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個人メモ

なぜ読んだ本を忘れてしまうのか

本を読み終えた直後は「いい内容だった」と思っていても、数週間後には内容をほとんど思い出せない。そんな経験は誰にでもある。

この問題の原因は、読書の方法にある。多くの人が採用している「赤線を引く」「繰り返し読む」といった方法は、認知科学の研究によると、長期記憶への定着にはほとんど効果がないことがわかっている。

では、どうすれば読んだ内容を記憶し、実際に活用できるようになるのか。

読書の3ステップ

読書には「理解する」「記憶する」「活用する」という3つのステップがある。

理解する - 文章の内容を把握すること。ここでつまずくと、その先に進めない。

記憶する - 得た知識を長期間保持すること。理解しただけでは、時間が経つと忘れてしまう。

活用する - 必要なときに知識を引き出して使うこと。記憶していても、適切な場面で思い出せなければ意味がない。

多くの人は「理解する」で止まっている。あるいは「記憶する」まで意識していても、「活用する」ところまで設計していない。

本の選び方:探検型と追究型

本の選び方には大きく2つのアプローチがある。

探検型

興味の赴くままに本を選ぶ方法。書店で目に留まった本、話題の本、誰かに勧められた本を読む。

このアプローチの注意点:

  • 表紙やタイトルに惹かれて買った本が、実際には中身が薄いことがある
  • 読んで満足して終わりになりやすい
  • レビューを確認する習慣をつけると、ハズレを引く確率を下げられる

追究型

特定のテーマを体系的に学ぶ方法。ある分野について深く知りたいときに使う。

このアプローチのポイント:

  • 最初に読む本が重要。学術書の入門編から始めると、全体像が掴める
  • 実用書やビジネス書から入ると、断片的な知識になりがち
  • 複数冊読むことを前提にする

追究型で学ぶ場合、「○○学」という学問分野を特定してから本を探すと、体系的な入門書に出会いやすい。

理解を深めるテクニック

サポーターを先に読む

本文を読み始める前に、以下の「サポーター」を先に確認する:

  1. 「はじめに」と「あとがき」
  2. 各章の最初と最後の段落
  3. 小見出し
  4. 太字部分

人は文章を読むとき、既に持っている知識を使って内容を予測しながら読んでいる(トップダウン処理)。サポーターで事前に概要を掴んでおくと、本文を読むスピードと理解度が上がる。

接続詞を手がかりにする

接続詞は、前後の文脈の関係性を教えてくれる道標。

  • 逆接(しかし、だが) - この後に著者の本当の主張がくることが多い
  • 換言(つまり、要するに) - 著者が伝えたいメッセージの言い換え
  • 例示(例えば) - 前に主張があり、後に具体例がくる
  • 結論(このように) - 主張のまとめ

接続詞を意識して読むと、文章の構造が見えてくる。

長期記憶に定着させる方法

繰り返し読むより「整理整頓」

認知科学の研究では、単純に繰り返し読む(リハーサル)だけでは、長期記憶にはあまり効果がないことがわかっている。

効果的なのは、情報を整理すること:

  • グループに分ける
  • 順序立てて並べる
  • 階層化する
  • 図表にする

バラバラの情報をそのまま覚えようとするより、構造化してから覚える方がずっと定着する。

「自分ごと化」する

新しい情報を、既に知っていることと結びつける。これを認知科学では「精緻化」と呼ぶ。

  • 自分の経験と関連づける
  • 既に知っている知識と紐づける
  • 具体的なイメージを作る

「これは前に読んだあの本と同じことを言っている」「これは自分の仕事のあの場面で使える」といった紐づけをすると、記憶に残りやすくなる。

「いつ・どのように使うか」も一緒に覚える

知識を覚えるとき、「何が大事か」だけでなく「いつ使うか」「どう使うか」も一緒に記憶する。

これをしないと、知識は頭の中にあるのに、必要な場面で思い出せない、という状態になる。

知識を活用可能にする

「なぜ?」を考える

表面的な理解で止まらず、「なぜそうなのか」を考える。背景にある原理を理解すると、別の場面にも応用できるようになる。

例えば「人を褒めるときは結果でなく努力を褒める」というルールを覚えるだけでなく、「なぜそうなのか」(人には有能感の欲求があり、結果を褒めると失敗を恐れるようになる)まで理解すると、子育てにも部下の指導にも応用できる。

複数の具体例を紐づける

一つの知識に対して、複数の具体例を結びつける。事例が一つだけだと、その特定の状況でしか使えない知識になってしまう。

複数の事例を知っていると、「これもあれも同じ原理だ」という形で抽象化が進み、新しい場面でも適用できるようになる。

要約を作る

読んだ内容を自分の言葉で要約する。これは理解度を確認する行為でもある。

要約を作ろうとすると、「結局この本は何を言いたいのか」を考えざるを得ない。曖昧な理解のままでは要約は作れない。

人に説明する

誰かに説明しようとすると、わかりやすい言葉を選ぶ必要があり、理解が深まる。また、質問を受けることで自分の理解の穴に気づける。

やってはいけないこと

認知科学の研究で効果が低いとされている方法:

方法なぜ効果が低いか
赤線を引くだけ受動的な作業であり、情報の処理が浅い
繰り返し読む短期記憶には効くが、長期記憶への転送効果は薄い
丸暗記理由や背景と結びつけた記憶(有意味記憶)の方が定着する

これらの方法が完全に無意味というわけではないが、同じ時間を使うなら、もっと効果的な方法がある。

まとめ

読んだ本を忘れないためのポイント:

  1. 理解する - サポーターを先読みし、接続詞を手がかりに構造を把握する
  2. 記憶する - 情報を整理整頓し、既知の知識と結びつける
  3. 活用する - 「いつ・どう使うか」も一緒に覚え、複数の事例と紐づける

読書は時間がかかる行為だからこそ、その投資を最大限に活かす方法を知っておきたい。


参考文献: 船登椎希『サマる技術』(星海社)