生成AIの進化によって、「記帳代行はどこまで自動化できるのか」という話題を目にする機会が増えました。税理士業界の中でも、このテーマを丁寧に整理した記事が注目を集めています。
特に、税務会計の実務に根ざして
- なぜ記帳は完全自動化できないのか
- 判断と説明責任がどこにあるのか
を冷静に言語化した整理は、とても分かりやすく、多くの人が「確かにその通りだ」と感じたのではないでしょうか。
本稿では、そうした保守的で現実的な整理を前提として尊重したうえで、その一歩先にある**「では、AIネイティブな時代に業務をどう組み替えるのか」**という点について問題提起してみたいと思います。
保守的な整理は、まず正しい
最初に強調しておきたいのは、 「判断は人が担う」「AIは判断支援に留める」という整理は、 現時点の税務会計実務としてとても妥当だということです。
税務会計では、
- 証憑だけでは事実関係が確定しない
- 取引の背景や使途が重要になる
- 後から第三者に説明できるかが問われる
こうした前提が常に付きまといます。
この構造を無視して 「AIが全部仕訳を作ってくれる」 と考えるのは、確かに現実的ではありません。
その意味で、 業務を分解し、判断がどこにあるのかを整理する という議論は、必要不可欠な出発点です。
それでも残る「じゃあ、どうする?」という違和感
ただ、こうした整理を読みながら、 どうしても頭に浮かぶ問いがあります。
それは分かった。 でも、じゃあこの先、業務は何も変わらないのか?
判断は人がやる前提、という結論は 現状を安定させる答えではあります。
一方で、
- 判断はどこまで減らせるのか
- 判断を毎回ゼロからやる必要があるのか
- 判断の結果は、どこに蓄積されるのか
といった点については、あまり語られていません。
ここに、もう一段深掘りできる余地があるように感じています。
「ルールをどこに置くか」は、些末な話ではない
記帳代行の自動化を考えるとき、 しばしば「自動仕訳ルール」が話題になります。
freee やマネーフォワードなどのクラウド会計には、 自動仕訳ルールを設定する機能が用意されていますし、 実務上も広く使われています。
ただ、このときあまり意識されない問題があります。
クラウド会計のルールは、誰の資産か
一般的に、クラウド会計の自動仕訳ルールは 顧問先のアカウントに紐づきます。
つまり、
- 税理士事務所が時間をかけてルールを整備する
- 顧問先が税理士を変更する
- ルールは顧問先と一緒に引き継がれる
という構造になります。
これは「悪いこと」ではありません。 顧問先から見れば、帳簿の品質が維持されるのは自然です。
ただ、税理士事務所の立場から見ると、
- 頑張って作ったルールが
- 自分たちの再利用資産としては残らない
という状況でもあります。
その結果、何が起きるか
この構造が続くと、どうなるでしょうか。
多くの税理士事務所にとって、合理的な判断はこうなります。
- 自動化を頑張っても、事務所には残らない
- だったら、最低限でいい
- 手作業でレビューした方が安全
つまり、 自動化を頑張らないことが合理的になる。
これは誰かの怠慢ではなく、 インセンティブ設計の問題です。
この点は、業務設計の議論では意外と触れられません。
判断そのものではなく、「判断の蓄積」に目を向ける
ここで考えたいのは、 「判断をAIに任せるかどうか」ではありません。
むしろ重要なのは、
- 人が行った判断を
- どういう形で残すのか
- 次にどう再利用するのか
という点です。
自動仕訳ルールや条件マッチングは、 判断そのものというより、 判断に至る前段を狭める仕組みとして機能します。
- 過去と似た取引を見つける
- 条件を整理する
- 想定される処理候補を絞る
こうした工程が積み重なれば、 人が考える範囲は自然と小さくなります。
「判断する人」から「引き受ける人」へ
最終的な責任を人が負う、という前提は変わりません。
ただしそれは、毎回すべてを判断するという意味である必要はありません。
判断基準や過去の結論が構造化されていれば、 人の役割は次第に、
- 判断する人 から
- 判断を引き受ける人
へと変わっていきます。
ここに、AIを現実的に組み込む余地があります。
おわりに:保守の整理の「次」を考える
税務会計の記帳代行が、 完全に自動化される未来は、すぐには来ないでしょう。
その点で、保守的な整理は正しい。
ただ同時に、
- 判断はどこに残るのか
- 誰の資産として蓄積されるのか
- 業務をどう再設計すれば、判断を減らせるのか
という問いも、 AIネイティブな時代には避けて通れません。
「できない理由」を理解した上で、 「じゃあ、どう設計し直すか」を考える。
その間にこそ、 これからの記帳代行とAI活用の現実的な進化があると感じています。