2026年のインフレはAI投資のせいなのか。米国の物価統計で原油高と切り分ける
2026年のインフレはAI投資のせいなのか。米国の物価統計で原油高と切り分ける
AIへの設備投資は、2026年に入って大きく伸びた。 Alphabet、Amazon、Meta、Microsoft、Oracleの5社だけで、今年の設備投資は7,410億ドルに達する見込みで、前年からほぼ75%増える。 同じ時期に物価も上がっている。 では、設備投資が増えれば世界はインフレになるのか。 いまの物価高は何が起こしているのか。
米国の統計で見るかぎり、いまのインフレを押し上げている主因は戦争による原油高である。 AI投資も物価を押し上げてはいるが、効いているのは電力や半導体などの狭い範囲で、経済全体の物価を動かすところまでは届いていない。
米国8月の物価で何が上がっているか
2026年8月の米国消費者物価指数(CPI)は、前年同月比で3.4%上がった。 ところが、値動きの激しい食品とエネルギーを除いたコア指数は2.4%にとどまる。
| 指標 | 前月比 | 前年同月比 |
|---|---|---|
| 総合 | +0.4% | +3.4% |
| コア(食品とエネルギーを除く) | +0.3% | +2.4% |
| エネルギー全体 | +16.3% | |
| ガソリン | +27.4% | |
| 食品 | +2.7% | |
| 住居費 | +3.0% |
総合とコアの差の1ポイントは、大半がエネルギー、とくにガソリンから来ている。 需要が過熱して幅広い品目が値上がりしているなら、コアも総合と並んで上がるはずである。 コアが2%台にとどまっているので、いまの物価高は特定の品目に偏った値上がりと読める。
原油を押し上げた戦争
エネルギー価格を押し上げたのは、2026年2月下旬に始まった、イランと、米国およびイスラエルとの戦争である。 イランがホルムズ海峡を封鎖し、世界の原油供給のおよそ2割が滞った。 4月8日に停戦が発表されたあとも、海峡を通る船は戦前の水準を大きく下回ったままだった。
北海ブレント原油の価格は、この間に大きく上下した。
- 3月下旬:1バレル118ドル前後で天井をつけた
- 7月1日:70ドル前後まで下がった
- 7月下旬:再び100ドルを超えた
- 8月:87〜97ドルのあいだで推移した
- 9月上旬:109ドルまで上がった
ガソリンの前年比27.4%は、主にこの原油高による。 原油は物流費や化学製品の原料費を通じて、時間をおいて他の品目にも波及する。
設備投資は物価を上げるのか
設備投資が物価を押し上げるかどうかは、時間の長さで答えが変わる。
投資をしている最中は、物価を押し上げやすい。 データセンターを建てるための支出は、その年の需要として経済に加わる。 一方、そのデータセンターが動き出して供給力が増えるのは数年後である。 先に需要だけが増えるので、人手や資材に余りがなければ価格が上がる。
投資が終わって設備が動き出すと、逆に物価を下げる方向に働きうる。 生産性が上がれば、同じ費用でより多くを作れるようになるからだ。 1990年代後半の米国は、インターネット関連の投資ブームのなかでもインフレ率が低いまま推移した。 ただし、AIの場合に生産性の向上がいつ物価に表れるかは分かっていない。 UBSのエコノミストは、物価を下げる効果が出るまでに少なくとも2年ほどかかるとみている。
資金の出どころも、物価への効き方を左右する。 巨大IT企業は、投資を本業の稼ぎと社債などの借り入れでまかなっている。 中央銀行がお金を刷るのとは違い、経済に出回るお金の量を直接増やすわけではない。 影響は物価より先に金利に出やすく、資金の需要が増えれば金利が上がりやすくなる。
AI投資が値上がりを起こしている品目
AI投資の需要は、狭い供給網に集中している。 集中先は、データセンターに必要なメモリ、演算用の半導体、変圧器や発電設備、電気工事の人手、そして電力である。 こうした分野では、すでに値上がりがはっきり出ている。
- 2026年5月までの1年間で、卸売段階の電子部品は約27%、コンピュータのソフトウェアと周辺機器は約15%上がった
- 電気工事業者の賃金は、4月に前年比6.5%上がった
- Goldman Sachsは、消費者向けの電気料金が2026年から2027年にかけて約6%上がると予測している。企業の電気代が上がる分、コア指数も2026年と2027年にそれぞれ0.1ポイント押し上げられるとみる
- 全米企業エコノミスト協会(NABE)の調査では、エコノミストの81%が「AI投資は今後1年のインフレを押し上げる」と答えた
EY-ParthenonのチーフエコノミストGregory Dacoは、「大きな技術革命の初期段階は、限られた資源を逼迫させ、物価に上昇圧力をかけやすい」と述べている。
とはいえ、Goldman Sachsの試算でもコアへの押し上げは0.1ポイントである。 AI投資による値上がりは、電気代を通じて家計に届き始めているが、いまのところ経済全体の物価を主導する規模ではない。
今後の物価を見るときの目印
AI投資由来のインフレが表に出てきたかどうかは、原油の動きと切り離して確かめられる。 原油高が落ち着いて総合指数が下がっても、電気料金とコア指数が下がらなければ、AI投資による値上がりが物価全体に広がり始めたと読める。 逆に、原油とともに総合指数が下がり、コアが2%台で落ち着いていれば、いまの物価高は戦争による一時的なものだったことになる。