務の繁忙期と育児・家事負担の衝突(構造的問題)
- 1,000名以上の大規模法人ほど格差が大きい(40代で約3倍)
女性CPAにとっては、35歳までにキャリアの方向性を固めることがより重要になる。大規模法人に残る場合は格差拡大のリスクを認識したうえでの戦略が必要であり、独立やパートタイム活用で時間単価を維持する選択肢がデータ上は合理的に見える。
以下、上記パターンの根拠となるマクロデータ分析の詳細を示す。
書籍の全体像
『データブック 日本の公認会計士』は、日本の公認会計士のキャリアの現状をマクロデータで分析した書籍で、6つの視角から公認会計士を捉えている。
本研修会では、このうち第5章(公認会計士の待遇や独立状況)と第6章(女性公認会計士)をメインに取り上げ、ファイナンシャルプランニングへの応用を学ぶ。
データ分析によるファイナンシャルプランニング
ファイナンシャルプランを作成するうえでは、現在のデータに基づく必要がある。また、ファイナンシャルプランの前提として個人のライフプランが重要で、それは単純な資金計画だけでなく、「どのようなキャリアを歩んでいくのか」「どのようなキャリアを歩みたいのか」という視角が欠かせない。
こうした問いを考えるうえで、マクロデータが役に立つ。
マクロデータがなぜ重要か
私たちは日々さまざまな情報にさらされている。インターネットが発達した近年では、SNSなどを通じて生の情報がダイレクトに届く一方で、フェイクニュースのような偽の情報が含まれるリスクもある。入手した情報が正しいかどうかを、情報のリソースを意識して判断する必要がある。
「木を見て森を見ず」という言葉の通り、常に全体の特徴を把握しておく必要がある。しかし、年齢を重ねるほど自分の経験から全体像を推測しがちで、思い込みに陥りやすい。だからこそ、データを使うことが重要になる。
国勢調査の活用
国勢調査は日本国内の在住者を対象とした調査で、5年に1度実施される。直近では2025年に実施された。多くの人が回答する大規模調査であるため、全体の特徴をある程度正確に把握できる。
たとえば「1世帯あたりの人数」が減少傾向にあることは何となく分かっていても、具体的に現在どの程度なのか、単身世帯の割合が5年前からどの程度上昇したのか、すぐに答えられる人は少ない。国勢調査を使えば、こうした全体像を数字で把握できる。
公認会計士のキャリアを把握する難しさ
公認会計士のキャリア情報を得ようとする場合、個人のSNSやブログ、口コミサイトなどを参照することが多い。しかし、公認会計士のキャリアは多様だ。監査法人、独立開業、組織内会計士と形態が異なり、フルタイムで働く人もいればパートタイムの人もいる。キャリアの全体像を捉えるのが難しい職種であるからこそ、マクロデータを用いる意義がある。
フルタイム公認会計士の労働条件
フルタイム公認会計士の労働条件の分析には「賃金構造基本統計調査」を用いる。この調査は「主要産業に雇用される労働者の賃金の実態を明らかにする統計調査」であり、企業規模10名以上の企業において職種別の分類がなされている。
ただし公認会計士単独のデータは存在せず、「公認会計士及び税理士」という区分が最も細かな職種分類となる。比較対象として、民間事業所の全産業と、同じ資格職で区分掲記されている「医師」の状況も見ていく。
平均年齢の推移
2010年から2024年にかけて、公認会計士及び税理士、医師、全産業ともに平均年齢が上昇している。注目すべきは、公認会計士及び税理士の平均年齢が医師や全産業に比べて若いことだ。全産業との比較では、ほぼすべての年で公認会計士及び税理士の平均年齢が下回っている。
ただし、公認会計士及び税理士はサンプル数が相対的に少ないため(約2万件程度)、年ごとの振れ幅が大きい。全産業はサンプル数が多いため安定した推移を示している。
年収の推移
年収は、医師・公認会計士及び税理士・全産業の順に高い。
公認会計士及び税理士の年収は800万円前後を上下しており、時系列での明確な上昇傾向は見られない。一方で、全産業は緩やかに、医師は200万円以上の上昇を見せている。
40歳前後で年収800万円という水準について、北浦教授は「ちょっとイメージとしては少ないと感じる方が多いのではないか」とコメントしている。これは、さまざまな待遇の公認会計士が混在しているためである。
企業規模別の分析
企業規模別に見ると、規模が大きくなるほど平均年齢は低く、年収は高いという特徴がある。
- 1,000名以上: 最も年齢が若く、年収が最も高い(1,000万円超の年も多い)
- 100〜999名: 800万円前後で推移
- 10〜99名: 最も年齢が高いが、年収は600万円台
通常の日本企業では年功序列により年齢が上がるほど収入が増えるが、公認会計士及び税理士の場合は逆の構造を持つ。大規模組織では若い人材が高い給与を得ている。
年齢別年収
年齢別年収の分析からは、以下の特徴が見て取れる。
- すべての年齢層で、医師 > 公認会計士及び税理士 > 全産業 の序列が成立する
- 公認会計士及び税理士は年齢が上がるに従って年収が増加し、60歳から64歳にピークを迎える。その後、65歳以降で急激に減少する
- 医師は20代前半の時点ですでに公認会計士及び税理士の1.4倍、全産業の1.5倍で、30歳以降に差がさらに拡大する
- 公認会計士及び税理士の年収が全産業と大きく差がつくのは35歳以降
- 65歳から69歳にかけて年収が急落し、全産業との差が縮まる
時系列(2009年・2014年・2019年・2024年)で見ると、2014年と2019年は20代から50代にかけて年齢が上がっても年収がそれほど上昇していなかった。2024年は年齢と年収の相関が確認できる。共通しているのは、60歳前後でピークを迎え、その後急落するパターンである。
パートタイムの状況
パートタイムの平均年齢
パートタイムにおいても、3つの職種の平均年齢は2010年から2024年にかけて上昇している。3職種ともに、パートタイムの平均年齢はフルタイムに比べて高い。
フルタイムでは公認会計士及び税理士の平均年齢が若かったのに対し、パートタイムでは必ずしも若くない。2020年代以降はむしろ高い傾向が見られる。
勤務日数と勤務時間
公認会計士及び税理士と全産業のパートタイムの月あたり勤務日数は15日前後で、2010年から2024年にかけて緩やかに低下している(2010年の17日程度から2024年には15日を下回る水準へ)。これはフルタイム(月22日程度)の68% にあたる。
一方、医師のパートタイムの月あたり勤務日数は約6日で、公認会計士及び税理士の40%程度にすぎない。
1日あたりの勤務時間を見ると、公認会計士及び税理士のパートタイムが最も長く、平均6.5時間(フルタイム8時間の81.3%)。月あたりの勤務日数(68%)と1日あたりの勤務時間(81.3%)を掛け合わせると、パートタイムの公認会計士及び税理士はフルタイム業務の約55% の時間を働いている。つまり、パートタイムといっても相当な労働時間を投入している。
パートタイムの時給
時給についても、2010年から2024年まで一貫して医師・公認会計士及び税理士・全産業の順に高い。医師の時給は1万円超で他の職種と大きな差がある。公認会計士及び税理士は3,000〜4,000円程度。
特徴的なのは、公認会計士及び税理士ではフルタイムの時給換算額とパートタイムの時給に大きな差がないことだ。2013年以降、両者はほぼ同水準で、年によってはパートタイムが上回ることもある。この特徴は全産業(フルタイムが高い)や医師(パートタイムが高い)とは異なる、公認会計士及び税理士特有のものである。
公認会計士の独立状況
独立の割合
国勢調査(2010年・2015年・2020年)を用いた分析では、以下の実態が明らかになった。
| 区分 | 2010年 | 割合 | 2015年 | 割合 | 2020年 | 割合 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 正規職員 | 10,900 | 59.8% | 10,690 | 60.5% | 13,170 | 60.4% |
| アルバイト | 20 | 0.1% | 30 | 0.2% | 110 | 0.5% |
| 役員 | 2,100 | 11.5% | 1,940 | 11.0% | 2,420 | 11.1% |
| 雇用人のある業主 | 2,680 | 14.7% | 2,180 | 12.3% | 2,570 | 11.8% |
| 雇用人のない業主 | 2,540 | 13.9% | 2,830 | 16.0% | 3,540 | 16.2% |
| 合計 | 18,240 | 100% | 17,670 | 100% | 21,810 | 100% |
- 公認会計士の71〜72%が雇用者(正規職員+役員)
- 正規職員が全体の約60%、役員が約11%
- 独立している公認会計士は全体の約30%弱
- 2010年には雇用人のある業主が多かったが、2015年・2020年には逆転し、雇用人のない業主の割合が大きくなっている
年齢別の独立率
2015年国勢調査の分析から、独立公認会計士には以下の特徴がある。
- 年齢が上がるにしたがって独立率が高くなる
- 全年齢における独立率の平均は28.3%で、それを上回るのは45〜49歳以上
- 独立率が大きく跳ね上がるのは60〜64歳(定年の影響)
- それ以前では、35〜39歳と45〜49歳で割合が上昇しており、30代から40代が公認会計士の独立のタイミングの一つ
- 独立公認会計士の中心は50代・60代
典型的なキャリアパスとして、40代前半まで雇用者として働き、それ以降に事務所を開業するケースが浮かび上がる。
個人事務所の実態
2021年経済センサスによると、公認会計士個人事務所のほとんどは小規模だ。
- 従業員数0〜4名の事務所が全体の約8割
- 5〜9名の事務所を加えると約95%
- 従業員ベースでも、9名以下の事務所の従業員が全体の約8割
従業員数別の売上状況を見ると、規模が大きくなるほど1事業所あたりの平均売上は急激に増えるが、従業員1人あたりの売上高はそれほど変わらない(1,000万円前後)。規模拡大の効果は限定的である。
| 規模 | 事業所数 | 従業員数 | 売上金額 | 1事業所平均売上 | 従業員1人当たり売上 |
|---|---|---|---|---|---|
| 総数 | 2,596 | 42,656 | 525,182 | 20,832 | 1,750 |
| 1〜4人 | 1,666 | 3,443 | 35,360 | 2,188 | 1,046 |
| 5〜9人 | 598 | 3,861 | 38,246 | 6,471 | 1,002 |
| 10〜19人 | 192 | 2,515 | 27,234 | 14,486 | 1,103 |
| 20〜29人 | 53 | 1,273 | 36,769 | 70,710 | 2,951 |
| 50人以上 | 56 | 30,443 | 373,009 | 810,889 | 2,061 |
(単位:万円。30〜49人規模の事業所(約31か所)は表から省略している)
個人事務所の収入推計
個人事務所を公認会計士と従業員1名(配偶者)で構成されていると推定した場合:
- 利益: 654万円(1〜4名の平均売上2,188万円 × 利益率29.9%)
- 人件費: 615万円(売上2,188万円 × 売上高人件費率28.1%)
- 利益 + 人件費 = 1,269万円
フルタイムの35歳〜69歳の公認会計士及び税理士の年収が800万〜1,400万円であることと比較すると、独立したからといって収入が劇的に増えるわけではない。
女性公認会計士の現状
男女の「従業上の地位」
| 区分 | 2010年 男性 | 2010年 女性 | 2015年 男性 | 2015年 女性 | 2020年 男性 | 2020年 女性 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 雇用者 | 56.5% | 79.5% | 58.2% | 71.1% | 57.2% | 76.9% |
| 役員 | 12.9% | 2.8% | 12.0% | 4.8% | 12.5% | 4.5% |
| 雇人のある業主 | 16.6% | 2.8% | 14.0% | 2.2% | 13.4% | 4.3% |
| 雇人のない業主 | 13.9% | 14.2% | 15.2% | 20.0% | 16.6% | 14.3% |
| 独立公認会計士 | 30.5% | 17.0% | 29.2% | 22.2% | 30.0% | 18.6% |
- 女性公認会計士は雇用者の割合が男性より高い(2020年: 女性76.9% vs 男性57.2%)
- 役員の割合は男性が女性の2.5〜4.6倍
- 雇人のある業主(規模を拡大した独立)も男性が女性の3.1〜6.3倍
- 雇人のない業主(個人で独立)は男女差が比較的小さい
女性の独立公認会計士は男性に比べて平均年齢が若い。女性で最も割合が大きい年齢層は35〜39歳、男性は65〜69歳。女性はより若い段階で独立する傾向がある。
女性公認会計士の年収と男女格差
2024年のデータでは、男性の公認会計士及び税理士の年収は女性の1.80倍となっている。
| 区分 | 10名以上 | 10-99名 | 100-999名 | 1000名以上 |
|---|---|---|---|---|
| 女性 | 536 | 442 | 491 | 603 |
| 男性 | 965 | 745 | 851 | 1,226 |
| 男女差 | 1.80倍 | 1.69倍 | 1.73倍 | 2.03倍 |
| 女性医師 | 957 | 1,156 | 1,392 | 810 |
| 医師男女差 | 1.35倍 | 1.56倍 | 1.15倍 | 1.34倍 |
| 女性全産業 | 397 | 359 | 392 | 436 |
| 全産業男女差 | 1.38倍 | 1.27倍 | 1.37倍 | 1.47倍 |
(単位:万円)
公認会計士及び税理士の男女格差(1.80倍)は、医師(1.35倍)や全産業(1.38倍)と比べて大きい。さらに、事業所の規模が大きくなると格差がさらに拡大する(1,000名以上で2.03倍)。
年齢別に見た男女格差
年齢別に分析すると、男女格差の構造が明確になる。
- 35歳まで: 男女格差は小さく、1.5倍以内に収まる
- 40歳から49歳: 格差が急拡大し、2倍から3倍に達する
- 特に1,000名以上の事業所では、40〜49歳の男女格差がほぼ3倍
格差拡大の要因は、40歳から49歳にかけて男性の年収が増加する一方で、女性の年収が停滞していること。背景として、この年齢層の公認会計士に求められる働き方(特に監査業務の繁忙期と閑散期の差)が、家事・育児・介護などによって働き方に制限が加わりやすい女性公認会計士に合わないことが考えられる。
この課題は個人の問題ではなく、構造的な問題である。
課題の解決策
- 男女を問わず、当該年齢層の公認会計士に求められる働き方をドラスティックに変えていくこと
- 女性公認会計士に偏りがちな家事・育児・介護などの負担を、家庭内および社会的な側面から軽減していくこと
まとめ:政府統計を用いたファイナンシャルプランニング
政府統計によって明らかになるのは、以下のようなデータだ。
- 平均年齢、平均勤続年数、労働時間、年収
- 職種別、産業別の比較
- 企業規模別の傾向
- 年齢別の分析
- フルタイム・パートタイム・独立の区分
こうしたマクロデータを用いれば、「何歳で独立するとどうなるか」「どの規模の組織で働く人が多いか」「年齢ごとの賃金カーブ」「男女の差」といった全体像を把握でき、将来的なファイナンシャルプランニングの策定に活かすことができる。
個人のSNSや口コミだけでは見えない、データに裏付けられた全体像こそが、キャリアの意思決定を支える基盤となる。