コードで世界を伝える
懐中電灯の点滅、点字の凸点、コンピュータのスイッチ——形はまったく違うのに、 「2つの状態を組み合わせる」 という発想はすべて同じ構造をしている。この教材では 読む → 試す → 間違える → わかる の順に、組み合わせ論・点字・電気回路の基礎を辿りながら、その正体に迫る。全4セクション・演習24問。回答はブラウザに保存されるので、途中でやめても続きから再開できる。
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はじめに: コードとは何か
この本では「コード」という言葉を、人と機械の間で情報を伝えるための体系全般の意味で使う。話し言葉・書き言葉・手話・点字・モールス符号、どれもそれぞれの状況で便利な「コード」だ。
出発点はモールス符号である。1文字ごとに、ドット(短い点滅)とダッシュ(長い点滅)の組み合わせを割り当てる方式で、 使用頻度の高いE・Tには最短の1符号、あまり使わないQ・Zには長い符号を割り当てることで通信を効率化している。モールス符号そのものを練習・クイズ形式で体験したい場合は、専用の学習ツールを用意してある。
📡 モールス信号学習ツールを開く(練習・クイズ・一覧表・二分木ツリー)
懐中電灯で符号を送る感覚は、下のシミュレータで確かめられる。ドットとダッシュのボタンで点滅の並びを作って「送る」を押すと、符号表と照合されて送った文字が判定される。まずは最短のE(・)やT(ー)から試してみてほしい。
点滅の並びを作って「送る」を押すと、符号表と照合して文字を判定します。
懐中電灯で送れるのは「短い点滅」か「長い点滅」の2種類だけです。それでも並べる個数を増やすと、 1個で2文字、2個で4文字と、表せる文字は倍々に増えていきます。よく使うEとTに最短の符号が 割り当てられているのも符号表から読み取れます。たった2つの状態の組み合わせで文字が届く—— この構造が、このあとの点字にも電気回路にも、そのまま顔を出し続けます。
ここから先で問いたいのは、「なぜドットとダッシュというたった2種類の要素だけで、 アルファベット・数字・句読点のすべてを表現できるのか」という点だ。答えは次のセクションの組み合わせ論にある。
1. 組み合わせ論 — n個の2値要素で何通り作れるか
モールス符号のドットとダッシュのように「2つの状態」しか持たない要素をn個並べると、作れるコードの数は2^n通りになる。この単純な式が、後の章すべての土台になる。
ドットとダッシュという2種類の要素を1個だけ使うなら、表現できるのは2通り(ドットかダッシュか)。 2個並べると、1個目が2通り×2個目が2通りで、2×2=4通り。3個並べると2×2×2=8通り。
| 要素の個数 | 組み合わせの数 | 式 |
|---|---|---|
| 1個 | 2通り | 2¹ |
| 2個 | 4通り | 2² |
| 3個 | 8通り | 2³ |
| 4個 | 16通り | 2⁴ |
| n個 | … | 2ⁿ |
要素が1個増えるたびに、選択の分岐が1回増える。だから通り数は常に「今までの2倍」になる。この 2ⁿ という式が、モールス符号だけでなく、点字・電気回路・コンピュータのメモリまで、この先ずっと顔を出し続ける。
ドットとダッシュを2個並べる組み合わせは何通りあるか?
ドットとダッシュを3個並べる組み合わせは何通りあるか?
n個のスイッチがあり、それぞれオンかオフの2状態を取れるとき、全体のパターン数を表す式はどれか?
ドットとダッシュを5個並べる組み合わせは何通りあるか?
モールス符号は「バイナリコード」と呼ばれる。その理由として最も適切なものはどれか?
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2. 点字を解読する — 6ビットで64通り
ルイ・ブライユが発明した点字は、2×3マスの6つの点で構成される。すべての点が「凸」か「平ら」の2状態なので、2^6=64通りのコードが作れる。さらに「シフトコード」「エスケープコード」という重要な概念も点字から生まれた。
ルイ・ブライユは3歳のときの事故で全盲になったが、パリ国立訓盲院で学びながら、 軍隊用の暗号「夜間書法」を改良し、15歳で独自の点字体系を作り上げた。基本部分は現在もそのまま使われている。
点字の1マスは、縦3段×横2列に並んだ6つの点で構成される。それぞれの点は「凸(紙から突き出ている)」か「平ら」かの2状態しか取らない。
6点それぞれが2状態なので、前セクションの式に当てはめると 2⁶=64通り。実際のアルファベット(26文字)はこの64通りの一部分にすぎず、 残りは数字・句読点・そして次に説明する「特殊なコード」に割り当てられている。
意味を切り替えるコード
点字には、それ単体では文字を表さず、後に続くコードの意味を変えるという役割専用のパターンがある。
| シフトコード(例: 大文字符) | エスケープコード(例: 数符) | |
|---|---|---|
| 効果の範囲 | 直後の1文字だけ | 取り消し(外字符)が現れるまで全部 |
| 役割 | 「次の1文字は大文字」 | 「ここから先は数字として読む」 |
この「意味を切り替えるコード」という発想は、点字だけの特殊な工夫ではない。後の章で見るコンピュータの制御コードにも、同じ考え方がそのまま登場する。
点字の1マスは何個の点で構成されているか?
点字の6点すべてが「凸」または「平ら」の2状態を取るとき、表現できるコードの総数は?
次の点字パターンには、凸点(塗りつぶされた点)がいくつあるか?
点字の「大文字符」はどのような働きをするコードか?
点字の「数符」はどのような働きをするコードか?
点字の「外字符」の役割として正しいものはどれか?
現在使われている点字体系の基礎を、15歳のときに考案した人物は誰か?
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3. 懐中電灯の中の電気 — 原子からオームの法則まで
懐中電灯を分解すると、電池・導線・電球・スイッチしかない。この単純な回路を理解すれば、電圧・電流・抵抗というコンピュータの物理的な土台が見えてくる。
懐中電灯を分解すると、電池・導線・電球・スイッチしかない。電池の中では化学反応が起き、 余った電子がマイナス極(陰極)に溜まる。この電子が導線を通ってプラス極(陽極)に戻る一続きの経路(回路)ができたときだけ、電球が光る。
電圧(E)は「電子を押し出す力」、電流(I)は「実際に流れる電子の量」、抵抗(R)は「電子の流れにくさ」。 この3つの関係を表すのがオームの法則である。
I = E / R
懐中電灯の抵抗が一定のとき、電池を直列につなぐと電圧が足し算され明るくなる。並列につなぐと電圧は変わらないが、 電池を長持ちさせられる。用途に応じて「明るさ」と「持続時間」のどちらを取るかを、この2つの接続方法で選べる。
| 直列接続 | 並列接続 | |
|---|---|---|
| 電圧 | 加算される(1.5V×2本=3.0V) | 変わらない(1.5Vのまま) |
| 電池の寿命 | 単体と同じ | のびる |
最後に着目したいのはスイッチだ。スイッチは「開いている(オフ)」か「閉じている(オン)」かのどちらかしかなく、中間がない。 電流も「流れる」か「流れない」かのどちらかで、電球も「光る」か「光らない」かのどちらかしかない。
原子の中心にある「核」を構成する2種類の粒子はどれか?
陽子と電子のうち、負(-)の電荷を持つのはどちらか?
オームの法則 I = E / R を使う。電圧E=3ボルト、抵抗R=4オームのとき、電流Iは?
1.5ボルトの電池2本を「直列」に接続すると、合計の電圧はどうなるか?
1.5ボルトの電池2本を「並列」に接続すると、電圧と寿命はそれぞれどうなるか?
銅とゴム、電気を通しやすい「導体」はどちらか?
ワットの式 P = E × I を使う。電圧E=3ボルト、電流I=0.75アンペアのとき、電力Pは?
懐中電灯のスイッチが「開いている(オフ)」とき、回路に電流は流れるか?
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4. まとめ — バイナリと電気回路がドッキングする瞬間
モールスの「点滅」、点字の「凸/平」、電気回路の「オン/オフ」。形は違えど、すべて同じ「2つの状態」の言い換えである。この気づきが、次の論理ゲート・2進数コンピュータへの入り口になる。
| 題材 | 2つの状態 |
|---|---|
| モールス符号 | ドット / ダッシュ |
| 点字 | 凸 / 平ら |
| 電気回路のスイッチ | オン(閉) / オフ(開) |
この3つはまったく別の題材に見えて、実はすべて「2つの状態の組み合わせで情報を表現する」という同じ構造をしている。 そして電気回路のスイッチだけが、他の2つと違う特別な性質を持つ——人間が読み書きしなくても、電気の力だけで自動的にオン/オフを判定できるという点だ。
スイッチを組み合わせれば「AとBが両方オンのときだけオン」「AかBのどちらかがオンならオン」といった論理的な判断を、 人間の手を介さず機械だけで行えるようになる。これが論理ゲートであり、2進数によるコンピュータの計算・記憶の出発点になる。
モールスの「点滅」、点字の「凸/平」、電気回路の「オン/オフ」に共通する性質は何か?
「スイッチのオン/オフ」という発想は、この先どんな技術につながっていくか?
点字(6ビット)はモールスの3個組(3ビット)に比べて、表現できるコード数はどれくらい多いか?
2値要素の個数を1個増やすと、表現できるコードの総数は元の何倍になるか?
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